第13話 魔物の巣
それから、また時間が過ぎた。蓮は以前よりも慎重になっていた。
魔物を見つけても、すぐには近づかない。まず観察する。
どこから来たのか。どこへ向かうのか。何を食べるのか。そして、どこへ戻っていくのか。
それを繰り返しているうちに、蓮はあることに気づいた。
魔物には、それぞれ決まった行動がある。
◇
その日。蓮は一匹の小さな魔物を追っていた。
倒すためではない。その魔物がどこへ行くのかを知りたかった。
距離を十分に取って、後を追う。魔物は何度か立ち止まり、周囲を確認する。そして、細い通路へ入っていった。
「……こっちか」
蓮も慎重についていく。しばらく進むと、通路の先が少し開けた場所になっていた。
蓮は岩陰から様子を見る。そこには、何匹もの魔物がいた。
「……こんなに?」
蓮は思わず息を止めた。今まで見たことのない数だった。
魔物たちは互いに争うこともなく、その場所で過ごしている。奥には小さな魔物もいる。
「ここが……巣?」
蓮は動かない。戦うという選択肢は最初からなかった。あの数を相手にしたら、間違いなく危険だ。
蓮は静かに後退した。一歩。また一歩。
十分に離れてから、ようやく息を吐く。
「危なかった……」
もし何も考えずに進んでいたら。知らないうちに巣へ入り込んでいたら。
どうなっていたか分からない。
◇
蓮は少し離れた場所に座った。そして、頭の中で今見たことを整理する。
あの通路には魔物が多い。ということは、あそこを通るのは危険。
逆に考えれば。
「あの辺りは、魔物が少ないかもしれない」
蓮は周囲の地形を思い出す。魔物が集まる場所。魔物がいない場所。水場。食料がある場所。
安全に休める場所。
少しずつ、それぞれの位置が頭の中で繋がっていく。
蓮はまだ知らなかった。それが、ダンジョンを攻略するための最初の一歩になっていることを。
◇
その日の夜。蓮は岩陰で休んでいた。いつものように、今日一日のことを思い返す。
最近は、魔物を見ることよりも。ダンジョンそのものを見ることが増えていた。
「……この場所にも、決まりがあるのかも」
水場がある。魔物が集まる場所がある。魔物が避ける場所もある。通路にも、よく使われる道がある。
ただの偶然ではないように思えた。
「もっと調べてみよう」
蓮はそう決めた。
魔物を倒すだけではない。このダンジョンを知る。それが、生き残るためにも必要だった。
◇
翌日から。蓮は歩き方を変えた。
ただ前へ進むのではなく、周囲を観察する。壁の形。通路の幅。魔物の足跡。水の流れ。
空気の変化。
少しでも気になるものがあれば覚える。そして、安全そうな場所へ戻る。
一日では、ほとんど何も分からない。二日でも。三日でも。
それでも蓮は続けた。
少しずつ。自分が生きている場所を理解していく。
それはやがて。
蓮だけの地図になっていった。




