2.海に流れ着いた男、今日も元気に死にかける
俺の名はカルロス。記憶はない。気づいたら浜辺に打ち上げられてた。網にかかってたらしくてアホな村人が俺のこと食おうとしたらしい。で包丁で俺を切るとって、そいつは別の話だな。なにがどんぶらこだ。
ともかく俺はこの村に拾われた。名前もわからなかったから村長が適当にカルロスってつけたんだ。どういう意味だって聞いたら「馬鹿野郎」だってさ、、。
ともかくあのババアの家の空き部屋に住んでる。村に男手が足りないから漁業を手伝えってさ。海に出るのかって? いや違う、掃除とか魚運んだりだ。朝が弱いから助かったぜ。
そんなこんなを終えてちょっとサボっ――休みに秘密の丘の下に行こうとしたんだ。その途中で昨日の女を見つけた。女が村長の家から出てきたんだ。俺はまたなんか胸の奥が痒くなって、ちょっと話しかけに行った。
「おい、勇者。聞いたぜ――おい、ちょっと待てよ!」
「なんですか?」
「ああだから、勇者って魔物を倒す人なんだってな。傷も治したりするから世界中で尊敬されてる。まぁ尊敬ってあんまりよくわかんないけどさ、凄い人なんだな。いや、見直したぜ。仏頂面はどうかと思うけどな」
「……」THE・仏頂面。
「はははっ、それで今日はどうしたんだ? 俺はこの村に住んで五カ月――五十年、五十年ってことにしておこう! だからこの村のことなら何でも知ってんだよ」
「五十年? 随分と若いお爺さんですね」
「お爺さん? ピチピチの若造だぜ。ん?……まぁいいや、なんかしに村にやってきたんだろ? いいぜ、手伝うぜ」
「掃除はいいのですか?」なかなか意地悪に笑う。
「知ってたのかよ。魔女みたいな……まぁいいや、ほら。なんだよ」
「そこまで言うなら手伝わせてあげましょう」
「そりゃどうも」
「この村にある遺跡があるでしょう。どこにありますか」
「遺跡かぁ~」
まっっっっっったく知らない。でもなんかこの女のことが気になるというか、なんか体がほわほわして気持ち良いんだよな、この女といると。
「よし。案内しよう」
俺は丘の下の秘密基地へ案内した。波の音があるだけでのんびりとした場所。
なんだかんだ村の男ってうるさいから、こういう場所にいると心が静まる。海はいつも綺麗だし、日陰だからちょっと風が寒いけれど。
「どうだ。いい場所だろ」
「いい場所。こんな景色、どこにでもありますね」
「そんなことは!――あるかもしれないな」
「それより遺跡ってこれですか?」
「ん? 遺跡なんかあるわけ」
女は俺の前を通り過ぎ、色の落ちた石壁に手を当てた。
女は穴を見つけたらしい。村長から貰ったらしい鍵を回した。俺は石のベンチから飛び起きた。
「おい待て。なにしてる?」
「見てわかりませんか。遺跡に入るのです」
「遺跡? え、これ遺跡だったのかよ?」
「なんだと思っていたのですか? 馬鹿なのですか」
「馬鹿じゃねえ、カルロスだ。馬鹿じゃねえか!」
「何言ってるのですか。馬鹿みたいですね」
「そんなことより開けていいのかよ。ってのはさ、たまに変な音がするんだよ。この辺。今わかった、この奥になんかいるんだよ。やめとけよ」
「私は勇者ですが?」
「お前、そう言っとけば何でも解決すると思ってるだろ。やめろ、直感だ。お前じゃ無理だ」
「無理? あなたの言うことなんて聞きません」
好感度-4ってところか? 出会い頭に死ねと言われる感じ。
女は手から金色の光を浮かべた。俺はとっさに退いた。
「灯りの術です。光の術の一つです。人には無害ですよ」
「あ、そうだったのか」
「ふざけていますか、、わかりませんね」
「アハハ。おい、なんか来るぞ」
石畳からヌルヌルと。沖の水のように透明なうねうねした、、スライムだ。可愛いお目目なんてついてなくて触ってみるとベトベトしてて気持ち悪い。
「あー触んなきゃよかった」
「私の服で拭かないでください!」
「お? ちょっと可愛いこと言うじゃん」
「しばきますよ?」
「わかった。止めるからそんな目するな。怖いって。ほら、勇者さん、しばくならスライムにしなって」
「言われなくても」
言うまでもなく女は剣を抜くとスライムを真っ二つ。スライムは蒸発して散った。
俺は初めて魔物を見たから初めて勇者を見たのかはよくわからないけれど、女の自信はなんとなくわかった。これなら大丈夫そうだ。
「案内はここまででいいですよ。私の用なので」
「用ってなんだ? この先に彼氏でもいるってのか?」
「ごほん。強力な魔物の気配がします。だから倒しに行くだけです」
「へぇ~でも女の子一人で行かしちゃ村のやつらに怒られそうだ」
「来なくていいですよ。邪魔ですから」
「辛辣だな。まぁまぁ。俺が先頭だ。ほら、来いよ。光が無いと見えねえよ」
無理やり中へ入る。女は溜息をしてついてきた。お互いめんどくさがりだってこと。あ? 俺は仕事サボりたいだけ。
それでコトコト遺跡の中歩いて行ったさ。なんかよくわからん文字壁に書かれていたり、壁画があったりして、ボロボロだから読めないなってそもそも昔の文字読めないんだけど、壁の瓦礫が下の海に波紋を作る、どこか神秘的な秘密基地をじっーと歩いたね。
もちろん魔物が出てくる。流石勇者ちゃん。瞬殺。スライム、蝙蝠、もぐら、半魚人。砂の人間みたいのもいた。全員男だったから残念だ。巨乳の姉ちゃんだったら俺だって参戦したのに。もちろん、、勇者ちゃんと一緒に。
「先頭なんですよね? モタモタしないでください」
「ごめんごめん。こんなところはじめて来たからさ。色々見たくなってさ」
「魔物の住処なのですよ。緊張感を持ってください」
「あー邪魔しないから、置いていってくれていいぞ。もう少しここら辺見てるから」
「できません。一般市民をこのようなところに置いていけませんよ」
「まるで騎士みたいなこと言うじゃん。でも大丈夫、俺結構力には自信あるんだ」
「そうは見えませんが」
「ほんとさ。たとえばここに見るからに硬そうな壁があるだろ? これを――せいっ!」
バキンッ! と拳で粉々に。したにはしたが、何かに腕を掴まれた? 壁に手があるわけがないのにどうして? 俺はあっち見たくないぞ?
と勇者ちゃんのほうを見たら剣抜いてた。なるほど。じゃあ確認しよう――あっ、これがゴーレムってやつか。俺は投げ飛ばされた。
「あー。だから来ない方が良いって。下がっていてください。倒しますから」
「いいや。頭に来た。見とけよ。これくらい俺が倒してやるよ」
「強がらなくていいですって。相手は魔物です。光の力の無い普通の人じゃ太刀打ちできません」
「じゃあ確かめてみるか!」
ここは遺跡の中、床は狭いし、天井も低い。足を滑らせれば海にドボン。だからちょっとばかし緊張する。が、ゴーレムが山のように大きいから助かる。
ゴーレムがこっちに拳を叩きつけてきた。まるで柱のような腕だ。だけど柱じゃない。俺はそこから登った。橋になった。後は解体業者の手際で、どんどんどんどん、どーん! っと頭を蹴り砕いた。
首の無くなったゴーレムの肩からの景色は圧巻。
「どうだ? 自慢じゃないが運動は得意な方だぜ」
「そうかもしれないですね。でも頭は悪いですよね?」
「おい、悔しいからって煽るなっ――え?」ゴーレムが俺の両足を掴んできた。まだ生きてたの?
俺はふたたび投げ飛ばされた。しかも今度は海に落ちる方向。下は激流だ。ちょっと嫌かも――そこに勇者がやってきた。鹿のように飛んで俺を掴むと安全な方向へ投げた。女ならぬ剛腕。
まぁしかし女ならぬ優しさ。というかおてんば――転げたそこにはゴーレムが待ち構えていました。絶体絶命じゃねえか!
「助けるなら後のこと考えろよ!」
「あっ! まぁ死ななきゃ治せるから我慢してくださいね!」
「乱暴だなぉい!」
ゴーレムのむくむくした腕が。そこから平手打ちが。天井が俺を押しつぶすようにぺちゃんこにしようとする。まるで遺跡の歴史と権化を俺に見せつけていた。
しかし舐められたもんだぜ。
「だったらお望みの通り、遺跡にしてやるよ!」
逆に俺はゴーレムの平手打ちに向っていった。飛んだ。そして蹴った。勢いをつけて素早くこいつの足元へ入るとその華奢な棒切れを蹴り砕いた。ゴーレムは足を破壊されたので、ズドドンっと地面にご挨拶。
腕をぶんぶん回せても、すっかりそこから動けなっちゃったな。
「おい、どうだ! こっち来てみろよ! おいおい!」
「魔物なんかを煽ってどうするのですか」
いいところだったのに。女が速やかにゴーレムへトドメを刺した。
女は怪我をしているからと手を光らせながらこっちにやってきた。けれど変な顔をして止めた。
「どうした?」
「あれだけ攻撃されたのに傷一つないのですね。丈夫な体ですね」
「とことん勇者の見せ場が無くなったな」
「べつにいいですよ。体力を温存できますし」
「ふふ~ん」
「なんですか?」
「悔しぃ~だろ? だろ?」キョロキョロ。
「はぁ……」
「おいおい。このままだと目当ての魔物倒されちゃうぞ~?」
「頭下げてください」
「勇者だからってか?――うわっ!」いきなり斬ってきた。
「後ろに魔物がいたからです」
「だったらそう言えよ! 危ないな!」
こんな女が勇者でいいのかよ。一般市民には優しくって自分で言ってたくせに。
なんか少し思い知らせたくなってきたな。勇者でも女は女、ちょっとか弱いところ出させて恥ずかしいところが見たいところ。よし、先回りして棒を仕掛けて転ばせよう。
あれ、前に進まない。誰かにシャツ掴まれてる。まさかゴーレムとか?
「こら。なにをしておる」
「なにって、うげっ、魔物じゃなくてババア! なんでこんなところに!」
「村長さん。どうしてここに?」
「いえね。こいつの姿が見えなかったらもしかしたらと思って来たんじゃよ。全く、勇者様の邪魔をするでないぞ」
「邪魔じゃねえって。手伝い。ほら、女の子一人でこんなところって危ないだろ?」
「お前といる方が危ないわ」
「おい、どういう意味だよ。え? 俺がこいつを襲うとでも? 俺はこんなやつ趣味じゃねえぞ!」
「……」ババアの沈黙。怖い。あと女も不機嫌だな。やけに。
「いや、ちょっとだけいたづらしようとしたけどさ」
「……」ババアのさらなる沈黙。だから怖いって。女はちょっとだけ機嫌がよくなった。なんだよもう。
「勇者様。うちの若いのがすいませんね」
「いいですよ。この先には強力な魔物がいます。ので村に戻っていてください」
「ええ。その扉の先ですけどね。この鍵が無いと開かないはずですじゃ」
「このババア。最初からここに来る気満々だったのかよ」
「忘れてただけじゃ~が?」
よくわからねえババアだ。ババアもババアで勇者の力を試していたってことか。俺には散々言ったくせに自分はどうなんだよ。
金やサファイアだとか、装飾のされた扉が開く。豪華な扉だから、ホテルかなってわくわくしても、そこにあったのは廃墟だったのであしからず。
祭壇の上に棺桶が乗っかってる。周りには枯れた草木が鉢に入れられている。
「この中にいた人は植物が好きだったのか? 宝の一つでもあれば尊敬したのにな」
「あたしも昔のことはよくわからない。書物もほとんど残っておらんからな。だからこれはあたしの爺さんの言っていたことなんじゃが……昔、ビギンズ村には英雄がいたらしい。名をカルロスと言う」
「ん?」
「昔々、海に巨大なイカが現れたらしくてな。そいつが漁の邪魔をしていた。村の男はイカを倒そうとしたのだが、ついにできず。そこに一人の青年がやってきた。カルロスじゃ。カルロスは激闘の末、イカを倒した……らしい。この遺跡はカルロスを祀っていたそうだ。本当かどうかは知らないけど」
「お~なんだよ~婆さん~俺の名前ってそんな偉い人のやつだったのか~おい~婆さん~この勇者ちゃんさ~。そんなのを馬鹿だって?」
「違うわい。単にお前が馬鹿だからつけただけじゃ! 調子乗るな!」
「だから叩くなって!」
俺と婆さんがイチャイチャしているのなどどうでも良いらしい。勇者は剣を抜いて部屋を警戒し始めた。俺も少し遅れたが、なんやら変な気配が臭った。ババアの加齢臭じゃない。もっと臭い何かだ。
「だから叩くなって!」
「今、儂のこと臭いと思ったじゃろ!」
「思ってねえって!」
「遊んでいる場合じゃありません。来ます!」
こんなこと言ったら村のやつらに笑われるかもしれねえが、本当なんだ。棺桶が開いたんだ、誰も触っていないのに。いや、触ってはいたな。中から錆びついた鎧を来た骸骨が出てきたんだ。見るからに敵意シンシン。ギラッと目の窪みを真っ赤に光らせて、立ってみるとそりゃまた大きい。二メートル近くある。そんでもってこれまた長い銛を持ってんだわ――一目でわかった。これ、俺じゃ敵わないなって。
「あれ、声がする! えー? 港で大漁だって? よし、勇者様。俺は用事を思い出した。婆さん。ここは勇者様を信じて宴会のおかずを作りに行こう」
「そうともいかんね」
「あれ? 扉閉まってんじゃねえか!――うわっ!」銛が飛んできた。
あとちょっとで頭が串刺しになるところだったぞ。
「下がっていてください。私がやります!」
「ああ。たまには勇者のいいとこ見てみたいと思ってたんだ」
「む。」
俺は村の娘がよくやっている応援ダンスを披露した。勇者と骸骨の両方に苦笑いされた。やんなきゃよかった。
あとがき読んでいる暇があったら前作を読んでくださいお願いします。なんでもしますから。
しません。




