↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
51/51

50.スキャンダルend

 ファンファーレ。

 吹奏楽部が管楽器を輝かせ、広場の英雄を讃える。

 学長は台の上。長ったらしい話をして感謝状を英雄に手渡した。

 それから英雄二人は豪華な絨毯、装飾された道を歩いて、歓声に手を振る。


 あー。こんな派手な見送り要らねえって言ったのに、まぁ案外悪くねえけど。

 どいつもこいつもエレノアと俺に驚いたり、普段泣かなそうなやつが泣いてたり、勇者が去るから不安だって声もしばしばあるな。

 あっちにセラフィナとキノコがいる。


 「ちょっとカルロス」

 「いいじゃねえか。おい、セラフィナ」

 「いやぁ。こう見るとほんとに従者みたいだね」

 「そうだな。まぁ違うけどな」

 「そうなの?」

 「そうに決まっているだろう。こんなアホが勇者様の従者? ありえないですよ」クソキノコ。

 「なんだよ。もう元気みたいだな。一発ぶん殴っていいか?」

 「ダメだ。おい、カルロス」

 「なんだよ。怖い顔して」

 「お前が従者とは思わないが、従者の仕事は勇者を支えることだ。勇者様はまだ少女だ。お前がしっかり支えてやれ」

 「なんだよ。偉そうに」


 なんで俺がこんなカスの言うことを聞かなきゃいけねえんだ。エレノアがガキなのはもうわかりきってるし、だからちょっと心配してたが、なんかもう今ので嫌になった。

 けれどキノコはふざけているわけじゃなかった。鉄のような顔で、ほんとに怖い顔で、俺に言葉を突き刺してきた。


 「そして絶対に魔王を倒してくれ」


 キノコが手を握ってきた。痛い痛い。握力つええ。

 しかもなんか震えて泣きそうになってるし。気持ち悪いぜ。大人の涙とか。


 「あーわかったって。さっさと魔王倒してやるよ。もう50話になっちまったし」

 「頼む」

 「放せって!」


 大概何かが泣いているのを見たら気持ち良いものだと思っていたが、こいつのは見てらんねえ。

 エレノアもそんな感じだ。どいつもこいつも辛気臭くて空気が悪い。哀しんで何になるんだ。

 セラフィナはもうすっかりいつもの様子に戻っていた。ふつうに話しかけてきた。


 「私からも。エレノアにも言ったけど、バルガ語の研究者が近いうちに学院に来るんだ。フライの手紙と資料の解読ができたら手紙を送るよ」

 「あいよ。宛先は英雄カルロス様で頼むぜ」

 「ああ。もちろん」半笑い。


 生徒らと握手していたエレノアがこっちに来た。


 「セラフィナさん。キノコさん。しばらくお世話になりました」

 「うん。もっと世話になってもよかったんだよ?」にやり。

 「遠慮します」

 「そっか。二人とも旅の無事を願っているよ」

 「はい。必ず魔王を倒してきます」


 別れを告げ、俺とエレノアはそのまま進んだ。

 右側から青シャツの熱い視線を感じたが、気のせいだろう。

 正門まで来ると、学長と馬車が待っていた。


 「金は?」

 「一言目にそれかね。馬車の中の袋に入っている」

 「7500?」

 「入っていると言っているだろう」


 なんか怪しいけど。

 まぁいいか。


 「学長さん。魔物には気を付けてくださいね」

 「ははは。人間にもですよ、勇者様。いや、ほんと。ずっと親御さんから手紙止まないし、記者が尾行してくるし。もうなんかもうははは……」

 「まぁいいじゃねえか。あんな凶悪な魔物中々出ねえさ。しばらくは平和だろ」

 「そうだね。これで金欠じゃなきゃ少しはマシなんだがね?」ジロジロ。

 「あの、やっぱり!――むぐぐ!」俺が口を塞いだ。

 「じゃあな学長。魔王を倒さなきゃいけねえから失礼するぜ」

 「うむ。幸運を祈っている」


 衛兵が馬車のドアを開けているところ、俺はさっさと中へ入ろうとしたものの、エレノアが背中をガッと掴んできて入れない。


 「従者なんですよね! 私が先ですよね!」にっこり。

 「見え張るなよ。学長かよ」

 「勇者です」にっこにっこ。


 パシャパシャ。塀の向こうでは記者が写真を撮りまくっていた。

 あーめんどくせ。エレノアが頑固だからここは負けてやるか。

――といったところ、バタバタと忙しない女がカーペットを走ってきた。

 なんかすげえウルウルしてるし、でもなんか真剣そうに俺を見つめていると思ったら、やっぱり赤面して視線を外した。

 

 「あれ。マリーですね」

 「なんか嫌な予感がする。さっさと行こうぜ」


 なぜかエレノアの握力がもっと強くなった。

 というか痛い。痛い。


 「ダメですよ。見送りに来てくれたのですから」

 「あーそうだよなー。そうかなー?」


 マリーがやってきた。

 衛兵が道を塞いだ。

 ガミガミと。

 姫なので道が開いた。

 で、こっちまでやってきた。

 まだなんかよくわかんない表情して、俺を見上げた。

 ちっこい真ん丸頭に上目遣い。小動物みたいで美味しそう。いいや、腹壊すだろ。


 「あ、あの、そ、その、えっと」

 「なんだよ?」

 「だ、だからもう行っちゃうんでしょ?」

 「見りゃわかるだろ」

 「そ、そうよね。そうよね……」


 もじもじ。ちらちら。

 何の用なんだ。こっちまでムズムズしてきた。エレノアもなんか訝しんでる。

 マリーが何か言おうとしている。それがわかって辺りも静かになっちまってるし。

 なんか居心地悪い。

 マリーは唾を飲むと、俺のほうを弱弱しく見上げてきた。初々しい女の、恋する女の淡い色を感じさせる眼差しで。

 嫌な予感がする。


――マリーは意を消した。決意じみた表情ではっきりと宣言した。


 「カ、カルロス! 好きです! 私をあなたの彼女にしてください!」


 空を立つ白い鳥の群れのようなカメラの白発光とパチパチ音。

 乙女な、それでいて満足げと思えば、不安げになる可愛いお姫様。けど絶対に目を逸らさない女。

 そして俺の胸をなぞる謎のドキドキ? もしかしてこれが恋?

 いや違う、四方八方囲まれて、こんな皆見てるところでの気まずさ?

 

 「あわ。あわあわ」あわノア。

 「ひゅーひゅー! カルロス先生ー!」ドレイク。

 「やめろー! 煽るなぁ!」

 「ひゅーひゅー!」生徒便乗。

 「だからやめろって!」

 「耳まで真っ赤ー!」セラフィナ。

 「そんなんじゃねえよ!」


 違う。な、なんで俺が恥ずかしがってんだ? おかしいな。いや違う。これは違う。落ち着け。俺には心に決めた恋人が~

――いない。いなかったっけ? いないか。


 「と、とにかくこういうのはだな!」

 「おい。ぼやかすな!」生徒。

 「返事しろー!」

 「振ったら粛清!」ドレイク。

 「なんだってもうこうなんだよ!」

 「カ、カルロス? わ、わたしじゃやっぱりダメかしら? わ、私、確かにまだ16歳かもしれないけど、色々頑張るわよ?」

 「返事しろー!」ヤジ生徒。

 「ってお前、レオンじゃねえか」

 「いいから返事してあげなー」青シャツ。

 

 くそう。そんなの決まってんだろ。NOだ。俺はロリコンじゃねえし、姫とか面倒だ。確かにもう数年経てば美女になるかもしれねえが、俺は光源氏でもねえ。

 だったら正直に断るか? この場で断る? 流石にマリーが可哀そうだろ。それは。

 いや、策士なのか? こいつ頭良いし。だったら振ってもいいのか? くそ、わかんねえ。


 エレノアが笑う目でアイコンタクトしてきた。


 「助け舟出しましょうか?」こそっとノア。

 「た、頼む」

 「貸しですね!」


 エレノアがにこっと俺とマリーの間に入った。


 「な、なによ。エレノア。ていうかあんたが勇者だったのね!」

 「マリー。私たちは勇者と従者です。恋をしている暇は無いのです(えへん)。だから返事を待ってくれませんか」

 「ん。何を待つ必要があるのよ? 私が告白したのよ? まさか嫉妬しているの? そうよね。勇者だものね。カルロスの妹じゃないものね! だったらなに! 二人きりの旅でそのままランデブーなんでしょ!」

 「え、なんでそうなるのですか」

 「そうだぜ。エレノアはへっぽこだ。こんなやつ恋愛対象外過ぎるぜ」

 「あれ、なんでそうなるのですか?」

 「そうはいうけど。男なんか碌なものじゃないわ! ちょっと気分が変わったら絶対襲うもの! ドレイクがそう言ってたわ!」

 「なんだ? 俺がこんな女に惚れるようなアホだと思ってんのか!」

 「あれぇ? なんでぇ?」何故かフラれるエレノア。


 ざわざわ。喧嘩しだしたぞと、もしかして振られたのか? と辺りがざわざわしだした。


 「そうじゃないわよ! で、でもカルロスって馬鹿だし!」

 「なるわけねえだろ!」

 「でもカルロスってそういうことしそうだもの!」

 「さっきから俺がろくでなしみてえに言いやがって! 姫だからって上から目線かよ!」

 「はぁ? だってそうじゃない! 授業のときに馬でやって来たし! 意味わかんないじゃん!」

 「それは今関係ねえだろ!」

 「あるわよ! 何するかわかんないってこと! そんなのもわかんないとかやっぱり馬鹿じゃない!」

 「また言いやがったな!」

 「なによ!」

 「ああもう知らねえ! てめえから絡んできたくせに横暴すぎるぜ! なら返事してやる!」

 「……!」期待の眼差し。

 「そんな顔すんな! くそ! もういい! エレノア、俺は馬車に乗るぜ!」

 「ええでも?」

 「知らねえ!!」


 バタン。

 マリーブチン。

 扉をこじあけ、馬車に乗ってきた。


 「入ってくんじゃねえ!」

 「告白したのよ! 何か言ったらどうなの! このろくでなし!」

 「こっちはお前が傷付かねえようにだな!」

 「さもないと、同行するわよ!」

 「足手まといだ。どっかいけ!」

 「むきー!!」


 俺はマリーを蹴っ飛ばし馬車から追い出した。


 「私、姫なんですけど!!」


 エレノアは思った。同じことを学長も思った。これ以上、喧嘩させたら大惨事になる。

 フラッシュが鳴りやまない中、マリーが再び馬車に乗ろうとすると、学長が必死に掴んで止めた。


 「今です。勇者様!」

 「はい!」

 「放しなさい! 私は姫よ! 処刑するわよ!」

 「ひ、姫。どうか! これ以上のスキャンダルは! 私が死んでしまいます!」

 「知るか!」


 エレノアは馬車に飛び乗り、ドアをガッと閉めた。

 すぐに運転手へ


 「出して出して!」


 と叫んだ。運転手は急いで馬を動かした。

 学院の門から出て街を走る馬車。

 しかしマリーは追ってくる。パパラッチを掻き分け、学長を引き摺りながら。


 「待て! このクソ男!!」

 「なんだと! 黙れ! このアバズレが!」馬車から顔を出しながら。

 「あ? 今、なんつった!! このカス!! 運転手止めなさい! 殺すわよ!」


 運転手は戸惑いながらも聞かないふり。とにかく逃げるように馬車を走らせた。

 ソナリカ町の外。草を踏む頃にはもう厄介なお姫様の憎悪の姿は無くなっていた。


◇


 マリーは去る馬車を睨みつけ、子供っぽく頬を膨らました。


 「カルロス。最低な男……絶対に私のものにしてやる!」


 学長に肘打ち。

 マリーは怒りを露わにしながら、学生が色々噂するのに怒鳴りながら、学内へ去っていった。


 ◇


 馬車は進む。

 ソナリカの町を出て、草原へ。

 ずっとずっと町も学院も小さくなっていって。

 エレノアはホッと胸を撫で下ろした。

 俺は外の風景を眺めて気を落ち着かせていた。

 

 「はぁ……カルロス。女子を蹴るだなんて最低ですよ」

 「仕方ねえだろ。ああするしか無かったんだ」

 「しかもアスチルベの姫だし、写真も撮られていたし、あの、これ魔王を倒しても私たち危なくないですか?」

 「なわけねえだろ」ブルブル。

 「身体震えてません?」

 「なわけねえだろ」ガクブル。


 あれ、べつに何も怖くねえのに震えが止まらねえ。筋肉痛かな?

 エレノアの言う通り、よくよく考えればあいつ姫じゃねえか。やばいな。


 「こ、このままどっか逃げようぜぇ?」

 「冗談じゃないです! ああ~魔王倒したら用なしですかね。あはは。短い人生だったなぁ」

 「だったらなんだよ! マリーと恋人になれってのかよ!」

 「そしたら二人とも助かりましたよねー」

 「エレノア畜生!」

 「だってそうじゃないですか! うわーん! せっかく勇者らしく讃えられていたのに台無しですよ!」


 くそ。このどうしようもない感情をどうしたらいいか。こういうときは物に当たるに限る。

 俺は壁を蹴飛ばした。そしたら運転手が睨んできた。


 「見てんじゃねえよ!」

 「な、理不尽な!」

 「次はユーシアだろ! さっさと走れ! 遅せえんだよ!」

 「これが従者なんですか……」

 「聞こえてんぞ!」二度蹴り。

 「わかりました! だからやめてくださいって!!」


 こうしてソナリカ学院を去って東へ。

 俺たちは次の町、ユーシアへ向った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。