1.光の勇者と青髪の厄介者
自然と。あるだけの青空。浮かぶ細い白雲の群れ。尖がり屋根の煉瓦の町、こういう華やかな町でぼーっとしていると自分が誰なのかなんてどうでも良くなる。一人称は僕、私、俺? もしかして我なんて気取ったのかもしれない。まぁ多分俺だろう。あっちの村だけじゃなく、こっちの町の野郎共もそんな感じだしな。俺、うん、しっくりくるな。
ここはマリアって町の広場で、俺はロウが戻ってくるのを待ってた。ロウってのはこれくらいの、、って言っても小説だからわかるわけねえな。百四十センチくらいか。まぁ子供だ。ああ、もちろん人間の。魔物じゃねえよ。ロウがそこの、そこって言ってもわかんないのかめんどくせえ、薬屋でお使い終わるの待ってんだ。一緒に来ないとダメだって、用心棒でこの町に連れてきたんだからって文句言ってたけど、放っておいて街をぶらぶらした。一通り見終わったから座ってる。
小鳥を叩き落す勢いで欠伸した。
「ふぁ~!! にしたって遅いな。薬草なんかそこら辺の雑草でもバレねえってのに。様子見に行くか」
鮮やかな緑色の家のこじんまりしたドアを開けた。綿飴みたいなフワフワの頭した婆さんがいた。
「何の用だい? 病気には見えないけどね」
「ここにこれくらいの子供来なかったか? 名前ロウって言うんだけど、おつかいしにさ」
「ああ、来たよ。あんたが来るちょっと前に出てったよ」
「あ?」
「ほんとだよ」
「おかしいな」
ちょっとばかし耽り過ぎたか。外を右左。耳を澄ませば……あっちの路地裏がうるさくてよくわかんねえ。
「悪いことはしない。その子から離れな」
しゃがれた男の声。治安悪いな。
「嫌だね! この子にはするんだろ!」
青い子供の声。五六歳くらい……、
「ってロウじゃねえか!」
走る。
狭い家の間の影に大きな影が二つ、小さな影が二つ。それから俺の影で大きいのもう一つ。ロウは女の子を庇うようにして衛兵と対峙していた。
「おい退け。お前は衛兵の公務の邪魔をしているぞ」
「衛兵の公務? 子供殴るのが公務だって言うのか!」
「ぐぬっ……」
「おい、なに言いくるめられてんだ。相手は子供だぞ。いいか、坊主。大人の都合って知ってるか。これは仕事なんだ。退け。さもなくば俺たちは死体とお話しすることになるぞ」
衛兵の影が子供を覆い尽くしていく。どうやら言っていることは嘘じゃないらしい――重圧感。なんでかわからんが、空気が重くなって俺にアイツらを助けるなと囁いてくる。
――ああ、めんどくせえ! 俺はそこにあった空瓶を衛兵に投げつけた。衛兵は頭を押さえて悶えた。
「貴様! なんだ! 何者だ!」
「俺は謙虚なんだ。名乗るほどじゃないんでね!」俺はさっと走って子供二人抱えるとパッと逃げた。
「待て!」
衛兵が追ってくる。花壇を踏み荒らし、馬車を飛び越え、商店街の人混みを弾き飛ばす。まだ追ってくるから屋台にあった有象無象を衛兵に投げた。
「うわ。衛兵が増えてやがる!」
「カルロス、やっちゃえよ!」
「やだね。人応援する前に自分で歩け」
「あれくらい余裕だろ? やっちゃえって!」
「さっきも言ったが、俺は謙虚君。面倒ごとはごめんだ!」
「ごめんって言ったって。もう起こってるよ」
「まだ……間に合わねえな」
前。ぞろぞろと衛兵がやってきた。どいつもこいつも剣抜いてやがる。俺を強盗だと思っているのか。仕方がない。
女の子はロウに任せて俺は拳を構えた。
衛兵はニヤリとした。
「素手でやる気か。アホなのか?」
「アホでも戦えるってのを見せつけてやるよ」
「いいだろう! かかれ!」
俺は真っ先にそこにあったマグロを振り回し、アホな衛兵をぶっ飛ばした。
「武器使ってんじゃねえか!」
って斬りかかってきたが、俺は気絶している衛兵を持ち上げ
「人のこと簡単に信じてんじゃねえよ!」
投げつけた。すると道ができたからまた逃げる。ロウは逃げただろ。多分。
衛兵がしつこく追いかけてくる。しかもまた増えてる。
「おい、これは何の騒ぎだ?」
「身長百八十五センチの青髪の男が衛兵を殴ったんだ。今も商店街を荒している」
「わかった。兵長を呼ぼう――ところで伺いたいのだが」
「なんでありましょうか?」
「お前の身長、ちょうど百八十五センチくらいだな? それに兜から青い毛がはみ出てるぞ?」
「……バレた!」
「待て!」
兜を投げて路地裏を走った。うおっ、挟み撃ちだ。狭い路に男達が大量に。何も起こらないわけが無く……、
「終わりだな」
「まだ一話だぜ?」
どっかの配管工の要領で壁を蹴って、どっかのSASYKEの要領で両手両足で狭間を登り切った。ちょうど煙突が灰を吹いていてそれがあたってイラついたから折って落としてやった。下は煙に包まれた。今のうちだな。
そのまま屋根を走って町壁を飛び越え、藁に飛び込んだ。ふわふわ。なんか変な臭い。馬車がガラガラってこっちに来た。
ロウが中から手を振っている。
「おーい、こっちだよ!」
「わかってるって!」
俺と馬車の間を衛兵が塞いだ。
「そうはさせるか!」
衛兵が三人。全員剣をこっちに向けている。流石に素手じゃ厳しそうだ。俺はそこにあった鍬でそれっぽく振舞った。
衛兵が
「馬鹿め!」
と襲い掛かってきた。
俺は鍬で応戦する。我ながら良くやっていると関心しても三人いるので鍬が弾かれた。
衛兵は
「これで勝ちだな」
と満足したようだ。
ここで注意しておきたいのが俺からすれば衛兵はちびっこだ。衛兵の身長はせいぜい百七十センチほど。何が言いたいかって?
「油断大敵ってことだ!」
俺の長い足が龍の尻尾のごとく振るい、そいつらの足を払った。三人に勝てるわけがあった。俺は馬車に飛び乗った。
「あばよ~!」
こうして俺の町デビューは散々な結果に終わった。
でも酷いのはここからだ。町に帰ってふらふらしていたら、もちろん女の子は迷子だったからって誤魔化したけどな。なぜ女の子が追われていたのか? ロウは女の子に聞いたが、そういうのは野暮だろ? だからやめておけって言って止めた。これ以上面倒ごとに巻き込まれたくなかった。
で酷いのはここからだ。大丈夫、今度はちゃんと酷い。浜辺の夕焼けがいいよなぁ~って女の子に村を紹介していたらババア、、ごほん。村長に呼ばれた。まぁ不信な面してる。
で、行ってみるとそこに兵長さんがいたってわけだ。
「えへへ? ロウ、お前なんか悪いことしたのか?」
「さぁ?」
兵長さんがとんでもねえ形相で俺を睨んできやがる。
「目撃者がいてな。ビギン村のほうへ逃げていったと聞いたから追ってきた。青髪、少女はどこだ?」
「ちょっと怖い顔しちゃってさ。まずはお茶でもどうだよ。なぁ村長?」
「ふぅ~。これは何の騒ぎだい、兵長さん」ババアが話を進める。
「町から少女を誘拐したんだ! 町を破壊しながらだ! この青髪が! 負傷者も出ている。どうしてくれる!」
「こ、これはすいませんねぇ~。おい、馬鹿野郎、頭下げな!」
「えへへ~つい出来心で――痛い」ババア、げんこつしてきやがった。
「全く。田舎野郎はどうでもいい。少女を出せ。どこにいる?」
「さぁ?」
「おい、青髪。あまり調子を乗るなよ。やろうと思えばこのチンケな村の子供を代わりに殺したっていいんだからな――」
恐らく光より速かっただろう。俺は兵長を殴り飛ばしていた。兵長は吐血した。殺す勢いで殴ったから当たり前だ。後ろにいた衛兵が剣を抜いた。抜く前に蹴り飛ばした。
俺は兵長をもう一発殴ろうとした。
「ババア、止めんなよ」
「止めやしないさ。でも次はあたしが杖で叩く!」
「待て――ぐはっ!」
「待たない。もう一発だ――オラ!」
「おい待て。よく周りを見――ぐはっ! おい、蹴るな! 痛い! やめろ! やめて!」
「カルロス。止めな」
「止めないって言っただろ」
「あれを見な」
林から衛兵が出てきた。ロウと少女を捕まえている。最悪だ。
兵長は満身創痍のそれは素晴らしい顔で剣を抜いた。こいつのキモい精神に似合う細い剣だ。
「お前を殺す。覚悟しろ!」
俺は斬られた。
刺された。
血飛沫が散る。
また斬られた。
しかし変だった。楽しく俺で遊んでいた兵長がだんだんと青ざめていく。
「なぜ、倒れない。こんなに斬ったのに」
「あんたが貧弱ってだけだろ」
「っ!!」
兵長は続けようとした。レイピアの振り方ではない鞭だ。拷問官のようだ。痛いから止めてほしいなって懇願するつもりはないが、痛いもんは痛いから死んだふりでもしたい。
でも次が来ない。誰かが兵長の腕を掴んでいた。手袋越しでもわかる女の小さい手だ。
「この騒ぎは何でしょうか」
山花のような鮮やかな金の長い髪、砂のようなさらっと真っ白な肌、海の輝きのような瞳、それでいて百六十センチの小さな体。けれどもマントの下には軽い鎧のシルバーが光っている。それにしまった顔つきをしている。変な感じだ、見てると痒くなってくる。胸の奥が。
「お前は誰だ。離せ!」
「まず武器を捨てなさい。無防備の人を甚振ることが正義であるはずがありません」
「正義ね。後悔するぞ、女。いいだろう。でも次はお前だからな」気持ち悪く笑うもんだ。
兵長は剣をしまい、ことの経緯を話した。
「数日前、町に魔物が出ましてね。そのときにこの子の母親が襲われたんです。私たちの大活躍で魔物は倒しましたが、この子の母親の状態が悪くてね。病気にかかったかもしれないから町で保護したんです。でね、この子も病気にかかっているかもしれませんから連れて行こうとしたら逃げたんですよ。で追ってきてみればこの青髪がっ! わかっただろう! これは衛兵の公務だ! 青髪は町を破壊し暴力もした! ここで即刻殺しておくべき危険者だ! お前もそうなりたくなければひざまつけ!!」
俺は欠伸した。でも兵長は気づかなかった。ずっと女のほうを見てる。だからもう一回した。まだ気づかない。なんか嫉妬するぜ。もっとあからさまに……ババアに小突かれた。
兵長は
「なんだその顔は」
と女の態度が気に入らないようだ。
女はさっきから同じ感じだ。そのまま女の子のほうに行って頬を優しく触った。そのときはニコッとした。ああ、胸が痒い。かいかい。
「おかしいですね。この子は健康なようですよ」
「何を言っている。私たちは衛兵だ! その子は魔物に襲われたのだ! 危険だ!」
「いいえ。あなたがどう言おうがこの子に問題はありません」
「なんだ貴様。貴様、何者だ!」
夕焼けが女の影を消した。光を自分のものしたようだった。女はそっと。でも確かに言った。
「私は光の使者。勇者です」
いやぁ、その瞬間、兵長がハッとして跪いたんだ。俺は思わず笑ったよ。あんな高圧的だったのに虫のように地面に手を付けてたからな。腹抱えた。
「あっはっは!」
光の女が不機嫌に俺を見てる。なんかこう下品だって。虫見るように。誰が虫だ。
「あんたも頭下げな!」ババアのげんこつ。
「いでっ!」
ああ、なんか俺ばかり殴られててイライラしてきた。どいつもこいつも殴りやがって。こういうときは笑ったっていいだろ。俺は髪が逆立つ思いを抑え、、られなかった!
「あああああああ! よし、気持ちを切り替えよう! なんだよ。俺たちの勝利ってことだろ。おい、姉ちゃん。助かったよ。どうだ、これから飲み行かねえか。祝いだ祝い! 村に泊まるんだろ? いい店は、無いな。ああでもボルの酒場がある。友達なんだよ。なぁ!」俺は女の肩を組んだ。
「……もう一度言いますね。私は勇者です」
「ああそうだ。勇者。勇者ちゃんってことか? さん?」
「カルロス、勇者って職業だよ。光の術を使う凄い人なんだよ」コソコソっロウ。
「ああそうなのか、じゃー名前は? 俺はカルロス! あんたは?」
「……もういいです」
女は俺を払ってどっかに行ってしまった。
なんというか、軽蔑を感じた。
「俺、何かしたっけ」
周りには呆れがあるだけ。こういった感じで一件落着した。なんか締まりがねえな、って思った? 大丈夫だ、俺のことを「わからんのか、勇者が」って一人だけ笑っている兵長ってやつがいたから蹴り飛ばしておいた。「うげぇっ!」ってアホに喚いて気絶したよ。
ふぅ~すっきりした。まぁ気楽に行こうぜ。
久々に長期やります。一週間に二話か三話投稿する予定。だいたい10時くらいに。
なお現在時刻。




