#はじめての4人での夜
「エルフィナ、ここ、君の村なんだよね」
「そうだよ。久しぶりに戻ってきたから、懐かしい」
「じゃあ少し歩こう。君の話も聞かせてほしいな」
「わたしの話なんて、ないよ。気づいたら一人でこの村で暮らしてて、退屈だったから違う街に行ったら人間につかまって、売られそうになったんだもん」
「この村の、どの家で暮らしてたんだ?」
「ふふ」
エルフィナが笑った。「こっちだよ」
「どうして笑ってるんだよ」
虎太郎の手を引いて走りだす。
「コタロが、わたしのこと知りたいって思ってくれたの、嬉しい。ずっとずっと、遠い人だと思ってた」
「え、ずっとそばにいたのに」
「近いけど、遠かった。コタロの目はわたしを見てなかった」
「そんなこと───」
「わたしにはわかるの。助けてくれた時だって、コタロは、わたしをみてなかった。お金だけ渡して、捨てようとした」
「そ、そんなつもりじゃ!」
「そんなつもりだった。だからね。今嬉しいの。コタロがわたしのこと知りたいって言ってくれた。わたしを見てくれた」
「そんな風に思わせてたんだね…ごめん」
「謝らなくていい。コタロは、そんな人。最初からちゃんとわかってたから、ここが、わたしの家!!」
木のうろにあるが、大きな家だった。ベッドも6つもある。
だけどテーブルに置かれた椅子は一つだけしかない。
「ここで、一人で暮らしてたのか?」
「うん、ずっと退屈だった! でも今はコタロがいる!」
「君が」
「?」
「君が僕を変えてくれたんだ。モンスターは全部全部殺してしまおうって思ってた僕を」
「わたしはなんにもしてないよ?」
「人にも悪い奴がいるって教えてくれた。君を売っていた男、買おうとした男。モンスターが人のよどみから生まれるんだって、あの時思い知ったんだ。だからモンスターを殺すだけじゃ意味がない。よどみを生む人間まで殺さなきゃいけないって――あの時は、本気でそう思った」
「コタロはそんなことは出来ない人だよー。」
「うん、そうだね。出来なかった。ただ、君を買うことしか出来なかった」
「わたしは助けてもらったの、すっごくうれしかったの。でもね、すぐ捨てようとされて。いっしょうけんめいに、コタロについていかなきゃダメだって」
「あの時は混乱したなぁ。渡した金塊を渡されて僕を買うって言われて」
「そうだ。わたしがコタロを買ったの! コタロはわたしのものだよね!」
「あはは、そうなっちゃうのかなあ。僕は戦闘くらいしかできないけど」
二人はお互いを見ていなかった。虎太郎はベッドに水平に寝ころび、足を下ろした状態で、あおむけになって天井を見ながら、エルフィナは虎太郎が寝ころんだベッドの隣のベッドで膝を抱え込んでつま先を見ていた。
「コタロのおかげで、優しい人一杯知れたよ? マリリンさんに、フィオナさんに、クロに、エル」
「ペースト」
「うわ!?」
「きゃ!?」
唐突に呼び出された二人が部屋の中央に現れる。
「何で戦闘でもないのに呼び出してんだよ! 二人でまったりしとけよな! こっちはまだぐるぐるしてるってのによ!!」
「あはは、なんでぐるぐるするんだよ。僕は今凄く落ち着いてるよ。ベッドがふかふかで気持ちよくて」
「エルもぐるぐるしてる?」
「してないわよ。私は私。エルフィナとは違うもん。実家のベッド! 落ち着くー! うるさいのがいるけど」
「うるさいのって俺のことじゃねえだろうな」
「あんた以外に誰がいるのよ!」
「あーでもまじでべっどふっかふかだな。きもてぃー」
「そのいいかたきもい」
「女子にキモイとか言われたら普通に傷つくからやめろよな」
「あはははは、あんたが私の言葉で傷つくことなんてあるんだーそっかー!」
「何が面白いんだよ。女子にキモイって言われて傷つかない男がいるかよ」
「ふふふ、クロは、エルのこと、好き?」
「はい? いきなり何を聞いてるんですかこのエルフのお嬢さんは」
「エルはね、クロのこと、好きだよ」
「はぁ!?!? ちょ、な、そんなはずないでしょ!! 会ったばっかりだし! ってデリカシー無し無し男だし!! あんたに私のなにがわかるのよ!! これで確実に決定したわ! エルフィナと私は別人!!ぜんっぜん関係ない他人!! 私のことなんて何一つわかってない!! 勝手に動いて勝手に傷ついてボロボロになって心配ばっかりかけさせるようなこんな男、好きなはずないじゃない!!!」
「泣かないで、エル」
「泣いてない!! うるさい!! エルフィナの馬鹿!!」
「めっちゃ長文で文句言われた俺の心理をオリジナルが述べよ」
「エルが大切だ」
「はぁ!? やっぱお前も俺のことわかってねえわ! 傷ついても平気だっつってんのにギャーギャー騒いで泣き出すようなめんどくさい女を俺が大切なんて思うわけねえだろ! 口を開けば文句ばっかり言ってくるし今まさに長文でこき下ろされたってのに!!」
「ふふふ」
「あはははは」
「「笑うなオリジナル!!」」
「オリジナルじゃない。虎太郎とエルフィナで、エルとクロだ。エルフィナと出会うまでは、こんなこと考えもしなかったのにな」
「エルを作るからややこしくなったんだよ。あそこで止めとけば」
「止めとけば?」
「………………」
「ダンジョン戦がつまらなくなったんじゃないか?」
「そんなことねえよ。静かで良かったんじゃねえの」
「……そ」
エルが小さく呟く。
「……………やっぱ今の無しで」
「何なのよその優柔不断!」
「ぐあ、枕投げんな」
「──────す───」
「え、コタロ? 寝た?」
「この状態で寝るかこいつ。俺よりデリカシーというか人としての心ないんか。放置された俺はどうすりゃいいんだよ」
「コタロが寝たならわたしも寝る」
エルフィナがベッドから降りて、ベッドに上半身だけ乗せて寝ている虎太郎の横に、小さく丸まって目を閉じる。
「え、そんな感じなの?」
「ちょっと、放置しないでよ! エルフィナ、虎太郎!」
──────
「ん…」
深夜、虎太郎が目を覚ます。すぐ隣にエルフィナが寝ていてびくっとしてしまうが、クロとエルの姿が無いことに気が付いてそっと部屋を出た。
二人は家に背中を向ける体制で岩に座り、何かを話しているようだった。
そっと触れるように、指先だけ重なった二人の手を月明かりの下で見て、虎太郎はベッドに戻った。
ただし、エルフィナが寝ているベッドとは違うベッドに。
それから三十分もしない頃だろうか。スパーンと頬を叩かれて驚いて虎太郎は目を覚ました。
「あんた何考えてんのよ! さいってー! デリカシーなしなしなしなしなしなし男!!」
「いくら俺でも引いたわー。ほんとに俺とオリジナルって別人なのかも」
「な、な、何が起こってるのかわかんないんだけど」
(あれよ!)エルに小声で耳元で言われ、指さした先を見る。エルフィナが声もなく号泣していた。
(なんで別のベッドに移動したんだよ! 一緒にいるの嫌だって言ってるようなもんじゃねえか!)
「ち、違うよ!! 僕が居たら狭いかなーって思って!純粋に!ほんとに! それ以上の他意はないから!エルフィナが嫌だったとかじゃないから!」
そうして、初めての四人の夜は散々な結果で幕を閉じたのだった。




