45.犯人捜し
真夜中。エレノアはベッドから目覚めた。
「下?」
二段ベッドの下で眠っていた。服も制服のまま。
寝ぼけたまま辺りを見回す。月光の薄い灯りの青い部屋。あれは夢だったのだろうかと見回す。
上のベッド。トイレ。勉強机に向かう彼女も。いない。
メアリーがいない。
「夢じゃ……ない」
窓の下、カルロスがいた。広場へ歩いて行っている。
元々静かだった部屋がもっと静かなのは、エレノアが黙っているから。一人だけになったから。それ以上に悲惨だから。
水滴が窓を伝っていく。
夜暗がりに、窓のその向こうには誰のどの顔も映らない。
◇
あれからすぐ俺とセラフィナは学長室へ呼ばれた。色々と事件のことを説明したりしているうちに夜が明けちまった。徹夜なんか肌に悪いからって気にしないが、セラフィナみたいに。ずっと同じ話ばかりしてるから眠たくなってくる。
だからソファで寝そべって居眠りすることにした。
「まさかこんなに大事になってしまうとは! これでは親御さんに事件のことがバレてしまうではないか! すでに記者だって正門に張り付いているぞ! うぉおおぉおぉぉん……」
またしても膝から崩れ落ちた学長。
「喚いている暇は無いよ。さっさとあの魔物、フライって呼ばれているらしいね。そいつを見つけ出して倒さないと。失踪した生徒もどうしているかわからないし」
セラフィナは捜査資料を壁に画鋲で指して整理する。
「そうだが。そうだな。うん。あの、セラフィナさん。なぜ壁に張るんです。私の部屋が穴だらけになってしまうのだが」
「細かいこと気にしない。衛兵は正門と寮にいるよね?」
「そう命令したからな。しかしこれでは生徒たちが不安がってしまう。事件のことが――」
「それどころじゃないってわかりません?」ブチン。
「あ。はい」
やっと話が進みそうだな。まぁ俺は動くだけ。どうするかなんて決めないし。ぐっすり眠らせてもらうか。
トコトコ。ドアを開いて
「じゃあ作戦が決まったら教えてくれ。そこらで寝てるからよ――うん?」
何かぶつかった。と思ったらエレノアだった。
制服にポニーテイル。なんだか気合いが入っているようだ。外へ出て行こうとした俺を引っ張って中へ入った。
「おはようございます。フライを倒しましょう」
「やる気満々だね。さすが勇者様」
「醜態晒して落ち込んでるかと思ったが、元気で良かったぜ」
「むっ」ポコポコ。
「痛てぇ、叩くな!」
「勇者様。これはこれは。もう休まなくてよろしいのですかね?」にたにた。
「学長が魔物かもしれませんね!」にっこにこ。
「調子に乗りました。私は人間です。フライを倒しますよ!」
朝から賑やかだぜ。寝に行こうとしてもエレノアが手を引っ張って出られないぜ。
しょうがないからソファで眠ることに。うん。エレノアと学長が座ってきて横になれない。
「眠っている暇なんて無いよ。あれほどの魔力を持っている魔物を野放しにしていたら何が起きるかわからない。さっさと尻尾を掴まないと」欠伸をしながらセラフィナ。
「そうですね。あの邪悪な魔物を始末しないと!」
友達を殺されたってのに酷く元気だな。気持ち悪いぜ。まぁどうでもいいか。
「セラフィナ。何か見当があるんだろ?」
「私の部屋を穴だらけにしたんだ。あ、あるに決まっている」学長が吃る。
「あるよ。まずは事件の整理をしよう――事件の始まりは三カ月前。行方不明の学生12人、研究者4人」壁に書き書き。
「ん? なんか数字おかしくねえか?」
「前聞いたときは二カ月前でしたし、被害者はもっと少なかったはずです」
「……」ぎょろぎょろ学長。
「隠蔽してたんだね」
「ち、違う! うちの学院は一年に二三人行方不明者が出るんだ! 最初はそれかと思ったんだ!」
「でも1カ月に3人だよ?」
「今年の国家試験は難化したから……ね? 頑張って受けてみたけどダメだってわかったショックでね?」
「間違えた。1週間に3人だね――」
「……」ごろごろ学長。
「まぁそこはいいから進めろよ」
「うん。そうするよ。だいたい週に1.5人失踪しているんだけど、最初の1週間だけ3人だね。勇者様が来た今週はまだわからないけど。今まではそんな感じ。一昨日、マリー姫がレックスに襲われたね」カキカキ。
「待て。聞いてないぞ。マリー姫が襲われた? どういうことだ!」ガタガタ学長。
「そういや話してなかったな。話さなくていいぞ」ガタガタカルロス。
「関係あるかもしれません。カルロスが地理の授業で――」バタバタ。
俺が口を塞いだ。
「カルロスがマリー姫に脅されて皆を町の外へ連れて行ったんだ。そしたら姫がレックスに襲われた」
「き、貴様ぁああああ!」
発狂した学長が俺の首を絞めてきた。息ができ
――る。握力が足りてねえ。
俺の首は丈夫だった。
「まぁ落ち着けよ。マリーは無事だったし。王様にも言ってないっぽいぜ」
「な、ならいいが(いいのか?)」
「話を戻すよ。それで昨晩、街でフライがエリスを使ってエレノアとレオンを廃屋まで連れて行った。そこで何か儀式めいたことをしようとしていたところを、カルロスと私が駆けつけ戦闘。でも逃げられた」
「そういえば、なんで私があそこにいるってわかったのですか?」
「セラフィナがエレノアを探知してたんだ。マリーにしてるように。で、ずっと町の変なところで止まってたから心配になって行ったんだ」
「ん。ちょっと待って?」
「待たないよ」すっとぼけセラフィナ。
「待てぇ! 勝手に私に探知魔法しかけたってことだよね! プライバシーの侵害です! そもそも私は勇――」
「ごほん。喧嘩なら後でやってくれるか。早く事件を解決しないと私の首が物理的にギロチンされかねない」学長は一周回って冷静だった。
「ぐぬぬ」
セラフィナは万年筆を手に取って壁に何か書き始めた。あれほど冷静だった学長が慌て始める。ただ、これも事件解決のため。悶えた。
「さて。資料からわかるけど、被害者は皆、成績不良か研究に行き詰まっていた。エレノアの証言からもフライがそういった人を狙っていたのは間違いない。そうだね?」
「はい。あの魔物は人の弱みに付け込んで何かをしようとしていました。生まれ変わりとか意味不明なことを」
「うん。恐らくフライはエレノアやレオンにしたようにそういった人を連れ出して、なんらかの儀式をして、成績や研究成果をあげやすいようにしたのだと思う。実際、被害者も誘拐される数日前に一気に成績が伸びているし、研究も進んでいたみたいだしね」
「待て。国家試験を境に三人もいなくなったのは、生徒たちが不安だったからか? そこに付け込んだのか」
「だろうね」
「資料を読んでて思ったんだけどよ。平均は1.5人だが、だんだん増えてねえか? 派手になってきてる。それで今日、試験だろ? もしかしたらかなりの生徒を巻き込んでいるかもしれねえぜ?」
「あり得るね。エリスの様子からそういった生徒はフライに洗脳されているかもしれない。何をするかわからないね」
「そうですね……」
エレノアは唇を噛んで泣くのを堪えた。
メアリーの死体を見たが、あれは酷かった。思い出して辛くなったんだろうな。
「だから衛兵を十人、寮へ配置して生徒を見張らせているけど、全然人数が足りないね」
「早くフライを倒さねば」
「そうだよ。だから”誰がフライなのか”を絞っていくよ」
「待て。なぜフライが化けているとわかる?」
「そうだな。それに絞るって言っても、まだ町にいるのかさえわかんねえぜ? 町全体を探すにしても」
「そんなことしないさ。フライは学院にいるんだから」
「は?」
学長がすっころんだ! 自ら壁に頭を打ち付けてわけのわからねえ言葉を吐き始めた。こいつがフライなんじゃねえか?
「学長。落ち着いてください!」エレノアが止めた。
「ああ。ああぁ……」
「悪いけど学長には話を聞いてもらうよ」
「いやぁだぁぁあ……」
「無理」
「学院にいるってのはなんでわかったんだ?」俺が話しを進めた。
「魔術だよ。カルロスも直に喰らっただろ? フライの魔術。かなり高度な魔術さ」
「ああ。あんな魔法使う魔物は初めてだぜ」
「レベル4ってところかな。中々いないと思う。古くからの通説だけどさ、高レベルの魔物は大概一つ、人並外れた能力があるものなんだ。君たちが戦ってきた魔物もそうだったろう?」
「ああ? あーそうだった気もするな」
「ほとんど瞬殺だから覚えてないです」
「とにかくそういう説があるんだ。フライの場合は身体能力も素で高いけどレベル4ほどじゃない。あの魔物の能力はきっと、レオンやエレノアにしようとした儀式だと思う。成績が上がる儀式。恐らくだけど、頭が良くなるとかそういう感じだと思うね」
だったら、さっきから部屋の隅で三角座りして震えている学長に掛けたらどうなるんだろうな。まぁフライもこんなおっさんを裸にしてまで利用したくないだろうけどな。
おいおい。想像した読者がいるのか? 病院行った方がいいぜ?
「魔物の能力は一つだけ。フライの能力が頭を良くするものなら、戦闘で使っていた魔術は別物ってことになる。独学か、誰かから教えてもらったか。でも火球に短刀を忍ばせたり、うねる何か? なんて高度な魔術は独学じゃ無い可能性が高い。ならどこで学んだかって? ここ以外、あり得ないだろう」
「待て待て。魔物は不死だ。ずっと昔に別のところで教わっていたんじゃないか?」学長の懇願。
「そうかもね。でも高度な魔術、ソナリカ学院。偶然だと思うかい?」
「だったらなんだ! うちの研究者の中に魔物がいるとでも言うのか!」
「そうだよ」
学長がついに窓から飛び降りようとする。エレノアが止めた。
「他にも理由があるよ。どっちかというとこっちの方が説得力があるね。なぜ成績が悪い生徒がわかる? エリスみたいに誰かを使っていたかもしれないけど、レオンの話じゃ、数日前までは暗い子だったし、成績もずっと悪かった。すぐに成績が良くなるというエリスやフライの言っていたこととは矛盾するね。ずっとエリスを使っていたわけではないってことさ」
「でも他にいるかもしれねえだろ?」
「うん。それはあり得る。ただ頻繁に外へ出ている生徒なんていなかったと思うよ」
「そうだ。記録を取っている。事件に巻き込まれたら困るからな。すでに巻き込まれている? あっひゃっひゃ!」
学長がまた窓から飛び降りようとする。エレノアが止めた。
「正門に衛兵をつけているのはむしろ外に魔物を出さないためだったのか」
「そうだね。まぁ外に住んでいる研究生とかもいるけど。恐らくフライはそうじゃない」
「高度な魔法を使う人間となるとそこそこ地位が高い。そういうやつは研究棟に住んでいるからってことか」
「ま、待て! でも能ある鷹は爪を隠すというぞ! 我が学院の教授たちが魔物なわけないだろう!」学長の足掻き。
「うん? 魔力を隠すなんてできないって知ってるよね?」
「そうだった! でも相手は魔物だ!」
「高度な魔法を人間の状態で覚えたのならそれ相応の魔力が必要だよね」
「そうだ! じゃあ教授を調べればいい!」
「厳密には教員だね。だけどうちの学院には二十八人も該当する教員がいる」
「どうやって絞るんだ?」
「そこで学長に聞きたいんだよね。教員の中で過去にロラル大陸へ行ったことがある人って誰?」
学長はもごもごと気持ち悪い汗を掻きながら棚を漁った。
教員の経歴の書かれた資料を出すとじっくり読もうとした。
が、セラフィナがぶん取った。
「おい。それは私の資料だぞ!」
「なるほど。かなり絞れたね。三人。ロック、フロウド、私は省いてキノコか」
「なぁ。なぜロラル大陸なんだ?」俺が聞いた。
「レックスの生息地域がロラル大陸だということ。それからフライの使っていた台座や儀式が――まぁこれは他の地域でも見かけたことあるけど。とにかくこの三人の可能性が高いね」
「キノコさんが魔物なわけありませんよ!」エレノアが駄々をこねる。
「うん。私もそう思う。だからこそちゃんと調べないとね」
「お前って意外とちゃんとしてんだな」
「相手は……魔物だからね」
セラフィナは何か嘘をつくように、それでいて呆れたように小さく笑った。
衛兵を容疑者三人のところへ監視に回し、俺たちは一人ずつ訪ねることにした。
俺は大剣を、エレノアは剣を持って部屋を出ていった。
そういうことで俺とエレノア、セラフィナは食堂から出てきたキノコを捕まえた。
キノコは酷く顔色が悪い。今にも吐きそうな白い顔で、目の下のくまも酷い。
「まるで魔物みてえに気色悪い顔だ」じーっ。
「おい。お前。さっきから何を僕を見ている。近いぞ」
「再び人間に化けると顔が変わるとか? 怪しいなぁ」じーっ。
「何の話だ? うん。僕は朝まで試験を作っていてだな……」
「違うと思いますけどね?」じーっ。
「なんだかよくわからんが、今日は忙しいんだ。わかっているだろ。それに勇者さ――エレノアさんもそろそろ一時限目が始まるはずだが」
「ねぇ。勇者様。光当ててみてよ」
「そうですね!」
エレノアは右手を輝かせた。朝日よりも眩しい輝き。だんだんとそれがキノコへ迫っていく。
「め、めが、めがあああああああああああ!」
キノコの身体を光が包んだ。
何も起こらなかった。
「眩しかっただけかよ」
「気持ち、眠気が取れた気がする!」
「へー。そんな効果もあるんだ。あとでじっくり調べないと」にやにや。
「わー眠気取れるんだぁすごーい。あーでも今日はたまたま光の調子が良かっただけでぇーあー調子悪くなってきたー」
「ふふふ」にやにや。
エレノアが俺の後ろへ隠れた。特に俺は何もしないが。
「先生。これはなんなんですか?」
「知りたい? ちょうど人手も足りなくなりそうだし、一緒に来てよ」
「はぁ。忙しいって言うのに……」
「来るのかよ」
「光による検査だろう。つまり失踪事件の犯人は魔物で学内にいるということだ。試験どころではない」
キノコのやつ勘が良い。
あまりにあっさりと正解を出しちまったから、俺はなんか嫌になってキノコを無視、エレノアは聞いてない。
セラフィナは悔しがっていた。
「今から名探偵セラフィナが説明してあげようと思ったのにぃ! さっきみたいに! かっこよく!」
ともかく俺たちはロックを探して、グラウンドへ。
おー青いシャツのムチムチマッスルがふんがふんが言いながら走ってやがる。
あ。こっちに気づいた。走ってきた。
「きゃー! キノコさん! キノコさんから私を訪ねてきてくださるだなんて! もしかして愛のこ・く・は・く?」
「……魔物かもしれん」顔面蒼白キノコ。
「どこにでもいる普通のオカマだろ」
「オカマじゃありません! 乙女よ! あるいは性別ロック! オネエでもギリオッケー!」
「相変わらず元気だね。いつも走っているけど」セラフィナの世間話。
「俺はソナリカ学院の体育教師。教育の為ならいくらでも走るんだ!」
「そこまで走る意味がどこにあるのか。逆に身体を壊すだろう」
「あら! キノコさん。もしかして私のことを心配してくださるの? そういうところがだ・い・す・け♪」
「――その女っぽい口癖!!」
エレノアが剣を抜いた。すぐに刃が光輝き始めた。
キレてるのか? ものすごい顔してるぜ。
なんだこの覇気は。ほんとにエレノアか?
「え、え? これは一体どういうことなの?」
オカマ困惑。
しかし関係ない。エレノアは剣に込めた光を解き放つ!
黄金の三日月。
轟音を立つ。
困惑し汗ダラダラのロックへ!
直撃!
爆裂音と共に光が弾けた!
砂煙が舞う。
ロックはどうなった?
「おい。ちょっとやり過ぎじゃねえのか?」
「魔物ならこれくらいでも致命傷のはずです」
「じゃあ人間ならどうなるんだい?」
「……わかりません。死なないとは思います」
砂煙が晴れていく。
そこには、
――マッスルポーズをする上半身裸、艶々のロックがいた。
「うぅ~ん! 疲れが取れて、さっぱり! これだ! この肉体! 俺はまだ若いぞ!」
エレノアの光をぶつけた結果。
ガチムチマッチョマンが俺たちの前に現れた。
まるで化け物じみた肉体。
あんなの人間じゃねえ。
つまりロックは、、
「魔物だった?」
「元々そうだろ」キノコ。
「魔物になったが正しいのでは?」セラフィナ、真面目な研究者の面持ち。
「元々魔物みたいなもんだろ」呆れキノコ。
「いいえ。魔物は闇の存在です。あんなに光るわけありません」
「さっぱり汗かいて光ってるだけだ」鼻を抓んだキノコ。
「うぅ~ん! マッスル!!」
とにかくあれはもうロックではない。
――マッスルだ。
オネエでもねえ。
――マッスルだ。
魔物かはわかんねえ。でも、
――マッスルだ。
……
……
……?
「あ、あの。もうこのポーズやめてもいいのかしら?」
「光でオネエが治るわけじゃねえのか」
「不謹慎よ!」
「迷信だったのかな?」
「どっちでもいいわよ!ってか、いきなり光るの当ててきて怖かったわ。なんなの?」
俺たちはこの成り行きを説明した。
ロックは理解したようだ。
グラウンドを一周走って、もう一回説明を求めた。
そんなくだりを二度三度やって、汗だくになって理解したらしい。
「まぁともかく私は人間よ。それにしても驚いたわ。まさかエレノアちゃん、勇者だったの」
「は、はい」
「へぇ。勇者でも転ぶのね。ちょっと印象変ったわ」
「あはは……」
「ほら、自信を持ちなさい! まぁ私は人間だわ。もしもセラフィナの予想が外れて魔物が生徒を襲いに来たら返り討ちにしてあげるから安心しなさい!」
「うん。頼りにしているよ。ロック」
「キ、キノコさんは?」チラッチラッ。
「魔物に操られている生徒もいるかもしれない。頼んだ」
「ふふ。頼まれたわ! 頼まれたわ!!」
ロックが嬉しさのあまりグラウンドを爆走したところで、俺たちはここを離れた。
砂煙で咽る。
さて。こうなると残る一人が滅茶苦茶怪しいってことになるが。どうだろうな。
「エレノアがさっき言ってたけど。魔物って女なんだろ? オカマはロックだけだぜ?」
「いえ。人間の姿のときは男でした。背丈などはキノコさんに近かったのですが」
「僕では無かったな」
「おかしいね。乙女はロックだけだしね。うーん。推理が外れたのかな?」
「あれだけカッコつけてたのにかよ? 茶番かよ」
ざらざらと。雨が降ってきた。冷たい雨だ。
この六千文字が無駄だってだけで残念なのに雨まで降って散々だぜ。
もう今日はやめだやめだ!
◇
地球儀の研究棟。
看板には『魔法生命研究棟』と書かれているはずだが、血で塗りつぶされてわからない。
入り口は開いたまま。廊下に二人、
――衛兵が血塗れになって、うつ伏せで倒れていた。すでに息の音はしない。
研究棟の奥の奥。
一人の男が机で眠る少女にメスを入れていた。
その顔は悲惨なまでに清廉に
――血に穢れていた。




