↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10年ぶりに帰った俺、世界最強のUnknownになっていた  作者: 神崎昴
第二部 10年ぶりの日常、そして再び

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
122/505

第122話 最深部の悪魔

この話は最後までいっぺんに書きたかったからだいぶ長くなりました。

あと聞きたいのは最近の話全体的に話を長めに書いてるんですが、最初の頃ように短い話の方が読みやすいですか?

もしよければ感想で教えてくれると助かります。

黒い扉が、重い音を立てながら開いていく。


 隙間から流れ出した魔力に、美月の表情が変わった。


「……すごい魔力」


 玲奈も剣を握り直す。


「四十五階層のやつより、明らかに上だね」


 ひなたは端末を確認する。しかし、画面は激しく乱れた。


「測定できません……魔力濃度が高すぎます」


 三人が警戒する中。蓮だけは、何も変わらなかった。


 この程度の魔力圧なら。十年間、生きてきた場所と比べれば。気にするほどでもない。


「……行く」


 蓮は、そのまま扉の向こうへ入る。美月たちも続いた。


 五十階層。ダンジョン最深部。


 そこには、巨大な石造りの広間が広がっていた。天井は高く、暗い。


 左右には何本もの石柱が並び、その多くが途中から崩れている。


 床一面には、赤黒い紋様。それが弱く明滅するたび、濃い魔力が広間へ溢れ出していた。


「この魔力……床から?」


 美月が呟く。


「違います」


 ひなたが首を横に振った。


「もっと強い反応が……中央にあります」


 三人の視線が向く。


 広間の中央。そこに。


 一体の存在が、静かに宙へ浮かんでいた。


 人の姿に近い。だが、人間ではない。


 細長く引き締まった身体。赤黒い皮膚。頭部から後方へ伸びる二本の角。


 背中には、黒い膜で形作られた巨大な翼。胸には赤い紋様が浮かんでいる。


 その紋様が脈打つたび。床に刻まれた赤黒い模様も、呼応するように光った。


 そして。赤い瞳。


 これまでの魔物にはなかった。明確な知性を持つ目。


「……あれ」


 ひなたが小さく呟く。


「魔物……ですよね?」


「たぶん」


 玲奈が剣を握りながら答える。


「でも、今までのとは全然違う」


 美月も杖を構えた。


 そのとき。宙に浮かんでいた存在が、ゆっくりと目を開いた。


「……人間」


 低い声が広間に響いた。


 三人の表情が変わる。


「喋った……?」


 玲奈が呟く。


 その存在は。美月。玲奈。ひなた。


 順番に視線を向ける。


 そして。最後に。


 蓮を見る。


「……妙だ」


 赤い瞳が細くなる。


「なぜ貴様だけ、この魔力の中で平然としている」


 蓮は答えなかった。ただ。目の前の存在を見る。


 そして。


「……鑑定」


 《鑑定EX》。


 次の瞬間。蓮の視界に、情報が浮かび上がった。


 ――――――――――


 名前:ヴァルゼイン


 種族:上位悪魔族《魔公》


 レベル:258


 HP:72,000 / 72,000


 MP:118,000 / 118,000


 筋力:38,000


 防御:44,000


 敏捷:52,000


 魔力:96,000


 スキル:


 《暗黒魔法》Lv.10

 《魔力操作》Lv.10

 《魔力侵食》Lv.10

 《空間干渉》Lv.8

 《魔力障壁》Lv.9

 《飛行》Lv.10

 《高速再生》Lv.7

 《威圧》Lv.9

 《鑑定遮断》Lv.10

 《魔公の領域》Lv.10


 耐性:


 《闇属性無効》

 《炎耐性》Lv.8

 《物理耐性》Lv.7

 《魔法耐性》Lv.8

 《毒無効》

 《麻痺無効》

 《精神異常無効》

 《即死耐性》Lv.9


 弱点:


 光属性


 称号:


 《魔公》

 《魔界貴族》

 《魔力の支配者》


 《鑑定EX・追加解析》


 対象は現在、《魔力侵食》《魔公の領域》によって周囲へ高濃度の魔力を放出中。


 その影響により、


 ダンジョン内魔力濃度の異常上昇。


 生息魔物の強化。


 階層構造の不安定化。


 通路接続の変化。


 以上が発生している。


 対象《ヴァルゼイン》の討伐により、魔力侵食は停止する。


 ――――――――――


 蓮は表示された情報を読む。


 そして。


「……ヴァルゼイン」


 その瞬間。悪魔の表情が変わった。


「…………何?」


 美月も蓮を見る。


「蓮?」


 ヴァルゼインの翼が、ゆっくりと広がる。


「今……何と言った」


「……ヴァルゼイン」


 広間の空気が揺れた。


「なぜだ」


 赤い瞳が鋭くなる。


「なぜ、人間である貴様が――」


 一瞬の間。


「私の名を知っている」


 玲奈とひなたが顔を見合わせる。


 蓮は何でもないことのように答えた。


「……鑑定した」


 沈黙。


 次の瞬間。ヴァルゼインが低く笑った。


「鑑定?」


「……うん」


「馬鹿な」


 笑みが消える。


「人間風情の鑑定で、私を測れるはずがない」


 ひなたが端末を見る。


 画面には。解析不能。測定不能。


 それしか表示されていない。


「人間どもの鑑定では、私の名どころか、種族すら正しく映らぬ」


 ヴァルゼインが続ける。


「私は《鑑定遮断》を持つ」


「……うん」


「……何?」


「……それも見えた」


 ヴァルゼインの表情が止まる。


「見えた……?」


「……鑑定遮断、レベル十」


 一瞬。完全な沈黙が落ちた。


「……レベル、十?」


 ひなたが呟く。声が震えていた。


 今度は恐怖ではない。驚きだった。


 玲奈の表情も変わる。


「Lv.10って……」


 ヴァルゼインを見る。


「世界でも、そんなの持ってる人……ほとんどいないでしょ」


「……うん」


 美月も静かに頷く。


 スキルレベル十。それは。ただ長く使えば到達できるような領域ではない。


 一つの能力を極限まで高めた者だけが届く、最高峰。


 世界中の冒険者を見渡しても。Lv.10のスキルを持つ者は、一握りしか存在しない。


 Aランク冒険者である美月でさえ。簡単に目にするようなものではなかった。


 しかも。目の前の悪魔は。


 《鑑定遮断》Lv.10。鑑定されることそのものを拒絶する能力を、最高レベルで持っている。


「だったら……」


 ひなたが蓮を見る。


「普通の鑑定なら、本当に何も見えないはずです……」


「そうだね」


 美月も蓮を見る。


「Lv.10の《鑑定遮断》を突破するなんて……」


 三人の視線が蓮へ集まった。


 ヴァルゼインが異常なのは分かる。だが。


 その異常な能力を。蓮は。何もなかったように突破している。


 ヴァルゼインの赤い瞳からも。先ほどまでの余裕が消えていた。


「……貴様」


 低い声。


「何をした」


「……鑑定」


「だから、それがありえぬと言っている!」


 初めて。ヴァルゼインの声に苛立ちが混じった。


 蓮は少し首を傾げる。


「……でも、見える」


 ヴァルゼインは黙った。


 蓮はもう一度、鑑定結果を見る。


「……やっぱり、お前か」


「何?」


「……このダンジョンを変えたの」


 美月が反応する。


「蓮、分かるの?」


「……うん」


 床。赤黒い紋様。ヴァルゼインから溢れ続けている魔力。


「……こいつが、ここに魔力を流してる」


 美月が周囲を見る。


「それで……」


 もともとAランクだったダンジョン。魔力濃度の異常上昇。強化された魔物。


 崩れた階層。変化した通路。


「Sランクに変わった……」


「……うん」


「こいつを倒したら?」


「……戻る」


 ヴァルゼインの表情から。完全に笑みが消えた。


「私の能力まで……見えているというのか」


「……うん」


 しばらく。ヴァルゼインは蓮を見つめた。


「貴様……何者だ」


 蓮は少し考えた。


「……黒瀬蓮」


 玲奈が額を押さえる。


「いや、それはもう分かってるって」


 蓮が玲奈を見る。


「……?」


「今のは名前じゃなくて、何者なのって意味」


「……人間」


「そういうことでもない」


 玲奈がため息をつく。


 美月は、こんな場所なのに少しだけ笑いそうになった。


 ヴァルゼインは笑わなかった。


「人間……」


 赤い瞳が蓮を見据える。


「ならば確かめればよい」


 その瞬間。広間全体の魔力が膨れ上がった。


 ヴァルゼインが片手を上げる。床の赤黒い紋様が、一斉に光る。


 直後。黒い魔力が噴き上がった。


 蓮へ。そして。美月たちへも。


「来る!」


 玲奈が剣を構える。ひなたも杖を握る。


 だが。蓮の方が早かった。


 三人へ右手を向ける。


「……そこにいて」


 淡い光が広がった。


 美月。玲奈。ひなた。


 三人を完全に包み込むように。光の結界が形成される。


 次の瞬間。黒い魔力が直撃した。


 轟音。周囲の床が砕ける。石柱が吹き飛ぶ。


 だが。結界は。


 揺れすらしない。


「……え」


 ひなたが声を漏らした。


 ヴァルゼインがさらに攻撃する。


 二度。三度。四度。


 蓮ではなく。明らかに美月たちを狙った攻撃も混じっていた。


 それでも。何一つ届かない。


 玲奈が光の壁へ手を触れる。


「……これ、本当に結界?」


 ひなたも息を呑む。


「外の魔力が……完全に遮断されています」


 美月は言葉を失っていた。


 自分も結界を使う。だからこそ分かる。


 これは。光属性の防御結界。


 自分が使うものと、根本的には同じ。だけど。


 強度が違いすぎる。


 四十五階層。自分が全力で張った結界は。


 あの魔物の一撃で亀裂が入った。最後には。


 守りきれなかった。


 なのに。蓮の結界は。


 さらに格上のヴァルゼインから攻撃を受けても。傷一つつかない。


「……蓮」


 美月が小さく呟く。


 蓮は三人を見る。無事。問題ない。


 それを確認する。


「……ここなら大丈夫」


 そして。一人で歩き出した。


「蓮!」


 美月が呼ぶ。


 蓮が振り返る。


「……何?」


「気をつけて」


 一瞬だけ。蓮の表情が柔らかくなった。


「……うん」


 再び。ヴァルゼインへ向く。


「その程度の結界で、私から守れるとでも?」


 ヴァルゼインが片手を美月たちへ向ける。


 巨大な黒い球体。先ほどまでとは比べものにならない魔力が集まる。


 そして。放つ。


 直撃。爆発。


 五十階層全体が揺れる。


 黒煙。砕けた石。その向こう。


「……な」


 ヴァルゼインの声が止まった。


 結界は。変わっていない。


 美月たちも。無傷。


 蓮は一度だけそれを確認する。


 そして。右手を横へ伸ばした。


 空間が揺れる。


 アイテムボックスから。一振りの剣が現れた。


 黒い刀身。闇より深い色。


 玲奈の表情が変わる。


「……あれ」


 剣士だからこそ。一目で分かった。


 普通の武器ではない。


 蓮が柄を握る。


「……黒月」


 七十階層。ボスを倒した先で手に入れた魔剣。


 黒月。


 蓮が魔力を流す。刀身へ。


 白い光が宿った。


「光……」


 ひなたが呟く。


 ヴァルゼインの表情が変わる。


「……なるほど」


 低く笑う。


「弱点まで見たか」


「……うん」


「ならば」


 翼が大きく開いた。


「使わせなければよい!」


 姿が消える。


「速い!」


 玲奈が叫ぶ。


 次の瞬間。ヴァルゼインは蓮の背後にいた。


 黒い爪。首へ。振り下ろす。


 蓮が黒月を動かす。


 甲高い音。爪と剣がぶつかる。


 衝撃で床が砕けた。


 ヴァルゼインが笑う。


「どうした」


 力を込める。


「人間にしては――」


 言葉が止まった。


 蓮は。黒月を片手で持っている。


 腕すら。震えていない。


「……?」


 蓮が首を傾げた。


 ヴァルゼインがさらに力を込める。


 動かない。黒月も。蓮も。


「貴様……!」


 蓮が剣を押した。ただ。それだけ。


「ぐっ!」


 ヴァルゼインの身体が吹き飛ぶ。


 何十メートルも。石柱を何本も砕き。


 壁へ叩きつけられた。


 玲奈が固まる。


「……力まで?」


 壁が爆ぜた。


 ヴァルゼインが飛び出す。怒りに満ちた顔。


 両手から、無数の暗黒の槍が生まれる。広間を埋め尽くす。


 美月たちへも。蓮へも。


 一斉に降り注いだ。


 結界へ。次々と直撃する。


 だが。一つも通らない。


 美月は結界の外を見る。


 蓮は。自分たちから大きく離れている。


 それでも。結界の強度は。


 まったく落ちていなかった。


 その外。蓮へ数十本の暗黒の槍が迫る。


 黒月へ。風をまとわせる。


 一閃。


 風の刃が広がった。暗黒の槍が。


 一斉に切断される。


 蓮が宙へ浮かぶ。風魔法。


 そのまま。ヴァルゼインと同じ高さまで上がった。


「飛行まで……」


 蓮が距離を詰める。


 ヴァルゼインが魔力障壁を展開した。


 一枚。二枚。三枚。


 さらに。何重にも。


「これなら――」


 蓮が黒月を振る。


 一枚目。砕ける。


 二枚目。三枚目。四枚目。


 止まらない。


「馬鹿な――!」


 最後の障壁まで。砕け散った。


 ヴァルゼインは大きく翼を振り。一気に距離を取る。


 顔から。完全に余裕が消えていた。


「……ありえぬ」


 蓮は追わずに止まった。


 ヴァルゼインは、自分の腕を見る。自分の爪。破られた魔力障壁。


 そして。ほとんど何も変わっていない蓮を見る。


「私は……レベル二百五十八だぞ」


 低い声が広間へ響く。


「上位悪魔族」


 翼を大きく広げる。


「魔公ヴァルゼインだ」


 声に。怒りが混じっていく。


「それなのに……」


 赤い瞳が蓮を睨みつける。


「なぜだ!」


「……?」


「なぜ、私の攻撃が効かぬ!」


 蓮は少し考えた。


 鑑定で見た。ヴァルゼインの能力。


 レベル二百五十八。HP七万二千。MP十一万八千。


 筋力三万八千。防御四万四千。敏捷五万二千。魔力九万六千。


 地上の人間から見れば。きっと。恐ろしく強い。


 だけど。蓮が比べた相手は。


 違った。


 十年間。ダンジョンの中で。


 何度も死にかけながら。最後には倒した存在。


 古龍。


 レベル六百。HP三十五万。MP三十万。


 筋力三十万。防御三十五万。敏捷十九万。魔力二十八万。


 蓮は。素直に答えた。


「……だって、弱いもん」


「…………何?」


 ヴァルゼインだけではない。


 美月。玲奈。ひなた。


 三人まで固まった。


 蓮は続ける。


「……古龍に比べたら」


 少し考える。


「……ステータス、一桁違うところもあるし」


 沈黙。


「……古龍?」


 ヴァルゼインの声が低くなる。


「……うん」


「貴様……」


 顔が引きつる。


「よりにもよって……」


 全身から魔力が噴き上がった。


「古龍などという化け物と、この私を一緒にするな!」


 怒声。広間が揺れた。


 玲奈が結界の中で目を丸くする。


「……悪魔が古龍を化け物って言った」


 ひなたも蓮を見る。


「というか……」


 声が震える。


「蓮さん、古龍と会ったことがあるんですか……?」


 美月だけは。以前。自宅で蓮が取り出した。


 巨大な魔石。


 それを思い出していた。


 あのとき。蓮は。


 確かに言った。


 ――古龍。


「……やっぱり」


 美月が呟く。


 玲奈が振り返った。


「美月、何か知ってるの?」


「……あとで話す」


 その間にも。ヴァルゼインの怒りは収まらない。


「人間!」


 蓮を指差す。


「古龍と遭遇し、生き残った程度で――」


「……倒した」


「…………」


 ヴァルゼインの言葉が止まった。


「……何?」


「……古龍」


 蓮は淡々と言う。


「……倒したよ」


 完全な沈黙。


 玲奈。ひなた。そして。ヴァルゼインまで。


 誰も言葉を出せなかった。


「…………」


 ヴァルゼインの目が。少しだけ揺れた。


「貴様が……」


 声が低くなる。


「あの化け物を……?」


「……うん」


 蓮は。なぜそんなに驚いているのか分からないように。


 少し首を傾げた。


 次の瞬間。ヴァルゼインの胸元。


 赤い紋様が強く光る。


「ならば……!」


 魔力が膨れ上がった。


「その言葉!」


 床の紋様が一斉に赤黒く輝く。


「この私を倒してから口にするがいい!」


 ひなたが端末を見る。


「魔力が……また上がっています!」


 美月も気づいた。


 ダンジョン全体に広がっていた。異常な魔力。


 それが。五十階層へ戻ってきている。


「この地へ流し込んだ力……」


 ヴァルゼインが両腕を広げる。


「すべて」


 膨大な魔力が集まる。


「私へ戻せばいい」


 床が震える。壁が軋む。


 上層。四十九階層。四十八階層。さらにその上。


 ダンジョンへ流し込まれていた魔力が。五十階層へ。ヴァルゼインへ。


 戻ってくる。


 美月が息を呑んだ。


「本当に……こいつが」


「……うん」


 蓮が答える。


「……原因」


 ヴァルゼインの全身へ、さらに膨大な魔力が集まっていく。


 傷ついていた翼が再生する。赤黒い紋様が全身へ広がる。


 このダンジョンをAランクからSランクへ変えた魔力。


 そのすべてを。ヴァルゼインが取り戻していく。


 その頃。


 地上。ギルド本部監視室。


「異常です!」


「ダンジョン全域の魔力濃度が急激に低下!」


「五十階層だけが上昇しています!」


「最深部に集まっているのか!?」


「はい!」


 職員が画面を拡大する。


「最深部の巨大反応が、ダンジョンへ放出していた魔力を回収しているように見えます!」


 支部長の目が鋭くなる。


「……変異の原因だ」


「では……」


「五十階層にいる存在が、このダンジョンをSランクへ変えた」


 職員たちの顔が強張る。


「黒瀬蓮は!?」


「反応、安定!」


「変化ありません!」


「この魔力の中で!?」


「ありません!」


 支部長は画面を見つめる。


 最深部。急激に上昇する反応。


 それでも。黒瀬蓮だけは。


 何一つ変わらない。


 五十階層。


 ヴァルゼインの全身から。膨大な魔力が溢れ出していた。


「人間」


 赤い瞳が蓮を睨む。


「これが」


 両手を広げる。


「魔公の力だ」


 頭上。巨大な黒い球体が形成された。


 先ほどまでとは。桁が違う。


 周囲の石柱が。触れてもいないのに。


 次々と砕けていく。


 玲奈が息を呑む。


「……あれ、さすがにやばくない?」


「端末では……」


 ひなたの顔が青ざめる。


「もう測れません……」


 美月は。ただ蓮を見る。


 光の結界。その向こう。蓮の背中。


 怖くないわけではない。だけど。


 美月は一度。死んだ。


 そして。蓮が来てくれた。


 戻してくれた。今も。


 守ってくれている。


「蓮!」


 美月が呼ぶ。


 蓮が少し顔を向ける。


「……何?」


「帰ろうね」


 一瞬。蓮が美月を見る。


 そして。


「……うん」


 小さく頷く。


 ヴァルゼインが両腕を振り下ろした。


「消えろ!」


 巨大な闇が放たれる。


 広間を覆い尽くす。床を削り。石柱を飲み込み。


 すべてを破壊しながら。蓮へ迫る。


 蓮は黒月を構えた。


 鑑定で見えている。弱点。光。


 黒い刀身へ。魔力を流す。


 白い光が宿った。


 さらに。強く。


 黒月全体が。眩い光に包まれていく。


「光魔法……」


 ひなたが呟く。


 ヴァルゼインの瞳が揺れる。


「貴様……!」


 蓮は一歩踏み込んだ。


 そして。黒月を振る。


 一閃。


 白い斬撃が走った。巨大な闇とぶつかる。


 白。黒。


 二つの力が。五十階層を埋める。


 一瞬。拮抗したように見えた。


 だが。次の瞬間。


 黒い闇へ。一本の白い線が入った。


 裂ける。


 巨大な暗黒魔法が。中央から。


 真っ二つに。


「……な」


 ヴァルゼインの声が漏れた。


 光の斬撃は。止まらない。


 暗黒魔法を切り裂き。その奥。


 ヴァルゼインへ。


 魔力障壁。一枚。二枚。三枚。


 次々と砕ける。


「待――」


 光が。胸を通り抜けた。


 ヴァルゼインの身体が止まる。


 赤い紋様の中央。白い線。


「……人間……」


 ヴァルゼインの声が震えた。


「貴様……本当に……」


 蓮は黒月を下ろす。


「……人間だけど」


 次の瞬間。ヴァルゼインの胸から。


 赤黒い血が噴き出した。


 翼から力が抜ける。身体が落下する。


 床へ。


 重い音。血が広がる。


 ヴァルゼインは。もう動かなかった。


 死骸は消えない。そのまま。


 床に残る。


 そして。ヴァルゼインの胸にあった赤い紋様が消えた。


 床に刻まれていた赤黒い模様も。一つずつ。


 光を失っていく。


 同時に。ダンジョンを満たしていた。


 異常に濃い魔力が。急速に薄れていった。


 歪んでいた壁が戻る。揺れていた空間が静まる。


 崩れていた階層同士の繋がりも。少しずつ。


 正常なものへ戻り始めていた。


 ひなたが端末を見る。


「魔力濃度……下がっています!」


「どのくらい?」


「急速にです!」


 画面を操作する。


「階層接続も……正常化しています!」


 美月が周囲を見る。


 あれほど肌を刺していた。重い魔力。


 もう。ほとんど感じない。


「……本当に」


 美月が呟く。


「終わった」


「……うん」


 蓮が答える。


 地上。


「最深部の巨大反応、消失!」


「ダンジョン全域の魔力低下!」


「構造変化、停止!」


「階層接続が復旧しています!」


 監視室に声が響く。


「Sランク相当だった魔力濃度も低下!」


「攻略判定!」


 一人の職員が叫んだ。


「出ました!」


 画面に。大きく。


 表示される。


 ――攻略完了。


 監視室が静まり返った。


 救助隊すら入れなかった。AランクからSランクへ変異したダンジョン。


 黒瀬蓮は。一人で深部へ突入し。


 《アストラ》と合流し。そのまま。


 最深部まで到達した。そして。


 異変の原因を倒した。


 支部長は画面に表示された名前を見つめる。


 黒瀬蓮。Unknown。


 七年間。誰も正体を知らなかった。


 世界ランキング第一位。


「……これが」


 小さく呟く。


「世界一位……」


 五十階層。


 蓮が振り返る。右手を軽く動かす。


 美月たちを包んでいた光の結界が。静かに消えた。


「……もう大丈夫」


 玲奈が一歩。外へ出る。


 周囲を見渡す。


「本当に……終わったんだ」


「はい」


 ひなたも頷く。


「異常な魔力反応はありません」


 美月は。真っ先に蓮のところへ向かった。


「蓮」


「……何?」


 美月は蓮の身体を見る。


「怪我は?」


「……ない」


「本当に?」


「……うん」


 美月は。ようやく。


 大きく息を吐いた。


「……よかった」


 玲奈は。床に倒れたヴァルゼインを見る。


 蓮を見る。もう一度。


 ヴァルゼインを見る。


「……ねえ」


「……何?」


「帰ったら」


 玲奈が蓮を指差す。


「本当に全部説明してもらうからね」


「……全部?」


「全部」


 蓮は少し考える。


「……長い」


「十年分だからね」


「……うん」


「そこで納得するんだ」


 玲奈がため息をつく。


 美月が小さく笑う。


 ひなたも。ようやく。


 笑った。


 そのとき。


 広間の奥。白い光が生まれた。


 小さな光。それが。


 ゆっくりと広がっていく。


 ひなたが顔を上げる。


「出口……!」


 玲奈が大きく息を吐いた。


「やっと帰れる」


美月も。


 白い光を見る。そして。


 蓮を見る。


 十年間。蓮は。


 一人でダンジョンを進み。一人で戦い。一人で生き残り。


 最後には。一人で、地上へ帰ってきた。


 だけど。今は違う。


 蓮が黒月をアイテムボックスへ戻す。


 美月。玲奈。ひなた。


 三人を見る。


「……帰るぞ」


 美月は笑った。


「うん」


 玲奈も頷く。


「四人でね」


「はい」


 ひなたも答えた。


 蓮は。白い光へ向かって歩き出す。


 美月たちも。その隣と。その後ろへ続いた。


 十年間。誰にも届かない場所で。


 蓮は一人だった。


 けれど、今は。一人ではない。


 四人で。地上へ帰るために。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
現段階でのAI特有の箇条書きでしつこいほどに繰り返される特有の文章。 また、行間を無駄にあけ、文章をとにかく長引かせている書法。 これらが一つの表現法であるのは現代の社会人なら当たり前の様に会議等で…
一話の話は長くてもいいけど、戦闘が淡々と進んで状況説明で中々進まない(スピード感が薄い)のなら、要らないとこ(間延びしてるとこ)削って圧縮してもいいかも? 作者さんが読み直して添削してくれればいい感じ…
私はスマホで読んでますが長いほうが良いと感じてます。 読み応えがあるほうが嬉しいです。 途中で用事などで中断、ブラウザを落とすとしても、あとで立ち上げれば読んだ部分から表示されるので、長いことによる…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。