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10年ぶりに帰った俺、世界最強のUnknownになっていた  作者: 神崎昴
第二部 10年ぶりの日常、そして再び

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第129話 魔力と魔法

「……それで、どうやって覚えたの?」


 玲奈が尋ねる。蓮は少し考えた。


「……最初は」


 一拍。


「魔力っていうのも、知らなかった」


「……え?」


 玲奈が止まった。ひなたも目を瞬かせる。


「魔力を知らなかったんですか?」


「……うん」


「じゃあ、どうやって魔法まで……」


「……《鑑定》」


 蓮が答えた。


「鑑定?」


「……自分に使った」


「自分自身を?」


「……うん」


 三階層。《鑑定》を手に入れたばかりの頃。蓮は、魔物や食べ物だけではなく、自分自身にも《鑑定》を使った。


「……そしたら」


 蓮は自分の胸元へ視線を落とす。


「身体の中で」


 一拍。


「……何かが動いてる感じがした」


「何か?」


「……その時は、何か分からなかった」


 ただ、身体の奥に、今まで意識したことのない力がある。そして、その力が、身体の中を流れている。


 そんな感覚だけがあった。


「それが魔力だった?」


 玲奈が聞く。


「……後で分かった」


「最初は?」


「……ただの、変な力だと思ってた」


 蓮は少し考える。


「でも」


「うん」


「……ブラッドウルフと戦った時にも、似た感じがあった」


 追い詰められ、必死に身体を動かした時。身体の奥から、力が湧き上がるような感覚があった。


 《鑑定》を使って自分を意識したことで、それが、身体の中に存在する何かだと、初めて気づいた。


「それで動かしてみたの?」


「……うん」


「どうやって?」


「……腕に行けって思った」


「それだけ?」


「……最初は」


 胸の奥にある力へ意識を向ける。そこから、腕へ。少しずつ、動かしてみる。


 すると、本当に、その力が動いた。


「……腕に流れた」


「それが最初?」


「……うん」


 玲奈が驚いたように息を吐く。


「そこから魔力の使い方を?」


「……少しずつ」


 ただ、最初は、加減すら分からなかった。


「……流しすぎて」


「うん」


「……動けなくなったこともある」


「え?」


「身体から力が抜けて」


「それ、魔力切れじゃない?」


「……今なら分かる」


「その時は?」


「……知らなかった」


 玲奈は額に手を当てる。


「全部、自分で失敗して覚えてるんだ……」


「……他に聞く人いなかったから」


 蓮は当然のように答えた。


 そして、四階層。魔力を扱うことに慣れ始めた蓮は、さらに考えた。


「……最初は、身体全部に流してた」


「身体強化みたいに?」


「……うん」


「でも?」


「……走るなら、脚だけでいいと思った」


 玲奈が蓮を見る。


「攻撃なら?」


「……腕」


「なるほど」


 必要な場所だけに、必要な量の魔力を流す。何度も試した。何度も失敗した。


 魔力が全身へ散る。集中が切れる。思った場所へ流れない。それでも、繰り返した。


 やがて、《生存適応》が働き、蓮は、《魔力操作》を獲得した。


「そこから、狙った場所に魔力を流せるようになった?」


「……うん」


「それで終わりじゃないんでしょ?」


「……うん」


 今度は、持っていた槍へ、魔力を流そうとした。


「武器にも?」


「……流せるかなって」


「よく思いつくね……」


 最初は、うまくいかなかった。魔力を槍へ流しても、すぐに消える。穂先まで届かない。


 けれど、実戦の中で、何度も試した。そして、再び《生存適応》が働く。


 腕から、槍へ。槍から、穂先へ。


 初めて、途切れることなく魔力が流れた。


「それで、武器にも魔力を纏わせられるようになった?」


「……うん」


「さらに《魔力操作》の熟練度も?」


「……上がった」


 玲奈は小さく息を吐く。


「そうやって一つずつ……」


 覚えて。使って。失敗して。また使う。そして、さらに成長する。


 それを、蓮は繰り返していった。


「じゃあ」


 ひなたが尋ねる。


「魔法は?」


「……もう少し後」


 さらに階層を進んだ頃。蓮は、初めて、魔法を使う魔物を見た。


「……火を出してきた」


「そこで?」


「……うん」


 それまで、蓮にとって魔力とは、身体を強くするもの。武器へ流すもの。それだけだった。


 けれど、目の前の魔物は、魔力を、炎へ変えていた。


「それを見て、真似したの?」


「……うん」


「見ただけで?」


「……最初は無理だった」


「そりゃそうでしょ」


「……何回もやった」


 自分自身へ《鑑定》を使い、体内の魔力の動きを、なんとなく確認する。魔力を集める。動かす。そして、炎へ変えようとする。


 失敗。もう一度。失敗。何度も。何度も。繰り返した。


 その中で、《生存適応》も、蓮の身体と魔力を、少しずつ、その使い方へ適応させていった。


「それで……」


 玲奈が聞く。


「出たの?」


 蓮は頷く。


「……うん」


「最初から大きい炎?」


「……小さかった」


 蓮は手のひらを見る。


「……このくらい」


 ほんの小さな炎。今の蓮からは、想像できないほど、弱い魔法。


 けれど、それが、黒瀬蓮が、初めて自分の意思で生み出した、属性魔法だった。


「……《火魔法》」


 蓮が言う。


「それが最初?」


「……うん」


 玲奈はしばらく黙っていた。やがて、小さく息を吐く。


「本当に……全部、自分で覚えたんだ」


「……うん」


「教科書も?」


「……ない」


「先生も?」


「……いない」


「他の冒険者も?」


「……いない」


「……そっか」


 玲奈はそれ以上言わなかった。


 今では、蓮は、複数の属性魔法を扱う。魔力を自由に操り、武器へ流し、強力な魔法すら扱う。


 けれど、始まりは、三階層。自分自身へ《鑑定》を使ったことで、身体の中を、何かが動いていると気づいたこと。


 それだけだった。


 蓮は、最初から、すべてを知っていたわけではない。一つ知る。一つ試す。一つ失敗する。そして、また一つ覚える。


 それを、十年間、繰り返してきた。


 美月は、何も言わず、蓮を見つめていた。

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