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アイスソードを振り回してはいけない

幾万から数えてからの何度目だっただろうか、ミルはアームと互角に戦うことが増えていった。


「そろそろ良いんじゃないかな」


チャンバーから出て、アームはミルに刀身のない剣のヒルト(柄)を手渡した。


「アーム先生これは?」

「これがアイスソードだよ」

「でも……刃がついてないですよ」


「ほんとにジョンから何も聞いてないんだな。

 グッと握ってブンッと振ると出てくる。

 決して人や建物に向けるなよ、脇構えで海に向けてやってみろ」


「わかりました」


ミルはそう言って上段の構えから腰を落としつつヒルトを脇にねかせ、スペルを唱えた。


「この凍てつきの前に静まれ!」


ミルが持つヒルトの先が海へ向いたと思った瞬間、巨大な氷の刀身が現れた。


「えっ?!」


氷の刀身はそのまま海へ落下し、巨大な氷の刀身よりも大きな水柱をあげた。

ミルは驚いてしまい、しばらく動けないでいた。


「なるほどジョンが何も言わずに君をよこすわけだ」


「アーム先生、これは……」


「ミル、君はアイスソードと相性がいいみたいだ。

 この具合だとチャンバーが壊れてしまう、

 海上にメガフロートを用意するからそこで練習しよう」


「あ……はい。つまり今日は練習は終わりですか?」

「そうだ」

「じゃあ、ルナと魚を獲りに行ってもいいですか?」

「メガフロートは自分で展開しないとね」

「あっ、やっぱり」


アイランドの下層にはたくさんの工場が集積している。

メガフロートはそこで作られ、次々と海へ投げ込まれていった。

ミルはそれらを一つ一つ連結させていった。

工場区域の上の住居区域ではミルがアイスソードから放つ巨大な氷の塊を一目見ようと海側に集まっていた。


「ミル、私は先に帰る。何度も言うが人と建物に向けるなよ」


ミルが一振りする度、巨大な氷の塊が現れた。


その度に歓声が沸き上がり、ミルは誇らしい気持ちになった。

メガフロートでの練習は日没近くまで続いたのでルナが迎えに来てくれた。


「すっかり人気者ね」

「ルナ、来てくれたんだね。ありがとう」

「あなたなら立派なスレイヤーになれるわ」

「ルナ……君の両親のため、ドラゴンに一撃食らわしてくるよ」


ルナは少し悔しさと嬉しさがないまぜになっていた。


「そういうのいらない……帰るわよ」


ミルはそんなルナの顔を見ながら答えた。


「そうだね、夜になったら飛べないもんね」


二人はいつものように立ち乗り飛行傘にのって住居区域に向かって飛んだ。

ルナはいつもより口数が少なかった。


「ルナどうしたの、調子悪いの?」

「そんなんじゃないわ、そろそろミルとはお別れだろうから」

「そう……そうだね」


二人とも日暮れ前の海を見ていた。

ミルはショルダーバッグから『月の雫』を取り出した。


「ルナ、一度だけぐるっと大きく旋回できる?」

「まあ、一回ぐらいならいいと思うけど」


ルナはそう言ってアイランドを中心に大きく旋回し始めた。


「次はこのカードを片手に持ってみて」

「なんだか今日は注文が多いわね」


ミルはおじさんからもらった初めてのカード、『月の雫』をルナに手渡した。


「じゃあ『月にかざせ』って言ってみて」


ルナがそう唱えるとカードから小さく眩く光る雫が落ちてきた。

それは音もなく風に流され落ちてくと、更に細かく輝いていった。


「きれい……こんなの今まで見たことがない」


ルナはずっと優しい笑みをたたえていた。


「ルナ……僕はスレイヤーじゃないよ。クラフトマンになりたいんだ。

 でもその前に友達を取り戻しにいくんだ。

 それ、君にあげるよ」


「ありがとう」


そう言ってルナは胸のポケットにカードをしまった。



「ミル、お家に帰りましょ」


「そうだねルナのお母さんが待ってる」



ルナはその晩、何度も手のひらへ落としては、

輝いては消え弾けては輝く月の雫を楽しんだ。




*  *   *    *   *  *




翌日、ミルは出発のため身支度をしていた。


「ミル……お弁当多めに入れといたから」

「ありがとう、お母さん……ところでルナは?」


「あの子、すねてしまったみたいで。

 どこかへ行ってしまったのよ」


「そうなんだ……じゃあ歩いて上まで行くよ。

 行って来ます!」


「ミル、気をつけて行ってらっしゃい」



ミルは住居区域に張り巡らされた階段を軽々と駆け上がっていった。

初めて来た時よりも体は丈夫になっておりチャンバーでの訓練が実感できた。


「もう三十分ほど階段を駆け上がってるけど全然息があがらない。もっとだ!」


ミルは更に足の速さを上げていった。

頬に当たる風もより強くなっていった。


「あともう少し」


駆け上がった先にはアームとルナが待っていた。


「あれ……ルナ、ここにいたんだ」


「ほらやっぱり、駆け上がって来た」

「ルナの言った通り。こいつはバカがつくぐらい真っ直ぐだな」


「ルナとアーム先生、それって立派なハラスメントですよね」


「ミル、ちょっと考えたんだがルナと一緒にいけ。

 お前だけだと心もとない」


「でもルナは……」

「私は剣を振るわないわ」

「その代わり、いくつかカードを持って行ってもらう」

「でも、アーム先生……危険じゃないですか?」

「ミル、お前が持ってるカードを盗まれる方が危険だな」


「そうよミル、あんたほいほい他人にカード譲っちゃうでしょ?

 私が預かったカードは強力なものばかりなの。

 敵の手に渡ったら大変なのよ」


「なんだか僕って相当、信用されてないんだな」


「まあそういう事だ。説明はお終い!

 さっそく行ってこい」


「そうよミル、さっさと『銀の鈴』を私に渡しなさい!」

「ええっ!これもなの?」

「そういうこと!」

「なんかひどいな……格下げされた感じ」


「あんたは前衛で剣をぶんぶん振ってりゃいいのよ!

 『月の雫』ぐらいで私が乙女になると思ったの!!」


「ルナさん……なんかこわい」



「早く私につかまりなさい。変な気起こさないでよね」

「……」


なびく髪からはまた甘い香りがして、ミルはルナを見つめていた。


「じろじろみないで、このむっつりスケベ」

「見てないってば」



ルナは『銀の鈴』を取り上げてスペルを唱えた。


「我らは永遠の旅人、彼の地にゆかん」



二人はドラゴンとトッドのいる、『炎氷の国』へ旅立っていった。


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