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19.魔骸フェラー

 どういうことだね毛利君。間違えた。キノコ君。みたいに言おうとしたが、俺はもちろん小学館じゃないのでそういう面持ちだけした。というか勝手に説明が始まった。


 「ここ二年、小麦の不作が続いています。アスチルベの農業地域は他にもありますが、一番はこのカー村です。ゆえに昔からカー村の収穫量に依存しています。だからこの村が不作となるとアスチルベは危機なんです」

 「あーなんか読めてきたぜ」


 きょとん。エレノアは違った。


 「わかんねえのかよ! 魔物だろ。もっと言えば魔王だろ? 人間を一気に追い詰められる。すっかり後回しになっちまってるけど、そもそもこの村には魔王の手下がいるかもしれねえ。決まりだろ!」

 「ええ。その可能性はあるかもしれません。ちょうど魔物の活発化と時期が合います。しかしやや回りくどい。魔物にそんな知能があるとは思えません」


 ハッと。

 エレノアも確信したようだ。

 

 「いや、間違いなくそうだぜ」

 「どうしてわかるんです?」

 「俺は従士だからだ」

 「え?」エレノアは驚いた。

 「カッコつけさせろよ。修士よりもそれっぽいだろ!」


 俺たちはひとまず小屋から出て、扉ぶち破ったから施錠できねえ、まぁしょうがないか。

 とりあえず村へ戻った。というかキノコが俺たちをまた連れて行った。


 「つまり魔王の手下がこの村にいる。なら間違いない。そいつが薬を撒いたのでしょう」

 「だからそういってんだろが」

 「なら君がまだ言っていないことを言いましょう」

 「なんですか?」

 「わかったぜ」

 「本当ですか? 譲りますよ」

 「魔王の手下はこの村の中にいる!」キリッ。

 「手下は恐らく村長ですね」

 「え?」


 俺とエレノアは驚きのあまり止まった。

 あの爺が魔物? あんなアホなのに好き好んで化ける魔物なんているのか。


 「ありえませんよ。いくら魔物が人に化けるにしても長年この村にいる人ではすぐわかってしまいます」

 「……そう。ですね。しかし怪しまれずに毒薬を輸入できる人間など他に……あなた達の意見を聞きましょう」


 探偵物で一番良くないのは推理よりも印象を優先してしまう事だ。

 ほら、こいつやってそうってやついるだろ?

 でも実際は一番優しい人が犯人でした~なんてよくある。

 けどよ。推理するまでもねえ。


 「要は」

 「つまりは」


 「村人の中で数年前にやってきた人が魔物――となると。私しかいませんね」


 賑わう酒場。

 団欒の灯の家の声。

 古臭くこじんまりした村長の家。

 それまでの整った道を顎髭が塞いだ。

 村の明るさゆえに際立つ、陰った笑みはまさしく魔物じみていた。

 副村長。こいつが黒幕だった。


 「僕は魔物は専門ではありませんが忠告します。レベル3です」

 「そいつは間違いだ。今ならレベル1だからよ!」


 俺は直ちに殴りかかる。

 エーテルを拳に込める。

 

 「おうおう! 嫌いだったやつだからエーテルの調子がいいぜ!」


――顎野郎の面前、思いきり拳を顎に叩き込んだ!


 「今はレベル1なんですよね?」顎野郎はなお――微笑んでいた。


 顎野郎は自転。ぐるりんと勢いをつけた右拳で俺をぶっ飛ばした。

 とんでもない威力。家族団らんの分厚い壁も破っちまった。


 「うわっ! カルロス飛んできた! 流れ星かと思った」なぜか嬉しそうな幼女と心配する夫婦。

 「もう一回くらい飛んでくるかもしれねえから願い事考えておけよ」


 急いで戻る。

 店や家から村人が覗く中、エレノアはすでに剣を顎髭へ向けていた。


 「このまま穏便に済めばよかったのですが。不運でした。まさか学者がやってくるとは」

 「逃がしませんよ」剣は夜闇を弾いて輝き始める。

 「せっかく命拾いできたのに。勇者?」


 エレノアが斬りかかる。速い。夜の線を刃が走っていく。

 まるで躊躇いが無い――村人からすれば勇者が副村長へ襲い掛かっている。勇者が人殺しをする。そう映っている。エレノアもそう見られていることを理解している。しかしたじろがない。なぜなら――目の前の魔物があまりに強いから。手加減すればやられる。自分だけではない。村もだ。

 顎髭から見てエレノアは異常なまでに殺気立っていた。光の刃も夥しいほど輝いていた。だのに顎髭はなお笑っていた。なぜか?


 「阿保め」


 すでにエレノアが術中に嵌っているからだ――顎髭は大きく息を飲んだ。ありえないほどに腹と口が膨らむ。

 何かが来る。エレノアはもちろんわかっていた。ただそれよりも早くついに現れた魔物を真っ二つにしようとした。大義名分を。

 しかし――それこそが術中。エレノアは顎髭を縦に真っ二つにしてしまった。


 「これは?」


 異様な感触が刃を辿る。

 同時に顎髭の斬れた腹から、断面から、紫の霧が勢いよく噴出した!

――すなわち毒ガスである。

 毒ガスはまんまと村へ広がっていく。

 次々と村人が倒れていく。

 激しく咳と呼吸をして。

 酒場も家族も。


 「勇者よ。お前の勇敢さを尊重しよう! しかしどうだ。後先考えずに行動すればこうなる。見てみよ! 人間の弱さを! ワタシの毒ガスで倒れているぞ! 勇者よ!」


 霧の源濃いそれを切り裂くは斧の一振り。顎髭は正体を現した、

――身長二メートル近く。二本の角。骸骨の顔とそれとは違う尖った下牙と顎。ふさふさした木の葉のような鎧と頑丈な図体。左手の斧と右手の大盾。

――魔骸フェラー。


 「よくもやってくれましたね」歯を噛む。

 「やったのはお前だ勇者。焦ったな。焦っているな。さらに焦らせてやろう。人の体に毒が完全に回るまで五分。死ぬことはないが後遺症が残るだろう。それと子供と老人ならもっと早く毒が回る」

 「ならその前に倒します!」


 エレノアは再度光の宿した剣をフェラーへ斬ろうとした。

 フェラーは大盾でそれを防ぐと大きく息を吸った。

 エレノアは避けようと後ろへ飛ぶも毒ガスが再度解き放たれた。


 「ごほっ。ごほっ……なぜ」エレノアは息を荒げていた。

 「一つ。この斧と盾はワタシの体の一部ではない。どこにでもある斧と盾だ。だから魔物の闇を含んでいない。すなわち光を完全に防げる。もう一つ。いくら勇者とはいえ自浄作用を越えた毒はだんだんと効いてくる。残念ながらワタシの毒は猛毒だ」

 「そうみたいですね」エレノアは光る手を自身へ当て解毒した。

 「それともう一つ教えてやろう。すでに二分経過」


 エレノアは同様に斬りかかった。

 されどフェラーが息を吸う動作を見せると攻撃の向きを変えざるを得ない。

 すると左側へ回る。斧のない方。

 大盾は優れた防御力の反面、視界を大きく遮る。フェラーからエレノアの姿は見えなくなる、

――しかしすでに後手。フェラーは大盾でエレノアを地面へ叩きつける。

 エレノアもその手はあるだろうと足の向きを変え逆に飛ぼうとした、

――思いのほかフェラーの動きが速かった! フェラーはエレノアを地面へ挟み込んだ!


 「ぐぬっ!」

 「次はどうすると思う? こうする!!」溜め込んだ毒ガスをぶちまけた!


 はずが。むしろ夜は晴れつつあった。

 なぜか――俺がその口を塞いでいたからだ。

 骸骨の鼻穴に指を突っ込み、手で顎を開かせない。


 「忘れちゃ困るぜ。顎髭! 違うな、顎禿!!」


 俺は鼻穴に指を突っ込んだまま、ボーリングしたくなっちゃったから、思いきりぶん投げた!

 野郎は紫の流れ星になって三軒くらい穴開けていったぜ。


 「ストライク!!」ガッツポーズ。

 「カルロス。なにをしてるのですか。あっちにだって村人がいます。毒ガスが広がってしまいます!」

 「そういえばそうだった。まぁそれよりもそこに倒れてる奴らの治癒はいいのか? 死んじまうぜ」

 「ぐぬっ……なんかいつもこんな感じですよ。勇者の活躍がぁ」

 「相手が悪かったってことで。嫌だったら俺が倒す前に治癒しちまえよ」

 「じゃあ、そうしますよ!!」


 これが主人公の特権だぜ。

 ぷんぷんと治癒を始めるエレノアを余所に、俺は顎禿を追いかけ家を突っ切る。

 毒ガスの威力が凄まじい。ちょっと通り過ぎただけなのに中にいた村人の顔色が酷いぜ。


 「避難しとけ。村から離れろ。この紫色の吸うと死ぬかもしれねえからな。動けねえなら死なない程度にあっちまで投げてやるぜ――」

 「カルロス……人間の分際でワタシを倒すというのか」


 ガタガタ。ズドズド。わざわざこっちまで歩いて来てくれたみたいだ。

 ダメージは全く無さそうだ。流石レベル3。硬さがあり得ないな。

 と見合っていたら顎禿のやつ、なんの躊躇いもない。一気に息を吸い込みやがった。

 とりあえずそこにいた夫婦とババアをその他諸々を掴んで投げ飛ばした。

 顎禿は毒ガスを解き放った。元副村長にしちゃあ、あまりに無慈悲だぜ。


 「人間め。少しばかり力があるだけで調子に乗りやがって。さっさと勇者の首を魔王様に――なにっ!」


 と顎禿が驚くの無理ない。だって調子の乗った俺の蹴りがクリティカルヒット! 顎髭の首に直撃したからな。いくら硬いとはいえ、首は細い、振動を逃がせず大きく怯んだ!

 さらに追撃のエーテル拳の……なんかもっといい名前がいいな。骨砕き百裂拳が炸裂!!

 縦横無尽に拳の嵐だぜ!


 「おりゃー!」


 っと、またしても顎禿は飛んでいったが、すぐ戻ってきた。


 「手応え無いな。自身無くすぜ」にやにや。

 「人間。なぜだ。なぜワタシの毒が効かん?」

 「そっくりそのまま返すぜ。顎禿。なんでエーテルの攻撃が効かねえんだ?」

 「答えたら教えてくれるのか?」

 「もちろん」


 ニヤリ。


 「お前の拳が貧弱だからだ」


 同じく。


 「てめえの毒がカスだからだぜ」


 ギロッと苛立った。

 お互いにまんまと挑発に乗っかっちゃって。

 俺と顎禿は同時に飛び掛かった!

 

 「人間!!」

 「砕けるまで殴ってやんよ!」


 勢い乗った斧の攻撃? 遅い遅い!

――顎禿が一振りする間に俺は三発顔面に骨砕き入れた。

 二度三度。

 避けては三発。

 避けては三発。

 全く怯みやしねえが、盾の叩きつけを躱した後の回し蹴りにはちょいと息を荒げたみたいだ。

 

 「追撃っ!」

 「喰らっておらんわ!」顎髭は大きく息を吸った。

 「効かねえって言ってんだろ!」そのまま顔面にもう一蹴り!

 「術中!!」それは毒ガスじゃない。


 ガブッと。顎禿が俺の足を噛みやがった! 顎の力はもちろん、牙が足を貫通してヤバい!

 しかもこいつちょっと閃いてやがる。


 「体外からの毒は効かない。しかし体内ならどうだ?」

 「ちょっとそれは自信ねえからやめろ!」

 「なおさらやらざるを得ない!!」


 顎禿は出血した俺の足に直接毒ガスを吹き込んだ!

 足が抜けねえ。毒はよくわかんないけど、足がパンパンになって爆発しそう! なんか滅茶苦茶怖い、

――だから無意識にもう片方の足を使って、顎禿の頭を挟み込み、地面へ叩きつけた!

 これが思いのほか効いた! 顎禿が白目向いた。目なんかないだろって? ないけどさ、兜は割れたぜ。


 「まさか人間にここまでやられるとは……魔王様が警戒すべきは勇者だけではない。想定外の存在。この人間こそ殺さねば」

 「忠誠心は尊敬するがよ。ピンチだぜ。お前は」

 「だからこそ!」


 懲りずに顎髭が斬りかかってきた。

 こいつの攻撃は遅い。エレノアからしちゃ速いかもしれねえが、俺からしたらノロノロ。

 でもちょっとばかしキレが良くなっている、

――斧の振りが速い。反撃しようにも、狙おうとした瞬間に盾を構えやがる。顎髭め、俺の動きに慣れてきたのか。

 読みの鋭さ。単純な性能だけなら毒ガスは確かに凄いが、レベル2寄り。ただこいつの強さは頭の良さだった、

――避けようとした、斧の一発がフェイント。


 「やべっ!」

 「貰った!」


 完全にやられた。狼心狗行が斧の刃先。顎禿は俺を頭上から叩き割ろうとする。台の上の薪の気分だ!

 のも。ギリギリだった。マジでギリギリだ。自分でも驚いてる、

――俺はそこに落ちていた椅子で斧を受けた。ちょうど足の付け根に斧が差し込んでいた。


 「なんだと?」

 「風介術、外の圧縮だ。椅子を強化して盾にした。うわぁ、すげえ。できちゃった?」

 「フウカイジュツ? 不愉快だ!」


 と再度斧を振り回すアホを俺は椅子でぶん殴った! 顔面殴打。顎禿は今までのが嘘みてえに怯んだ。

 外の風介術は魔物の体内にあるエーテルの流れを変える。そのズレがダメージを生んでいる。爺さんの言うとおりだ。

 いや違うって? よく気付いたな。

 でもここではそういうことにしておくぜ。


 「ウゴゴゴゴ……」

 「今ならイケる! 斧も伐れねえ丈夫な椅子で伐採者の骸骨を粉砕してやるぜ!」


 エーテルを椅子へ注ぎ込み、顎禿へ叩きつけた!!


 ……

 ……

 ……?


 飛び散った。

 椅子が。

 椅子がぶっ壊れた。


 「あれ? 効いてねえ?」

 「効いてねえ!!」


 ぶほっ!っと盾の一発を貰ってぶっ飛ばされた。

 エーテルを込めすぎて身体を流れていたエーテルが全く無くなっていたから、つまり滅茶苦茶飛んだし、痛い。

 酒場の壁ぶち破った。

 びしゃっと。酒樽にぶつかってこの有様。

 タダ酒は嬉しいけど、びしゃびしゃだ。

 うわ。ちょうどそこにエレノアがいた。


 「だ、大丈夫ですか?」

 「そう見えるなら自己治癒しとけ。頭のほうを重点的にな。ちょっとレベル3強くね?」

 「だから言ったじゃないですか」

 

 酒場には村人が横たわっていた。だいたい二十人くらいか。どいつもこいつもぐっすり眠ってやがる。羨ましいぜ。まだ数人は毒の色だな。

 木の軋む音。来たか。穴から顎禿が現れた。


 「勇者。作戦失敗だ」ふーっと息を吸う。

 「いえ。そうではありません。交代ですね?」微笑み。

 「……交代だ。今回は」

 「いいでしょう。なら私の勝ちです」

 「なんだと?」


 顎禿が勢いよく空気を吸っていく。空気の線が見えるくらい。空気が凍って蒸気になっちまうくらいにだ。”キラキラするそれ”も吸って、トドメと言わんばかりに溜め込んでやがる。

 大ピンチだっての。エレノア、ふざけてんのかって疑ったが、

――あれ。顎禿の様子がおかしい。なにがって? 自ら口を押さえてやがる。苦しそうに。まるで毒を吸ったみてえに。毒?


 「勇者。ま、まさか。そうか!」

 「ええ。お酒に光を混ぜました。魔物にとっては毒ですね」エレノアは剣に光を込める。

 「し、しかしワタシはこの程度では死なん。酒で薄まっている分、光も弱い。すぐに闇で浄化できる」

 「できません。だってもう死ぬのですから」


 顎禿が怯んでいる隙にエレノアの光の剣がそれを真っ二つにした。

 今度こそだ。

 パタリと倒れて。それでも光で麻痺しながら動くくらい丈夫。

 だけど酒に浸っている。酒には光が含まれている。

 だから顎禿は死ぬ。

 溶けてしまう。

 

 「なんかズルいな」

 「何がですか」

 「いいところ取られた感じ」

 「私は勇者ですよ。初めからあなたがいなくても倒せましたよ」

 「よく言うぜ」

 「でも今の作戦が効いたのは……いえ、なんでもありません。全部、私がやりました」

 「性格悪いな、こいつ」


 エレノアが何を言おうとしたかはわかる。

 俺が顎髭を消耗させたから冷静さを失った。酒の光に気づかなかった。

 わかってんなら少しくらい褒めればいいのによ。世知辛い女だ。



――あとがき――

今回でカーム村編終わりです。ファンタジーなのに公害を扱うのは意図的です。思ったより中世じゃないんですね。この辺が前作との違いになっていきます。

実は熊、麦というところで昨年の出来事が重なるんですよね。気付いた人います。そういう意図もありました。

次回からアスチルベ、都市編です。魔物がどういう存在なのかがわかると思います。同時に人間も。


やや書き方を戻した。改行を減らした。改行することで読みやすくなる、特にスマホで、だと思ったが、逆に意味合いやリズム感で読みにくくなっている気がするので、戻してみた。


一度長文で書いているのをweb形式に、改行多めに変える感じなので、難しい。70話まではもう書き終わっているので。推敲は書き終わってすぐやった方が楽そうだ。


内容については村にいる魔王の手下を探さなければいけないはずが、麦と公害と魔物の話に偏って後回しになった。最終的に黒幕が魔物の手下だから纏まるわけですが、前半では特にエレノアはその辺、意識しておいた方が自然だったかもしれない。


なお、しばらくこういった現実での出来事を重ねたような物語が続きます。どちらかというと表現。


そうかあとがき書けばいいのか。

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