#始祖エルフの遺産
広間のさらに奥に両開きの扉があった。
「今度はどんな貴重なアイテムがあるんだ?」
クロが喜んでさび付いたドアを開く。
と、そこにあったのは想像を超えたものだった。
「なんだこれ、映画に出てくるバイオ系の監視画面かよ……?」
巨大なモニターとパネルだ。苔むしているとはいえ、太古の恐竜が闊歩するこの遺跡にはとても似つかわしくない。
「わたし、分かる気がする」
エルフィナがパネルの上に両手を乗せた。
すると暗かった画面が灯り、エルフィナの立体図が写される。
そして、筆舌しがたいほどに美しい金髪の女性がモニターの前に3D映像として映し出された。
『エルフィナ。エル。よくここまでたどり着きました。私は初代エルフ女王、アルティシア。あなた方がここへ来ることを、ずっと待っていました』
「うわっすっげー美人…、こんなの実在したのかよ…」
『クロ、虎太郎、あなた方のことも見ていました』
「え、なんで僕たちの名前まで…!?」
『私は脆弱なエルフの命を強化する為に自分自身をこの場所へと残しました───ここにたどり着ける者もいなくなるほど、エルフは弱くなってしまったけれど』
「「きゃ───」」
エルフィナとエルの体が光って浮き上がり、光がはじけると同時に地面に降りた。
「魔力が──上がってる?」
「へー? って、MP1000じゃねえか、すげえな。俺らと桁が違うじゃねえか。もうMPポーションいらずだぜ」
ステータスを確認したクロが純粋に驚く。
『エルフが持つ、浄化の力も授けましょう』
「浄化の力?」
『祈りの力で地上にある魔素を消し去る力です。かつては全てのエルフが持っていた力。この世を浄化する力』
「「そんなことができるのか!?」」
クロと虎太郎が同時に身を乗りだして同じ言葉を叫んだ。
『ただし一つだけ障害があります』
「障害?」
『始祖エルフの王。わたくしの夫。ヴェルゼリオ。彼は北の山の中で強大な魔素を作り続けています。彼がいる限り、街へあふれ出るモンスターは途絶えないでしょう』
虎太郎が目を見開く。
とうとう見つけた。
ルルとセレナを殺した元凶を。
『彼を封印することが出来れが、エルフィナとエルの力で不浄の地であるダンジョンにだけ魔素を集めることができます。今すぐには無理でも5年ほどあれば人々の暮らす地上に邪悪なモンスターが沸き出ることはなくなります』
「私たちにはそんな力があっただなんて──」
エルがぎゅっと手を握る。
『エルフの数が少なくなりすぎました。そして弱くなりすぎた。かつては、地上にモンスターが現れることなどあり得なかったのに』
「んじゃ、そのヴェルゼリオを倒して、5年たてば地上にモンスターが現れなくなるってんなら、俺たちの目標50%ぐらい達成できるな」
「違う───100%だ。僕の理想とする世界だ」
「は? どうしたんだよ。この世のすべてのモンスターを消すのが俺たちの目的だろうが」
「モンスターは冒険者にとっては必要な収入源でもあるんだ。ダンジョンがあるからこそ、生活できてる人がいる」
ガルガンやギルドのフィオナ、冒険者たち、マリリン。皆の生活はダンジョンがあるからこそ成り立っている。
「力のない人が傷つかない世界ができるのならそれは」
虎太郎は言葉を吐くように続ける
「僕の理想とする世界だ」
「──────」
今度はクロが息を飲む番だった。虎太郎の本音だと、気づいてしまったから。
かつては確かにモンスターを絶滅させるのが目標だったはずだ。
だけど、いつのまにか、虎太郎の視野は広がっていた。
『エル、クロ。わたくしにとって、あなた方はクローンではなく、一人の人格だと捉えています』
「は?」
「え」
『複製体ではなく───一人の命として』
「そうなのか? 俺は単なる虎太郎の復讐心だけどな」
「私は初めから一人の命よ。エルフィナのクローンなんかじゃない」
『虎太郎』
アルティシアの呼びかけに、びくっと虎太郎が大きく体を振わせた。
『あなたは? どう思っているのですか?』
「俺の言葉が虎太郎の本音だ! 余計な質問をするな!」
虎太郎の前にクロが立ちふさがる。
『本当に?』
「何がだよ!」
『あなたと虎太郎は、あまりにも違いすぎます。本当に、あなたは、虎太郎の本音を口にしているのですか?』
「──────!!!!」
クロが大きく息を飲んで戸惑う。
そして虎太郎の肩を掴んで叫んだ。
「俺は! お前の本音だよな!? モンスターを全滅させて、殺すために、俺を作った! ルルとセレナの仇を討つために!! 二度と悲しむ人が出ないようにするために!! 自分を強くするために!! 一人で戦えるようにするために!!!!!」
最後はクロは虎太郎の顔を見ていなかった。床に向かって叫んでいた。
「何とか言えよ!! オリジナル!!!!」
「───僕は」
『──────』
女王は美しく微笑んだ。
『今ここで答えを出す必要はありません。あなた方には、まだ長い時間が残されています。
────二人に癒しの力を与えましょう』
エルフィナとエルのウインドウが浮かび上がり、【回復魔法:ヒール】が使えるようになった。
『あなた方には時間がある。ゆっくりとお考えなさい。自分が一人の人間であるのか、そうでないのか───ヴェルゼリオは、黒曜石の森の館にいます』
トプン、と四人の体が床に沈んで、ダンジョンの入り口の前に出た。
「戦いが終わった。ダンジョンをクリアした。俺をカットしろ」
呆然としている虎太郎の胸倉をクロがつかみ上げる。
「カットしろ! オリジナル!!!」
「僕は『オリジナル』じゃない。───虎太郎だ、クロ」
「いいからカットしやがれ!!別の人間とか言われて頭がこんがらがって死にそうなんだよこっちは!!!」
胸倉をつかむクロの手を両手でつかんで、
「───カット」
クロをカットした。
「私も、カットして」
「エル」
エルフィナがエルの頬を撫でる。
「クロがいないとつまんないもん。だから、カットして」
エルのぬくもりを確かめるように掌を握りしめて
「───カット」
虎太郎は言った。
そして、虎太郎は疲れ果てたようにその場に座り込んだまま、長い間動こうとはしなかった。
エルフィナはなにも言うこともなく、ただそっと、そんな虎太郎に寄り添っていた。




