表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
14/20

14.鋼鎧の魔物

 石野郎を撃破した後。

 外にいる雑魚を兵士に任せ塔へ入った。

 正直、俺はなんかワクワクしていた。

 もっと戦いてえ、壊してえって。

 だからわりと不謹慎だった。

 エレノアたちが苦戦してたから嬉しかった。

 実際にそうだったから冷えついた。

 ローズが肩から腰まで深い傷を負って、壁にもたれかかっていた。

 階段からこっちを見下している鎧野郎と苦渋に満ちた顔をしているエレノアからもわかった。

 鎧野郎の実力。ローズの重傷は鎧野郎の斬撃一つで負ったものだ。


 「エレノア」

 「話しかけないでください」

 「俺がそいつと戦う。お前は騎士長を治せ」

 「断ります」


 エレノアが鎧野郎から目を離さない。

 階段の段差一つ、身動き一つ取らない。

 動いているのは息と汗だけだ。あと僅かに震えている瞳だ。

 でもそうしてもだ、鎧野郎は正直らしい。すでに俺だけを敵視していた。

 近くにいる勇者エレノアよりゴーレムを撃破した実力者をだ。

――俺のほうがエレノアより強いなんて当たり前だろ?


 「嬉しい眼差しだぜ――余裕ぶってんじゃねえ!」


 俺は電光石火、調子よく飛び上がって石砕きの拳を鎧野郎へ。

 鎧野郎はハルバードと大盾。

 そのどちらも構えることなく俺の拳を顔面に受けた。

――金属。拳へ返答は金属だった。ひんやり。

 奇妙な感触に気を取られた一瞬、鎧野郎は俺の頭へ拳を放った。

 冷徹な鉄の拳が俺を殴り飛ばした。返信もまた金属だった。


 「カルロス!」

 「叫ぶなよ。効いてない。ほら、ピンピンしてるだろ」ぴょんぴょん。

 「今ので分かったはずです。この魔物は私にしか倒せません。だから下がってください!」

 「エレノア。ちょっと誤解してるぜ。一度ぶん殴られた方がいい。頭ヒンヤリして冷静になれるぜ」

 「頭から血が出てますけど」

 「俺が時間を稼ぐ」

 「許しません」

 「わかった。じゃあこいつを倒す」


 俺が全く目を逸らさない。エレノアは諦めた。


 「……わかりました。無理しないでください。死んだらどうしようもないですからね」

 「死ぬわけないだろ」


 石野郎との戦いで服もボロボロ。

 なんか鎧野郎のちょっちカッコいい甲冑が羨ましいから服を引き千切った。

 裸のほうが身軽でいい。

 鎧野郎がハルバードを振り回しながら階段を降りてきた。


 「勇者の従者か。見たところ単なる人間のようだ。これでも私は騎士。素手に盾は無粋だろう」鎧騎士は盾を投げ捨てた。

 「無粋じゃなくて要らないだけだろ。かっこつけんな」

 「その通り。勇者の治癒が完了するまで三分といったところか。十分」


 盾はあくまで勇者用ってわけか。思いのほか本気でやってくれそうだ。

 鎧野郎がハルバードを留め、両手に持った。

――瞬間、俺は踏み込み、通常パンチを一発野郎の腹へ入れた。

 まぁまぁ自信のある一発。

 だってのに、鎧野郎は首すら傾げず、置物みたいに不動。

 ハルバードの尻尾の部分で俺を顎から叩いた。

――やっぱし、通常攻撃が効かねえ。


 「だったら!」


 石砕きを一発。

 少し違った攻撃だと読んだのか、鎧野郎がハルバードを振るってきた。

 だったらと、そいつを屈んで滑り込み背後を取る。

 後ろから石砕きを一発!

――だけじゃない。何発も!


 「おらおら! どうだ! どうだ!」

 「どうだ?」首だけ回れ右。

 「痛たた……」手首をふりふり。硬すぎ。

 「もっと痛いと言わせよう」殺伐なハルバードの斬撃。

 「あぶねえよ!」なんとかブリッジして躱す。


 けれども鎧野郎は無慈悲。

 ブリッジカルロスへハルバードの槍の部分でグサグサしてくる。

 ので、それもブリッジのままうねうねと躱す。

 

 「この体勢きついぜ」


 ひょいっと起って、構えなおす。

 この鎧野郎。マジでなんにも効かねえ。


 「石野郎ですらエーテルの攻撃が効いたってのに。なんでこいつは無傷なんだ」

 「終わりか。ならば行くぞ」


 カシャカシャと鎧音立てる割に元気に速い。

 容赦のないキレのあるハルバードの斬撃が俺を襲う。

 それをしゃがんで、屈んで、膝を曲げて、全部一緒!

 とにかく躱して躱して、なんとか躱す

――あれ、背中に接地したるは壁? 


 「行き止まり?」

 そこをブスリ。鎧野郎のハルバードが突く。

 壁が崩れ落ちた。


 「こいつほんとにレベル2かよ!」


 俺はとりあえず階段のほうへ。

 落ちていた短剣をそれとなく握って、威圧。


 「やってみるがいい」

 「ああ、やってやるぜ!」投げる。


 でもって階段上っちゃう。

 ちょっと勝てる気しないから逃げる!

 鎧野郎は短剣避けると、すかさず俺を追ってきた。


 「だろうな」


 上には手長の女王様がいるからな。

 俺はとにかく時間稼ぎ。倒せたら倒したいけど。

 とりあえずこいつをエレノアから離す。

 しかしだ、このまま手長女のところまで行っちまっても一対二の構図になる。絶対に勝てない。


 「うおりゃあ!」


 だから階段上ったらすぐにそこにあった扉を蹴破る。

 うん。こっちは廊下、行き止まりじゃない。


 「せこせこ逃げるぜ!」


――ああ、忘れてた。ちゃんと追ってきた鎧野郎にお尻ペンペン。


 「愚弄するか!」

 「ったりまえだろボケ!」


 絶対に引き付けて逃げるぜ。

――と走った矢先、ハルバードが俺のすぐ横を通った。

 野郎、投げてきやがった。

 いや待てよ、ハルバード使えば倒せるのでは?

 飛ぶハルバードを追って掴んで装備。


 「ありゃ?」持ったはずが消えた。

 「どうかしたか?」と思ったら鎧野郎が持っていた。

 「あー体の一部ってことか?」

 「異なる――投げ放題だ!!」


 まさかのハルバードのバーゲンセール。

 ハルバードが容易く二三本、狭い廊下をスバッと飛んでくる。

 俺は躱しきれず、肩を負傷。


 「だってのにあっちはやる気満々だな――うおりゃあ!!」


 とにかくそこにあった扉を蹴破ってダイブ!!

 そこは広間だった。砦の広場、殺風景だ。

 埃だらけ。蜘蛛の巣だらけ。

 古い机が並んでる。


 「こんなところじゃ愛妻の料理でさえ不味くなるだろうぜ」


 それはそうと。次はどこへ逃げるか……あれ?


 「行き止まりだ。殺りに来ると思えば逃げるばかり。卑怯だ」

 「卑怯? 何言ってんだ? 人質食っちまう方が卑怯だろ」

 「取引の話か。どちらにせよ応じるつもりなど無かったくせによく言う」


 ジリジリと俺のほうへ寄ってくる。隙が全くねえ。


 「そうだ。そうだ。一つ教えてくれよ。親切そうだからな、あんた、頼むぜ」

 「よかろう。どうやってお前を殺すかか?」

 「違うって。俺、あんまりこの件のこと知らなくてよ。だから騎士長に聞きたかったんだけどきっかけが無くなっちまってな」

 「ほう」

 「なんでも、奥さんが攫われる前にも身代金を要求していたそうじゃねえか。これってどういうことだ? 誰を攫ったんだ? そのときも衛兵とか来たのか?」

 「ふん。ふははははは!!!」


 な、なんだ。鎧野郎の癖に高笑いしてやがる。

 なんだか気持ち悪いぜ。

 まるで俺が一発ギャグでもしたかのような、純粋な笑い?

 いや、皮肉か? ダメだ、ちょっとよくわかんねえ。


 「誤解するな。金など要らん。我々がほしいのは汚らしい人間の命だけだ。食うわけではない。ただ殺す。無残に殺す。それだけだ。初めに攫ったのは誰だと? 覚えてないな。いなくなってもよかった奴なんだろう」


 鎧野郎は徐に人間を侮辱した。俺を嘲笑った。

 俺が憤怒したり、悲哀したり、そういう反応をさせて侮辱しようと。

 でもすぐにそれも止んだ。

 どうしてかって?

 肝心の俺がなんとも思っていなかったからだ。

 自分で聞いておいてなんだが、どうでもよかった。

 自分でもこんな感想を抱くとは思わなかった。


 「興覚めだ。茶番も終わりだ」

 「そうだな。鬼ごっこも飽きたしな」


 俺は構えた。

 鎧野郎はハルバードを俺へ向けた。

 何の音も立たず、何の風も吹かない。

 神妙な空気が一帯に漂った。

 こういうのはエーテルとは言わねえが、この空気は俺を酷く冷静にした。

 畏怖も勇気もここには無い。

 善も悪も。

 信念さえも。

 あったのは――技のみ。


 「死の懲罰房へ送り込んでやろう!」


 踏み込むは鎧野郎。

 また大きくハルバードを振り回し、俺を突いてくるもんだ。

 忘れていたが、俺の後ろは壁だった。突きで着実に俺を追い込む算段だ。

 まぁそれも簡単に躱せる。さっきよりも簡単にもっと簡単に

――五度目の突きを俺の甲が弾いた。


 「なに?」


 途端、鎧野郎の気が変わった。やや驚いたというところ。

 その起伏の隙間に入り込むように、俺は一気に距離を詰めた。

 鎧野郎にとって俺の攻撃は攻撃なり得ない。

 いくら殴っても野郎へダメージは入らねえ。

 だったらどうするかって?

 極限まで時間を稼ぐ。

 勝つ戦いではなく、負けない戦い。

 俺は拳ではなく掌。

 エーテルで強化した掌で鎧野郎を突き飛ばす!


 「どっせーい押し!」


 思いのほかよく飛び、鎧野郎は壁に激突した。


 「なぬ?」

 「感触あり」肩を回す。

 「小癪」鎧野郎は立ち上がる。


 今度はハルバードを投げてきた。

 俺は極度に目が冴えていた。飛んでくるハルバードがゆっくり見えていた。

 だから不意にそれを取っていた。

 そんでもってひと回し、投げ返した。


 「びゅん!」


 鎧野郎の横にハルバードが突き刺さった。


 「ふざけていられるのも今のうちだ!」


 鎧野郎はそいつを抜き取ると、より素早く俺へ踏み込んできた。

 ハルバードの連続攻撃。今までとは違うキレの良さだ。

――槍の哲学。俺を後退させようとする。槍の利点は敵に踏み込ませない距離感。

――そしてそれは弱点でもある。

 ハルバードはもはやあってないようなもの。

 俺は一瞬で距離を詰める。


 「二度目だぜ!」


 まもなくエーテル掌で鎧野郎を腹から吹っ飛ばした!

 しかしその後ろは壁。

 鎧野郎が跳ね返されて戻ってきた。

 まるでスーパーボールみたいに。

 となれば俺は拳をエーテルで強化するだけだ。


 「我慢比べだな!」

 「お前にこの鎧が砕けるか!」


 右左と一発一発。

 素早くエーテルを注ぎ込みながらぶん殴る。

 何度も跳ね返って、その度に早く返ってくる。


 「うおりゃああああああああああ!!!」

 「ぬっ、ぬっ! 壊れるものか、人間などにこの身が!!」


 それについっていて左右の拳へエーテルを。

 殴るたびに拳は鎧の硬さで痛む。

 拳の皮膚が剥がれ散る。

 骨が見える。

 それも真っ赤な骨。

 血に染まった骨が。

――それももはや気にも留めていなかった。

 だって鎧野郎に罅が入ってきたから。

 ぶっ壊れていっているから。

 その兜に苦渋が浮かんでやがるから。


 「ひゃっはあああああああ!!」

 「うぐぁああああああああ!」

 「楽しくて仕方ねえ!! 調子乗っていた堅物をぶっ壊すのはなぁああ!!」

 「そ、そんな馬鹿なっ!! 馬鹿なぁ!!」


 血と鋼が散るほどに沸き立つ高揚。

 まるで麻薬みたいだ。

 今、ここにある空気を吸うほどに俺の拳が鋭くなっていく。


 ――境地――


 俺は気付かぬうちに左右の拳同時に内の圧縮をしていた。

 自然と拳の強度も上がってきていた。

 絶え間なく注ぎ込まれるエーテルの流れ。

 一種の集中の終着点。自分の体ではないような自然の体系。

 魂の高揚とは裏腹に冷静な身体。不思議な気分だ。


 「オラオラ! 砕き潰してやるぜ!! オラオラ!」


 嘘みたいに鎧野郎に罅が入って行く。

 鋼が飛び散っていく。

 そして穴がちらほら空いてきた


 「潰れろ潰れろ潰れちまえええ!!」


 エーテルが告げていた。

――この次の一撃で鎧野郎は死亡する。

 俺の気分は最高潮。

 鎧野郎はすでに穴だらけ。もう寸分も動いていない。

 なお洗練されるエーテルの拳。

 究極の一発をお見舞いしてやる。

 そうだ。俺は最高の気分だった。


 「殺し尽くしてやるぜええええ!!――?」


 しかし手前の一撃。

 あんなに硬かった鋼がこんにゃくみたいになっていた。

 殴るほどにプニプニと気持ち良いのが気持ち悪い。もう全く痛くねえ。

 いや、数発前からずっとそうだったか。

 なんか急激に気分が下がった。冷めた。

 ゆえに最後の一撃は、


――バタッ。


 空ぶった。

 鎧野郎が倒れ、転がっていく。

 微かに表面が鎧野郎の呼吸で震えている。

 この状態でも生きているらしい。


 「……」


 兜無き頭を粉砕した。

 鎧野郎を壊してから気づいた。

 この神妙な空気は血生臭さには勝てない。

 惨い殺し方しちまった。

 なんだ。この気持ちは。心地いいような、ちょっと哀しいような。


 「あーなんだか釈然としねえな!」


 そう見上げた砦の天井。

 石と苔がただ乱雑に並んでいるだけだった。

――と、ちょっと黄昏ていたら足音がコンコンとやってきた。


 「カルロス! 助けに決ました――って倒したのですか」

 「あー今倒したばかりだ。ちょっと遅かったな」

 「あれ、両手、凄い怪我ですよ。治します」

 「良い。ちょっともう疲れた。死ぬ怪我じゃねえし」

 「いやでも酷い怪我ですよ」

 「もうちょっとだけこの痛みを噛みしめたい気分なんだよ」

 「えっ……なんか気持ち悪い」

 「功労者に送る言葉かよ。ゴーレムだって倒したんたぞ! ちょっとは褒めろ!」

 「はいはい。凄いですね。じゃあ治癒しませんから。死んでも知りませんよ」

 「だから死ぬわけねえだろって。ほら、死ななかったし」

 「ふん!」


 エレノアが広間から出て行く。

 その足はどこか震えていた。


 「怖いのかぁ~? 付いて行ってやろうかぁ~?」

 「そんな訳ありません。私は勇者です。一人で倒せます」


 エレノアの足跡が遠くなっていく。

 まぁ豚野郎を一撃で倒したくらいだ。どうってことないだろう。

 それに疲れた。

 

 「あ~ちょっとこの戦い方しんどいな~」


 と痛がる天井の下だった。裸の床が冷たい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ