炎氷の国、女王の帰還
――ミルとルナが炎氷の国へ旅立つ少し前、トッドは既にここにいた。
「ここがドラゴンの国」
トッドがつぶやくと、ドラゴンは嗤った。
「まあ、そういうことにしてやってもいいが……ここは北の果て、火山と氷ばかりの国さ。
お前たち人間がどう呼ぶのかなんて知らないよ」
「火山の近くに……あれは人間の町、城もある」
「ああ、そうさ。火山の近くは温かいからね。
人間は醜い争いが好きだ……そうだろ?
お前は違うようだけど、よく飽きずに憎しみ合ってる。
決闘すればいいだけの話なのに勇気がない。
どうしようもない生き物なのさ」
トッドは眼下に広がる景色を眺めていた。
ドラゴンの言う通り、どうでもいいことや大したことでもないことで人は口喧嘩しているのが見えた。
小突きあったり、弱いものをいじめてる様が見えた。
「戦いを恐れ、北の果てまで逃げてきたのだろうに結局やってることは変わらないのさ」
「あなたがこの地を治めれば誰も争うことがなくなると思います」
「そんな退屈なこと出来るもんか!我が求めるのは我よりも強者のみ。
あのジョンとかいう者が持っていた氷の剣……あれこそが我が求めるものだ」
「なぜ戦うのですか?」
トッドがそう言うとドラゴンは大きく叫ぶように笑った。
その声は地上で言い争っていた人間が静かに見上げるほどの畏怖が含まれていた。
「トッド!お前は性根から叩き直す必要があるな。
まあもとからそのつもりだが……先を見ろ、あれが我が根城。
『地獄の釜』だ。あそこで傷を癒して英気を養おう」
「待って下さい。あそこは活火山……溶岩に突っ込むんですか?」
「人間の言葉で表現するとそうなるな」
「待って下さい!待って……待ってくれ!!」
まるで火山が噴火したような音を立てて、トッドを乗せたドラゴンは地獄の釜へ突っ込んでいった。
「いやー、やはりここが一番気持ちが安らぐ。
トッド、言い忘れたがお前は火と相性が良いのだ。もちろん風ともな。
初めは少し熱いだろうがそのうちに慣れてくるだろう。
楽しむがいい、受け入れるがいい、そして我がものとするのだ」
トッドは焼けて、蒸発してしまうのではと思った。
ひどく熱いのだが不思議なことにドラゴンの言う通り、だんだんと慣れていった。
「どうだ……悪くないだろう」
「本当だ、悪くない。なぜだろう……温かい。
僕の冷え切った心が温まってゆく、熱せられてゆく」
トッドの瞳は煮えたぎる溶岩に照らされ、赤く染まっていった。
「来る……来た。これだ!これを待っていたんだ。
力が湧いてくる。漲ってくるぞ!」
「まあ我には遠く及ばないが人間にしてはよく出来た方だぞ。
左腕をもっと深く浸してみろ」
ドラゴンに言われるまま左腕を深く肩まで沈めてみた。
しばらくした後、引き揚げてみると左腕がドラゴンの前足のようになっていた。
「どうだ、気に入ったか?」
「これだ……これなのだ。これがあれば卑下することも、惨めに思うことも、他人を憎むこともない」
トッドは左腕を天に突き立てて叫んだ。
「俺はついに!鋼の肉体を手に入れたぞ!!」
「人間のくせにまるでドラゴンのような顔つきになって来たな」
「俺と戦いたい奴はどこにいる!どこだ、俺と戦いたい奴は!!」
「その調子だ、トッド。だが今は少し待て。
待ってくれれば我が相手をしてやろうぞ」
「お前は俺の生みの母、育ての父だ」
「父というのはあまり好かんな」
「あなたを呼ぶための名前をくれ、是非とも。無理にでも!」
ドラゴンは少し考えて答えた。
「ならば、女王と呼べ」




