第139話 世界が知った名前
この話とは関係ないのですが、初めて小説を書いたのもあり第一部の誤字や設定の甘さ見づらさがあると思います。
一度全部修正したほうがいいですかね?
第一部は普通の少年をギリギリ生き延びて強くするのを意識するあまりテンポも悪かったと思います。
第一部について、率直な意見が欲しいです。
読者様に頼ってすいません。
協力してくれたらありがたいです。
今回のSランク化したダンジョンについての事情聴取が終わり、支部長は机の上に広げていた資料を一つにまとめた。
ヴァルゼイン。突然のSランク化。ダンジョン内部で起きていた異常。そして、五十階層での戦闘。
昨日から続いていた一連の出来事について、ギルド側が確認したかったことは一通り終わった。
だが、支部長は席を立たなかった。代わりに、それまでとは別の資料を取り出して机の上に置く。
「では、ここからは別の話になります」
蓮が支部長を見る。
「……?」
「黒瀬さん自身についてです」
「……俺?」
「はい」
支部長の表情が少し変わった。
「昨日、冒険者登録をされたことで、これまで《Unknown》と表示されていた世界ランキング一位が、黒瀬蓮さんであることが判明しました」
「……はい」
「その直後から、ギルドには問い合わせが殺到しています」
「……問い合わせ?」
「国内だけではありません」
支部長は資料へ視線を落とす。
「海外の冒険者ギルド、各国の関連機関、報道機関。それ以外にも、さまざまな組織から連絡が来ています」
蓮が少しだけ眉を寄せる。
「……海外からも?」
「はい」
「……何を聞かれてるんですか?」
「多いのは、まず本人確認です」
支部長が一つずつ説明する。
「《Unknown》と黒瀬蓮さんが本当に同一人物なのか。現在、本当に日本にいるのか」
次の資料を見る。
「どこかのパーティーや組織に所属しているのか。面会は可能なのか。海外で活動する予定はあるのか」
「…………」
「ほかにも、黒瀬さんの能力や経歴を公表する予定があるのか、といった問い合わせもあります」
蓮はしばらく黙っていた。
そして。
「……なんで、そんなに?」
支部長が蓮を見る。
「七年間です」
「……?」
「七年間、世界ランキングの一番上に《Unknown》という名前だけが表示され続けていました」
蓮は何も言わない。
「誰なのか。どこの国の人間なのか。どこにいるのか。どの組織に所属しているのか」
支部長は首を横に振る。
「何一つ分からなかった」
「……そんなに?」
「各国のギルドや関係機関も、長年正体を調べてきました」
玲奈とひなたも支部長を見る。
「もちろん、日本のギルドもです。ですが、七年間、何も分からなかった」
「……俺、何もしてないけど」
「黒瀬さんにそのつもりがなくても、ランキングにはずっと存在していたんです」
「……そう」
「そして昨日、その人物が突然、日本で冒険者登録をした」
支部長は蓮を真っ直ぐ見る。
「しかも、その直後に単独でSランクダンジョンへ入り、《アストラ》を救出して帰還した」
「……はい」
「注目されない方が難しいでしょう」
蓮は少し考える。
「……面倒」
玲奈が思わず笑った。
「世界中が大騒ぎしてるのに、やっぱりそこなんだ」
「……だって、知らない人ばっかり」
「まあ、それはそうだけど」
支部長も僅かに表情を緩めたが、すぐに話を続ける。
「そこで、一つ確認させてください」
「……はい」
「現在、黒瀬さんは特定のパーティーには所属していませんね?」
「……はい」
その瞬間、玲奈が僅かに反応した。美月とひなたは気づかなかったが、玲奈は一度だけ蓮を見る。
「企業や冒険者組織などとの専属契約も?」
「……ないです」
「つまり、現在は完全に無所属ということですね」
「……たぶん」
「たぶん?」
「……登録したばっかりだから」
「……確かにそうですね」
支部長は小さく頷いた。
「ですが、その状態だと分かれば、今後はさらに接触が増える可能性があります」
「……なんで?」
「勧誘です」
「……勧誘」
「世界ランキング一位の冒険者が、どこにも所属していないんです」
支部長は淡々と説明する。
「自分たちの国で活動してほしい。自分たちの組織に所属してほしい。自分たちのパーティーに加わってほしい。そう考える人間は当然出てきます」
「……いらない」
即答だった。支部長が一瞬止まる。
「……まだ具体的な条件のお話はしていませんが」
「……いらない」
玲奈が吹き出した。
「二回言った」
「……だって、いらないから」
「分かった分かった」
支部長も少し困ったように笑う。
「では、海外で活動するお考えもありませんか?」
「……ないです」
「今後も日本を拠点に?」
「……はい」
「理由を伺っても?」
蓮は少しだけ考えた。だが、考えるほどのことでもなかった。
「……美月がいるから」
「え?」
美月の声が漏れた。玲奈がゆっくり美月を見る。ひなたも同じように視線を向ける。
蓮は三人の反応が分からず、美月を見る。
「……?」
「蓮」
「……うん」
「そういうの、急に言わないで」
「……なんで?」
「なんでって……」
美月が少し言葉に詰まる。玲奈が口元を緩めた。
「別にいいじゃん、美月」
「玲奈」
「事実なんでしょ?」
蓮が頷く。
「……うん」
「ほら」
「もう……」
美月は少しだけ顔を逸らした。ひなたは何も言わず、小さく笑っている。
支部長は少しだけ待ってから話を戻した。
「では、現時点で海外で活動するお考えはないということですね」
「……はい」
「分かりました」
支部長は資料へ何かを書き込んだ。
「ただし、今後について一つお願いがあります」
「……お願い?」
「黒瀬さん自身の情報管理です」
蓮が首を傾げる。
「……情報?」
「はい」
支部長の表情が真剣になる。
「先ほど伺った《黒月》のような装備や、神崎さんを救った特殊なアイテムについてもそうですが――」
一度、言葉を区切る。
「それ以上に、黒瀬さんご自身のステータスやスキル、これまでどこで何をしてきたのかといった情報です」
「……それも?」
「はい。先ほど神崎さんがおっしゃった通り、我々も無理に聞くつもりはありません」
美月が静かに頷く。
「ただ、だからこそです」
支部長が続ける。
「今後、外部の人間にどこまで話すのかは、慎重に判断してください」
「……なんで?」
「価値があるからです」
「……価値?」
「例えば、《黒月》」
蓮が支部長を見る。
「複数の属性に対応できる武器だと分かっただけでも、それを欲しがる者が出てくる可能性があります」
「……取られないけど」
「そういう問題だけではありません」
美月が横から言った。蓮が美月を見る。
「蓮が強いのは分かってる。でも、欲しいと思った人が全員、正面から取りに来るとは限らないでしょ?」
「……?」
「騙そうとする人もいるかもしれないし、蓮の周りの人に近づく人もいるかもしれない」
蓮の表情が少し変わった。
「……美月たちに?」
「うん」
美月が答える。
「私だけじゃない。玲奈やひなたにも。蓮と関わってる人たちにまで来る可能性があるってこと」
蓮の視線が玲奈とひなたへ移る。二人も真面目な表情で蓮を見ていた。
「それに、昨日私を助けてくれた特殊なアイテムみたいなものもそう」
支部長が頷く。
「我々も詳細を聞くつもりはありません。ただ、死亡した人間を救えるほどのアイテムだと分かれば、それを求める人間がどれほど現れるか分かりません」
蓮は黙った。
「……それは、嫌」
「でしょ?」
「……うん」
「だから、全部を隠せってことじゃないの」
美月が少しだけ声を柔らかくする。
「誰に何を話していいのか分からなかったら、先に私たちに相談して」
蓮は少し考えてから頷いた。
「……分かった」
支部長も続ける。
「特に今後しばらくは、黒瀬さんに接触しようとする人物が増えると思います」
「……もっと?」
「おそらく」
蓮は目に見えて嫌そうな顔をした。玲奈が笑う。
「そこは慣れるしかないんじゃない?」
「……慣れたくない」
「まあ、それも分かるけど」
支部長は資料を閉じた。
「我々ギルドとしても、必要以上に黒瀬さんの個人情報を外部へ提供するつもりはありません」
「……ありがとうございます」
「ですが、世界ランキング一位として注目されている状況そのものを、すぐに変えることはできません」
「……はい」
支部長は最後に一つ確認する。
「黒瀬さん」
「……はい」
「今後、どうしていきたいと考えていますか?」
蓮は黙った。
世界ランキング一位。七年間、正体不明だったUnknown。海外からの問い合わせ。これから増えるという勧誘。
蓮には、どれも実感がなかった。
十年間。考えていたのは、今日を生き残ることだけだった。
地上へ帰ってきてからも、世界一位になりたいと思ったことはない。有名になりたいと思ったこともない。どこかの組織に入りたいと思ったこともない。
「……普通に暮らしたい」
支部長が少しだけ目を細める。
「普通に、ですか?」
「……はい」
「黒瀬さんにとっての普通とは?」
蓮は少し考えた。そして、隣にいる三人を見る。
美月。玲奈。ひなた。
「……ご飯食べたり」
少しだけ考える。
「……一緒に出かけたり」
もう一度、三人を見る。
「……美月たちと、一緒にいたり」
三人が蓮を見る。
蓮はそれ以上難しく考えず、静かに続けた。
「……そういうのでいい」




