第147話 パーティーの戦い方
玲奈が蓮を見る。
「蓮が一人で全部倒したら、パーティー組んだ意味ないでしょ」
「……?」
「私たち何しに行くの?」
蓮は少し考える。
「……ついてくる?」
「観光じゃない!」
玲奈の声が応接室に響いた。
「玲奈、声」
「ごめん。でもこれは言わせて」
美月が苦笑する。そして、蓮を見る。
「蓮」
「……うん」
「パーティーでは、一番強い人が全部倒せばいいってわけじゃないの」
「……違うの?」
「違うよ」
美月はゆっくり説明する。
「みんなで役割を分けて戦うの」
「……役割」
「うん」
美月が玲奈を見る。
「玲奈は基本的に前衛」
「敵の攻撃を受けたり、引きつけたりしながら戦う」
玲奈が続ける。
「美月とひなたに敵を近づけないのも私の仕事」
「……そっか」
次に美月。
「私は後ろから魔法で攻撃することが多いかな。必要なら《結界術》も使う」
「……うん」
「私は回復と補助ですね」
ひなたも答える。
「それと、敵の気配を探したり、周囲を警戒したりします」
「……ひなたはいっぱいある」
「そうですね」
ひなたが少し笑った。
蓮は三人を見る。今まで。戦う時に誰かの役割を考えたことなどなかった。
敵がいる。倒す。進む。十年間、それだけだった。
「……俺は?」
三人が黙る。
「…………」
「……?」
玲奈が蓮のステータス表示を見る。
《剣術》EX。《身体強化》EX。《魔力操作》EX。さらに七属性すべての魔法がEX。
察知。再生。アイテムボックス。ほとんど何でもできる。
「それを今考えてる」
「……決まってない?」
「普通はこんなステータスの人をパーティーに入れないからね」
「……俺、だめ?」
「そういう意味じゃない!」
玲奈がすぐに否定する。
「できることが多すぎるの!」
「……そっか」
美月が考える。
「蓮には、最初は私たちに合わせてもらうのがいいと思う」
「……合わせる?」
「うん」
「私たちが対応できる敵なら、まず私たちに任せて」
「……倒さない?」
「すぐにはね」
「…………」
蓮が少し難しそうな顔をした。玲奈がそれに気づく。
「何その顔」
「……敵がいるのに?」
「いるのに」
「……倒せるのに?」
「倒せても」
「…………」
「蓮」
「……難しい」
「やっぱり!?」
玲奈が頭を抱える。
美月は笑いながらも、蓮がそう考える理由は分かっていた。
十年間。蓮にとって敵を残すという選択はなかった。倒せるなら倒す。危険になる前に排除する。
それが、生き残るためには最も正しかった。けれど。今は一人ではない。
「危なくなったら助けて」
美月が言う。
「……危なくなるまで待つの?」
「そこまでぎりぎりじゃなくていいよ」
「……どのくらい?」
「それも覚えていこう」
「……難しい」
「たぶん蓮にとっては、魔物を倒すより難しいね」
「……うん」
蓮は素直に頷いた。そして、少し考える。
「……じゃあ」
「ん?」
「《封魔の手袋》使えばいい?」
三人が蓮を見る。美月がすぐに気づいた。
「前に話してた、あの手袋?」
「……うん」
十年間の話を聞いた時。蓮が自分を意図的に弱体化させながら戦っていたことも、三人は聞いている。
《封魔の手袋》。装備者のステータスを意図的に抑えることができる装備。
かつて蓮は、自分がぎりぎり勝てるところまで能力を落とし、《生存適応》を働かせ続けるために使っていた。
玲奈も思い出した。
「ああ……自分をわざと弱くして戦ってたっていう」
「……うん」
「それを使ってどうするの?」
「……玲奈たちと同じくらいにする」
「え?」
蓮は三人のステータスを見る。玲奈。美月。ひなた。
「……ステータスが同じくらいなら」
三人を見る。
「……一緒に戦えると思う」
「…………」
今度は違う意味で。三人が黙った。
美月が確認する。
「私たちと同じくらいまで、本当に下げられるの?」
「……できる」
「細かく調整できる?」
「……うん」
蓮にとっては珍しいことではない。ダンジョンにいた頃。何度も使っていた。
玲奈が腕を組む。
「確かに……」
改めて蓮のステータスを見る。
筋力六十万。防御五十五万。敏捷七十五万。魔力七十万。
このままでは。どう考えても三人と同じ戦闘にはならない。
「今の数値のままよりは、絶対いいよね」
「うん」
美月も頷く。
「少なくとも、力だけで全部終わらせちゃうことは減ると思う」
「……じゃあ、それでいい?」
「待って」
玲奈が止めた。
「……?」
「ステータスは下げられるとして」
「……うん」
「スキルは?」
「……そのまま」
「剣術は?」
「……EX」
「身体強化は?」
「……EX」
「魔力操作は?」
「……EX」
「魔法は?」
「……全部EX」
「…………」
玲奈が額を押さえた。
「結局、全然同じじゃないじゃん……」
「……でも、力は同じくらい」
「そういう問題かなあ……」
ひなたが苦笑する。
「同じ筋力でも、《剣術》EXの蓮さんと玲奈さんでは、かなり差が出そうですね」
「ひなた」
「はい?」
「それ今、私も考えてたけど言わないでほしかった」
「すみません」
「……玲奈より強い?」
蓮が聞く。
「そこを本人に聞く!?」
「……?」
玲奈が大きく息を吐く。
「まあいいや」
「いいの?」
「よくないけど、ステータス六十万よりは遥かにまし」
美月も少し考えたあと。
「試してみようか」
「……いいの?」
「うん」
美月は蓮を見る。
「ただし、《封魔の手袋》を使えばそれで終わりじゃないよ」
「……?」
「目的は蓮を弱くすることじゃないから」
「……違う?」
「私たちと一緒に戦うことを覚えること」
蓮が美月を見る。
「……一緒に戦う」
「そう」
美月は指を一本立てた。
「まず、一人で先に行かない」
「……うん」
二本目。
「玲奈が戦ってる敵を、勝手に全部倒さない」
「……うん」
三本目。
「それから、何でも蓮が先にやらない」
「……何でも?」
「うん」
美月がひなたを見る。
「例えば、敵を探したり、周りを警戒したりするのは、ひなたの役目でもあるでしょ」
「はい」
ひなたが頷く。
「私には《気配察知》と《魔力探知》がありますから」
蓮が答える。
「……俺も分かる」
「分かっても」
美月がすぐに返した。
「ひなたが探してるなら、まずひなたに任せるの」
「……見つけてても?」
「見つけてても」
「…………」
蓮が難しそうな顔をした。
「……知ってるのに言わない?」
「必要なら教えていいよ。でも、毎回蓮が全部先に見つけて、全部判断して、全部倒したら」
美月は少し笑う。
「やっぱり蓮一人でいいってことになっちゃうでしょ?」
「……そっか」
蓮は納得したように頷いた。
「玲奈には前衛を任せる。ひなたには探索や警戒を任せる。私が指示を出す」
「……うん」
「蓮は、それを見ながら一緒に動く」
「……分かった」
玲奈が苦笑する。
「蓮の場合、敵を倒さない練習だけじゃなくて、何でも先回りしない練習も必要そうだね」
「……難しい」
「だろうね」
ひなたが蓮のステータス表示を見ながら言う。
「でも、回復だけは蓮さんに任せてもらう必要なさそうですね」
「……回復?」
「《高速自己再生》EXです」
「ああ」
玲奈も見る。
「そういえば、蓮って怪我しても勝手に治るんだった」
「……うん」
「どのくらい?」
「……怪我したら、治る」
「説明が雑!」
「……?」
ひなたが笑う。
「蓮さんの回復については、私はほとんど必要なさそうですね」
「……ごめん」
「なんで謝るんですか」
「……ひなたの仕事」
「私が治すのは蓮さんだけじゃありませんから」
ひなたは美月と玲奈を見る。
「美月さんも玲奈さんもいますし、補助も探索もあります」
「……そっか」
「はい」
蓮がひなたを見る。
「……じゃあ、任せる」
「任されました」
ひなたが笑った。美月も頷く。
「じゃあ最後」
「……うん」
「私が指示した時は、ちゃんと聞く」
「……分かった」
今度は迷わず答えた。玲奈が少し意外そうに蓮を見る。
「そこはすぐなんだ」
「……うん」
「さっきまで『倒せるのに?』ってあんなに納得してなかったのに」
「……でも」
蓮は美月を見る。
「……美月が考えてくれるなら、聞く」
美月が少し目を丸くした。それから、柔らかく笑う。
「うん。任せて」
「……うん」
玲奈が二人を見る。
「そこまで素直なら、意外となんとかなるかもね」
「どうだろう」
美月が笑う。
「実際にダンジョン入ったら、反射で全部倒しそうだけど」
「……気をつける」
「そこは本当にお願いね」
だが。玲奈が念を押す。
「もう一個」
「……?」
「本当に危ない時は、その手袋外してね」
「……うん」
「そこは絶対だからね」
今度は美月も頷いた。
「私たちに合わせるために、本当に危険な状態になったら意味ないから」
「……分かった」
「それなら、次のダンジョンはかなり安心ですね」
ひなたが言う。
「次……」
蓮が反応する。玲奈が笑う。
「行くでしょ。四人で」
「……うん」
「ただし」
美月が先に釘を刺した。
「今日はもう行かないからね」
「……今日じゃない?」
「今日何時間ギルドにいると思ってるの」
「……分からない」
「私も分からなくなってきた」
玲奈が苦笑する。
「依頼はまた今度、ちゃんと四人で選ぼう」
「……普通のダンジョン?」
「そう。今度こそ普通の」
「……Sランクじゃない?」
「絶対違うのにしよう」
美月が即答する。
「まずは蓮がパーティーで戦う練習ができるくらいのところから」
「……そっか」
蓮は自分の冒険者カードを見る。そして。アイテムボックスの中にある《封魔の手袋》を思い浮かべた。
かつて、あの手袋を使った理由は。自分を限界まで追い込み。より強くなるためだった。
けれど。次に使う理由は違う。
美月たちと。同じ場所で。同じ敵と戦うため。
「……使う理由、変わった」
「え?」
美月が聞く。
「……何でもない」
蓮は小さく首を振った。玲奈が立ち上がる。
「じゃあ、今度こそ帰ろう」
「ですね」
「うん」
三人も席を立つ。蓮も立ち上がった。
次のダンジョンでの目標は。強い敵を倒すことではない。一人で生き残ることでもない。
仲間と一緒に戦うこと。
十年間、一度も必要としなかった戦い方を。蓮はこれから覚えていく。




