#初めてできた「帰れる場所」!!
「そろそろ限界かしら」
オセロに似たボードゲームで遊んでいると、ルルがうとうととしだした。
「あ、僕が運びますよ」
「んぅ…」
虎太郎は、まだ軽いルルの体をそっと抱き上げベッドまで運んだ
「虎太郎さんはまだ眠くありませんよね? アップルティー、召し上がりますか?」
「あ、は、はい」
身内にも知り合いにもセレナと同世代の女性はいないし、恋人ができたこともないので、女性と二人きりになった虎太郎は意味もなく緊張してしまう。
「えと、その、リ、リンゴ、お好きなんですね! アップルティーにアップルパイ」
「ふふ、この国ではリンゴが一番安いからなの。久しぶりにお肉を食べたわ。本当にありがとう」
「そ、そんな」
「虎太郎さんって不思議な人ね。なんとなく、なんでも話せてしまう」
「そう……ですか? そんなこと言われたの初めてで……」
虎太郎は照れくさそうに頬をかいた。
セレナはカップを両手で包み込む。
「私、ルルの前ではしっかりしていなきゃって思っているの。両親がいなくなってから、ずっと」
「……」
「でも、虎太郎さんと話していると、なんだか少しだけ肩の力が抜けるのよね」
虎太郎は、何と答えればいいのか分からなかった。
ただ、セレナの言葉が嬉しかった。
この世界に来てから、役立たずだと言われ、誰にも必要とされなかった。
それなのに今、自分と話すことで誰かが安心してくれている。
「……僕でよければ、いつでも話を聞きますよ」
セレナは少し驚いたあと、優しく微笑んだ。
「ありがとう、虎太郎さん」
しばしセレナはカップを両手で握りしめ、揺れるアップルティーの水面に視線を落としていた。
「この街の下には、ダンジョンがあるの。それも最近はモンスターが増えすぎて、冒険者のAランクでも攻略が難しくなったそうなの。だから、そこから湧き出てくるモンスター増えていて……最近では、Aランクに匹敵する危険なモンスターまで現れるんじゃないかって噂になってるわ」
セレナはそう言うと、虎太郎の手をそっと握った。
「もしも……もしも、私に何かあったら、妹をお願いしてもいいかしら」
「なっ……そんな縁起でもないことを言わないでください! そんなの、想像したくもありません!」
「優しいのね。ありがとう」
セレナは微笑んだ。
その笑みがあまりにも儚げで、虎太郎は胸が締め付けられる思いがした。
そんな危険なモンスターが現れるなんて。この街に生きている限り、いつ危険が迫るかわからない。
妹を守るために、彼女はどれほどの不安を抱えているのだろう。
けれど、勇者であるタカシが召還された。
これからは街からモンスターは減るはずだ。
虎太郎は、そう自分に言い聞かせた。
翌朝。
「コタちゃんもう行っちゃうのー?」
「うん。泊めてくれてありがとうね」
「ぜったいまた泊まりに来てね。約束のゆびきりー」
「あはは、指きりなんて何年ぶりかな。約束だね」
小さな指を結んで、虎太郎は笑った。
「また、いつでも泊まりに来てね。アップルパイを焼いて待ってるわ」
「でも…、本当に、いいんでしょうか」
「本当にいいに決まってるの! コタちゃん、いつでも帰ってくるの!」
「ええ。帰ってきてください。私に、『おかえりなさい』って言わせて」
「──ありがとうございます」
がばりと頭を下げて虎太郎は踵を返した。
帰れる場所が出来た。それが自分でも驚くぐらいに嬉しかった。
だからこそ、守りたい。
この場所を守るために、自分もダンジョンに潜りモンスターを倒そう。
ダンジョンを攻略すれば魔素が減り、街にモンスターが現れる危険も少なくなるはずだ。
──もう、帰る場所を失いたくない。
虎太郎は固く決意した。
その頃、ルルとセレナは、虎太郎が使っていた部屋に山盛りのポテトとハンバーガーが置かれているのを見つけた。
「わあっ! こんなにいっぱい!」
ルルが目を輝かせる。
虎太郎が二人のために残していった、お礼の品だった。




