第11話 少しずつ
翌日。
蓮は目を覚ますと、昨日見つけた亀裂の場所へ向かった。
やはり気になっていた。
壁に手を当てる。
冷たい空気が、わずかに流れている。
「……やっぱり風がある」
蓮は亀裂の周囲を調べた。
岩を少し動かしてみる。
けれど、人が通れるほどの隙間はない。
無理に壊せば、壁が崩れるかもしれない。
「……無理か」
蓮はしばらく考えた。
もしかしたら出口に繋がっているかもしれない。
けれど、今の自分にはどうすることもできない。
「もっと探してみよう」
蓮はその場を離れた。
特別な印を残すこともしなかった。
ここに出口があると決まったわけではない。
別の場所に、もっと安全な道があるかもしれない。
今は、とにかく生きること。
そして、このダンジョンを少しずつ知ること。
それが蓮にできることだった。
◇
それからの日々。
蓮は少しずつ生活を変えていった。
朝になったら起きる。
水を探す。
食べられるものを探す。
魔物の気配を確認する。
安全な場所へ戻る。
そして、身体を鍛える。
最初は短い距離を走るだけで息が切れた。
少し走る。
休む。
また走る。
何度も繰り返す。
槍も振った。
一回。
二回。
三回。
腕が疲れたら休む。
そして、また振る。
「……まだいける」
以前より身体が動く。
少しずつだが、確実に変わっていた。
◇
ある日。
蓮は小さな魔物と向かい合っていた。
魔物が飛びかかる。
蓮は横へ避けた。
以前なら、避けたあとに慌てて距離を取っていた。
しかし今は違う。
魔物の動きを見る。
着地。
振り返る。
再びこちらへ向かってくる。
蓮は槍を構えた。
魔物が跳ぶ。
その瞬間。
蓮は一歩だけ横へ動いた。
魔物の身体が目の前を通り過ぎる。
「今だ」
槍を突き出す。
魔物が倒れた。
蓮はゆっくりと槍を下ろした。
「……前より分かる」
魔物の動き。
攻撃のタイミング。
避ける方向。
少しずつ理解できるようになっていた。
◇
その夜。
蓮は岩陰で身体を休めていた。
疲れている。
けれど、以前ほどではない。
身体が回復するのも早くなっている。
傷も少しずつ治りやすくなっている。
そして。
頭の中に声が響いた。
《生存適応が発動しました》
蓮が顔を上げる。
《継続的な環境適応を確認》
《身体能力が向上しました》
「……また強くなった?」
蓮は自分の手を握った。
少しだけ力が増している。
けれど、それは突然大きく変わったものではない。
本当に少しずつだった。
毎日の積み重ね。
生き残った日々。
戦った経験。
傷。
疲労。
空腹。
そのすべてが、蓮の身体を変えていた。
◇
蓮は横になった。
天井を見上げる。
「……いつ帰れるんだろう」
答える人はいない。
それでも。
「いつか帰れる」
そう思うことだけはやめなかった。
今日も生き残った。
明日も生きる。
そして、少しずつ強くなる。
それしか今の蓮にはできなかった。
少年のダンジョン生活は、まだ始まったばかりだった。




