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17.黒幕黒熊

 エレノアが朝からドタバタと宿から出ていったのに興味があったわけじゃねえ.

 けど、宿屋のばあさんが言うにはまた出たんだとさ。

 何がって聞こうと思ったけどよ、ばあさんが震えてたから止したぜ。

 だから外にいた二日酔いの野郎に詳しく聞いたんだ。


 「おい」

 「かるろす~か?」

 「その感じなら飲み対決は俺の勝ちだな。エレノア、、ああ勇者な。アイツが飛び出したんだけどよ、なんか知らねえか?」

 「ああ~最悪さ。二日酔いよりもずっとな。うぇっ。実はうちの村に青い呪いが広まってたんだ。真っ青になって吐き気がして苦しそうだった。五人しかいなかったがよ、自分もああなるかもって想像したくもない。それがな。昨日、勇者様が治してくれたんだよ。だからああやって祝ったんだ。うぇっ。夢ならばどれほどよかったろうな。そいつが起きてみりゃ、また出たんだってさ。勇者様は治しにいったろうけど。うぇ……次はいつ起るか」

 「そいつは災難だな」

 「他人事かよ。せっかく村に活気が出てきたのに災いが足元にある。やってらんないぜ。神様がいるならなんか恨みでもあんのかよ。うぇっもう出るぅ……」


 オロロロロ。と青年はとにかく吐いた。

 どこにって? 麦畑に。

 こいつ、アホか。


 「糞尿が肥料になんなら嘔吐もなるだろぉがい!!」

 「お前もういいから寝てろよ」

 「すぴぃ~」麦畑に頭から突っ込んだ。

 「どっちが馬鹿なんだかな」


 俺にとっちゃ病とか村人が死ぬとかどうでもいい。勇者一行でもなんでもないし。

 まぁでもそうか。アイツを置いて城へ行っても勇者がいたほうが都合が良いんだっけな。

 自分で言うのもなんだが、俺が玉座に行って話しても不審者扱いか。


 「めんどくさいな。エレノア探すか」


 と歩き出そうとしたとき、なんか顎髭がやかましいほど整ったおっさんがこっちに来た。


 「カルロスさんですね。どうも始めまして。副村長のフェラーです。村のこ――」

 「何の用だ?」

 「ええ。村のことでお話がありまして。ここ一年村は――」

 「ところでエレノアを知らねえか? 勇者な」

 「はい。勇者様なら今、村長のところに。村長の家はあちらです。お話をしながら――」

 「親切にありがとよ。すまねえ。急いでるから」

 「私も村長の家へ行くので。はい。で。ですね。ここ一年村は――」

 「お。なんだよ。エレノアいるじゃねえか。こいつに礼言って損したぜ。エレノア~!!」

 「……。」


 なんかあのおっさん気味悪いんだよな。作り笑いとかさ。

 息もほかのやつらに比べて無臭過ぎるし。

 ん、なんだ。エレノアがなんか不満げだ。


 「なんだよ」

 「あのですね。私のことは勇者様と呼ぶように。最低でも勇者。本名は二人きりのときだけにしてください」

 「おやおや。お気になさらず。そうですか。お二人はそういう関係でもあるのですな。ふぉっふぉっふぉい」

 「爺もう一発ぶん殴っておくか」

 「照れなさるな。儂の若い頃も婆さんとぉ~」

 「違いますよ。このアホは勇者に敬意なんてないのです。それどころか恨んですらいる気がします」

 「照れなさるな。儂の若い頃はな、婆さんとぉ~」

 「呆けてんな」

 「そうですね」


 藁の屋根にこじんまりとした外装。

 ってのがこの村の一般的な家の感じ。

 まぁありきたりな古くせえ家だ。

 この爺の家も例に漏れず、ちょっとばかし大きな、でもじめじめしたところだ。

 爺はさっきの顎髭を使った。

 顎髭がにこにこお茶を持って来たぜ。


 「先ほどは追いつけませんでした。足がお速い。流石勇者様の従者ですね」

 「そいつはいいがよ。お茶は好かねえ。水で良いぜ」

 「私が都市から取り寄せたもので、おすすめなのですが」

 「だったら尚更いらねえぜ!」

 「カルロス。失礼ですよ。美味しくなくても飲まないと」苦い表情。

 「ほっほっほ。遠慮なさらず」


 どっちの意味だ? まぁ飲まねえけどよ。

 爺はまるで数十年前を振り返るように朧気た。


 「あれは確か四年前だったかの。村がまだ土のふわりとした香りが濃ゆかった頃ぉ?」

 「二年前です。村長」

 「ごほん。都市からの。この若造、フェリーがやってきたのじゃ?」

 「合ってますが。フェラーです」

 「そうだったかの?」

 「大丈夫か。この爺」

 「カルロス。失礼ですよ。呆けていても敬うべきです。村長なのですから」キリッ。

 「敬ってんならボケてるとか言わない方がいいぞ」ゲロッ。

 「もういいです。村長。私がお話します。そもそも私との出会いまで振り返る必要などありません」

 「そうじゃな。婆さんと村を立ち上げた時から始めるべきじゃな。あのときは港と都市まで道すら整ってなくてな。そこの道中で、冒険者をしていたんだけどな儂、野獣と戦って怪我をした婆さんを、婆さんは都市の騎士じゃ、を助けてなぁ――」

 「村長。」

 「すまんかったの。飢饉を解決するために、王に逆らって儂と婆さんの二人で村を――」

 「村長!」

 「すまんかったの」しょんぼり。


 エレノア、ちょっと爺さんの話、詳しく聞きたい~みたいにしてんなよ。

 たしかに面白そうではあるけど。

 いやねえよ。

 

 「すいませんね。この通り、村長は長い間村を守ってくださっているので。本題へ入りましょう……村が豊かになったのは三年前です。都市からの支援のおかげで小麦が安定して収穫できるようになりました。それまであった風土病も無くなりました。一重に国王と村長のおかげです。それが去年から大不作になりました。合わせて現れたのが青肌の患者です。村の人たちは噂しました。呪いだと。魔獣の呪いだと」


 あ。茶柱が立った。

 まぁつまんねえ話に飽きて髪の毛刺してみただけだけどよ。

 風介術もちょっとばかしうまくなってきたぜ。


 「勇者様。お願いがあります。どうかこの忌まわしき魔獣を倒してください。村を恐ろしい呪いから解放してください!」

 「儂からも頼む。これ以上、苦しむ皆を見てられんのじゃ」


 爺さんと顎髭は頭を下げた。

 黴臭い家だ。報酬なんか期待するなってことだろ。

 ドラクエとかだったらぁ~強え武器とかくれるのにさ~現実はそんなに美味しくねえぜ~♪

 エレノア~断れぇ~♪


 「魔獣。魔物のことですね。なら勇者の出番です。任せてください。必ず村を救ってみせます!」

 「お~まいが~♪」


 こうして俺は魔獣退治に巻き込まれることになった。

 村長の家から出た後、俺の村とこの村、どっちが大事なの!って訴えたら、どっちもですが?って平然とだな……勇者は浮気者。

 こいつはどこの世界でも同じみたいだぜ。クソ喰らえだ。


 副村長が地図に記した通り、俺とエレノアは農耕地を抜けて森へ入った。


 森にはまた色んな魔物がいた。

 鳥みてえに滑空して蝙蝠みたいに吸いついてくるやつとか、兎みたいに素早く猿みたいに咆哮するやつとか。

 色々襲ってきた。


 まぁ俺一人でボコボコにしてやった。

 エレノアはことあるごとに光を使うから眩しくて目が痛くなる。

 だからとっとと倒した。


 「カルロス。なぜ私の邪魔をするのでしょうか。私の光の剣が信用ならないと?」

 「信用してるぜ。人にも効くぜ、そいつは」

 「なわけありませんよ。光ですよ。治癒です。なんだって治しますよ。魔物以外。神聖です」

 「お前はお転婆だけどよ」

 「あはは。そろそろ着きますね」笑ってるけど笑ってない。


 森の深く、上ったところ。

 ここには魔物もあんまりいないようだ。

 怖いくらい静寂だ。

 息一つにしても意識してしまう。何かいる。

 臭いはしない。

 不思議なくらいに森にしちゃ、清潔すぎる香りだけがする。

 遠くにある泉のせせらぎさえ響いて、葉のゆらめきと自然を奏でている。


 「キャンプするならこんな場所が良いよな~」


――いた。もさもさした黒い影もこっちに気づいた。

 途端だ。

 森が騒めきだした。のろのろと白みかかった。

 霧というには深すぎる。

 肌がピリピリする煙だこれは。

 そんなの中から黒い影が出てきた。

 第一印象?――滅茶苦茶でけえ、黒熊。


 「……」黒熊は一定の距離からじっと。俺たちを観察している。

 「案外静かだな。魔物にしちゃよ」

 「油断しないでください」エレノアは剣へ光を込める。

 「一応言っておくぜ。強いぞ、こいつは」

 「わかっています」


 黒熊の佇まいからして一線引いてやがる。

 魔獣ってのは理性が無いだなんてエレノアは言ったけどよ。理性の塊だろこいつは。

 こいつは理解している。自分は戦う必要が無いと。もしあるのならお前らが敵の場合だと。

 つまりは静かな威嚇だ。洒落てやがるぜ。


 黒熊の為りはまぁ大きい。

 ほらカメラを通してみるよりも迫力あるってよく表現するだろ。それ以上だ。


 体格はもさもさしてて無害そうだけど、図体は五メートルくらいか。

 牙こそ見せねえが、顎の形からしてかなりのものを持ってる。

 爪もそうだ。見えねえが、不動の佇まいから想像できる。化け物だ。

 要約するとだ。こっちから仕掛けなきゃ襲わない。来るなら来い。しかもこれは俺たちに示しているわけじゃねえ。

――俺にだ。一手目はお前だろって理解している。


 そうだ。黒熊は近接攻撃タイプ。

 エレノアがいくら勇者でも力の無い。女にはキツイ。

 俺が負傷してもエレノアが治癒できるが。エレノアが負傷したらそうはいかねえ。

 となればだ。賢い獣ならエレノアに仕掛けていくはずだ。エレノアの剣に纏っているものが光だとわかっている。エレノアには治癒がある。

 だったらまずそこから挫く。不意打ち、先手でだ。


 実際は見ての通りだ。黒熊は賢いだけじゃねえ。高貴だ。

 殺す、排除のために戦うつもりはない。

 あるのは志。試してやがる。俺にもそれがあるのか。


 「高望みしてくるじゃねえか。そういうのまとめてぶっ飛ばしてやるよ。エレノア。ここは俺に任せろ」

 「何を言っているのですか」

 「今までは残念な戦いばっかだったぜ。こいつには殺されたくないって野郎ばっかりだった。黒熊は違う。勝利の先を見据えている」

 「ちょっとよくわかりませんね。村の命運が掛かっているのです。本気で戦うべきです」

 「安心しろ――倒せる」

 「ほんとかな? 強いですよ。あれ」


 黒熊の精神に魅せられたせいか、エーテルの流れがいつもに増してスムーズだ。

 拳の調子は最高。足もだ。

――瞬歩。霧が俺の輪郭を埋める前に俺は黒熊の眼前に拳を掲げた。

 黒熊はじっと俺を見ている。


 「一発くれてやるってことか? だったらありがたく頂くぜ!」渾身の一発を顔面に!


 最高の形だ。拳は黒熊の額に命中。衝撃波が毛並みと霧を震撼させた。

 けど手応えが無い。だって黒熊が表情一つ変えず、睨んでいる、

――ペチン。ずどーん。俺は吹っ飛ばされた。

 ゴロゴロッバタリ……。


 「カルロス。生きてますか~? 死人は治せませんよ」屈んでジト目。

 「滅茶苦茶痛い」

 「どうしますか?」手を出した。

 「俺はアイツと違って賢いからな。村の命運を取るぜ」

 「だから言ったじゃん」手を貸してもらった。


 今のでプライドがへし折られた。

 少年漫画の主人公なら馬鹿みてえに戦うけど、現実は甘くないので賢く戦うとしますかねっ。

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