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アイランド:#677 CLC

「家の上に家が建ってる。しかも風で少し揺れてる。

 ここは崖の上……じゃなくて地面が浮いてる。

 っていうか、ここは海の上だ!」


ミルは目に飛び込んでくる景色、その全てが理解を超えるものだった。

建物は重なりあい、あやういバランスの上に一つの建造物として成り立っている様は、

想像の世界でしか見たことがないものだった。


ミルは海が見える景色とは反対の、

建物と建物の間の小路や隙間を通り抜け、内側へ向かった。

そこには大きな吹き抜けがあり、反対側へ行くには一日かかるほどの大きさだった。


「ここが……ええっと、どこだったっけ?」


ミルが途方に暮れていると誰かを呼ぶ声が上の方から、その声はだんだんと大きくなっていった。


「ねえ、そこの君ー」


あまりに遠かったため姿は小さかったが、その声から女の子だということはわかった。

その子はミルに手を振っているようだった。

ミルは少し恥ずかしかったが手を振って答えた。


「僕のこと?」


「君、バカなのー?!そこには君しかいないでしょー」


ミルは笑顔で、しかし心の中で少し文句を言っていた。


(確認の意味だったんだけど、

 ここの人たちはみんなあんな感じなのかな?

 文脈読んでね、宙に浮いてるそこの女子)


ようやく、その子が乗った立ち乗り飛行傘はミルの目線まで近づいてきた。


「初めまして私はルナ、君は三ツ星の近くから来た人でしょ?」

「ええっと、多分ね」

「先輩からの推薦状は?」

「あるよ」

「ちょうだい!」


ミルはショルダーバッグに入れていた、おじさんからもらった手紙を渡した。

ルナは手紙を開封して手紙を確認した。


「先輩はジョンって人ね……ちょっと待って!あのドラゴン殺しのジョンなの?」


「いや、普通のおじさんだよ。だからみんなはおじさんって呼んでる」


「じゃあ、あなたもドラゴンを退治しにゆくのね」


「いや違うよ」



ミルはルナに詳しい話をするとこじれそうだから本音は心に留めおいていた。


(本当はトッドを連れ戻す予定なんだけどね)



「まあいいわ、乗って!」


ルナはそう言うと落下防止の手すりの一部を外してミルを誘った。

立ち乗り飛行傘は一人乗りだったのと、とても高い場所だったので思わずルナのことを抱きしめてしまった。


「ちょっと!なんで男っていつもそうなの!」

「ごめん、ちょっと怖かったから」

「もう、変な気起こさないでよね!」

「ほら……ちゃんと手すりにつかまったよ」


ミルは時折、立ち乗り飛行傘を操縦するルナの横顔を見ていた。

なびく髪からは嗅いだことのない甘い香りがして、ミルの心を落ち着かせた。


「私はね、ここで生まれ育ったの。君が住んでたところはどんなとこ?」


「えーっと、どんなとこって言われても。普通」



「君……付き合ってる子いないでしょ?」



「なんでそんな話になってくの?!」

「だって女の子と会話出来ないなんてねー」

「いいじゃないかそんなこと」


「まあ、ドラゴンスレイヤー志望なら無口でもモテそうだからね」

「ルナ、僕はドラゴンなんちゃらになろうなんて思ってないよ!」

「何言ってるの、推薦状に『僕、なりたいです』って書いてあったわ」

「ええっ?!」


ミルは推薦状を読み直して驚いた。

『私、ミルはドラゴンスレイヤーを強く志望し、過酷な訓練に耐え抜くことを誓います』


「いやいや、強く願ってもないし誓うって。

 おじさん……大事なこと全く言ってくれてない!」


「もう諦めなさいよ、ここまで来ちゃったんだから。

 じゃあ、そろそろ始めるわよ」


「何を?」


「私の生まれ故郷、育った場所。

 アイランド『#677 CLC』の観光よ。

 主力エンジン全駆動、出力最大!!」


ルナはそう叫ぶと立ち乗り飛行傘は『キィーン』という音と青白い炎を吐きながら加速していった。

彼女の操縦で建物の間を流れるように進んで行き外側へ出た。



「これがアイランドの全体よ。もう一度中に入るわね。

 一番上が『千寿の人』が住んでるところ。あそこには近づいちゃいけない決まりなの。

 ちなみに下の方は工場ね」



ルナはそう言って再び内側に入って行った。

この区域は住居となっているようだった。


「ここが私の家で、ここがお友達の家、その上が先生の家で、あそこはおばあちゃんの家」


次々と紹介されてゆくがあまりにも速く、ミルはただ過ぎ去ってゆく景色を見るのが精いっぱいだった。

立ち乗り飛行傘は上昇し、徐々に速度を落とし、外側に面した少し見晴らしの良いところへ降りていった。


「はい、ここがCLC。あなたの学び舎よ」


「君もここの生徒なの?」


「いいえ違うわ、私はこっちのほう」


ルナはそういって立ち乗り飛行傘の手すりを叩いた。

『キンキンッ』と中身が詰まった金属を叩いたような音は、

何だか彼女そのものを表しているようだった。


「乗せてくれてありがとう」


「大丈夫よ、また会えるから」


「ああ……そう。じゃあまたね」


ルナは少し笑ってどこかへ飛び去って行った。

ミルは去っていった方向をしばらく見つめていた。



気づけば誰かが近くにいたようだった。

その人はミルに話しかけてきた。


「あの子が気に入ったのかい?」

「えっ? 違います!」


その人は近づいて来た。


「私はCLCの格闘先生です」

「ミルです。なんだか恥ずかしい名前ですね」

「アームって呼んでください。推薦状を……」


アームは手渡された推薦状とミルの顔を何度か見て、少し首を傾げた。


「ほんと?」

「らしいです」

「大丈夫?私は手加減を知らない」

「大丈夫じゃないです」

「うーん、ミル君。ほんとは何しに来たの?」


ミルはきりっとした顔で答えた。


「友達を連れ戻すためです!」


アームは満足そうに答えた。


「それはとってもGoodだね。

 じゃあ、大丈夫ってことだ。

 つまり、訓練の始まりだ」


アームは持っていた木の棒をミルに投げ渡した。


「それを持ってチャンバーに来なさい」

「チャンバーって何ですか?」


アームは立ち止まり、振り返り、ミルに言った。


「来ればわかるよ」


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