#深夜のエルとクロの会話
「はぁー、空気が美味しい。やっぱり都会とは全然違うわ」
「あんまわかんねえなぁそういうの」
「感性死んでるの? 虎太郎もそんななの?」
「こんなもんじゃねえ? あいつはいつも目先の事しか考えられないからさ」
「クロは、虎太郎がいなくなったらどうするの?」
「……考えたことねえな。というかその前提がなりたたねえというか。オリジナルが消えたら俺も消えるからな」
「そんなのわかんないじゃない!」
「俺にはわかるんだよ。なんかこう、感覚で」
「女王様の話を聞いて……クロ自身は、どう思った?」
「俺は………」
クロは言葉をしばらく置いた。
「俺は、何も。ただ、虎太郎が動揺したのがショックだった。俺は間違いなく、あいつの復讐心なのに」
「虎太郎はあんたの何なのよ」
「本体だろ」
「私はエルフィナの複製だって思ってない! どうしてそこまでオリジナルにこだわるの!?」
「復讐の為」
「だからどうして!」
「俺の自我とかどうでもいいしなぁ。というか俺の性格が本当の虎太郎の性格の可能性も高いし」
「私からみたらあんたと虎太郎は別人にしか見えないわ」
「そうなの? まぁ喋り方とか一人称が違うからかぁ? 言ってる内容はほとんどおんなじだぜ」
ふぅ、とエルが溜息をつく。
「あんたは何をしたときに幸せを感じるの?」
「────そんなの、考えたこともねえって。虎太郎が笑ってりゃ俺も幸せって感じか?」
「それ、クロの幸せじゃないじゃない!」
「だから、あいつが笑う=俺も嬉しい的な?」
「答えになってないってば! あんた自身の幸せの話!」
「わからん!」
「もっと真剣に考えて!」
「俺はあいつの復讐心だよ。だから───魔素を消せれば、幸せかなぁ」
「そうじゃなくて!もっと!こう!無いの!?」
「ねえけど」
「こうやって、女の子の手握って幸せとかないの!?」
エルがいきなりクロの手をぎゅっと握りしめた。
「いや、相手がお前じゃなあ」
「もういい!」
踵を返してエルは家に戻っていってしまう。
クロは都会よりも澄んだ星空を見上げて、握られた手を、開いて、閉じた。
ふと、何かが浮かんだ気がしたが、それはすぐに霧散して消えた。
────
翌朝。
エルフィナと、エル、クロは香ばしい匂いで目が覚めた。
「あ、みんなおはよう」
「コタロ、凄くいいにおいする」
「うん。朝ご飯作ったんだ」
「飯? じゃあ俺をカットしろよ。──って、四人分も作ったのか? 俺の分は必要ねえのに」
インベントリに入れていた食材を使って虎太郎は食事を作っていた。作ったのはパンケーキだ。
パンケーキを重ね、その間にはたっぷりとホイップクリームを挟んでいる。周囲には苺、ブルーベリー、カットしたキウイが散りばめられていた。半分に切られた苺は花弁のように並べられ、はちみつとベリーソースがたっぷりとかけられている。上にはアイスクリームまで乗っていた
「「わぁ!!」」
女子二人が喜びの歓声を上げる。
「凄い綺麗! 虎太郎って料理できたんだ!」
「美味しそう!」
両親が共働きだったため朝食は虎太郎の当番だった。「明日は豪華なパンケーキでよろしく!」と母に言われ、夜にホイップクリープと果物を買いに走った過去を思い出す。
「昨日のお詫びに。皆で食べよう」
一つしかなかった椅子はペーストで増やして4つに増やしている。
「すごいの、ここで誰かとご飯食べる日がくるなんて思ってなかったの! ありがとう、コタロ!」
「美味しかったらいいんだけど」
「いただきます!」
エルが香ばしく焼きあがったパンケーキにナイフを入れて、たっぷりのホイップクリームと一緒に口に運ぶ。丁度いい焼き加減のパンケーキと甘いホイップクリームが口の中でとろける。
「──!! え、うそ、すっごい美味しい! こんなデリカシーない男が作ったご飯なのに!」
「あ、マジで美味ぇ。飯ってこんななんだ」
『食事をする』という経験が一度もなかったクロとエルが、生まれて初めての食事に喜びの声を上げる。
「すっごく美味しいー! これで、昨日のことは許してあげる」
「よかった」
「でもちょっとだけ。全部は許さないー」
「そんな! 僕は本当にエルフィナが嫌だったわけじゃなくて、ほんとに、僕がいたら邪魔かなって思っただけで」
「だから尚更なのよ。ほんっと虎太郎って、人の心がわからないんだから」
「うう」
虎太郎も席に着き、パンケーキを食べる。一口食べて眉をひそめた。
「焼きすぎてる……! これじゃあエルフィナが僕のことを許さないのも当然だ──」
「いやそういう話じゃねえんだわ」
クロが虎太郎に突っ込みを入れた。
「にぎやかで、うれしい」
エルフィナが本当に嬉しそうに笑った。
────
食事が終わり、王都へ戻り、ギルドの受付前。
「んー」
「んー」
虎太郎もエルフィナも不機嫌そうな顔でカウンター前に並んでいた。
「あらまぁ、どうしたの二人ともむすっとした顔して。喧嘩でもしてるの?」
むすっとした顔をしていたエルフィナと虎太郎に、買い取り専門のギルド嬢もといギルドオネエ、マリリンが問いかける。
「あ、いえ、違います! 僕たちが喧嘩してるわけじゃなくて」
最初は四人で帰るつもりだった。エルフィナもそう勧めたのに、クロもエルも嫌がったから無理やりカットして戻ることになった。それがエルフィナも虎太郎も不満だったのだ。
「さて、今回の換金したいものはなあに?言っておくけど一個ずつ出しなさいね」
「わかりました。まずはティラノサウルスの全身骨格」
巨大な骨の出現にガシャガシャガシャーンとテーブルと冒険者がひっくり返った。
「喧嘩売ってんのかてめえええ!!!」
そして何度目かもわからないオネエの怒声が響き渡ったのだった。
「また怒られた…」
肩を落とす虎太郎の頭をなでてエルフィナが慰めたのだった。




