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3.魔物

 勇者はロングソード。まぁありきたりな剣。左手には光を纏わせている。骸骨銛男はいや、骨だから男かはわかんねえけど、紐を引っ張って銛をふたたび手にした。勇者を見下ろしている。凄い威圧感だ。死者の癖に覇気がある。精神はボトボトの骸骨姿とは真逆の屈強だ。


 「来る!」勇者は踏み込んだ。


 骸骨銛男は銛を投げた。勇者は躱して一気に距離を詰めた。そうだ。銛を投げたなら武器は無い。素手があっても勇者の左手の光が拳を溶かすだろう。こうなれば勝負は決した。

 自ら武器を投げ捨てるなんて流石骸骨、脳が無い!

――違った。脳もりもりだった。なんならポーカーフェイスまでしていた。ニヤリと骸骨は銛を引いた。銛は勇者のほうを向いていた。背後からの不意打ちだ。わざと後手に回ったんだ。

 勇者はすでに剣で斬ろうとしていた。その姿勢に入っているから避けれるかどうか。気づいたのも今更だ。勇者は剣を逆手持ちにしてクルッと回って、銛を弾こうとした。弾き飛ばされたのは勇者のほうだった。勇者は壁に強打した、、だけでない。胸を深く引っ掻かれていた。銛が掠ったんだ。

 勇者はふらついていた。そこに銛の二投目が構えられる。胸部の傷がかなり効いているみたいだ。


 「おいおい。大丈夫かよ」

 「大丈夫なわけがあるか!」ババアが俺を押した。

 「やっぱりそうだよな!」


 勇者はぼとぼとと呟いた。


 「こんなはずじゃ」


 骸骨銛男はどう足掻いても魔物なので無慈悲に銛を投げた。とんでもない勢いだ。今までより数段速い、確実に仕留めるためにスピードを落としていたんだ。

 だから俺が勇者を庇って飛び込んだとき、肩に刺さってしまった。滅茶苦茶痛い。貫通した真っ赤な槍先が恨めしい。


 「何をしているのですか。死にますよ」

 「そりゃあんたも一緒だろ。さっさと傷を治せって」

 「わかりました」

 「違う。俺のじゃない。お前のだ」

 「は?」

 「時間を稼いでやる」


 骸骨銛男は銛を引き抜こうとした。引っ張った。けど抜けない。だって俺が頑張ってるから。抜けないように踏ん張っているから。骸骨銛男は骸骨らしくない汗掻いたみたいな表情をした。


 「骸骨銛無し男。骸骨ちゃんってことか!……笑うところだぜ?」


 俺はむしろ銛を引っ張った。タイミングよく引っ張った。骸骨ちゃんがこっちに押したところで引っ張った。ので、骸骨ちゃんは勢いよくこっちに飛んできた。

 からの、俺の思いきりな蹴り上げ!

 骸骨ちゃんは骸骨らしいバキバキした悲鳴を出して頭を強打。床に落ちた。

 俺は銛を引き抜き、紐も引き千切った。骸骨ちゃんは懲りない。拳を構えた。


 「素手で勝負するのか。だったら自信があるぜ」

 「ガタガタガタ!」

 「なんて言っているのかわからねえ!」


 骸骨から殴ってきた。骨ばかりに素早い動きをする。でも二メートルの巨体にしてはの話だ。俺のほうが数段速い。腕を弾いて顔面に拳を一発二発。頭を守ってきたら胴を攻撃!?


 「胴がない! 骨だからか! うわっ!」


 ビンタされた。ここぞとばかりに腹を蹴ったり殴ったりしてくる。いい性格をしてんな。


 「ふざけている場合じゃないですよ!」

 「傷は?」

 「もう大丈夫です」

 「なら良かった。でも今ちょっと危ないか――ちょうど今、いいところだから入ってくんなよ!」

 「だから遊んでいる場合じゃ……」


 殴り合いってのは気持ちいいもんだ。わくわくしてきた。

 骸骨にはもちろん内臓がない。だから打撃が通らない。魔物様様だ。ふつうの人間じゃ攻撃が効かないってわけだ。まぁでも俺はふつうより賢いので、ひとつ閃いた。

 とりあえず骸骨から俺への、この油の乗った顔面へのストレートを誘発し、足払い、長い腕を掴んで!――ぐるぐるぐる回してい――スポッ?


 「あれ、腕が取れた」

 「ガタガタ!!」

 「ぐあっ!!」またしても腹パン。からの蹴り飛ばし。


 勇者が不満そうに「選手交代します?」と聞いてきた。俺は「お前は審判じゃなくて監督だろ。どっちかといえば」と返した。それに骸骨はまだまだやる気だった。


 「ガタガタ」


 手をこまねいてきた。俺は再び、祭壇というリングに戻った。

 しかし俺のほうはわりと満身創痍。身体は丈夫なだけで痛いものは痛いし、傷付きもする。この魔物は確かにさっきまでとは違う。攻撃力が桁違いだ。


 「まぁでも。よし。やろう。負けたら死ぬだけだ。怖くないな」

 「ガタガタ……」

 「だからなんて言ってるか分かんねえって!」


 今度は俺から仕掛けた。頭は守られているし、予想されているから足を。骸骨はぴょんと跳ねた。だけでなくチョップを狙ってきた。避けて頭蓋骨を狙った。あり得ない方向に頭が曲がった。避けられた。俺は膝蹴りをもらった。

 ここを勝機と見たのか。まぁたしかに俺はフラフラ。骸骨が渾身の力を込めたパンチを俺の胴体目掛けて放ってきた。


 「でも、それを待っていたんだぜ!」


 俺はその腕を掴んだ。そして――粉々折った!


 「ガタガタガタガタ!」

 「ガタガタ抜かしてんじゃねえ! 全部砕いてやるぜ!」


 次に飛んできた脚もグーパンで罅を入れ、その後の片手のチョップも躱して肩を強撃した。すると骸骨は怯んだので殴りまくった。骸骨は罅だらけになった。


 「どうだ。光とかなくたって倒せるぜ」

 「ガタガタ……!」骸骨は自棄になって俺のほうへ突撃してきた。

 「まだやんのか? なら灰にしてやるよ!」


 俺は待ち構え、骸骨の拳一発を躱し、トドメの一撃を放とうとした――が、手が届かなかった。寸分足りない。俺と骸骨の間に寸分の何かが、それが俺の腹に刺さっていた。

――骸骨の肋骨だった。骸骨はわざと一発目を外し、自らの肋骨を抜き取ってそれを俺に刺したのだ。

 俺は吐血した。


 「や、やられた……なんてな!」俺はさらに肋骨を深く刺した。近づいた。決して離れないように。


 そして骸骨の首を砕けんばかりに掴み、頭蓋骨を殴りまくった。粉々にする。

 砕ける。

 砕ける。


 「ガタガタガタ!」


 骸骨の絶死の悲鳴。骨の鳴る音。

 砕ける。

 砕けていく。


 「逃がさねえ。塵にしてやるよ!」


 トドメの一発。骸骨は弾ける。

 こいつの弱点は頭だったのか? 頭が無くなると全身が砕け散った。もちろん肋骨も消えたので、俺の腹からもっと血が出た。死にそう。


 「うげぇ! 死にそう!」

 「騒がないでください! 治しますから!」

 「よくやるわい。まぁこれで一件落着じゃな」


 婆はまるで魔物だった。俺を心配せずスタスタと村に戻ろうとした。扉開いてるからか! 閉じろ! と思ったらそこにロウがいた。しかもなんか必死の面持ちだ。


 「た、大変だ! 村がっ!――ってカルロス、酷い怪我だ!」

 「俺のことはいい。村がどうしたって?」

 「村に兵長が! 沢山の兵士を連れて!」

 「なんじゃと!」婆は急いだ。

 「増援じゃないだろうな」

 「冗談言っている場合じゃないですよ」

 「傷は塞がってる。俺も急がねえと」

 「まだ中が治ってません!」

 「いいから急ぐ!」


 案外スタスタと走っている俺に驚く勇者は遺跡に取り残された。小声で「私の治癒が要らないの?」って拗ねているけれどそんなのに構っている場合じゃない。


 遺跡を出ると夕焼けが炎のように禍々しく、潮が激しくなっていた。騒ぎの音は波だけでない、村からしていた。

 村に着いた。平に馬に乗った影が数え切れないくらい並んでいた。そのどれもが剣を掲げている。

 汚い面した兵長がそいつら連れて村に入ってきた。婆は抗議する。


 「これはどういうことだい!」

 「どうだって? この村に魔物が出た。だから始末しに来ただけだ」

 「魔物? どこにいる?」

 「どこって?――ここだ!!」兵長は婆を斬った。婆は倒れた。


 俺はその瞬間、何かが頭で弾けた気がした。けれどもう足が微塵も動かなかった。

 婆を助けに走ろうとしたロウの手を止めるだけで精一杯だった。


 「行かないと!」

 「ダメだ。お前も斬られるだけだ。逃げろ」

 「でも! こんなの!」


 つくづく酷い夕焼けだ。ぞろぞろと兵士が入ってくる。兵らは苦汁の面持ちをしている。説得すればどうにかなるかもしれないが、村人は誰しも萎縮してしまった。漁の男共でさえ。婆さんが倒れてしまって心が折れちまってる。

 いいやそれだけじゃない、兵長の気迫が常人のものじゃねえ。歯向かってもやられると本能が激しく訴えているんだ。

 絶望。好かない味だ。俺は自分でもこんなにこの村が好きだったんだなって後悔した。


 「その必要はありません」


 そこに勇者がやってきた。勇者の影が夕焼けを覆い隠した。


 「待ちなさい。私は勇者です。全員、武器を下ろしてください!」

 

 勇者は迅速に婆の治癒を始めた。

 婆が死ぬかもしれないっていうのに、勇者が必死になって治癒しているというのに、兵長は馬の上から勇者へ、冷たい眼差しを向けていた。


 「勇者。おお勇者。やはり。ほんとうにそうだったか」

 「これは一体どういうことです!」

 「魔物が出た。だから斬った」

 「魔物? いませんよ」

 「だから言ってるだろう!――お前らがだ!」兵長は勇者を斬ろうとした。勇者は躱した。

 「正気じゃないです! どうしてこんなことを!」

 「いいや、正気だね。君たちは国家に歯向かった。秩序の為に全員、処刑する!」

 「本気ですか!」

 「本気さ?」


 俺はなんとか踏ん張って勇者のところまで行った。婆を預かった。応急処置はしたらしい。

 しかし勇者、ここに来て勇者の横顔はおよそ勇者のものじゃなかった――まるで一人の少女だった。


 「何を怖気づいてんだ? 戦え!」

 「で、でも」

 「でもなんだよ? 薬草とかエリクサーが無いから怖くて戦えないってか? 婆さんが斬られたんだぞ!」

 「違います。私は勇者で。人を殺すのは……」


 勇者は震えていた。怖いのか。こんなやつが。


 「ふふ。勇者も一人の少女。国家に歯向かうなどできるはずもない。いいだろう。見逃してやる。退け」兵長はわざとらしくお辞儀した。


 正直、この女を一発殴りたいくらいの気持ちだった。いやできたらしてた。勇者の癖に村を救わないのかよって、正義を執行しないのかって。ああでも、そうか。


 「そうだ。俺は勇者がなんだかわからねえ。勇者は魔物を倒す存在ってくらいだ。だったらこっちだってそうすればいい!」

 「おいおい。なにをいっているんだ?」兵長はあざ笑う。あー殴りたい。いや、殴るっ――殴ってやったぜ!! 兵長は馬から転げ落ちた。

 「どうだ!」

 「こいつ。歯向かうのか」

 「いいやちがう! 魔物が出た! だから殴った! そうだろ、勇者!」

 

 勇者はなおも震えていた。どうしたって戦いたくないらしい。だったらもう俺がどうにかするしかねえ。

 長い髪を掻いた。もうなんだかわからないって。まぁだけど意外に納得いったらしい。剣を抜いた。


 「魔物が出た! だから倒します!」

 「くっ、やる気か!」

 「やってやる!」


 勇者は兵長に斬りかかった。兵長は体勢を崩したまま、瞬殺だ。なのに勇者は躊躇った。何やってんだよ、光でキラキラって兵長を照らした。


 「やれって!」

 「人ですから! 人殺しはできません!」

 「こいつのどこが人間だ?」


 そう叫んだとき、どこかから真っ黒の煙が漂い始めた。追えば兵長の口からだった。


 「くそ。そうだ。そうだ。俺はっ!!」


 兵長が黒い霧に包まれていく。

 だんだんと兵長が猿のような姿に変わっていく。尖った牙、細長い腕、それに真っ赤な目。

 ほんとに魔物になっちまった。やっぱりこんな悪行ができるのなんて魔物に決まってたんだ。


 「我が主の命に従って、勇者! 貴様を抹殺する!!」

 「良かったな勇者様。これで何の躊躇いもなく倒せるぞ」

 「え、ええっ!」


 猿野郎は勇者に襲い掛かってきた。獰猛な爪、敏捷が勇者を惑わす。さらには村にあった果物や馬糞も投げてくる。勇者は嫌そうな顔をした。


 「やだ。うんちは!」

 「ウッキッキー! 糞まみれの血塗れにしてやる!」


 しかし猿は猿。勇者は勇者。猿が投げた果物を鮮やかに剣で貫き刺すと飛ばし返した。それが猿に命中。猿はひっくり返った。勇者はすかさず切り刻んだ。猿野郎、弱い。


 「うぎゃあああああー! いいのか! 俺を殺せば次は主が貴様を!」

 「主?」

 「ふっふっふ! テルナの町長、テルナ・ドボルザーグ様だ! どうだ!」

 「町の長が魔物なわけがありません」

 「ところがどっこい。ホントなんだな! ウッキー! 我が主、ドボルザーグ様だ! きっと貴様をメタメタにしてくれる! ビクビクして死ぬのに怯えろ! ウッキッキー!」


 どこまでもつまらねえやつだ。

 グサッと。勇者の剣を借りて黙らせた。


 「ちょっともっと話を聞こうと思ったのに!」

 「だって煩かったから」


 糞兵長ないし弱猿はこれにて撃破。ついてきた兵士たちがこりゃまた気まずい、面白い顔しているから俺は大笑いした。村の奴らも誘って笑おうとしたけど、アイツらは苦笑い。兵士の一人がこっちに謝って去っていった。

 勇者は急いで婆の治癒へ戻った。俺はロウと村人と一緒に馬で逃げるクソ兵士に小石を投げた。


 「もう来んな~!」

 「え~い!!」


 夕焼けはこうして沈んだ。なんだかんだ勇者のおかげで村は救われた。婆の傷も治ったらしい。

 ロウがふと俺の傷を心配した。もうなんともないって返した。言われてみればいつの間にか気にならなくなっていた。婆の治癒が終わって勇者が治す治すとやってきたけれど、断った。

あとがき読んでるやつおる?

あとがき書いてるやつおる?


その両方を知るにはあとがきを読まないといけない。読まなければわからない。シュレディンガーの猫ってことです。

なので今、あとがきを読んでる人。今回はありませんでしたね。乙。

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