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10年ぶりに帰った俺、世界最強のUnknownになっていた  作者: 神崎昴
第二部 10年ぶりの日常、そして再び

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第144話 四人目

ギルドを出た頃には、外は少しだけ落ち着きを取り戻していた。記者会見の影響もあるのだろう。建物の周辺に報道関係者の姿は残っているものの、朝のように大勢が押し寄せてくる様子はない。


「やっと終わった……」


 玲奈が大きく息を吐いた。


「長かったですね」


 ひなたも少し疲れたように笑う。


 ここ一日ほどで起きたことが多すぎた。ダンジョン災害から始まり、Unknownの正体まで世界に知られ、事情聴取に記者会見。十億円規模の魔石や、地上では前例のない魔物素材の話まで出てきた。ようやく一段落したところだった。


「今日はもう何も起きないでほしいな」


 玲奈が呟く。


「玲奈、そういうこと言った日に限って何か起きるんだからやめて」


 美月が苦笑する。


「私のせいじゃないでしょ」


「昨日から色々ありすぎるから、念のため」


「念のためって何よ」


 ひなたが小さく笑う。蓮だけが三人のやり取りを眺めていた。


「……帰る?」


「うん。帰ろうか」


 美月が答える。四人は駐車場へ向かって歩き始めた。


 その途中。玲奈がふと蓮を見る。


「……あ」


 蓮も見る。


「……?」


「そういえばさ」


「……うん」


「蓮って今、どこのパーティーにも入ってないんだよね?」


「……入ってない」


 美月が玲奈を見る。ひなたも何かに気づいたようだった。


 今日。支部長との話の中でも確認されていた。蓮は現在。特定のパーティーにも、組織にも所属していない。完全な無所属だった。


「でさ」


 玲奈が続ける。


「蓮、さっき言ってたじゃん」


「……何を?」


「普通に暮らしたいって」


「……うん」


「美月たちと一緒にいたいって」


「……うん」


 蓮は迷いなく頷いた。美月が少しだけ視線を逸らす。玲奈はそれを見て口元を緩めたが、今は何も言わなかった。


「だったらさ」


「……?」


 玲奈は立ち止まる。そして。


「アストラに入れば?」


 蓮が瞬きをした。


「……アストラに?」


「うん」


 美月が驚いたように玲奈を見る。


「玲奈?」


「いいと思わない?」


「いや、それは……」


 美月は蓮を見る。蓮も美月を見ていた。


「……入るって?」


 玲奈が固まる。


「そこから?」


「……?」


「パーティーに入るって意味」


「……それは分かる」


「じゃあ何が分からないの?」


 蓮は少し考えた。


「……入ったら、何するの?」


「…………」


 玲奈が額を押さえた。


「やっぱりそこからだった」


 ひなたが小さく笑う。


「蓮さん、パーティーを組んだことないんですよね」


「……ない」


「十年間ずっと一人だったもんね」


 美月が言う。


「……うん」


 誰かと役割を分ける。互いの動きを見ながら戦う。誰かに任せるところは任せる。そんな戦い方を。蓮は経験したことがなかった。


 玲奈が説明する。


「まあ簡単に言えば、一緒に依頼受けたり」


「……うん」


「一緒にダンジョン行ったり」


「……うん」


「戦う時は、それぞれ役割決めて動いたり」


「……役割?」


「私は前衛。美月は魔法。ひなたは回復と支援」


 玲奈は蓮を見る。


「で、蓮は……」


 止まる。


「…………」


「……?」


「何になるんだろ」


 美月が苦笑する。


「そこはあとで考えればいいんじゃない?」


「だって何でもできるじゃん」


「……何でもはできない」


「蓮基準で言わないで」


「……?」


 ひなたが笑う。


「報酬も、基本はパーティーで相談して分けます」


「……お金?」


「はい」


「……俺、いらないかも」


「そこは最初から放棄しないで」


 玲奈がすぐに止める。


「……だめ?」


「だめ」


「……難しい」


「それもこれから覚えればいいよ」


 美月が言った。蓮は少し考える。


「……でも」


「うん?」


「……それ」


 三人を見る。


「……今と、あんまり変わらない?」


「…………」


 三人が黙った。


 一緒にいる。一緒に出かける。一緒にダンジョンへ行く。困った時には助ける。


 確かに。蓮からすれば。すでに始まっていることに、名前が付くだけなのかもしれない。


 玲奈が腕を組む。


「まあ……言われてみればそうなんだけど」


「……じゃあ」


「でも、正式に仲間になるってこと」


「……仲間」


 蓮がその言葉を繰り返した。玲奈が頷く。


「そう」


 ひなたも蓮を見る。


「私は、蓮さんが入ってくれたら嬉しいです」


「……ひなたが?」


「はい」


「……なんで?」


「一緒にいて楽しいからです」


「…………」


 蓮が少しだけ目を見開く。


 強いから。世界ランキング一位だから。Sランクダンジョンを攻略できるから。そんな理由ではなかった。


 玲奈も続ける。


「私も賛成」


「……玲奈も?」


「うん」


「……なんで?」


「そりゃ、強いのも助かるけど」


 玲奈は少し笑う。


「それだけなら、こんな話してないよ」


「……?」


「蓮だから誘ってるの」


 蓮は黙った。そして。最後に美月を見る。


「……美月は?」


「私は……」


 美月は少し迷った。


 蓮と一緒にいられる。それは嬉しい。十年間。もう二度と会えないと思っていた幼なじみ。


 その蓮が。今。目の前にいる。


 だからこそ。美月は一度だけ、きちんと確認したかった。


「蓮」


「……うん」


「世界一位だから入ってほしいわけじゃないよ」


「……うん」


「強いからでもない」


「……うん」


「アストラに入ったら、蓮だけで全部やるんじゃなくて、私たちと一緒にやっていくことになる」


「……一緒に?」


「うん」


「蓮が一人でやった方が早いことでも、みんなでやることもあると思う」


 蓮は少し考える。


 十年間。一人で戦い。一人で進み。一人で生きてきた。


 地上へ帰ってきてからも。美月を助ける時は。自分一人でダンジョンへ飛び込んだ。


 だが。これからは違う。


「……それが、パーティー?」


「そう」


 美月が笑う。


「だから」


 少しだけ言葉を区切る。


「蓮自身が、私たちと一緒にやっていきたいと思うなら」


「……うん」


「私は、入ってほしい」


 蓮は三人を見る。


 玲奈。ひなた。そして。美月。


「……入ったら」


「うん」


「……美月たちと、一緒にいられる?」


 美月は迷わなかった。


「いられるよ」


「……そっか」


 蓮は少しだけ考えた。


 世界ランキング。組織。勧誘。待遇。そんなものは何一つ考えなかった。


「……じゃあ、入る」


「…………」


 玲奈が瞬きをする。


「決まるの早くない?」


「……だめ?」


「だめじゃないけど!」


 玲奈が思わず声を上げる。


「世界中の組織が欲しがってる世界一位の加入が、そんな感じで決まっていいの?」


「……?」


「もっとこう、条件とか!」


「……いらない」


「報酬とか!」


「……よく分かんない」


「待遇とか!」


「……美月たちと一緒ならいい」


「…………」


 玲奈が黙る。ひなたが口元を押さえて笑った。美月も少しだけ頬を赤くする。


「本当に、それだけでいいの?」


 美月が聞いた。蓮は頷く。


「……うん」


 そして。


「……美月たちだから」


 美月が固まった。玲奈がゆっくり美月を見る。ひなたも見る。


「……何?」


 美月が二人を見る。


「別に?」


「何も言ってません」


「その顔やめて」


 蓮だけが分からず首を傾げている。


「……?」


「蓮も気にしなくていいから」


「……うん」


 玲奈が笑う。


「じゃあ、決まりだね」


「……うん」


「今日から蓮もアストラの――」


 そこで。玲奈が止まった。


「……あ」


 美月が見る。


「どうしたの?」


「加入手続き」


「…………」


 ひなたも気づく。


「あ」


 四人が揃って振り返った。目の前には。つい先ほど出てきたばかりのギルドがある。


 蓮が聞く。


「……戻るの?」


「戻るね」


 玲奈が答えた。


「……そっか」


      ◆


 数分後。支部長は執務室で、一人資料を前にしていた。


 Sランク災害。Unknown。Lv258の《魔公》。Lv250前後の素材。九十一階層。


 Lv300台後半の魔物。十億円規模の魔石。どの情報をどこまで上層部へ報告するべきか。そして。黒瀬蓮という世界ランキング一位との距離を、今後どう取るべきなのか。


「…………」


 頭が痛い。そう思いながら資料へ目を落としていた時。扉がノックされた。


「どうぞ」


 職員が顔を出す。


「支部長」


「はい」


「黒瀬蓮さんたちが戻られました」


「…………」


 支部長が顔を上げる。


「戻ってきた?」


「はい」


 数分前に帰ったはずだった。


「何か忘れ物でも?」


「いえ、その……」


 職員も少し困惑したような顔をしている。


「パーティーのメンバー追加手続きをしたいそうです」


「……メンバー追加?」


「はい」


「どちらの?」


「《アストラ》です」


「…………」


 支部長は黙った。


 嫌な予感ではない。むしろ。その逆だった。


「追加される方は?」


 分かっていながら。聞く。


「黒瀬蓮さんです」


「…………」


 支部長はしばらく何も言わなかった。


 世界ランキング一位。どこの組織にも所属していなかったUnknown。世界中から勧誘が届いている男。


 その黒瀬蓮が。日本の一パーティーへ。自分の意思で入るという。


「……そうですか」


 支部長は椅子の背にもたれた。


 つい先ほどまで。どうすれば蓮に日本を安心できる場所だと思ってもらえるか。どうすれば余計な干渉をせず、信頼関係を守れるか。そんなことを考えていた。


 だが。その答えの一つが。向こうから戻ってきた。


 神崎美月。水野玲奈。小川ひなた。そして。黒瀬蓮。


 蓮自身が。ここに居場所を作ろうとしている。


「……分かりました」


 支部長は立ち上がる。


「私も行きます」


「支部長もですか?」


「ええ」


 扉へ向かいながら。支部長は、ほんの少しだけ笑った。


「これは、直接確認しておきたいので」


      ◆


 三人だった《アストラ》に。その日。四人目が加わることになった。


 世界ランキング一位。七年間、正体不明だったUnknown。


 そんな肩書きではなく。美月たちと一緒に歩いていく。一人の。新しい仲間として。

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― 新着の感想 ―
すでに一生働かなくていい資産を持つのなら、冒険者は即引退して、田舎に引っ込んで、美月と所帯持って、要塞化した屋敷に、召使いと私兵で囲んで、趣味で畑なんかやって、資産運用も業者に委託して、悠々自適に暮ら…
これから色々なちょっかいかけてくる奴が出てくるだろうし。 幼馴染の命を守る、生活のサポートをする、側にいられる。パーティー加入は自然な流れよね。 他二人は美月氏の為と珍獣観察の為の勧誘かな
圧倒的な実力差があるのに同じチームに所属させようとか正気を疑う。 少年野球に大リーグ選手を入れようとするのか? 寄生目的の勧誘にしか見えないので心がモヤモヤする。
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