#人をコピペ!!
「エルフィナちゃんが選ぶ道は今のところ二つあるわ。一つは、このギルドでウエイトレスとして働くこと。もう一つは虎太郎と一緒にダンジョンに潜ること」
「え!一緒にダンジョンはダメですよ! 魔力が無くて力が無くてこんなに幸薄そうなのに! 危険な目にあったらどうするんですか!」
まだ言うか。
頬っぺたを赤くはらしてる虎太郎の口を物理で縫ってやろうかとマリリンは笑顔の奥で考えてしまった。
「でもねえ。うちのギルドで預かるのも危険よねえ。セクハラする奴いるし」
「確かに。お尻を触られたら冒険者の指を逆ボキできるぐらいの腕力と度胸がないと難しいわよねえ」
ぽふんとカウンターに胸を乗せフィオナがエルフィナを覗き込む。エルフィナは真っ赤になってうつむいてしまった。今も虎太郎の腕にぎゅっとしがみついている。
「女の私に見られただけでこの調子じゃ、ここで働くのは難しいかも」
「あんた引き取ったんだから責任取って面倒見てあげなさい」
確かに、引き取ったんなら最後まで面倒を見るのが当然だ。
「あの───ね、コタロ」
エルフィナは虎太郎の腕を握る手に、少しだけ力を込めた。
「わたしの家の傍にね、エルフのダンジョンあるの。そこだったら弱くても大丈夫かもしれない。誰も入ったことないんだけど……」
「へー、エルフのダンジョンなんて初耳だわ。行ってみなさいよ。意外なお宝があるかもしれないわよ」
「そうですね。エルフ専用の装備とかありそうだし。行ってみる価値はありそう。とりあえず防具屋で一通り女の子用の防具を揃えてから───」
「それは大丈夫。私の家の服は軽いけど最高級の防護材を使用しているの。服のステータスを確認してみなさい」
確認すると【天使の羽】防御力+90だった。
「す、すごい」
「でしょう」
「でもとりあえずスライムの涙は飲んでおいてね」
「……分かった」
フィオナは髪の毛を逆立てる勢いで微笑んだ顔のまま驚いているが、マリリンは突っ込みを放棄して水を渡した。
「で、エルフの村はどこにあるの?」
「ここからいける。」
エルフィナが靴先で地面に丸を描いた。途端、とぷんと二人のからだが床に沈み込む。全てが沈んだ瞬間、天地がさかさまになって虎太郎はとっさに受け身を取る。
「ち、地球の裏側にあるの!?」
「ちきゅうってなあに?」
「あ、えと、僕たちの国の裏側にあるのかなって」
「違う。転移魔法なの。エルフは全員これだけは使える。でも、あの手錠つけられたら使えなくなったの! だから、コタロが取ってくれてうれしかった!」
「あ、う、うん。僕もエルフィナを助けられてよかった。ダンジョンはどこにあるのかな」
「こっち」
どこかふわふわと歩くエルフィナの後をついていく。
「ここ。扉が重くて、誰も開くことができないダンジョンの入り口」
それはとても小さな扉だった。四つん這いで通れる程度の小さな扉で、苔むしている。ここがダンジョンの入り口だと言われなければ、誰も気づかないほど自然に周囲へ馴染んでいた。
「僕一人で開けられるかな……うぐぐぐ……! ダメか……」
足で突っ張ってもさび付いてしまっているのかピクリとも開かない。
「あの、これからおこること、誰にも言わないで欲しいんだけど、約束してもらえるかな」
「するよ?」
こくんとうなづく。
「じゃあ、───ペースト」
「きゃ───!?」
突然現れたクロに驚いてエルフィナが一歩下がる。
「い───よっしゃあああああ!!!!!」
現れたクロと虎太郎は、グーにした拳をぶつけ合わせた。
「やったじゃねえか剣聖!! 一番使えるスキルだぜ!!」
「完全にタナボタだったけどね。どんなふうに使えるか楽しみだ──ってエルフィナ!?」
エルフィナは完全に目を回して、その場にへたり込んでいた。
「なんだ?俺が出てきたことがそんなにショックだったのか?」
「エルフィナ、エルフィナ、大丈夫!?」
「あ、びっくり、した……! こぶしがゴツッてなったとき、頭にガンって響いたの! 急にあんなことされたら、エルフの体じゃ持たないの!」
「え、マジで言ってる? あの衝撃で目を回したのか? おい、こいつダンジョンに連れて行って本当に大丈夫なのか?紙より防御力ないぞ多分」
「そ、そんなことない! わたしだって戦える。武器だって、ある」
エルフィナが弓を弾くしぐさをすると、光の弓と矢が現れた。そのまま扉に向かって放つ。
ぽわん、と光が飛び散って消えてしまったが。
「傷ひとつついてねえぞ。聞くけど、これどれぐらいの威力? ちょっと俺に打ってみてくんね?」
「人に向かっては撃たない。ウサギを捕まえるぐらいの威力」
「殺すんじゃなくて?捕まえるのか」
「うん」
さぁっとクロと虎太郎の顔が青ざめる。
弱い。あまりにも弱い。
このままじゃ日常生活もままならないんじゃないか。
クロと目が合った。
「……鍛えるか」
「……だな。大丈夫、僕に任せてくれ。君を必ず強くして見せるから」
「え、あ、ありが、とう。あの、もう一人の虎太郎の、名前、は?」
「あぁ、俺はクロ」
「兄弟、なの?」
「うーん、兄弟というよりは、僕の心の悪い部分かな?」
「は!? どっちかと言えばお前の方が悪いだろ! 俺は普通に純真無垢だ! 素直にモンスターへの破壊衝動だけで生きてる。お前みたいにややこしくねえ」
「とにかく、開けるのを手伝ってくれ」
「ああ、分かったよ」
二人がかりで扉を引くと、ガコンと音を立てて扉が開いた。
「わぁ…」
「すげえな。まるで神殿だ」
入り口こそ狭かったものの、中は普通に立って歩ける。道幅は二人が並んで通れるぐらいだが、エルフィナを守るにはちょうどいい。
クロと虎太郎が先頭に立ち、ゆっくりと歩みを進める。
「その前に、エルフィナのペーストも作っておかないと経験値が稼げないな」
「わたしの、ぺーすと?」
「コピー、ペースト」
「え、わ、わたし…!?」
エルフィナと同じ顔、同じ格好をした少女が現れるが、オリジナルのエルフィナとは違い目が吊り上がり気味になっている。まったく同じ顔をしているクロと虎太郎とは違っていた。
「私はエルフィナ。でもあなたとは違う」
オリジナルのエルフィナをコピーのエルフィナがどんと突き飛ばした。
「おい、何してんだ」咄嗟にクロがオリジナルエルフィナをかばう。
「私はこんな弱い存在じゃない。守られる存在じゃない。戦えるの。戦うの」
「違うよ。どちらもエルフィナだ」
ぐ、とコピーが息をのむ。
虎太郎の言葉には反論できないようだ。
「とにかく、オリジナルに敵意を向けるな。俺たちはオリジナルがいないと存在できないんだぞ」
「私はいなくてもオリジナルがいなくても存在する自信があるわ」
「えっと、どっからその自信来てんの?」
「オリジナルが弱くて、私の方が強いから」
「いやそれはねーわ。オリジナルの方が強くなることはあってもコピーが強くなることは絶対にない」
「どうして無いっていいきれるのよ!試したことあるの!? オリジナルを吸収したことあるの!?」
「は? オリジナルを吸収なんて馬鹿な真似しようとも思わねえよ!」
「私はやるわ。弱い自分なんて認めない」
その時、コピーエルフィナの足元がスイッチを踏んだみたいにへこんだ。
「あぶねえ」咄嗟にクロが三人の前に両手を広げて立ちふさがる。無数の矢がクロの体に刺さっていた。
「きゃ───!?」「うそ───!!?」
「クロ! カット! ペースト!」
「ふぅやべえ、今のは死んだと思った」
一瞬クロが消えた後無傷の状態で戻ってくる。
「ど、どうなってるの!? 今、クロに矢がささったはずなのに───!」
「クローンの方は僕が切り取れば無傷で再生できるんだ。僕自身が傷つかない限り」
「ちょっと待て、俺、この女とエルフィナと虎太郎守らなきゃいけないのぶっちゃけきつくね!?」
「だから僕のことは守らなくていいってば」
「んなわけいくかオリジナル! 俺の生命線はお前にかかってんだぞ!」
「私もお前に守られる必要なんかないわ!」
「てめえレベル10のデコピンくらわしてやろうか!」
「やってみなさいよ脳漿飛び散らして死んであげるわ!」
「ぐぎぎぎぎ」
「と、ともかく、エルフィナもエルフィナが無事なら、エルフィナのクローンがどんな怪我をしてもすぐに治せるから───ってややこしいな。君のことはエルって呼んでもいい?」
「え? い、いいわよ。昔そう呼ばれてたし」
「だめ! わたしがエルなの! お前はエルフィナ!」
「嫌よ! 先に呼ばれたのは私なんだから。あんたはエルフィナ。私がエル」
「ううう…!」
困ったようにエルフィナが汗を飛ばす。
「オリジナルが嫌がってんだから譲ってやれよ」
「さっきからなに! エルフィナの肩ばっかり持って。私だってエルフィナなんだからね!」
「だから俺らはコピーされたもんだって自覚もてよ! どうやったってオリジナルの方が重要なんだよ!」
「そんなことないも───」
ズンズンズンと重い足音が近づいてくる。
ドガァアア! と大声を立てて中型の肉食恐竜カルノタウルスが襲い掛かってきた。
#エルフィナ、初めてのレベルアップ
「「恐竜」」
虎太郎とクロは一瞬目を輝かせたが、すぐに二本の剣を装備して恐竜の足を同時に寸断した。
そして壁を蹴って宙へ舞い、頭と胴体にそれぞれ二本ずつ剣を突き刺す。
「二人でこのモンスターにとどめを!!」
「う、うん」「えい!!」
ペチペチペチペチ、と光の矢が当たる。それを何十回繰り返しただろうか。
途中でマジックポーションを飲んで回復し、
またぺちぺちと繰り返し、マジックポーションで回復し、
いつのまにかクロは壁にもたれかかり、虎太郎が熟睡したころ、ようやく恐竜が光の粒子になって蒸発した。
「はぁ、はぁ、つ、疲れた」「も、もうダメ…」
「おい虎太郎起きろ。終わったぞ」
「あ、うん…じゃあ、カット」
「きゃ!?」
目の前から突然エルが消え、エルフィナが驚いた。と同時に
───ピコピコピコピコピコピコ
【エルフィナ:レベル6】
エルフィナのレベルが一気に上がった。
「ペースト」
「上がり方が速いな。やっぱ最初のレベルが低いからかな?」
「もともとが弱いからだろ」
「体が…軽くなった気がする」「私も、弓の力が上がった気がするわ」
「気がするじゃなくて実際に上がってるんだよ。さぁ先に進むぞ変な罠踏むなよ」
「ふ、踏まないわよ、気を付ける!」「なんだか…できる気がする」
「何を?」
虎太郎が聞くと、目を閉じて答えた。
「【危険察知】」
ぶぅんと景色が黒色になり緑色の線が石畳や壁を走る。
そして、床や壁のあちらこちらに緑色に染まった部分があった。
ぱっと光が戻っても、緑色だった部分は淡く緑に光ったままだ。
「多分、緑色の部分は罠」
「結構罠が多いな。スライムダンジョンより危険じゃねえか。エルフィナが居なかったら俺たちだけでも苦戦したかも」
「リ、エルフィナだけじゃなくて、私にもできるんだからね!!」
「うん。判ってるから大丈夫だよ。エルが居てくれるからエルフィナが早く強くなれてるから」
「───! 虎太郎! 嫌い!」
「え、え、」
「私とエルフィナは違うの! 私を見て! 私はエルフィナのおまけじゃないの! う───うぅ……!」
エルが虎太郎の胸に顔を伏せて涙を流し始めてしまう。
「な、泣かないで、ごめん、そんなつもりじゃ!」
「まぁ、今のは虎太郎の言い方も悪かったわな。俺はお前だからなんていわれても平気だけど。クローンがクローンだって自覚するのってむずいのかも」
「そうなの!?」
「でも、わたしが本物なの! ───コタロはエルに構わなくていい! エルはクロにあげるの! だからコタロは私だけ見て!」
エルフィナも虎太郎にしがみつく。
「いやいらん!!!!こんなめんどくさい女!!!」
「めんどくさくないわよ! デリカシーなしなし男! 私だってあんたのこと嫌い!! 私だって虎太郎に見て欲しいの!!」
「えと、その、クロ!」
エルフィナに抱き着かれエルに泣かれ、虎太郎がクロに助けを求める。
「いや知らん! てめえでどうにかしろ!」
「マ、マリリンさん助けて」
「なんであのオネエさんに全幅の信頼おいてんのお前」




