第12話 初めての戦い方
ダンジョンに閉じ込められてから、どれくらい経ったのか。
蓮には正確には分からなかった。
ただ、毎日を生きることだけは続けていた。
水を探す。
食料を探す。
身体を休める。
そして、魔物から逃げる。
時には戦う。
そんな生活を繰り返していた。
◇
ある日。
蓮はいつもの通路を歩いていた。
すると。
前方から物音が聞こえた。
「……」
蓮はすぐに足を止めた。
岩陰に身を隠す。
耳を澄ます。
足音が近づいてくる。
一つ。
いや、二つ。
蓮は槍を握った。
しばらくすると、二匹の小さな魔物が姿を現した。
以前なら、二匹いるだけで逃げていただろう。
しかし今は違う。
蓮は二匹の動きを観察した。
一匹が前。
もう一匹が少し後ろ。
「……一匹ずつなら」
蓮はゆっくりと後退する。
二匹が近づいてくる。
そして。
前にいた一匹が走り出した。
蓮は横へ避ける。
魔物が通り過ぎる。
その瞬間。
槍を振る。
魔物が倒れた。
「……一匹」
もう一匹が飛びかかってくる。
蓮は槍を構えた。
しかし。
魔物の動きが予想より速い。
「……っ!」
蓮は咄嗟に身体をひねった。
爪が腕をかすめる。
「痛っ……!」
血が流れる。
蓮は距離を取った。
腕を見る。
傷は深くない。
まだ戦える。
「……大丈夫」
蓮はもう一度構えた。
魔物が走ってくる。
今度は焦らない。
足を見る。
身体の向きを見る。
跳ぶ直前の動きを見る。
そして。
魔物が跳んだ。
蓮は一歩横へ動く。
魔物の身体が目の前を通り過ぎる。
その瞬間。
槍を突き出した。
魔物が倒れる。
静かになった。
「……」
蓮はその場に座り込んだ。
腕の傷を見る。
痛い。
けれど。
生きている。
「……勝った」
蓮は初めて、自分から魔物と戦い、勝ったことを実感した。
最初にスライムを倒したときとは違う。
あのときは、必死だった。
何も分からなかった。
ただ生きるために戦った。
今は違う。
相手を見て。
動きを読んで。
自分で考えて戦った。
◇
蓮は傷口を水で洗った。
そして、持っていた植物の葉を巻く。
これも以前の経験から覚えたことだった。
少しずつ。
本当に少しずつ。
蓮はこの場所で生きる方法を覚えていた。
「……次は、もっと上手くできる」
そう呟く。
怖くなくなったわけではない。
魔物と戦うたびに怖い。
死ぬかもしれない。
傷つくかもしれない。
それでも。
逃げるだけでは、いつか生きられなくなる。
だから蓮は戦い方を覚えていく。
◇
その日の夜。
蓮は槍を眺めていた。
粗末な武器。
けれど、今の蓮には大切なものだった。
「もっと丈夫な武器が欲しいな……」
蓮は呟いた。
魔物の身体。
骨。
硬い石。
使えそうなものはたくさんある。
今まではただ生きることで精一杯だった。
けれど。
これからは違う。
武器を作る。
戦い方を覚える。
身体を鍛える。
この場所で生き残るために必要なことを、一つずつ覚えていく。
蓮の生活は、少しずつ変わり始めていた。
ただ逃げ続ける少年から。
自分の力で生き残る少年へ。
蓮は、ゆっくりと成長していた。




