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20.光と闇の物語

 一件落着。朝になるまでには村はいつも通りに……とはいかなかった。どこもかしこも穴だらけ。派手に戦ったからな。

 だから村長。爺がいつも通りに朝礼だとか言って村の有様を見てショック死しそうになっていた。腹抱えて笑ったぜ。

 それから昼になる前。朝飯だけ食った。村はやっと救われたってのに疲れ切っていた。

 とある青年はいつもに増して飲んだくれていた。俺はその横でパンを齧っていた。備蓄パンだからあんまり美味くねえな。硬いし。


 「副村長が魔物だったなんて。ひっく。良い人だと思ったのに」

 「どこがだ。気持ち悪かったぜ」

 「ひっく。でもあの人がいたから村は良くなったんだぜ。ここの道路にしたって、水道にしたってさ。あれも嘘だったのかよ」

 「毒吐きかけられてまだ信じてるなんて平和ボケし過ぎだぜ」

 「たしかにな。ひっく。魔物だもんな」


 そこにエレノアがやってきた。丁寧に村人に異常が無いか診てきたらしい。あとキノコもなんかいる。


 「なんだよ」

 「おや。伝えてませんでしたか? 僕のメインは青肌事件ではないのです。勇者を国王の元まで連れて行くことなんですよ。馬車があります。どうぞ。乗ってください」

 「だそうです。乗りましょう」

 「もう行っちまうのか。ひっく」

 「ああ悪いな。っておいおい待て待て。キノコ、お前何もんだ?」


 キノコは当たり前のことだろうと、驚く俺を気にしない。馬を撫でると御者台に乗った。


 「僕の先生が第六騎士なんです。だからほんとは先生の仕事なのに……ごめんなさい。私情です。ほら、カルロスさん乗ってください。でないと私情になりますよ」イライラ。

 「わかった。これ以上、この村にいる理由も無いしな……おい、酔っ払い。ちょっとは酒控えろよ」

 「ああ。悪党がいなくなったから飲まなくてもやってけるな! あひゃひゃ! また会おうぜ~」握手。


 車内に入った。商人が荷物運ぶような馬車だな。勇者を案内するにしちゃあ、ちょっと気持ち足りねえな。まぁこれもキノコの先生とやらのセンスか。

 馬車は村を出た。勇者との別れを心配そうに手を振る村人たちの姿が窓の向こうに広がっていた。エレノアは小さく手を振って。うとうと。爆睡した。

 


 ここらへんは草原に農耕地、丘や森があったりして。まぁだいたい緑。アスチルベって土地はビギン村の周りとさほど変わらない。

 って言うのはあくまで見た目だけ。俺の心情はそうじゃない。やっぱり風の色が違う。似たような景色でも見たことない景色だって頭がわかっている。だから感覚が違う。新しさがある。

 こういう風を浴びているとここまでの旅の道を思い出す。余計に時間が長く感じるようになって、懐かしさが際立つと今の新しさがちょっとばかしそいつに混ざって、変な香りになる。うまくは言えねえが、まぁ黄昏てるっことだ。

 

 「カルロスは寝ないのですか?」目をゴシゴシ。

 「あんだけ戦ったから目が覚めちまったな」

 「そうですか」なぜか不機嫌。

 「なんだよ」

 「寝顔を見せたくないだけです」

 「見てねえし。見たくねえよ。寝ろよ!」

 「顔に落書きとかしません?」

 「してねぇだろ!」それちょっといいかも。

 「今、笑いましたよ。やる気じゃないですか」

 「バレたか」

 「ほら。起きていますよ」


 こうエレノアを会話していたらもう一つ思い出した。そうか。もう少しでこいつと別れるのか。俺は国王にビギン村を助けてほしいと伝えるだけ。もうじき終わりだ。は~二十話そこらか。一部の勇者よりも冒険したなぁ。

 思い出したってのはちょっとした切なさだ。懐かしさと似ていてわからなかったが、旅の終わりの哀しさ。しんみりとしてんな。俺は。

 快晴広がる青。エレノアはこのままどこまでも冒険してくのだろうな。


 「勇者か……」

 「勇者ですが? 少しは自覚しました? 私は結構権威あるのですよ」

 「どこが」苦笑。


 エレノアはプクっとまた怒りそうだ。と思えば萎んでいった。純粋な面持ちで俺を眺め始めた。


 「なんだよ」

 「そういえばカルロスって記憶喪失でしたね。勇者のことも知らないのですか」

 「そうだよ。まぁ知っていても全然凄いとは思わないけどな」

 「知らないのになぜ言い切れるのですか」

 「鏡見ろ」

 「私ってそんなに格好良くありませんかね?」

 「だって十六そこらの少女だぜ。か弱いったらねえ」

 「……そう見えますか?」エレノアは俺の瞳に映る自分の姿を覗き込んだ。


 挑発したつもりだったから驚いた。自分で威厳とか言っておきながらそんな自分も悪くないってか。か弱いな。

 あれ、なんで俺、落ち込んでるんだ。


 「そうですね。都市へ着くまで時間があります。勇者とはなんなのかを話してあげましょう」

 「いいや。いらねえぜ。前作のプロトタイプストーリーを読めばだいたいわかる」

 「わかりませんよ」真顔。


 メタ返し。

 エレノアは長い話を始めた。


 「昔々。ほんとうに昔。人々は争うことなく平穏に暮らしていました。神を信じ、導きのままに謙虚に暮らしていました。


 しかしそこに魔神が現れました。魔神は人々を唆し、争わせました。

 そうすることで人々の負の感情を増幅させ、魔神はそれを形にして、魔物を造り出したのです。魔物とは人の邪な欲望の化身なのです。

 魔神は魔物を束ね、人々を殺し、滅ぼそうとしました。地を邪悪な世界に塗り替えようとしたのです。

 地と人々は絶滅に瀕していました。誰も魔神と魔物の持つ、闇の力に敵わなかったのです。


 そこに現れたのが神を信じ、神から与えられし光の力を持つ、光の民でした。

 光の民は魔物を次々と倒し、人々を救い、癒していきました。

 それでも魔神は強大であり、戦いにすらなりませんでした。


 そのときです。

 光の民の中で遥かに強き光を持つ、光の始女が現れました。

 光の始女は再び人々に導きを与え、団結させました。

 光の始女は魔神との激闘を制し、魔神を討ちました。

 その末に光の始女は力尽きてしまいました。


 魔神を倒し、ついに地に、平穏が戻りました。人々は神の道を信じ、暮らしていくようになりました。


 それでも人は人であるがゆえ、負の感情が消えることはありません。

 魔物は生まれ続け、人を殺し続けるのです。魔王も未だ現れます。


 だから光の民の使命は終わりません。

 魔物と魔王を倒すために光に選ばれし者、勇者は戦うのです。


 里に伝わる古い予言によればいつか魔神が蘇るとされています。そのときに三種の神器が必要なのです。勇者は世界を旅し、三種の神器を集めることが使命なのです」


 ふんふんと。我ながらよく説明できたと満足げ。


 「ぐぅ……すぴ~。ロウ、プリンなら食っといたぜ。かまぼこなら食っていいぜ。ケケケぇ~」

 「何寝てるのですか!」げんこつ。

 「痛てぇ! 何するんだ。せっかくいい夢を。ってほどでもないけどさ」

 「せっかく説明してあげたのに」

 「悪い悪い。効いてたぜ。今のパンチはとても」

 「ありえませんね。いいですよ! もうすぐ別れる運命です」ふんっ。


 光が~闇が~って言われてもやっぱし、あんまりわかんねえな。だから光ってなんやねん。

 エーテルくらいわかりやすかったら聞いてられるけどな~~いや、エーテルもわかりにくいな。

 光とエーテルか。そういえばまだわかんねえことがあった。


 「エレノア。なぜ魔物には光が効くんだ?」

 「教えてほしいならもう少し態度を改めるべきではありませんか?」

 「エーテルと関係あったりする?」

 「知らないですよ。エーテルなんて。私がお婆様に伺った限りだと、光は治癒の力なのです。魔物は不死身であり、神の理に逆らう存在です。在るべきものは全て死ぬのですから。ですから癒すことで死を生み出す。とか、なんとか……」

 「おいおい。勇者なのに知らねえのかよ」

 「勇者だから賢いってわけじゃ。私なんて全然……恵まれてただけですよ」


 ほら、やっぱ聞いてもわかんない。駄目な政治家の討論かよ。


 「じゃあ魔王ってなんだよ」

 「魔物の王ですよ。束ねているのです。度々世界に現れては人を支配しようとする邪悪な存在です。魔神が居なくなってから魔王が魔物を生むようです。魔王がいると魔物が増えるのです。それを倒すのも勇者の使命なのです。魔王ともなると勇者でないと倒せませんし……」


 ほらね。

 じゃあこの辺で鋭い質問。


 「もしもエレノアが死んだらどうすんだ? 勇者って一人しかいねえんだろ? 世界が滅ぶのか?」

 「……そのときは次の勇者が魔王を倒すだけですよ」


 エレノアの唇は震えていた。

 なんか気まずい。

 お。ちょうどよかった。俺が馬車が止まった。都市についたみたいだ。


 「今度は馬車が止まってよかったぜ」

 「ええ。全くです」吐きそう。思い出したくもない。


 キノコが衛兵と色々話している。衛兵が「君がセラフィナ殿の弟子なわけなかろう」と一人。もう一人が「いや。あの人ならやりかねない」と頷いていた。なんか揉めてるな。

 エレノアがもごもごして、今にもワタシユウシャ~ってやりそうだし、そうなると大体厄介なことになる。俺が行くか。


 「おいキノコ。どうした?」

 「いいかげん名前覚えろ。僕はマティアスだ! わかったら衛兵、開けろ!」

 「そいつはダメだ! 青髪の間抜け面が都市へ入ったら公害が発生しかねない。勇者はどこにいるんだ? ガキ!」

 「私が勇――もごっ」俺が抑えた。

 「おい衛兵。誰が間抜け面だって? 喧嘩売る相手には気をつけた方がいいぜ。死骸になっちまうからな」

 「貴様。誰に口を利いているのかわかっているのか。衛兵だぞ」

 「衛兵なんざ。いくらでもぶっ飛ばしたことあるぜ」

 「ほう。どうせ田舎の衛兵だろう。あんなのは野犬と変わらん」

 「試してみるか?」

 「牢獄にぶち込んでやる」


 キノコが首を振った。止める気すらない。

 だからエレノアが間に入ってきた。


 「なんだ!」俺と衛兵。

 「冷静になってください。私が勇者であるかどうかですよね? これで十分でしょう?」手キラキラ。

 「黄金の光……たしかにこれはっ!」

 「おい。わかっただろ。衛兵。早く開けろ」俺とキノコ。

 「も、申し訳ありませんでした!」顔が謝っていない。


 やっとこさ門が開いた。

 そこには天高く聳える白城と、人の海が忙しなく揺れる街が広がっていた。


――あとがき――

 実は光の民のところの設定を考え直して書きました。ここだけの話、魔物がなんであるかは宗教色みたいなのがあります。

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