森の中の出来事
トッドは誰かに囁かれ、誘われるように二人から離れ森を歩いていた。
土の感触は柔らかくなっていき、随分と森の深いところに来てしまったようだった。
なおもトッドは声に導かれ歩いていた。
『こっちにおいで、トッド』
トッドが歩きついた先は小さな池だった。
その池は鏡のように静まり返っており、とても澄んでおり水底がはっきりと見えていた。
池のまわりには可憐な、薄く青い水仙が咲いていた。
『トッド……池をのぞいてごらん。とても美しいものが見れるよ』
トッドはひざまずき池の中をのぞいた。
「本当だ美しい……こんなに美しいものを見たことがない」
トッドは池に写った自分の姿を見ながら、そのまま池に落ちてしまった。
その声は優しく、なでるように、途絶えることなくトッドに話しかけていた。
『君は美しい……とても美しい人だ』
「人だと……俺が求めているのは人並みじゃない。
俺が欲しいのは美しさではない。
強さに宿る美だ。それもただの強さじゃないぞ。
お前らは全部、偽物だ。お前らに何が分かる?
女王こそ美を語るにふさわしい」
トッドは目を見開いて叫んだ。
「この炎を喰らえ!」
トッドは左手を強く握りしめ、力いっぱいに振り下ろした。
大きな爆発とともに水柱があがり、一瞬で池の水は蒸発してしまった。
池の底は真っ赤に溶けていた。
「くだらないものに付き合ってしまった」
トッドはそう言って、二人の元へ戻っていった。
* * * * * *
トッドがミルとルナのもとを離れたちょうどその頃だった。
「ルナ……トッドがどっか行っちゃったよ」
「集団行動ができない子供なんでしょ?
放っておきなさいよ。どうせ戻ってくるんだから」
「バラバラになるのはよくないよ、ちょっと座って休もう」
ルナはミルに促され、倒れた木に腰かけた。
ミルはルナの隣に座った。
「どうして?」
「何が?」
ルナは目をつむって言葉を探していた。
「どうして私の隣に座るのって聞いてるの。
こんな広い森の中で、どうして?」
「あのね……お腹空いちゃって。
早く食べ物めぐんでくれないかなって思ってます」
「ちょっと待って今、『食卓』カードをだすわ」
「そのカードって具現化するとどうなるの?」
「豪華な食事が出てくるのよ」
「へー、凄いね。アイランドの図書館にはこんなのが沢山あるんだね」
「そうよ、あなたは信用がないから貸してもらえなかったってこと」
二人が話している時だった。
地面から靴をつたって、腰かけている倒木から、黄色い粘菌が脈打ちながら這うように二人を包み込んでいた。
半分ほどそれが覆っていった時、二人の様子がおかしくなっていった。
既にトッドは彼らの背後にいたが気づいていないようだった。
「ミル……いつもきついこと言ってごめんなさい。
あなたのことが心配なの、無茶ばっかりしてるから」
「ルナ……僕こそごめんね。戦うことばかりでかまってあげれなかった」
「おい、お前ら」
「そんなことないわ、ミル。こうして今二人きりなんですもの」
「ありがとう、ルナ」
「お前ら、なんだか全身に黄色い気持ち悪いのに包まれてるぞ!」
「この旅から帰ったら、一緒に暮らそう。ルナ」
「ええ、そうしましょう。ミル」
「……っ。二人ともとりあえず燃えちまえ!」
トッドはそう言うと、二人の近くに溶岩をいくつか落とした。
黄色い粘菌はトッドが放った熱を嫌がり退いていった。
と同時に二人は正気を取り戻した。
「ちょっと、どうして私の手をしっかり握ってるのよ!」
「誤解だよ、気づいたら……君も僕の反対側の手を握ってたじゃないか!」
「もう、信じらんない。これからは三歩離れて歩いてよね」
「僕の前はトッドが歩くようにしてくれよ」
「お前ら結婚すんのか?」
「するわけないだろ!」
「トッドが戻って来た……よかった。
どこに行ってたの?」
三人がそんな会話をしているところに一人、奇抜な衣装をした男が近づいて来た。




