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23.犯人逃亡中

 早朝。エレノアはローズから貰った抱き枕をぎゅぎゅーっとして眠っていた。

 バンバン。ノック。


 「ぐぁ~」


 返ってくるのは勇者のいびき。

 ので、メイドはドンと蹴って入った。

 勇者の頬をペチペチした。


 「なにゅぃ~?」

 「おはようございます。勇者様」

 「おはようございます。でれでれでれれでんででーん。残念ながら復活の呪文が間違っています。すぴぃ……」

 「おはようございます!!」布団を剥がした。

 「寒い! だ、だ、だ、なんですか?!」

 「朝です。起きてください。朝食を持ってまいりました」

 「ふぇ……はいぃ? え? いつからそこに!?」


 寒いのはメイドの礼節ならぬ冷徹なだけだった。

 しかし朝食の暖かいスープにエレノアはにんまり。


 「昨日の夕食はゲロ不味かったけど朝食は悪くないなぁ~」


 と言葉を漏らした。

 もちろんメイドは冷徹なので聞き捨てた。

 机に置かれていた新聞がエレノアの目に入る。


 「なんですかこれ?『四度目!!!! 連続殺人事件!! 今度は白亜街で!!……ギルド代表の妻と住所不詳の中年男性が惨殺された状態で発見。犯人は逃亡中。現場を少し離れたところにも血痕と青い髪が……』アオイカミ???? え、ぇえ?」


 嫌な予感、と一緒に今気づいた。

 隣りの部屋、静かすぎ。

 エレノアの予感は確信に変わった。


 「なんか。今日のミルク濃いです……」

 「ミルクはコンラート様(宰相)の経営する牧場の――」

 「あ。興味ないです」

 「そうですか」しょんぼり。


 エレノアは急いで支度をする。

 メイドが気にかけている。

――チラチラッ。

 でも話は掛けない。だって冷徹だから。


 「チラチラッ」

 「……ううん?」


 気になるのでエレノアから話しかけた。


 「あ、あの。この連続殺人事件のことなんですけど」服を引き締める。

 「はい。連続殺人事件のことですね!」メイドが目を輝かせて顔を近づけてきた。

 「うわぁ!」


 バタン。エレノアはベッドに転んだ。

 そんなの関係なくメイドは話し始めた。


 「事の発端は一週間前です。ダイラード通り、下町ですね、そこで死体が発見されました。被害者は売春婦。下町、特にあそこら辺は治安があまり良くないので、殺人事件が起こっても話題にはなりません。いつもなら。遺体の状態があまりに酷かったから新聞社が大きく取り上げたのです。騎士団はあまりの残虐性から魔物の仕業だと睨みました。その次の日。この被害者も同じく売春婦でした。離れたペーン地区だったので模倣犯かとも囁かれましたが、遺体の状態が酷似していたので同一の魔物と見られています。ここまでは売春婦だけだったのですが、三件目はそれから明後日、商人でした。これも遺体の状態で同じ結論が出ました。商人となると下町の住民方は不安がって、騎士団への反感が増えていきました。まぁそれは置いておいて。昨日ですね。被害者はギルドの代表の夫人。今度も中流階級の人でしたが、犯行現場が白亜街でしたからね。貴族方の住む、高級住宅街のすぐ隣りです。貴族方も相当焦っておられるようですね。それで騎士や衛兵もかなり切羽詰まっていますね」


 エレノアはハイソックスに足を通した。


 「なるほど。色々わかってきました」

 「はい。ですから今朝は慌ただしくてですね……」

 「担当者は誰ですか?」ブーツを履くと剣を腰へ掛けた。

 「フルール様です」

 「えぇ……」


 徐に残念がるエレノアだった。


 白亜街の裏路地。現場は騒々しかった。

 通路を塞ぐ騎士と衛兵。

 通路の前で心配そうに様子をうかがう庶民。

 中の様子を見ようと飛び跳ねたり押したりする記者たち。

 市民たちの中から苛立つ者が先頭を切って、声を荒げた。


 「騎士共! お前らの怠慢のせいだ! どうするんだ!」

 「何のための騎士だ! ふざけやがって!」

 「踊って食ってばっかか! くそ野郎!」

 「キザなだけのハム野郎!」


 ハム。と言われたのは今、鼻につく若男。


 「おい誰だ。私のことをハムと言った輩は! このスタイルの良さがわからないか? ここで脱いで見せてやっても――」

 「フルール様。それでは捕まってしまいます。それよりも事件に集中を」衛兵A。

 「しているだろうが!」短気。


 よいしょよいしょと人混みから来る金髪の少女、エレノア。

 部下にキレているフルールを見つけて「うえっ」と嫌な表情。

 どうしようどうしようと迷っている間にフルールのほうからエレノアを見つけてしまった。

 フルールは意味ありげにニヤリとした。


 「衛兵、わからないのか? 彼女は勇者様だぞ! 通したまえ!」

 「そ、そうでしたか。これは失礼を!」

 「どけどけ!」


 衛兵が人の列を割っていく。

 エレノアはぎこちなく周りにお辞儀した。

 市民たちは騒めいた。悪意味ではない。目の色は様々だった。

 

 「勇者? 勇者だって!」市民A。

 「相手は魔物だ! 勇者様ならきっとどうにかしてくれる! 使えない騎士とは違ってな」市民B。

 「でもまだ子供だぜ? 大丈夫かよ」市民C。


 勇者は「あはは……」と真っ赤な少女。

 エレノアはテクテクとフルールのほうへ。

 頬をペチペチして息を整えた。いつもの勇者の面持ちに変わった。

 フルールは「話がある」と言ってエレノアを人気のない裏路地へ誘った。

 

 フルールはごそごそとポケットから証拠品を出した。

 

 「勇者様の確認したい物はこれですね?」フルールの掌に青い毛があった。

 「ああ。また面倒なことになってしまいました」首を振るエレノア。

 「間違いなくこれはカルロス様の頭髪でしょう。今朝、城へ戻っていないので比べようがありませんが。勇者様は彼の居所を知っておられますか?」

 「知っていたらここへ来ませんよ。どこへ行ったのでしょうね。もしかしなくてもこれってヤバいですよね……」

 「ヤバい? そうですね。今までこの連続殺人事件、証拠が出ていませんでした。その中でこの青い毛。絶大な意味がある……というのはわかりますね? 最も犯人とまでは――わかりませんが」


 フルールは裏路地の影に顔を隠した。

 歪なその笑みを。

 エレノアはそれに気づかなかった。

 だからフルールの今からの言動もエレノアにとっては気遣いに他ならなかった。


 「勇者様。この一件は私が必ず解決します。勇者様は王様と大事なお話があるのでしょう。どうぞ。ここは私に任せていただきたい」

 「そうですね。また来ます」

 「(なにっ)」あんまり効かなかった。


 エレノアが現場を去った後。

 フルールは結構落ち込んだ。


 「(私って巷じゃ女の子に滅茶苦茶モテているはずなのに。たまに新聞にだって載っているぞ。雑誌だって……)」

 

 長い。


 一方その頃。カルロスは、

――下町のとある道場のボロボロの一室でぐーすか眠っていた。

 

 「ぐーすか!」

 「元気過ぎる鼾! いいねっ!」少年A。


 服もボロボロ。肌も汚れたこの少年は孤児。

 道場の手伝いとして生かされている貧民である。

 彼がドブで倒れていたカルロスを見つけ、自分の部屋へ運んできたのだ。

 彼の肌の汚れはそのときのものである。

 

 「うう? ここはどこだ?」

 「起きた! サクマ道場だよ。お兄ちゃん、大丈夫?」

 「ああ。この通り、ピンピンしてるぜ。まぁちょっと二日酔いかも」飛び跳ねて起きた。

 「怪我じゃなくて酔っぱらいだったんだ。にしても元気だね。あんなに怪我していたのに」

 「そうか。お前が看病してくれたのか。助かったぜ」

 「いいよ。お礼なんて」

 「言ってないが?」


――ふぅ。まぁ貧民に貧乏臭いぞだとか言ってもその通りだから仕方ねえ。

 とはいえ金も何も無いしな。

 

 「あっ!」


 ロイスから貰った大剣でも渡しておくか。正直邪魔だったし。

 あーでも城にあったな。

 

 「それはともかく日光浴びたいぜ」

 「ちょっとお礼……」

 「まぁそんなにケチケチすんなって」


 と、外へ出ればホントに道場らしい。

 ここは裏庭で、表には何十人かが道着を着てアイアイアって吠えている。

 

 「活気があるな」

 「うん。今どき武術なんてしてもお腹が減るだけなのにね」

 「お前案外毒舌だろ」

 「リューだよ」

 「そうか。俺はカルロス。お礼は剣でいいか」

 「剣? 僕は武道家だよ! えーい!」

 「剣ならお腹が満たせるぜ」

 「え、それって食べるってこと?」 

 「非常食ってことで」

 「要らないよ」


 駄目か。いけると思ったのに!

 てのは冗談だ。つまらな。

 

 「でもよ。俺、なんにもあげられるもないぜ」

 「いいよ。こういうのには慣れてるんだ。しばらく待ってあげるよ」

 「慣れてる? これも商売ってことか? できたガキだぜ」

 「うん。二回目。ほら、そこの人もまだ払ってないよ!」

 「ソコノヒト?」


 幼い指が示した家壁の上。

 そこで見覚えのある爺さんが眠っていた。

 というかあれって。

 あっちも俺に気づいたようだ。こっちへやってきた。


 「よう。久しいの。元気じゃったか。カルロス」

 「おいおい、爺さん。こんなところで子供に借金してんのかよ」


 忘れた人のために思い出すぜ。

 俺に船で風介術を教えたどっかの仙人。

 詳しくは十話くらいを参照。べつに知らなくていい。


 「お主もそうじゃろう。儂はちょっと腹が減って死にそうだっただけじゃ」

 「おんなじだね」少年は天使のように微笑んだ。

 「おんなじだろ」同意見。

 「まぁここであったのも何かの縁じゃ。酒を奢ってくれればよい」

 「俺にまで集る気かよ。残念ながら金は無いぜ。エレノアなら持ってるだろうけどな」

 「そうじゃ、あの子はどうしたんじゃ?」

 「城にいる。あーそうだ、俺も戻んねえとな」

 「待て。カルロス」

 「なんだよ?」

 「エーテルを見せてみろ」

 「成長ぶりを見てくれるってか? 俺だってあれから沢山魔物を倒、、したからな」

 「むぬ? まぁ見せてみろ」


 俺はエーテルを拳に込めた。

 圧縮。

 案外、調子いい。酔いが消えて、すっと通る。

 エーテルを込めた拳を空に向かって解き放った。

 そこそこの暴風、空を飛んでいた雀がちょっとばかしふらついた。

 爺は頷いた。


 「ふむ。前よりもスムーズに圧縮が出来ておる」

 「あ! そういえば外の風介術だってできちゃうぜ」


 俺はそこら辺にあった鉢を手に取った。

 そしてエーテルを込め、投げた。

 もしもエーテルがちゃんと纏っているのなら鉢は壁にぶつかっても割れない。


 「どうよ?」


――割れちゃった☆

 見事なまでに粉々に割れた。


 「あれ? 前はできたのによ」

 「まだまだじゃな」

 「ああ~僕の鉢がぁ~」

 「あー悪い悪い。まぁでも鉢の一個ぐらいいいじゃねえか!」

 「そんなぁ~うえーん!」


 うげえ。子供が泣くとメンドクサイな。

 あんまりこの世界の子供って泣かないのに。


 「泣くことないだろ。弁償してやるから」

 「あれ、三千ゴールドくらいしたんだよ」

 「なわけねえだろ! 騙しやがったな!」


 爺が花瓶の破片に泥水を浴びせると、エーテルを込めた手で水に触れた。

 すると時を巻き戻したかのように花瓶が元の形に戻った。


 「すげえな爺」

 「ふぉっふぉっ、三千ゴールド浮いたの。カルロス。まだまだお主には伸びしろがある。どうじゃこの辺で少し学んでいくか?」


 正直、今の実力でも魔王にだって負ける気はしないから面倒な修行なんてしなくても……。

 しないだけで猫野郎に負けたんだった。


 「じゃあ頼むぜ。爺、あのクソ猫を倒したいからな」

 「野良猫に負けたのかな?」リューがにやつく。

 「なわけねえだろ!」

 「じゃあさっそく行くとするかのう」

 「おい爺、待てって!」

 「医療費、忘れないでね~!」

 

 まぁしばらく城に戻らなくてもどうとでもなるだろ。

 と、俺はさらなる力を求めた。

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