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12.貴夫人誘拐事件

 昼もぶら下がり、正午の鐘が船を揺らせた頃。船旅がやっと終わった。

 二日だけなんだけどな、爺との修行のせいで時空が歪んだぜ。

 港へ着くと爺は先を急ぐからと去っていっちまった。また縁があるかもなって笑ってやがったが、もう修行はうんざりだ。結局、内の圧縮だけしか覚えられなかったし。

 で、俺はもう爺と会いたくない。だからさっさと町を出ていきたがるエレノアをどうにか止めようとした。馬車の出発が三十分後、その後は二時間後、それが過ぎたらもう今日は出ない。だから時間稼ぎを二度すればいい。ともかく直近の一回目、俺は嘘をついた。


 「エレノア。知ってるか、この町で盗賊が人を攫ったらしいぜ」嘘。

 「私は勇者です。魔物を倒すことが使命ですよ。衛兵がやることですそれは」

 「いやでも、勇者なら困っている人を助けなきゃダメなんだろ?」


 と適当に話を伸ばす。エレノアが呆れて馬車へ行こうとしたら適当に勇者を馬鹿にする。


 「光とか闇とか言って中二病かよ」


 ってな。そういう作戦だ。キレたら三十分ぐらい馬車を忘れんだろ。

 ところがどっこい。ふさふさの髭のおっさんがやってきた。服装が熊みてえに厚着だから貴族っぽい。サファイア色の服だ。青熊だな。

 で青熊が騎士を並べてこっちに来たと思ったらいきなり頭下げたんだぜ。


 「勇者様! どうか、私の妻を救ってくだされ! 盗賊に攫われてしまったのです」

 「マジかよ……」


 こんなこともあるのかって驚いた。あとなんか喜びがあったな。今、空から金貨が降ってくるって言ったら降ってくるんじゃないかって陽気にもなった。降ってこなかった。

 けどそんな場合じゃねえ。この青熊、気持ち悪い雰囲気だぜ。関わったらなんか損しそうだ。プンプンする。本筋から外れる臭いが。エレノアと関わってから災難ばっかりだし、同じ様な臭いがする。

 だったら爺のつまらねえ話聞きながら馬車乗った方がマシだぜ。


 「エレノア。人攫いは衛兵の仕事だぜ。俺たちはいち早く王様のところに行かねえとダメだろ」

 「そうですね。しかし困っている人を見捨てられません」

 「おい。さっきと言っていることが違うぞ」

 「あなただってそうではありませんか? 嘘つき」にたにた。 


 エレノアはそのまま青熊についていったんだ。それでわかった。エレノアもあの爺と一緒の馬車に乗りたくなかったんだなって。俺との違いは、俺は今、ものすごくあのクソ老人を大事にしたい気分だってことだ。仕方がねえから、俺もエレノアについてった。


 「ちょっとそこの青髪のお客様! お荷物忘れてますよ」

 「あ? なんだよ」


 船のスタッフだ。丁寧に平台台車で運んできてくれた。


 「これ、お客様の剣ですよね」

 「ああ悪いな。すっかり忘れてた」


 さて、大剣担いで平坦な町を通ってお屋敷の門を潜って大広間へ。騎士がせっせと資料持ってきた。

 青熊がそりゃあ迫真めいて十五秒くらい泣いて見せて、悲しさのあまり、ここを騎士長に任せて、階段上ってった。寝室に籠った。みっともねえ。

 騎士長。殺伐とした長身の女だぜ。俺よりちょっと小さい、まぁ女にしては大きな方だけど、大きいと言えばどこかしこも、どこもかしこもだから態度もだ。分厚い女だぜ。


 「勇者様。私はアスチルベ王国第二騎士長ローズです。テルナでのご活躍聞いています。今回の一件、ご協力に感謝します」差し出されたの手。

 「え、ええ」真面目さに気圧された小さな手。握手して痛かったのか、手をバタバタ。

 「そちらの従者殿もよろしくお願いします」握手の手。

 「俺はカルロス。従者殿なんて呼ぶなよ。カルロスのほうが千倍カッコいいからな」握手。手をバタバタ。この女、握力強。ゴリラかよ!

 「では状況を説明します。いいですか」

 「ちょっと待て。地の文一つ入れたい感覚だぜ」


 地の文。小説家の間合い。


 「では説明します。発端は二日前のパーティーでした。身代金を無視していたことに憤った盗賊が数十名、町へ攻め込んできて騒ぎになりました。そちらのほうは衛兵が対処しましたが、こちらが実は囮で、屋敷の中に騎士に化けていた魔物が二匹いたのです。やつらがロペス殿の奥様を攫って行ったのです。『三日後、100万ゴールドを持って北の廃砦へ来い』と紙切れを残して」

 「盗賊は魔物だったのですか」

 「はい。だから衛兵も騎士も屋敷の魔物に気づかなかったのでしょう。町へ攻め込んできたのもそうだったと聞いています」


 俺は欠伸した。一応説明しておくが、三日は漢字でいいし、100万は数字でいい。ゴールドは洋風な雰囲気があるからな。そんなのはどうでもいい。

 エレノアが俺にムカッとした。


 「仕事を受けたのは勇者様だぜ」

 「わかっていますよ。つまりは今から砦へ行って殲滅して来ればいいのですね。いってきま――」

 「いえ、違います。作戦はすでに決まっています。しかし相手にレベル3の魔物一匹、レベル2が三匹いるので兵力にやや不安がありまして。手をお借りしたい」

 「わかりました。れべるさん? 一番強い魔物は私がやりましょう」

 「頼もしいですね。流石勇者様です!」握手要求。

 「あはは。もちろんですよ」それとなく拒否。


 暇なので、そこの騎士が読んでいた資料を拝借。『魔物は三十匹ほど。レベル3が一匹。手の長い女。レベル2が二匹。鎧、ゴーレム。レベル1、他』なるほどわからん。


 「おい、お前。レベルってなんだ」騎士に聞く。

 「レ、レベルというのは能力のことです。レベルが高いほど高度な技や魔法を使いますし、単に硬かったり治癒能力が高いです。それに人に化けたり言葉を発するのもレベルが高い魔物らしいです」

 「なるほどわからん。高いほど強いってことだろ?」

 「え、ええ。魔物のレベルは3まであります。3がマックスなんです。魔王となると違うようですが」

 「ふーん」


 鎧ってのは騎士っぽい。人間じゃねえのか?って読み込んでみた。『首を切ったはずが頭がそもそもなく、反撃されて衛兵が犠牲になった』どうやら鎧の中には何も入ってないらしい。じゃあ魔物か。魔物だな。

 もう片方のゴーレムは読むまでもねえ。洞窟で倒したやつだ。

 騎士長の女が地図を広げた。


 「作戦を説明をします。こちらの兵士は二十一。私を含めてです。魔物の数は三十前後と思われます。砦の中の構造は以下の通りです。ゴーレムが砦の入り口を数匹の魔物と固めていることがわかっています。まず私が身代金を持って砦へ入ります。その後、砦へ侵入していた兵士数名が隙をつき、私が奥様を救出します。その後は――」

 「倒せばいいのですね」

 「はい。私と兵士でレベル1の大半、レベル2一匹の相手をします。恐らくゴーレムになるでしょう。他の二匹は勇者様方にお任せしたいのですが」

 「はい。やりましょう」

 「そうですか。作戦の決行は今日の17時です。町の前に馬車があります。それまでに準備を」

 「わかりました。任せてください。私は勇者です。魔物を駆逐してやります」


 エレノアは今にでも撃破してやろうという、まるで目の前に魔物の幻を睨むような眼光で俺の横を通り過ぎていった。どうして魔物をこんなに憎んでんだろうな。手が震えるほどに?

 

 「おい、騎士長。質問がある」

 「なんでしょうか、カロルスさん」エレノアが立ち止った。

 「カルロスだぜ。ローズちゃんよ。もしもあいつらが身代金を貰って素直に奥さんを返して来たらどうする?」

 「だとしても相手は魔物です。また同じようなことをするでしょう。始末しますが」表情一つ変えずローズは言った。

 「そうか。それともう一つ聞いていいか」

 「なんでしょうか」


 と、俺が質問しようとしたところエレノアが俺の腕を引っ張った。そのまま屋敷から出ようとした。大した力じゃねえから、逆に引き返してやろうかってふざけたものの、だんだんと手が痺れてきて抗えなかった。

 エレノアは屋敷の門を潜ってから俺を離した。


 「おい。なにしやがる」

 「今は二時です。作戦は五時ですよ。もう時間がありません。迷惑なだけですし、理由がどうであれ私たちは奥様を助けなければなりません」

 「だったら聞いてもいいだろ」

 「違います。とにかく違うのです」

 「なんだそれ強引過ぎるだろ――」


 ぐぅ……すぴっ。お腹の音。俺のじゃない。


 「さ、さて。急ぎましょう! 急がないと!」居たたまれず恥じらう頬。

 「あーわかったよ。俺もぐぅぐぅ~! ほら、空いてた!」

 「カルロス。あまり勇者を舐めない方がいいですよ」

 

 ムッとエレノアが怒ったところで俺は町へ下りた。これが案外、しつこく追いかけてきたからほんとうに疲れて腹が減った。エレノアで遊ぶのは控えよう。こいつ、マジでしつこい。



~~あとがき~~

魔物なのに誘拐とか回りくどくねって思った読者は漏れなく魔物なのでそろそろ倒されます。


今更だけど投稿時間が変わってきてます。平日も土日も夜の九時か十時くらいになりました。


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