49.しかし女子会
しかし照明が付けられた。
エレノアはどさっと起き上がり、剣を握りしめた。
そしてそこにいる敵へ飛び掛かった。
「魔物め、殺す」
「違うわよ!!」
間一髪、エレノアの剣が止まった。マリーは腰を抜かしていた。その後ろでドレイクが笑っているのはいつものこと。
マリーとドレイクがエレノアの部屋へ遊びに来たようだ。
マリーは床にトランプを広げた。
「な、なんですか。いきなり」
「見てわかんない? 遊ぶのよ」
「なんで喧嘩腰なのですか」
「ほら~食堂から冷食盗ってきたから焼いて食べよ~」
「校則違反では?」
「いいじゃん~。ほら、座って座って」
ドレイクは火の魔術でからあげやらフライドポテトやらを炙る。
しかし勢いが強すぎた。トランプに引火した。
マリーが怒鳴った。
エレノアが水の魔術で消火。
しかしマリーの火は消えなかったようだ。
マリーは全身ずぶ濡れになった。
「なにすんのよ!」
「あ、ごめんなさい。えっと。タオルと着替え。私のですけど。大丈夫です。着てませんから」
「むぐぐ……」
マリーは着る。
ボトッ。
「ぎゃははは! マリー、サイズあってない! 胸回りー!」
「笑うんじゃないわよ!」
「す、すいません。ちょっと大き過ぎました」素直に謝る。
「なにそれ嫌味?!」
「そ、そうじゃないのですが」
「そもそもあんた、さっきから何よ! なんでずっと制服なわけ! 自分で似合ってるとでも思ってんの!」
「似合ってるじゃん~?」
「そうだけど! ってそうじゃなくて!」
「まぁ確かにエレノアちゃんだけ制服とかありえない―って感じ? まだ着替えあるんでしょ」
ドレイクはエレノアの鞄を荒し始めた。
「ちょっと! やめてくださいよ!」
「あ! あった!」
「白いワンピース? なんか子供っぽいわね」
「いいじゃないですか!」
「だから今から着たって~?」
「いいじゃないですか! え?」
「ということで~」
ドレイクはエレノアへ飛び掛かると、エレノアの制服を脱がしていく。
ドタバタ。エレノアがやけに抵抗するので苦戦。
一方でマリーはトランプを並べ終わって、じゃれる二人をただ見つめていた。
一人だけ仲間外れにされている感覚。だんだんと気に障ってきたみたいだ。
「私を忘れるなぁ!」
マリー参戦。
ドタバタバタドタ。
そういうわけでエレノアはいつもの寝巻、白ワンピースを着させられた。
エレノアはもじもじと恥ずかしがっている。
「こんな姿、誰にも見せたことないのにぃ……」
「え? エレノアちゃん。可愛い。結婚する?」ドレイクはときめいた。
「アホ。ほらトランプするわよ。もう三時になっちゃった!」
「神経衰弱? トランプよりエレノアちゃんをひっくり返したい気分かも」
「ひぇっ……」
「馬鹿なの? 時間無いの!」
「いいじゃーん。もうちょっとだけエレノアちゃんで遊びたいー。結婚ごっこ―」抱き着く。
「ひゃっ!」
「何よ。女同士で結婚ごっこって。子供っぽ。アスチルベの貴族なら現実見なさいよ」
「あー? 法律的に女同士で結婚できないってこと? だったら私が政治家になって変えてやるー!」
「胸を揉むなぁ!」
「ムカつくから私が政界から追放してやるわ」
「裏の支配者!」
「表だわ! バリバリ!」
「そうだった。王様って結構ワガママだった」
「それは否定しないけど。さっさと座んないと怒るわよ」
「もー。血統てかー?」
マリーパンチ炸裂。ドレイクの酔いが冷めた。
一転変って神経衰弱の真剣勝負が始まった
――マリー圧勝の36枚。次いでドレイク16枚。0枚エレノア。
「よっわ……」
「言わなくてもいいじゃないですか!」
「農民の出身だからかな? どうだ、明るくなったろう?」トランプを燃やす。
「いじわる!」
「物を大事にしなさい」
「わかったよママー」
「ママじゃないわよ!」
「じゃあカルロス先生の奥さん?」
「そ、そんなんじゃないわよ!」照れ照れ。
「単純……ほら、15枚あげる」
「ど、どうも?」
「って盗ったでしょ!」
「私が37枚。大富豪ってことで。はい」
「不正よ!」
「マリーさん。お腹空いてるんですか? さっきから怒鳴ってばかりで。ごめんなさい。パンはないです。ケーキなら冷凍のがありますよ」
「あんたまで馬鹿にするな!」
激怒。
その後、私が負けたのは神経衰弱のせいだとエレノアが謎理論を展開しだしたので、大富豪をすることに。
――マリー富豪。ドレイク市民。エレノア貧民。
「よっわ……」
「だってルール覚えられないし!」
「社会の縮図ってやつだねぇ。結局、世襲なんだなこれが」うんうん。
「なんでそういう結論になるのよ」
「同じ数字を四枚出すと革命が発動するよ。これをやると無条件でマリーが負けるから」
「そんなルール無いわよ!」
「あ! ローカルルールってやつですか!」
「そんなローカルルール無いわよ!」
またしても激怒。ケーキは食べない。
その後、これは簡単だろうとマリーがババ抜きを提案、やってみるも。
――マリー一抜け。ドレイク二抜け。エレノア敗北。
「雑魚すぎ……」
「ポーカーフェイスに引っ掛かり過ぎ~。可愛い~」
「うぇーん! もう寝ます! もう寝ます!!」
「寝かせないわよ! まだ遊ぶ! 絶対にエレノアを気持ちよくさせるんだから!」
「なにそれ意味深?」にやにや。
「え、ええ?」
「あ! 結婚はできないけど愛人にして不倫しまくるってこと!? でもバレたら王室追放だよ?」
「何勝手に勘違いしてんの?」
「ごめーん。私よくわかんなーい。ちゃんと説明してー」
「だから落ち込んでいるエレノアを――」
あざとさかかるドレイク。
マリーは思わず正直に言ってしまいそうだったが――ハッとマリーの頬が赤くなっていく――気づいて止めた。
エレノアは純粋な眼差しをマリーへ向ける。
余計にマリーは恥ずかしがった。
「見んじゃないわよ!」顔面平手。
「うわっ!」転倒。
「あ! 思い出した! エレノアちゃんが事件でおちこ――ふぐっ!」
「言うな!」すでに平手。
「え。もしかしてマリーさん。私のことを心配して?」
「ぐぬぬ……そ、そうよ! 悪い?!」
何故かキレる。
「ご、ごめんなさい」
何故か謝る。
「謝るんじゃないわよ!」
そしてキレる。
そしてドレイクがにやにやつく。
もうどうにでもなれと、マリーはさらに真っ赤になった。怒っているから赤くなっていると誤魔化すように。
「聞いたの! あんたあの二人と仲良かったじゃない。だから来てあげたの! べ、べつに心配だからとかクラスメイトの為とかじゃなくて! アスチルベの姫としての責務なの! いいでしょ!!」
「そ、そうなんですか。大丈夫ですよ。私は」
「大丈夫じゃないわよ! 二日間何も食べてないじゃない! 身体も壊すわ!」
「実はずっと食堂で見張ってたんだよ?」こそこそドレイク。
「え。そんなに心配して――」
「だからしてなーぁい!! してなーいんだから!!」
マリーは誤魔化すように唐揚げをガブガブ食べる。
ドレイクは面白がったらしい。マリーが掴もうとした唐揚げを横取りすると、ぼーっとしているエレノアの口に突っ込んでいった。
「むごごご!」
「ってなにしてるのよ!」
「だって食べさせないと身体壊すし?」
「むごっごっ、大丈夫です。私は!」
「ああもう! 唐揚げばっか食べてないでちゃんと糖分取りなさいよ!」
マリー参戦。エレノアの口へケーキを突っ込んでいく。
無理やり突っ込んでいく。
――チーン。無事、エレノア。ぶっ倒れる。
「そんなに食べられないってぇ……」
「やりすぎたわ!」
「そうだねぇ。食べすぎも身体に悪いからねぇ」
「ど、ど、どうしましょう! そうだ! まだ町に勇者がいるって衛兵ネットワークで聞いたわ! 治癒が使えるのよね? 呼んでくるわ!」
「い、いぇ、あのぉ……」
「マリー。外に出たらまた怒られるよ?」
「ああそうだった! もう! 姫って面倒だわ! ああもう! どうしましょう! 勇者から来てくれないかしら! ていうかそもそもなんで私がこんなにエレノアを励まさないといけないのよ! 勇者がやればいいじゃない! 魔物倒したらどっかいくって無責任だわ!」
「だからぁ、そのぉ……」
エレノアの正直な手もマリーは払って感情的。
「勇者とかゴミだわ! ああ! ゴミ!」
「金髪の好青年のイケメンって噂なのに?」
「顔だけだわ!」
「頭脳明晰で優しいって聞いたよ?」
「優しいとかつまんない! てか優しいならここに来て少女一人くらい励ましなさいよ!」
「だから、あの、実は私が勇――むぐっ!」
ドレイクが口を塞いだ。
「どこぞの金髪の少女が勇者だってマリーが気付かないようにしてきた、私の努力を褒めてくださいよ。勇者様?」コソコソ。
「えー」
「あ! ポテトが空を飛んだ! あろうことかエレノアちゃんの口に!」
「むぐっ!」
「だってエレノアちゃんが勇者ってわかったらここに来なかったでしょ? つまんないじゃんそれ」にやにや。
「そ、そうなんですかね?」もぐもぐ。
ドレイクは、うさぎみたいにポテトを食べるエレノアを面白がってもう一本、もう一本とポテトをエレノアの口へ運んでいった。
なおマリーはまだまだ憤慨していた。
「あー! 勇者とか会ったら一発ぶん殴ってやるわ! 事件が起こる前に来なさいよ! 守んなきゃ助けないって騎士と同じじゃない!」
エレノアは哀しく目を下ろした。
ドレイクはかなり気まずくなってものの、それでも楽しみに笑っていた。
そう、ここだろうと。
――しかし。
バン!
ドアが叩き開けられた。
ゴリゴリの青いワンピースのゴリラがロックのような怖い顔をしていた。
「うるさいわよ! さっさと寝ろや!!」
無事説教。
マリーにとっては散々な夜だった。ドレイクは楽しそうに正座をして、エレノアはちゃんと痛い膝に少しだけ喜んでいるようだった。
マリーはそれに気付いて気持ち悪がりながらも、
「あれ~? どうかしたの? にやにやして~?」ドレイクが唆す。
「え? な、なんでもない!」
そしてそんな自分も気持ち悪い。やはり散々。
ロックはやたらガタイのいい青いワンピース姿、情けなくも優しかった。
「もう寝なさい。明日から授業もあるんだから」
「はーい」陽気ドレイク。
そんなこんなが過ぎ、廊下。
欠伸が二つ。陽気が一つ。
「もう眠いし解散解散」
「え~もっと遊ぼうよ~」
「また怒られるから嫌よ」
「エレノアちゃんは~?」
エレノアは引き攣った作り笑いをして、
「私はもう大丈夫ですから。それにもう眠っておきたいですし。遊んでばかりじゃ」
謙遜した。
気を使ったのだが、マリーはそれが気に入らなかったようだ。
面と向かい、自分の影にエレノアの気持ち悪い表情を消した。
「あんたより私の方が上よ。でもそんな怖がらなくていいから。不安があったらとにかく私を頼りなさい。どうにかしてやるわ」
マリーははっきりとそう言った。一国の姫らしく。学院のトップらしく。その顔に一点の恥もない。
が、エレノアが驚きのあまり何も言わず、じーっと見つめるだけで、妙に間が開いて、恥ずかしくなってきたらしい、だんだんと顔が赤くなっていった。
そこへ付けいらないドレイクはいなかったようだ。
「一人で眠れない~とかだったら一緒に寝てくれるって!」
「しないわよ!」
「しないの?」
「エレノアがどうしてもって言うなら、しょうがないけど……しょうがなくだから!」
「ふーん?」
「って、エレノア! さっきから黙ってるけど、なんかないの?!」
ドレイクの蛇のようなおちょくりの包囲網に耐え切れず、エレノアへ八つ当たり。
エレノアはやっと気を取り戻したようだ。
マリーに悪いと思ったのか、エレノアは嬉しそうに、今度は正真正銘に笑って
「眠いので寝ます。今夜はありがとうございました」
そうはっきりと言った。
あまりにはっきり過ぎて、マリーは呆気を取られたが、マリーはマリーで高貴にお姉さんぶって、
「じゃあそういうことだから」
と去っていった。
ドレイクは「じゃ~」と適当。
エレノアはそれを見送ると、やっと眠りについた。
青く冷たい一人の誰でもない部屋。
変わらずあたる寂しい風。
けど少しだけ匂う、さっきまでの暖かさ。
その寝顔はどこか軽やかだった。
「勇者でもないのにマリーは適当過ぎですよね」
瞼の裏。
マリーのアホさが浮かんでいる。
かもしれない。




