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10年ぶりに帰った俺、世界最強のUnknownになっていた  作者: 神崎昴
第二部 10年ぶりの日常、そして再び

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第145話 アストラ

受付前。美月たち四人は、再びギルドの中にいた。


 ほんの数分前。ようやく長い話し合いを終えて外へ出たばかりだった。それなのに。


「まさか、こんなに早く戻ってくるとは思わなかったね」


 玲奈が苦笑する。


「……忘れ物みたい」


 蓮が言う。


「まあ、ある意味忘れてたんだけどね」


「加入手続きを」


 ひなたが小さく笑った。美月も困ったように笑う。


「思いついたのが外に出てからだったから仕方ないよ」


「……うん」


 少し待っていると。奥から支部長が現れた。


「お待たせしました」


「支部長?」


 美月が少し驚く。


「わざわざ来てくださったんですか?」


「はい」


 支部長は四人を見る。そして。蓮へ視線を向けた。


「黒瀬さん」


「……はい」


「《アストラ》へ加入されると伺いました」


「……うん」


「正式に、ということでよろしいでしょうか」


「……正式?」


 蓮が美月を見る。


「手続きして、ギルドにも登録するってこと」


「……うん。それでいい」


 支部長が頷く。


「念のため確認させてください」


「……?」


「今回の加入は、黒瀬さんご自身の意思でしょうか」


「……うん」


 即答だった。支部長は続ける。


「どなたかに強制されたり、条件を提示されたわけではありませんか?」


「……ない」


 玲奈が横から口を挟む。


「条件なんて出してないですよ」


「むしろ出そうとしたら本人が全部いらないって言いました」


 ひなたも笑う。支部長が僅かに眉を上げる。


「そうなのですか?」


「……うん」


「報酬とか待遇とか聞いたんですけど」


「……よく分からないから」


「分からないから断る人、初めて見た」


 玲奈が呟く。支部長は少しだけ笑ったあと。もう一度、蓮を見る。


「では」


 一つだけ。聞いた。


「なぜ、《アストラ》へ?」


 美月が蓮を見る。玲奈とひなたも。


 蓮は三人を見た。少し考えて。


「……一緒にいたいから」


 答えた。


「…………」


 支部長は何も言わなかった。


 昨日から。世界中の組織が、この男を欲しがっている。


 世界ランキング一位。Unknown。どこにも所属していない、規格外の冒険者。


 金。地位。待遇。おそらく。望めば、いくらでも提示される。


 それでも。蓮が選んだ理由は。ただ一つ。


 この三人と一緒にいたい。それだけだった。


「……分かりました」


 支部長は静かに頷く。


「それなら、私から言うことはありません」


「……?」


「手続きを進めましょう」


      ◆


 受付職員が端末を操作する。


「まず、現在の《アストラ》の登録情報を確認します」


 画面にパーティー情報が表示された。


 パーティー名。《アストラ》。


 リーダー。神崎美月。


 所属メンバー。水野玲奈。小川ひなた。


 蓮が画面を見る。


「……美月がリーダー」


「うん」


「……前に言ってた」


 美月が蓮を見る。


「覚えてたんだ」


「……うん」


「なんでちょっと意外そうなの?」


 蓮はもう一度、画面を見る。


「……画面に出ると」


「うん?」


「……ちゃんとリーダーなんだなって」


「どういう意味?」


「……そのまま」


「そのままが分からないんだけど」


 玲奈が吹き出した。


「蓮なりに実感したってことでしょ」


「たぶん」


 ひなたも笑う。蓮だけが少し首を傾げていた。


「……変なこと言った?」


「ううん。蓮らしい」


 美月が苦笑する。受付職員も少しだけ表情を緩めた。


「パーティーリーダーは、引き続き神崎美月さんでよろしいでしょうか」


「はい」


 美月が答える。蓮も頷く。


「……美月のままでいい」


 美月が見る。


「いいの?」


「……うん」


「……俺、パーティーのこと分からないから」


「それはそうだけど」


「……美月の方が分かってる」


 玲奈が笑う。


「そこは間違いないね」


「確かに」


 ひなたも頷く。美月が苦笑する。


「じゃあ、そこはこれから覚えていこう」


「……うん」


 受付職員が手続きを続ける。


「では、黒瀬さんの冒険者カードをお願いします」


「……これ?」


 蓮がカードを取り出す。


「はい」


 職員が受け取り、端末へ読み込ませる。画面に名前が表示された。


 黒瀬蓮。その横には。世界ランキング一位。


「…………」


 受付職員の指が一瞬止まった。


 今さら見慣れているはずなのに。やはり。そこに表示されている文字の重みが違う。


「どうしたの?」


 玲奈が聞く。


「い、いえ」


 職員はすぐに操作を再開する。


「問題ありません」


 いくつか確認項目が表示される。


「こちらの内容をご確認ください」


 蓮が画面を見る。


「…………」


 しばらく。黙って見ていた。美月が隣から覗き込む。


「分かる?」


「……言葉が、ちょっと分からない」


「どこ?」


 蓮が画面の一部を指さす。


「……この辺」


「ああ、パーティー規約ね」


「……規約?」


「ギルドで登録するパーティーの決まりみたいなもの」


「……そっか」


「説明するよ」


「……お願いします」


 美月が一つずつ説明する。


 パーティー加入に同意すること。依頼の報酬や素材の分配は、基本的にパーティー内で決めること。脱退する場合も、所定の手続きが必要なこと。依頼によっては、パーティー単位で記録が残ること。


 十年前には存在しなかった制度。蓮にとって分かりにくいのは文字ではなく。その制度そのものだった。


「……分かった」


「本当に?」


「……だいたい」


「だいたいかあ」


「分からないところは後で聞いて」


「……うん」


 最後に。蓮が確認欄へ署名する。


 黒瀬蓮。ゆっくり。丁寧に。名前を書いた。


 受付職員が確認し。端末を操作する。


「では」


 一度だけ。画面を確認して。


「登録完了です」


 表示が切り替わった。そこには。


 《アストラ》


 リーダー

 神崎美月


 メンバー

 水野玲奈

 小川ひなた

 黒瀬蓮


「…………」


 受付職員が画面を見る。支部長も。玲奈も。ひなたも。美月も。同じ画面を見ていた。


 世界ランキング一位。七年間、正体不明だったUnknown。


 その名前が。今。一つのパーティーのメンバーとして表示されている。


 玲奈が小さく笑う。


「なんか変な感じ」


「ですね」


 ひなたも笑った。美月は何も言わず。ただ。少し嬉しそうに画面を見ている。


 蓮も。じっと見ていた。


「黒瀬さん?」


 支部長が声をかける。


「……?」


「どうされました?」


 蓮は画面を指さした。


「……これで」


「はい」


「……俺もアストラ?」


「そうだよ」


 美月が答えた。


「正式にね」


「…………」


 蓮はもう一度。画面を見る。


 神崎美月。水野玲奈。小川ひなた。黒瀬蓮。


 四つの名前。


「……そっか」


 ほんの少しだけ。蓮の表情が緩んだ。


「……一緒なんだ」


 美月が微笑む。


「うん」


「これからはね」


 玲奈も蓮の肩を軽く叩く。


「よろしく、四人目」


「……四人目」


「そう」


 ひなたも笑う。


「ようこそ、《アストラ》へ」


「……うん」


 蓮は三人を見る。


「……よろしく」


「よろしく」


 美月が答えた。


      ◆


 手続きが終わり。今度こそ四人が受付を離れようとした時。


「そうだ」


 玲奈が足を止めた。


「どうしたの?」


 美月が聞く。


「今度さ」


 玲奈が蓮を見る。


「四人で依頼受けようよ」


「……俺も?」


「もうアストラなんだから当たり前でしょ」


「……そっか」


 蓮は少しだけ画面に表示された自分の名前を振り返った。その様子を見て。ひなたが笑う。


「次は普通の依頼がいいですね」


「本当にそれ」


 玲奈が強く頷いた。


「昨日みたいなのは、しばらく遠慮したい」


「そうだね」


 美月も苦笑する。


「次は普通にダンジョンへ行こうか」


「……普通の?」


「うん」


「救助でもなくて」


「うん」


「Sランクでもなくて」


「そう」


 蓮は少し考えて。


「……行ってみたい」


 三人が蓮を見る。玲奈が笑った。


「じゃあ決まり」


 そこで美月が玲奈を見る。


「でも今日は帰るよ」


「分かってるって」


「さっき『今日はもう何も起きないでほしい』って言ってたもんね」


 ひなたが笑う。


「だから今日は帰るの!」


 玲奈が言い返す。


「依頼は今度!」


「……今日は帰る?」


 蓮が確認する。


「帰る」


 三人の声が重なった。


「……分かった」


 蓮が頷く。その顔を見て。美月が笑った。


「じゃあ、次は四人で」


「普通のパーティーとして」


 玲奈が続ける。


「……普通のパーティー」


 蓮がその言葉を繰り返す。


「……うん」


 少しだけ。楽しみだった。


 十年間。蓮は一人でダンジョンを歩いてきた。


 誰かと相談することも。誰かに任せることも。誰かと一緒に攻略することもなかった。


 けれど。次にダンジョンへ入る時は違う。


 一人ではない。その隣には。三人の仲間がいる。

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― 新着の感想 ―
 さて、これから先の帰る所は。 ずっとあそこなのでしょうか。
なんて言うかしょうがないんだろうけどご都合主義かなーと思いました 世間バレしたからなのかヒロインは主人公の事をひた隠しにしてきたのに手のひら返してパーティメンバーには全部伝え話させて挙げ句の果てにはパ…
お姉ちゃんにべったりな弟、そんな弟が可愛くて仕方ないお姉ちゃんズって感じ。十年間浦島状態の蓮氏からしたら本当にありがたいやろな。
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