42.研究室で反省会
夜。研究室は緊張感に満ち溢れていた。セラフィナ、カルロスはソファに座って互いに何を言うわけでもない。ただ恐怖に震えていた。
カタ……カタ……カタ。時計だけが鳴り響く。
「あの。何が起こったんですか?」キノコがコーヒーを二つ机に置いた。
「お、気が利くな」
「見てわからんのか。僕の席にあるだろ僕のだよ。無視して飲むな!」
「不味い。アレンのが美味しいぜ」
「飲んでいいて文句を言うな。で、何があったんだ?」
「お、お、お、落ち着こう」摘まんだコーヒーカップ、ガタガタガタ。
「先生がですよ」
「セラフィナ。まずは落ち着いて葬式業者を決めよう」
「その前にどこにお墓を作るかだよ。あはは」
「いいかげん。話せ!」
キノコがキレたのでセラフィナとカルロスはレックス事件(仮)を説明した。
キノコは立つと空のコーヒーカップに口を付けた。
「確かに今日のコーヒーは不味い。僕は何も聞いてない。うん」
「うわああああああああああ! 絶対、粛清だあああああああああ! そうじゃなくても研究できなくなるううううううううう! うわああああああん!」
「俺は逃げるぜ。ああ。ビギン村、俺は帰れそうにありません。今、指名手配されています」
「ふざけている場合かあああ! 元はといえばカルロスがマリー姫を外に出すから!」
「だって仕方ねえだろ! あの女に脅されたんだ! てかよ、ちゃんと護衛だったら見張っとけよ! 魔物襲われてから来てんじゃねえ!」
「だって仕方ないじゃん! どんな人間だって睡眠が必要なんだよ!」
「眠ってんじゃねえ! 死んでも起きろ! 死ぬから起きとけ!」
「起きてたらそれはそれで死にたくなるよ! 睡眠って大事だよ!」
キノコはコーヒーカップを置いた。
「町の中なら先生の結界でマリー姫の危険がすぐわかる。外に行ったのもわかる。ただそのとき先生は休憩していた。おかしい。そういうときはアレンが護衛を変わるはずでは? というかアレンは?」
「早退したんだよ! 忘れてた!」
「じゃあてめえが悪いじゃねえか!」
「そんなこと言っても仕方ないじゃん! ああ! 神様、どうか私を救ってくださいぃ!!」
セラフィナが拝んだところにちょうど、コトッ。誰かが入ってきた。
黄金の少女。微笑む子はまさしく天使のようだった。セラフィナはそこに祝福を切望した。
「あ。お疲れ様です」にこっ。
「オワタああああああああああああ!」崩れ落ちた。
「エレノア。死んだ人間を蘇らせることはできるのか?」カルロス迫真。
「何言っているのですか。できるわけがないじゃないですか。あほうですか?」
「ちーん」真っ白になった。
「なんですか。今日は賑やかですね」
「いつものことだろ。(アレン……寂しい)」キノコもキノコでしょぼんとしていた。
それでもエレノアはにっこにこだった。ソファへ勢いよく座って、カルロスを弾み下ろした。
「なにしやがる」
「ニュースですよ! ついに失踪事件が進展するかもしれません!」
「まだ茶番やるつもりだって聞いたんだけど?」メタフィナ。
「聞いてください! 失踪者の突然成績があがる現象なんですけれど! もしかしたら逆もあるかもしれません!」
「ああ。そう」それどころではない二人。
「成績が絶大に良かった生徒が突然、腑抜けになったら失踪するかもしれません!」自信満々。
「結論だけ話して因果関係があると言うほどアホなことはない」辛辣キノコ。
「キノコさんは意地悪ですよね。わかりました。詳しく話します――マリーさんが駄目駄目になりました!」にこっ。
「は?」
エレノア回想。
――あれはカルロスの授業の次の、数学授業のときでした。あんなことがあったのに学院はいつも通りで、授業もいつも通り進んでいました。数学先生はよく問題を出しては答えを聞いてくるので厄介です。
マリーさんはあの後から体調が悪そうでずっと俯いていました。でも数学先生は無情にもマリーさんをあてました。
「クソキノコめ」
「それ僕だよね?」
風景。
「この問題なんだけど。皆、やっぱりわかってないな。暗記するな。ちゃんと帰納法を使え。マリー、ちょっと手本を見せてやれ」
「……」マリー、無言。
「マリー!」
「すいません。ちょっと体調悪いみたいで~」ドレイクがフォロー。
「悪い? だったらなぜ教室にいる」
「こ、答えられます。与えられた条件よりアイツは乱暴な先生で、私はお転婆なお姫様で、一般項は禁断の恋――」
「お前、何言っているんだ?」
しーん。完全な漫才だったのに。
「ちょ~ウケる~!」ギャルったドレイク。
ということがあったり。
昼休み挟んで、五時限目の体育ではドッジボールしたんだけど。メアリーさんが次々と女子を倒していって、でも味方のドレイクちゃんに「ちょっとガチすぎてつまんなーい」って言われて凹んじゃって、その間にあてられちゃったんだよね。
体育教師、ロックは戦況を眺めていた。
「赤チームはエレノアとドレイク。白はマリーとミラ。ん? エレノアとマリーの一戦――え? 因縁の対決? ちょっとおもしろくなりそうだわ♡」むくむく。
私はマリーさんが落ち込んでいることに気付いていたのでとりあえず勝たせてあげようとしました
「お前、気づいてないだろ」キノコのツッコミ。
私はへなちょこのボールを投げました。転がったボールをミラさんが取って、なんか優柔不断に投げてきました。私は避けません。
ドレイクさんが取ってしまいました。
「エレノア。それじゃ駄目だよー。ほら、ちゃんとボール持って」身体べたべた。
「あの、なんでそんなに触ってくるのですか」
「純粋って怖いよね。マリーは今~ちょっと面白いから~あててみ?」
「え。でも」
「いいから~ほら、え~い!」
ドレイクはエレノアにボールを持たせて腕を回し、投げさせた。エレノアが投げたように見せた。
ボールは地面にぶつかった。エレノアはホッとした。
――しかし謎の魔力によりボールは激しく地面にぶつかり、跳ね返る!
勢いよくマリーの顔面へぶつかった!
マリーは上を向いたまま呆然とした。ボールが落ちてくる。
ガミッ。片手でボールを取った。
「誰がやったの?」
「エレノアさんすごーい! あとちょっとだったね!」あざとドレイク。
「え。ちょ、ちがっ!」
「そう。あんたね? そうだ。妹だったっけ? 気に食わないわ。今、ここで始末してあげる」
「え。なん――」
私はボコボコにされました。ほんとドレイクさんを地獄に送ってやりたいです。
――それからも色々ありましたが、マリーさんは呆けてばかりでした。
回想終わり。
「運動能力は下がっているし、学力もおかしくなっていると思います」
「んー。なんでだ? 素が出たのか」
「そんなアホじゃないよ。だとしたらレックスに襲われたのがトラウマになって人格が歪んだ」
「あの。べつにマリーさんが呆けているからじゃなくて」
「おい。それって余計にヤバくねえか!」
「いいやむしろ。呆けているなら王様に報告しない。というか報告するつもりならすでにしているはず。しないってことは呆けている。うん」
「何言っているんだ。先生は」キノコは呆れた。
「ってことはマリー姫がおかしくなったのが王様にバレなきゃいい。隠し通せばいい。そういうことだな!」
「うん! これなら生き延びられるかも!?」
「じゃなくて。レックスがマリーさんを襲ったのはマリーさんが呆けているからで――」アホノア。
ダンダン! 収拾がつかなくなったところをキノコが黒板を叩いて沈めた。
「いいですか。冷静になりましょう。先生。まず、マリー姫がこいつに恋しているのは置いておきますよ」
「うん。え? こいつって?」
「俺?」
「え? キノコさん。頭大丈夫ですか」
「はぁ。置いておきますね。重要なのはレックスです。先生。気づきませんか?」
「レックス? ああ。あの恐竜みたいな魔物だろ。神秘的だよね。いつか解剖してみたいよ」
「じゃないでしょう。そもそも魔物の研究は禁忌ですよ」
「アイツは弱かったけどよ。平原にあんな魔物いるんだな。そんな雰囲気じゃなかったぜ。ここら辺」
「そうだ。レックスは本来、ロラル大陸の魔物だ。それがなぜソナリカにいる? しかも全長5メートルといっていたな? ロラル大陸のレックスは全長約3メートルだ。それに獰猛でもない。賢い魔物だ」
「魔物はどれも獰猛ですよ」
「本気でそうだと思っているのなら勉強不足だな。勇者」
「ぐぬっ?」
「ということは誰かがレックスをソナリカまで運んできたってこと?」セラフィナ。
「魔物がどうしてその魔物になるかは判明していない。地域で特徴があるのは確かだ。だから運んできたとは限らない。ただそんな狂暴な個体が偶然、マリー姫に襲い掛かるとは思えない。あんな魔物が徘徊していたら衛兵や旅人が気づいている。まるでマリー姫が外に出るのを狙って――」
「言いたいことは分かったぜ。つまりはお姫様の命を狙っているやつがいるんだな?」
「ああ。今は世界情勢も荒れている。盗賊も増えているからな。しかしレックスを制御できる、恐らく魔法となるとかなり高度な……」
「そんなの学長くらいしかいないけど?」セラフィナ。
「そうだな。そのはずだ。あの学長が自分よりも優れた人間を学院に入れるはずがない」
「人間じゃねえなら魔物だろ?」
「魔物だと? 馬鹿かお前は」
「なんだと!!」
喧嘩。
研究室には色々な貴重なものがあるからあんまり暴れるなとセラフィナは注意した。
「色々と調べる必要があるよね。仕事増えた。やったー!」
「あの、ごめんなさい。そろそろ消灯の時間ですから帰りますね」
「あ。うん。気を付けてね!」
エレノアが帰った。
喧嘩に飽きて、カルロスはソファにくつろいだ。
「まぁ、マリーが王様に報告しないならどうでもいいな。ふぅ、やっと安心して眠れるぜ」
「呑気なやつだ」
「言ってろ」
キノコはキノコでセラフィナと研究へ戻った。
「それで氷との反応はどうなりました?」
「ダメだね。無し。あとは音とかだけど。素材ないしね。まぁそっちもあんまり反応無さそうだけどね」
「火でもなければ水でもなく、氷でもない。不思議だ」
カルロスが欠伸をする。
「一体何がだよ。てか。ずっとなにやってんだ? 研究って」
「ふふん。よくぞ聞いてくれました!!」
セラフィナは付け髭と学者っぽい帽子を付けて黒板に色々と書き始めた。
「私とキノコ君、それからアレンちゃんはエレメントの研究をしているんだ。エレメントって言うのは火、水、風、雷、氷の五つのことさ。魔法粒子からどうやってこういうエレメントができるのか。新しいエレメントは無いか。エレメント同士の相性は。とか色々調べているんだ」
「なるほど。よくわかんねえが、エレノアとなんか関係あるのかよ?」
「大いにあるよ! 私は勇者などが扱う光の力もエレメントじゃないかって今、研究しているんだ! エレメントの理論に則って光を作れるかってことさ!」
「へー」
「それにもしも光を魔術から再現できれば、魔物の脅威とも対抗できる。エーテルなどいらん」キノコ。
「でもそんなことできるのかよ?」無視。
「やるのさ」
セラフィナは自信ではない。諦めに似た声色で宣言した。彼女の手はいつだって止まらないのだ。




