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13.ゴーレム(レベル2)

 真っ赤っ赤の夕焼けで、馬車の兵士たちも赤信号って感じだ。変な緊張感が漂っている。めんどくせえ。馬車は森の中、砦はあとどれくらいでつくんだ?


 「おい、どれくらいでつくんだ?」貧乏ゆすり兵士へ聞く。

 「あと十分ぐらいじゃないですかね……」

 「十分だって? 十分間もお前らの、死んだ地蔵みてえな顔の見てなきゃいけねえのかよ!」

 「そんなこと言われたって。知らないですよ!」

 「いいからその貧乏ゆすりやめろ! 床が揺れて気になんだよ!」

 「わかりました」ガタガタ……ガタガタガタガタッ!

 「やめろって言ってんだろ!」

 「ひぇええ!」

 「カルロス、何をやっているのですか! もうすぐ砦です。緊張感を持ってください」

 「ったく。わかったよ」ガタガタガタ。真似。

 「貧乏ゆすり止めてください!」

 「なんで俺だけ!」

 「日頃の行いじゃないですかね……」

 「よし、ぶっ飛ばす!――」


 ズドンッ。馬車が止まった。

 ローズちゃんがこっちを覗いてきた。


 「物騒な声が聞こえましたが、どうかしましたか!」

 「いえ何も。ないですよ」

 「ええ何も。ないです……」ガタガタガタ!


 あるだろ。

 外に出る。もうすぐ夜が訪れるだろう。砦が夕と森の間に建っている。作戦通りに皆が砦を囲むように森に隠れていく。俺とエレノアもそう。

 林から砦を覗けば、案外立派。かなり荒廃している。穴だらけ苔だらけだ。

 四階建てくらいの塔が中央、周りに壁がある。三メートルくらいの高さ。ところどころ崩れているから中に入るのは容易い。しかし骸骨とゴブリンとあんどそーおん。それとゴーレムが堂々と砦の入り口にいる。近寄りがたいな。

 あと塔の天辺に誰かいる。とんでもねえ、忌らしく気持ち悪い気配だ。背はエレノアと同じくらいか、なんか口から頭までひらひらしている。頭巾とマスクをつけているのか?


 「あれが手長女ですね」エレノアが呟く。

 「呼び方それでいいのかよ」

 「じゃあレベル3とかですか」

 「手長女でいいや」


 天辺に影がもう一つ。鎧の魔物だ。傍から見りゃ騎士だけど、黒ずんだ鎧が魔物らしい邪悪さを物語っていた。あの黒は血の錆びたものだ。どれほどなんとも思わずに人を殺してきたのかがわかる。

 そうこう様子見している間にローズが砦へ近づいていた。その後ろに兵士三人が宝箱を持ってついていっている。

 ローズらはゴーレムの横を通って塔を見上げた。


 「お前らの約束通り100万ゴールドを持ってきたぞ。奥様を返していただこう!」


 ローズの気高い声が静かに木霊するに沿って、夕闇が深くなっていく。夜が来る。魔物の息がよく聞こえてくるようになった。上にいる女の姑息もまたそのように。

 バタン……塔の上から何かが四つ。落ちた。

 夜闇でわからず、ローズが兵士を動かした。兵士は絶句した――皮を剥がされすでに黒い。それは兵士だったものの遺体だった。

 手長女は口を覆っていたマスクを捨てた。長い舌が闇を舐める。


 「お前たちが持ってきたのは棺桶だ。お前たちの棺桶だ。灰を詰めるにはちょうどいいサイズのだ」

 「貴様!」ローズが剣を抜いた。

 「よく考えな。こっちには”奥様”がいるのでしょう? 歯向かえば殺してしまいますよ?」

 「クソッ!」

 「まぁもう。食っちまったけど?」


 女の目がギロっと光ったのが合図。砦壁の有象無象が矢をローズへ向けた!

 集中射撃。矢の一帯が体積を埋める。ローズらに抗う術なく、砦から撤退しようと振り向いた後ろ――すでに他兵士と空箱がゴーレムに潰されていた。

 ローズは塔の中へ走り込んだ。

 同時にそれが俺たちの突入の合図。

 兵士たちが林から飛び出て砦へ走る。


 「行くぞ! 我らに栄光を! 魔物に粛清を!!!」

 「おぉおおおおおおおおおおお!!」


 仲間を殺されたとなって兵士たちは復讐心に狩られたらしい。逃げず手長女を討ちに行ったローズの勇敢さに憧れたらしい。ゆえに林の兵士たちは矢を番える。作戦なしの、理性なしの、それがゆえの団結、尊厳による団結が、林からの一斉掃射。兵士の突撃をカバーする。

 今が好機だな。


 「よし。俺も行くかな!」


 俺も大剣を担いで林から駆け出そうしていた。けど、ちょっと気になった。意外にもエレノアが兵士よりも俺よりも遅れていた。まだそこにいた。呆然としていた。


 「おい。戦いはもう始まってるぞ」

 「そ……そうですね。わかってますよ!」気迫を取り戻した。

 「俺がゴーレムをやる。兵士にはちょいと豪華すぎるからな。エレノアは塔に行けよ」

 「言われなくてもそうします。カルロス程度が私に命令しないでください!」

 「あーそうかよ!」


 せっかく心配してやったのに。あんなんじゃ、碌な死に方死ないぜ。誰かみたいにきっと最後まで一人で悲しく――? なんでか涙が出てた、一粒だけ。誰かって誰だ?

 今はそれどころじゃねえ。兵士たちが嘘みてえに宙へ飛ばされている。砦まで辿り着いた兵士たちをゴーレムがなぎ倒していた。

 兵士たちの勢いが止まった。単に打つ手がなくなっちまった。

 それだけじゃない。矢に射られて倒れていた壁の魔物どもが徐々に立っていく。そんでもって砦の前にいる兵士に狙いを定めていた。

 青ざめる兵士が一人。


 「こんなのどうしろってんだよぉ……」


 ゴブリンが矢を放つ。


 「ニンゲン。シネシネ!」


 先の欠けた古い矢が風に揺れながら兵士の弱く、愚かな顔面に走る。この臭い矢に兵士が気付くのはすでにそれが目と鼻の先まで来ていたときだった。

 虫のように人も死ぬ。

 そしてゴブリンが笑った。

 

 「で、俺も笑った。あっひゃひゃ! 柄じゃねえな」


 俺は指に摘まんだ矢を投げ捨てた。そんでもって腰抜かしている兵士を蹴った。

 兵士の顔にあった俺への憧れが失望に変わっていく。だからなんだってんだ。気持ち悪い。

 こんなやつもあんなやつもどうでもいい――砦の門番。あのひと際大きいゴーレムだ。進んでいく。


 「おい退け。お前らは周りのカスを倒しとけ。こいつは俺がやってやるぜ」

 「人間風情が生意気だ」

 「おい誰だ? 俺に文句言ったのは!」


 兵士共が俺の後ろに指差した。


 「俺だ」

 「あ?」


 ゴーレムだった。ゴーレムが喋った。


 「なんだよ。石風情が人の言葉使ってんじゃねえよ~」

 「コロす!!」


 でかくドーンっと! 俺目掛けて石拳が落ちてきた。

 まぁ遅い。飛んで簡単に躱せた。

 ゴーレムなら拳で砕いたことがある。あのときは足を砕いて身動き取れないようにってやってたけど、今度は――がら空きの頭から潰してやるぜ。

 俺は剣を背の鞘へしまって、両拳を握ってそのまま石野郎の固い頭に食らわ――ギロっと。石野郎と目が合った。でも実際に見るべきはそっちじゃない――ゴーレムの、さっき俺へ叩きつけようとした拳が地面にめり込んでいた。それが今、土石を持ち上げていた。

 その面積、体積、重量、致死量。


 「バイ・バイ!!」

 「頭が固そうじゃねえな!」


 土石が飛んできた。空中の壁。大きすぎてとても避けられない。

 だから俺は殴って砕いていく。でもこの間も俺は自由落下しているわけでそこには――石野郎の拳が待っていた。

 俺はとっさに守りの姿勢を取った――ものの思いっきり殴り飛ばされた。砦壁を打ち破って、近くの魔物とこんにちわ。


 「シネ!」

 「魔物語は物騒だな!」


 ワンパン。そいつは倒した。

 あの石野郎。前のやつとは比べ物にならねえパワーがある。

 俺を追放したと思い込んでやがる。石野郎はすっかり兵士と戯れている。腹立つな。こっちはピンピンしてるってのに。

 俺はちょうど転がっていたゴブリンの頭を持ち上げ、身体をエーテルで圧縮・強化。石野郎に投球した。

 風に白い色が付くほどの剛速球が石野郎へ飛んでいく。


 「ナンだ?」


 気付くも遅い。石野郎の胴体にそこそこの穴が開いた。

 石野郎が覗く、穴の向こうからこんにちわ。


 「なんだよ。痛くも痒くもないってか? 石だからそりゃそうか。触覚なんてないもんな。お前の相手は俺だぜ。浮気してんじゃねえぞ」

 「ナンダト。まだイきていたのか。ニンゲンにしてはしぶとい。ならもっとコワす。だったらコンドはツブスだ!」


 石野郎の殺気がこっちに向いた。

 石野郎の穴から見える。ぞろぞろと兵士が壁の内側へ中へ入って行く。雑魚の魔物と戦い始める。エレノアも通り過ぎて塔へ入って行った。

 あれ。見えなくなった。穴がもう塞がっちまった。中に石工職人でもいるのか?

 だったらやっぱり、こいつを倒すには風介術が必要だ。さっきの~圧縮投球~もちょっとは通用したし、もっと身体を強化すれば、違うな、爺から教わった、拳だけに集中して圧縮するやつ。なんだっけ。これにも名前がほしいな、長ったらしくなるし、、、そうだなーえーと。


 「おいニンゲン」

 「話しかけんな! 今考えてんだから技名」

 「どうせオマエはオデにはカてん。だからメイドにナグらせてやる」

 「なんだって?」

 「ジュウビョウやる。どうだ?」

 「十秒殴っていいって? 舐めやがって。上等だ。すぐ瓦礫に変えてやんよ!!」

 「サァドウカナ?」


 石野郎が律儀にゴブゴブと俺の前に歩いてきた。「ここだ」とありもしねえ心臓に親指差して。慢心してやがる。むかつくぜ。それにしても近くにくると大きいな、俺の倍くらいの身長があるぜ。

 俺は拳を握りしめ、目を閉じた――深呼吸より少しだけ荒々しく。風の流れに耳を澄まし、エーテルを感じ取る。そいつを自分の背中に吸い込んでいくイメージ。だったっけ? 合ってる? そいつを右腕から拳へ圧縮――爺にシバかれただけあってスムーズに力が入る――ここだ!


 「必殺! 石砕き!!」


 左つま先で踏切ると、研ぎ澄まされた右拳が非常に滑らかに石野郎の鳩尾へ――石野郎の腹面を砕き、瓦礫を飛び散らせながら抉り込み、突き抜けた!!

 石野郎の胴にクレーターよりも大きな穴が開いた。向こうの空にヤッホーだ!


 「ヤッホー!」

 「ナンダ。これでオわりか?」

 「はぇ? 効いてねえ」

 「そうだ。キかない。そして――」


 花が咲くようにこいつの内側から石が生成されていく。俺が頑張って開けた穴が劇的ビフォーアフター。まるで何の変哲もなくなった。


 「ツギどうするダ?」

 「じゃ、じゃあもう一回!」

 「ダメェー!!」平手ビンタ。


 バキューンっと、俺は場外ホームラン。またもや砦の壁を破って、今度は林の木まで叩きつけられた。

 クソ。あの野郎、不死身なのか。魔物みたいだぜ。魔物じゃねえか。

 でもここで引くわけにはいかねえ。兵士がなんとか雑魚と交戦している。なんなら優勢だ。俺が何としても石野郎を砕かなきゃ……そうだ。砕けばいいんだ。

 スッと足を圧縮。飛んで火にいる夏の虫。じゃ全くねえよ。すぐまたゴーレムのところに戻る。


 「なんだ? またイきていたのか。しつこい」

 「お互い様だろ。なぁ、提案していいか」

 「なんだ」

 「もう一回だけ十秒くれよ」

 「……ダメだ。なぜかというとな――もうここでフンサイするからだ!」


 石野郎が手を地面へ突っ込んだ。またさっきの石投げをやるつもりだ。

 俺はその前に突撃――走りながらでもできる。だってもう慣れてきたから。石砕きの準備をしながら距離を詰めていく!


 「アマいッ!!」


 石野郎が手を掻き揚げた。フェイク? 石を投げるわけじゃねえのか!――砂嵐と瓦礫が飛んできた!

 やっぱり石野郎の頭は柔らかった。遠距離攻撃まで考えていたとは。それも矢と遜色ないスピードと威力。

 こっちが走ってるってのもあって、スピードも威力も倍の倍。とても逃れられない。だから腕で守るしかねえ。

 加えて砂が霧になってほとんどなんにも見えねえ。腕で体を守った分、視界も狭まって。もうなんも見えねえ。

 ここで追撃されたらたまったもんじゃない。けど幸い、石野郎の足はクソ遅せぇし、足音も大きいから動けば分かる――でもそれにしたって、静かすぎねえか?


 「…………まさか!」


 晴れた霧の外。石野郎が岩石を持ち上げていた!


 「そのマサカ!! タえられるカナ!」


 石野郎は器用にも岩石を指圧で砕くと、大きく振りかぶって――投球。


 そのスピードも威力も矢の比じゃねえ。まさしく弾丸。散乱銃だ。

 だから避けられねえ。ってまた守りの姿勢を取っても穴だらけになっちまう。ど、ど、ど、どうする?――大剣を抜いて盾にする。しかねえだろ!

 大剣を地面に突き刺し、隠れる。

 これがなんとかなった。岩石を悉く弾いてくれたぜ、破片がたまに体を掠るのはご愛嬌。

 嵐が過ぎ去った? とホッとしたとき――石野郎はもうそこにいなかった。

 じゃあどこにいたかって?――俺の隣りだ。


 「チェックメイト!」


 ギュワンッ。石野郎が俺を掴み取った。こう抱きしめられてみると布団くらいの大きさがある掌だ。寝心地はぎゅうぎゅうで最悪だ。徐に俺を握り潰してくる。


 「ニンゲンはヒヨワ。ヒヨワだね!」

 「共感するぜ」

 「するべきなのはコウカイだ!」

 「そうだな。その言葉、そっくりそのまま返してやるよ!」


 俺はフンっと――それから体をフンっと、大きく広げてみればあら不思議! 石野郎の石布団が木端微塵に砕けた!


 「なバカな! どうやって!」

 「よく馬鹿って言われる俺から教えてやるよ! 風介術だ! それと反撃開始だってことも!」


 石野郎の右手が俺を逃がすまいと伸びてくるも、これを難なく躱し、勢いそのままに踵落とし!――石野郎の腕が真っ二つ。

 そして俺が提案する。


 「十秒貰うぜ」

 「ダメだ!」

 「拒否権は無え!」


 石野郎が必死になって両腕を再生させようとする。かなり焦って、後ずさりすらしない。ここにあるのは恐怖。俺に負けるという確信だ。ここに来て石野郎の焦った表情に俺は――興奮した。今なら最高の一発を叩き込める。

 エーテルを吸引し、拳へ集中、圧縮。石野郎の再生が先か、俺の一撃が先か――予想外にも石野郎の再生がさっきよりも速い。左腕を元に戻し、手を広げ盾にした!

 だからなんだってんだって話だ。それと同時に俺は拳を叩きつける。


「石砕き(仮)!!」


 命名の通り。石野郎の左掌が硝子のごとく砕け散り、腹に風穴を開いた。

 でも石野郎はまだ存命だった。見る見るうちに穴を塞ごうとする。


 「まだやる気かよ」

 「ユルさんユルさん……」

 「だったらこっちも殺し尽くしてやるまでだぜ!」


 俺は石野郎の腹の内側を掴み、引き裂く。エーテルなんざ、もはやいらねえ、というかそんな余裕がない。馬鹿力だけでビリビリに引き裂いていく。


 「砦解体業者だ! ぶっ壊してやるぜ! オラオラ!!」


 石野郎が再生すればまた一つ破き、また一つ裂く。

 そうこう血石をバラ撒いていたら石野郎が停止していた。

 いつの間にか気絶していたみたいだ? 再生しなくなってる。

 そうやって眺めているうちに石野郎が灰になっていく。塵になっていく。死んでいた。

 あんだけ大きかった物が消えまってすっきりした。でもまだ物足りねえ。

 俺は横たわるゴブリンを踏んづけながら塔へ近づいていく。

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