第146話 ステータス共有
《アストラ》への加入手続きを終え。今度こそギルドを出ようとしていた時だった。
「そうだ」
玲奈が何かを思い出したように立ち止まった。
「どうしたの?」
美月が振り返る。
「蓮も正式にアストラに入ったんだしさ」
「……うん」
「一回、ステータス見せ合わない?」
蓮が玲奈を見る。
「……ステータス?」
「うん」
玲奈は頷いた。
「これから一緒にダンジョン入るなら、お互い何ができるか知ってた方がいいでしょ」
「……そうなの?」
「そうなの」
美月も頷く。
「パーティーで戦うなら大事だよ」
玲奈がどこまで前で戦えるのか。美月がどんな魔法を使えるのか。ひなたがどこまで回復や支援をできるのか。互いの能力を知っていれば。戦い方を決めやすくなる。
「今まで私たち三人は、お互いのステータスはだいたい把握してるからね」
玲奈が言う。
「……見せ合ってるの?」
「うん。パーティー組んでるからね」
美月も頷く。
「誰が何をできるのか分かってた方が、戦いやすいから」
「……そっか」
蓮は少し考える。
「玲奈たちも見せる?」
「もちろん」
「私も見せるよ」
美月が答える。
「私も大丈夫です」
ひなたも頷いた。
「……じゃあ、俺も見せる」
「え、いいの?」
今度は玲奈の方が聞き返した。
「……うん」
「ステータスもスキルも?」
「……うん」
「全部?」
「……見せたらだめなの?」
「いや、だめじゃないけど……」
玲奈が美月を見る。美月も少し困ったように笑った。
「蓮、そういうところ本当に気にしないよね」
「……?」
「普通はステータスとかスキルって、かなり大事な個人情報なんだよ」
「……そうなの?」
「そうなの」
玲奈が即答する。
蓮は少し考えてから。三人を見る。
「……でも、美月たちならいい」
「…………」
美月の表情が少しだけ柔らかくなった。
「そっか」
「……うん」
玲奈も笑う。
「じゃあ決まり」
◆
人目のある受付前で広げる話でもない。四人は再びギルド内の小さな応接室を借りた。
「今日は何回部屋借りるんだろ」
玲奈が椅子に座りながら呟く。
「……また?」
「今日はもうギルドに住めそうですね」
ひなたが笑う。
「それは嫌」
美月が即答した。蓮も席につく。
「……どうやって見せるの?」
蓮が聞いた。玲奈が首を傾げる。
「冒険者カードで」
「……カード?」
「うん」
玲奈が自分の冒険者カードを取り出した。
「ステータス表示の機能あるでしょ?」
「……そんなのあるの?」
「…………」
玲奈が止まった。美月とひなたも蓮を見る。
「蓮」
「……?」
「今まで自分のステータス、どうやって見てたの?」
「……鑑定」
「自分に?」
「……うん」
「ずっと?」
「……うん」
「…………」
玲奈が額を押さえた。
「なるほど……」
「……?」
「そうか。蓮、冒険者登録したの昨日だもんね」
美月も納得したように頷く。
「カードの細かい機能まで説明されてなかったんだ」
「……聞いてない」
「ギルドもあの状況だったしね」
昨日。蓮が冒険者登録をした理由は。美月たちを救うためだった。
通常なら説明されるはずの機能を、一つずつ確認している余裕などなかった。
「じゃあ説明するね」
玲奈がカードを蓮へ見せる。
「冒険者カードには、自分のステータスを確認する機能があるの」
「……鑑定しなくても?」
「しなくても」
「……便利」
「《鑑定》持ってる蓮に言われると変な感じするけど」
玲奈が苦笑する。
「普段は本人にしか見えないんだけど」
カードを操作する。
「共有を選べば、近くにいる相手にも見せられる」
「……誰にでも?」
「自分で相手を選べるよ」
「……そっか」
蓮が少し考える。
「……これ」
「ん?」
「……ギルドにも見える?」
三人が一瞬黙った。美月がすぐに意味を理解する。
「ステータスの情報が、ギルドに送られるかってこと?」
「……うん」
「それは大丈夫」
玲奈が答えた。
「カードに表示されるだけだから」
「……送られない?」
「送られないよ」
ひなたも補足する。
「ギルド側に登録されているのは、名前や冒険者ランク、所属パーティーみたいな基本情報です」
「……ステータスは?」
「本人が申告しない限り、詳しい数値やスキルまでは分かりません」
「……そっか」
蓮が頷く。
「じゃあ、美月たちだけ?」
「今ここで共有するならね」
玲奈が答える。
「……分かった」
「まず私からね」
玲奈が冒険者カードを操作する。すると。カードの上に、淡い光で構成された表示が浮かび上がった。
「…………」
蓮が少しだけ目を見開く。
「……出た」
「出るよ」
「……鑑定してないのに」
「だからカードの機能だって」
「……便利」
「二回目」
玲奈が笑った。
◆
【水野玲奈】
ランク:A
Lv:62
HP:3,480
MP:890
筋力:3,850
防御:3,320
敏捷:3,080
魔力:610
スキル
《剣術》Lv6
《身体強化》Lv6
《斬撃強化》Lv5
《受け流し》Lv5
《危機察知》Lv5
《闘気》Lv4
◆
蓮が表示を見る。
「…………」
「どう?」
「……強い?」
「その聞き方やめて」
「……?」
玲奈が苦笑する。
「一応、これでもAランクだからね」
「……Aランク」
「そう」
玲奈は自分のスキル欄を指さした。
「Lv5までいけば、その分野では一流って言われる」
「……一流」
「Lv6なら、かなり上の方」
蓮が《剣術》Lv6を見る。
「……玲奈、剣が得意なんだ」
「今さら!?」
「……知ってたけど」
「じゃあ言わないでよ」
ひなたが笑う。
「次、私ですね」
ひなたも冒険者カードを操作する。
◆
【小川ひなた】
ランク:B
Lv:47
HP:1,520
MP:3,180
筋力:510
防御:1,090
敏捷:2,040
魔力:2,940
スキル
《治癒魔法》Lv6
《補助魔法》Lv5
《気配察知》Lv5
《状態異常回復》Lv4
《魔力探知》Lv4
《結界術》Lv4
◆
「……ひなたは、回復」
「はい」
ひなたが頷く。
「一番得意なのは《治癒魔法》です」
「……Lv6」
「そこだけはちょっと自信あります」
玲奈が横から口を挟む。
「ちょっとどころじゃないけどね」
「そうなの?」
蓮が聞く。
「Bランクで治癒魔法Lv6ってかなり優秀だよ」
美月が答えた。
「……そっか」
蓮はもう一度表示を見る。
「……だから、治してたんだ」
「はい」
昨日。ひなたは何度も玲奈や美月の傷を治していた。
蓮は今になって。その役割を少しずつ理解し始めていた。
「じゃあ次、私ね」
美月もカードを操作する。
◆
【神崎美月】
ランク:A
Lv:64
HP:1,650
MP:4,260
筋力:720
防御:1,180
敏捷:1,520
魔力:4,520
スキル
《炎魔法》Lv6
《魔力操作》Lv6
《風魔法》Lv5
《結界術》Lv5
《魔力感知》Lv5
《詠唱短縮》Lv4
◆
蓮が表示を見る。
「……美月が一番レベル高い」
「三人の中ではね」
「……64」
「うん」
「……魔力も高い」
「魔法使いだからね」
蓮の視線がスキル欄へ移る。
「……結界術」
「それ、よく使うよ」
「……昨日も?」
「うん」
美月が頷いた。
「私の場合は《結界術》っていう専用のスキルで張ってる」
「……そっか」
玲奈が蓮を見る。
「蓮も結界張ってたよね?」
「……うん」
「蓮も《結界術》持ってるの?」
「……持ってない」
「え?」
「……光魔法」
三人が見る。
「光魔法で結界を作ってるってこと?」
美月が聞く。
「……うん」
「そんな使い方できるの?」
「……できる」
玲奈が美月を見る。
「普通?」
「普通じゃないと思う」
「だよね」
「……?」
蓮だけが首を傾げた。玲奈は小さく息を吐く。
「まあ、それも今から分かるか」
「……?」
「最後」
玲奈が蓮を見る。
「蓮の番」
「……うん」
三人の視線が集まる。蓮は冒険者カードを取り出した。
「……どうするんだっけ」
「まず自分のステータス表示を選んで」
「……これ?」
「そう」
蓮が操作する。カードの上に。初めて。自分自身のステータスが表示された。
「…………」
蓮が少しだけ見つめる。
「どうしたの?」
美月が聞く。
「……本当に出た」
「そこからなんだ……」
玲奈が苦笑する。
「次に共有」
「……共有」
「私たち三人を選べばいい」
「……分かった」
蓮は三人を見る。
美月。玲奈。ひなた。
そして。迷うことなく三人を選んだ。
◆
【黒瀬蓮】
Lv:651
HP:500,750
MP:450,680
筋力:600,900
防御:550,820
敏捷:751,120
魔力:701,050
固有能力
《超越者》
スキル
《鑑定》EX
《身体強化》EX
《魔力操作》EX
《魔力感知》EX
《アイテムボックス》EX
《剣術》EX
《気配察知》EX
《危機察知》EX
《状態異常耐性》EX
《高速自己再生》EX
《火魔法》EX
《水魔法》EX
《風魔法》EX
《木魔法》EX
《土魔法》EX
《雷魔法》EX
《光魔法》EX
◆
「…………」
誰も。何も言わなかった。
蓮が三人を見る。
「……?」
玲奈は表示を見たまま動かない。ひなたも。美月も。
「……どうしたの?」
「…………」
返事がない。蓮は自分のステータスを見る。
「……何か変?」
玲奈の顔がゆっくり蓮へ向いた。
「変?」
「……うん」
「どこから突っ込めばいいの?」
「……?」
「まずレベル!」
玲奈が表示を指さした。
「651って何!?」
「……俺のレベル」
そう答えてから。蓮自身も、表示された数字へ視線を戻した。
「…………」
「何?」
玲奈が聞く。蓮は少しだけ首を傾げる。
「……上がってる」
「え?」
「……レベル」
三人が蓮を見る。
「前はいくつだったの?」
美月が聞いた。
「……650」
「前って、いつ?」
「……地上に出る前」
古龍を倒したあと。《鑑定》で確認した時。自分のレベルは確かに650だった。
「……じゃあ昨日?」
ひなたが言う。
「……たぶん」
蓮も思い当たる。
昨日。美月たちを助けるために入ったSランクダンジョン。そして。最深部で倒した。
Lv258の《魔公》。ヴァルゼイン。
「……あいつ倒したからかな」
「ヴァルゼイン?」
「……うん」
玲奈が一瞬黙る。
「Lv258のボス倒して……一しか上がらなかったの?」
「……たぶん」
「…………」
玲奈の表情が引きつる。
「いや、それもおかしいからね?」
「……?」
「普通、Lv258なんて倒したら――っていうか、そもそも倒せないけど!」
「玲奈、話が進まない」
美月が苦笑しながら止める。
「いやでも!」
「分かるけど」
美月も蓮の表示を見る。
Lv651。これまで地上で知られてきた人間のレベルとは。あまりにも違う数字。
蓮にとっては。昨日の戦いで一つ増えただけ。
だが。三人にとって問題なのは。そこではなかった。
「それで」
玲奈がもう一度、表示を指さす。
「651って何!?」
「……だから、俺のレベル」
「それは見れば分かる!」
蓮が少し驚く。
「……怒ってる?」
「怒ってない!」
「玲奈、声」
「ご、ごめん」
玲奈が息を整える。だが。すぐにまた表示を見る。
「いや待って」
HP。五十万。
筋力。六十万。
敏捷。七十五万。
魔力。七十万。
「…………」
玲奈は自分のステータスを見た。筋力。3,850。
そして。蓮。600,900。
「……私の筋力」
「……うん」
「三千八百五十」
「……うん」
「蓮、六十万」
「……うん」
「…………」
玲奈が両手で顔を覆った。
「比較するんじゃなかった……」
「玲奈さん……」
ひなたも苦笑していた。だが。ひなたの視線は別の場所で止まる。
「……あの」
「……?」
「EXって……」
蓮を見る。
「どのくらいなんですか?」
「……どのくらい?」
美月が答える。
「一般には、Lv10が最高って言われてる」
「……うん」
「EXは、その先」
ひなたがもう一度表示を見る。
「……ほとんど、EX……」
「…………」
玲奈もスキル欄へ目を移す。
「鑑定」
「……うん」
「身体強化」
「……うん」
「魔力操作」
「……うん」
「剣術」
「……うん」
「魔法も……」
火。水。風。木。土。雷。光。
すべて。EX。
「…………」
玲奈が美月を見る。
「美月」
「何?」
「私たち、さっき蓮にステータス見せながら説明してたよね」
「……うん」
「Lv5で一流とか」
「……言ってたね」
「…………」
二人が蓮を見る。
「……?」
「恥ずかしくなってきた」
「やめて。私もだから」
ひなたが小さく笑った。
その時。美月の視線が、一番上で止まった。
「……蓮」
「……うん」
「これ」
美月が指したのは。スキル欄ではない。
固有能力。そこに表示された。たった一つの名前。
《超越者》
「これだけ、レベルがないね」
「……うん」
「EXでもない」
「……うん」
玲奈も《超越者》の文字を見る。
「これって、前に話してたやつだよね?」
「……うん」
「《無限成長》と《生存適応》が一つになったっていう」
「……そう」
美月も思い出す。
古龍との戦い。死の瀬戸際で。十年間、蓮を生かし続けてきた二つの能力が融合し。生まれたもの。
「でも、なんでこれだけレベルがないの?」
玲奈が聞く。蓮は表示された《超越者》を見る。
「……普通のスキルじゃないからだと思う」
「普通のスキルじゃない?」
「……鑑定すると」
蓮は少し考えながら続ける。
「……固有スキルって出る」
「固有スキル……」
ひなたが呟く。美月が聞いた。
「効果も《鑑定》で分かる?」
「……うん」
「どんな能力なの?」
蓮は以前。《鑑定》EXで確認した内容を思い出す。
「……身体とか、感覚とか」
「うん」
「……魔力の扱いとかも」
三人が聞いている。
「……その時の俺に合わせて、最適な状態にする」
「最適な状態?」
「……うん」
「それだけ?」
玲奈が聞く。蓮は首を横に振った。
「……戦ったり」
「うん」
「……危ない状況になったりすると、そこにも適応する」
「…………」
三人が黙った。
「適応って……」
美月が聞く。
「前にあった《生存適応》みたいに?」
「……それも入ってる」
「じゃあ」
玲奈が表示と蓮を交互に見る。
「今も?」
「……?」
「今も成長したり、適応したりするの?」
「……する」
「…………」
玲奈が固まった。ひなたも目を丸くしている。
「Lv651なのに?」
「……うん」
「ステータス七十万とかあるのに?」
「……うん」
「まだ強くなるの?」
「……たぶん」
「…………」
玲奈が額を押さえた。
「もう成長しなくていいでしょ……」
「……?」
「なんでそんな不思議そうな顔するの」
美月が苦笑する。
「でも、それなら」
もう一度《超越者》を見る。
「レベルがないのも、なんとなく分かる気がする」
「ですね」
ひなたも頷く。
「技術の熟練度を表すスキルじゃないですもんね」
「……うん」
蓮にとっても。《超越者》は。剣術や魔法と同じものではない。
十年間。生きるために成長し。生きるために適応し続けた。
その果てに生まれた。蓮自身の在り方に近い能力だった。
ひなたが表示を見ながら、小さく呟く。
「でも……」
「どうしたの?」
玲奈が聞く。
「これで分かりましたね」
「何が?」
「昨日」
ひなたの表情が少し真剣になる。
「どうして、あの魔物を蓮さんが弱いって言ったのか」
「…………」
ヴァルゼイン。Lv258。地上の人類から見れば。絶望そのもの。
だが。目の前にいる蓮は。Lv651。
数値だけでも。あまりにも違う。
「確かに……」
玲奈も静かになる。
「これ見たあとだと、納得したくないけど納得できる」
「……?」
「褒めてる」
「……そうなの?」
「たぶん」
蓮が首を傾げる。美月はそんな蓮を見て。少しだけ笑った。
「蓮」
「……うん」
「見せてくれてありがとう」
「……?」
「大事な情報でしょ?」
「……そうなの?」
「……そこから?」
美月が苦笑する。
「さっき言ったでしょ。ステータスとかスキルは大事な個人情報だって」
「……あ」
「忘れてた?」
「……ちょっと」
玲奈が呆れたように笑う。
「本当に無頓着だね」
「……?」
美月も笑った。
「でも、私たちに見せてくれたことは嬉しいよ」
蓮は三人を見る。
「……仲間だから」
「…………」
玲奈が黙る。ひなたも笑った。美月は少しだけ目を細める。
「そっか」
「……うん」
世界ランキング一位。Unknown。そんな肩書きの奥にある力を。
蓮は初めて。自分の意思で。三人へ見せた。
隠そうと思っていたわけではない。ただ。これから一緒に戦う仲間だから。
見せることに迷う理由が。蓮にはなかった。
玲奈がもう一度表示を見る。
「……ねえ」
「……?」
「次に普通のダンジョン行く時、一個だけ決めよう」
「何を?」
「蓮」
玲奈が真剣な顔で言った。
「絶対、一人で全部倒さないで」
「…………」
蓮が瞬きをした。
「……なんで?」
三人が同時にため息をついた。




