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#無能力者を呼び出してみた(勇者タカシ視点)

 異世界に召喚されてから、タカシの生活は一変した。

 毎日豪華な食事が用意される。食卓には見たこともない料理が並び、専属の侍女たちが身の回りの世話をしてくれる。欲しいものがあれば、兵士に頼むだけで大抵のものは手に入った。


 街を歩けば、人々が足を止めて頭を下げる。誰もがタカシを勇者様と呼び、尊敬の眼差しを向けてくる。

 何をするにも特別扱い。誰からも敬われ、何不自由なく暮らせる毎日。

 最高だ。

 こここそ、タカシが望んでいた世界だった。


「これもこれも地味! 明日の凱旋にはもっと豪華なドレスにして! もっと宝石をちりばめて、背中には天使の羽を付けるの!」

 タカシの目の前で着替えていたぷりんが、侍女にドレスを投げつけた。


 そろそろこいつとも終わりにしなきゃなぁ。タカシは寝転がり肉をむしゃむしゃと頬張りながら思った。元の世界にいた頃から虎太郎の二倍はあった体重は、こちらに来てからさらに増加している。


「美女をあてがえ」と、バルドレオンに何度も命令したものの、「勇者様は高潔でいらっしゃらなければなりません。ぷりん様がいらっしゃるのに、他の女性を侍らせるなど、とんでもないことです」と、却下され続けているのだ。


 ぷりんは正直、美女とは言い難い。もっと言えば、中の下だ。

 一緒に召喚されたぷりんは「聖女」だと言われたからそばに置いているが、こいつがいる限り、美女を手に入れることができない。


 勇者の隣に立つのは、誰もが見とれるほどの美女でなければならない。

 こちらの世界なら、女性などよりどりみどりに選べるはずだ。

 だから、さっさとぷりんと別れる方法を探さなくてはならない。

 「聖女を追い出した勇者」などと世間から非難されずに済む方法を。


「タカシ様、そろそろ訓練のお時間でございます。ご準備を」

 そう進言してくるバルドレオンに、タカシは食べていた肉の骨を投げつけた。


「俺はこうしてるだけでも街を浄化してるんだよ。訓練なんて必要ねえ」


 バルドレオンは鎧に向かって投げつけられた骨を見ないままに続けた。

「浄化はタカシ様のお力ではございません。街が浄化した原因は判明しております。前にも申した通り、冒険者、虎太郎殿がFランクダンジョン『粘液の洞窟』をクリアしたからで御座います」


「はぁあああ?」

 どうしてここで虎太郎の名前が出てくる。

 タカシは盛大に顔をゆがめた。


「なんであの無能力者が出てくるんだよ。浄化の力は俺の力だっていってるだろうが!」

「──いいえ、虎太郎殿がダンジョンをクリアしたからでございます。虎太郎殿は魔素に脅かされる人々を救うため、自ら危険なダンジョンへおもむき、街の平穏を守るために、日々戦っておられるのです」


「だ、か、ら! 無能力者のあいつがどうやってクリアしたっつーんだよ!!」


 地味で目立たない陰キャのくせに、やたらと女子にモテていた黒崎虎太郎。廊下を歩いているだけで女子たちの視線を集めていた。女子たちが陰で虎太郎をめぐって牽制し合っていることも知っていた。

 クラスの一軍にいた自分こそが、注目され、女子にモテる存在であるはずなのに。


 ずっと気に入らなかった。

 クラスの中心にいる自分の方が格上のはずなのに、なぜか虎太郎ばかりが注目される。

 何度嫌味を言っても、まるで相手にされなかった。

 怒る価値すらないと言わんばかりのその態度に、タカシはますます怒りを覚えた。

 だが、ここでは違う。

 タカシは勇者で、虎太郎は無能力者として城を追い出された。城から追い出されたときの虎太郎の顔を思い出すだけで、笑いがこみ上げてくる。


 心の底から「ざまあみろ」と喝采した。異世界転生からの「ざまぁ」の展開に目を輝かせた。


 今頃は惨めな生活を送っているのだろうと思っていた。それなのに、バルドレオンはまるで虎太郎が立派な冒険者であるかのように話している。

 それが気に入らなかった。


 だが、攻略したのはFランクダンジョンだ。どうせ一般人でもクリアできる程度のダンジョンなのだろう。

 久しぶりに、空っぽの戦闘スキルを見て笑わせてもらうか。


「虎太郎を呼んで来い」

「──虎太郎殿に、どのようなご用件でしょうか」


「勇者様がわざわざ会ってやるんだ。ありがたく思えって言って連れてこい」

「しかし、虎太郎殿は現在も冒険者として活動されております。急にお連れすることはご迷惑にもなりましょう。彼の予定もご考慮なさっては──」

「はああ?」

 タカシは露骨に顔をしかめた。

「無能力者に予定なんてあるかよ! どうせ暇してるに決まってるだろ!! 俺が呼んでるんだぞ? 勇者の命令が聞けないっていうのか?」


「勇者様であろうとも、冒険者には冒険者の都合がございます。特に虎太郎殿は、この国から魔素を減らしたいという信念を持って戦っておられる方です。それに、私個人の意見として、あの方とお話するのは避けた方がよろしいかと存じま──」

「いい加減にしろ!! さっさと連れてこい!!!」

 タカシは勇者の剣を抜き、突き出た腹を揺らしながらバルドレオンに剣先を向けた。


「……承知いたしました。私が直接お迎えに参ります」

 バルドレオンは一礼すると、部屋を後にした。

 その背中を見送りながら、タカシは口元を歪めた。


 久しぶりに会う虎太郎は、どんな顔をするだろうか。きっと、自分の豪華な暮らしを見て驚くに違いない。勇者としての地位も、周囲からの待遇も、何もかもが違うのだ。

 せいぜい、自分との差を思い知らせてやろう。


 そう考えると、タカシは少しだけ機嫌を直した。



「えー、虎太郎を呼ぶの? あいつアタシのことをやらしい目で見てくるから会いたくないのにー。無能力者になったからって、アタシのことを諦めてないだろうしー」


 そういいながらもぷりんは上機嫌だ。

 口では会いたくないと言いつつ、内心では会いたいという気持ちを隠しきれていない。

 裏で女子が取り合うほど人気のある黒崎虎太郎──その虎太郎から自分は好かれているのだとぷりんは心の底から信じていた。

 ついでに、黄道十二宮の一人、獅子座のレオの名を冠する金色の髪を持つ将軍、バルドレオンにも狙われているのだという妄想も欠かしていない。


「そうだよ。あいつにも見せてやろうと思ってな。俺がどれだけ偉くなったかを」


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