#エルフに買われました!!!
「で、なんでアタシを呼んだのかしら。まさか、この子を売りたいなんて言わないでしょうね?」
虎太郎はエルフを連れてマリリンの元へ戻っていた。
「いえ、そうじゃなくて、エルフの子でも普通に預かってもらえる施設をご存じじゃないかと思って」
「無いわよ。でもそうねえ。身なりぐらい綺麗にしてあげたいわよねえ。あんた、さっきの金をちょっと出しなさい。綺麗にしてくれるところに連れて行ってあげるから」
「さっきのお金はこの子を買うのに全部使っちゃったんで、これで」
そっと金のインゴットを差し出す。
マリリンも横で見ていたフィオナも、髪の毛が逆立ったような錯覚を覚えた。
「お前これ、いくらすると思ってんのよ!! 200万も持って行ったくせに、このボロギルドにこれを換金できる金なんかあるかぁ!!」
どすの利いた声がギルドを揺るがす。
「ひいいい、あるだけで大丈夫なんでええ!!」
「もう、しょうがないわねえ。とりあえず、あんたの口座を作るわよ。必要経費だけ出して、残りは口座に入れておくわ。ライセンスがあれば全国どこのギルドからでも引き出せるから便利よ」
やたらと長いまつげの目を閉じてウインクされる。
「確かに便利ですね……これなら取られることもない」
一度、武器屋の商人に有り金を取られたことを思い出してしまう。あの時、このシステムを知っておけば。
「フィオナちゃん、二時間ほど留守にするけど任せていいかしら」
「ええ、もちろん。綺麗にしてあげてね」
「じゃ、行くわよ」
ずん、と歩き出す大きな背中の後ろに二人は付いていった。
街を歩くと見られることが怖いのか、エルフが虎太郎に体を寄せ、ぎゅっと腕を掴んできた。
「大丈夫だよ。乱暴なことをする人はもういないからね。そうだ。名前を聞いてなかったね。僕は黒崎虎太郎。君は?」
「エルフィナ」
「───綺麗な名前だね」
そう言ってから、少しだけ言葉が途切れた。
ルルとセレナの笑顔が、ふと脳裏をよぎった。
「こ、ここは?」
「私の実家よぉ」
着いた先は、どぎついピンクであふれた建物だった。ビルと言ってもいい。
「一階は服飾店、二階は美容室、三階はエステなの。さぁ! 行くわよ! まずは体を綺麗にしましょう!」
「あ───…コタロも、」
「うちの上層フロアは男は立ち入り禁止なの。女の子しかいないから安心して」
マリリンさんは男性にカウントされないんだなぁと思いつつ、一人残された虎太郎は一階のサロンでいたたまれない時間を過ごしていた。周囲は華やかな服を着た女性ばかり。鏡越しに視線が合うたび、なんとなく居場所がない。
一時間が過ぎたころ。
「見て頂戴!!! やっぱりエルフね! 見た目が可愛すぎて服をたくさん選んじゃったわ!! 560万ほど使ったけど文句ないわよね?」
ずいと顔を近づけられ、ぶんぶんと首を振る。
「無いです!」
「これ、着替えの服ね。あんたのインベントリに入れときなさい」
「はい」
「あ、あ───の、」
銀髪によく似合う白いワンピース姿になったエルフが顔を上げる。前髪も切りそろえられ、ハーフツインテールがよく似合っている。確かに、類を見ないほどの美貌だった。
「うーん」
だが虎太郎は顔を見て考え込んだ。
「わたし、その──、」
「君、幸薄そうだって言われない?」
「「は」」
エルフィナとマリリンの声が重なった。
「これあげる。スライムの涙。幸運を上げる効果がある薬なんだって。飲んでいいよ」
「ちょ──────!!!」
そう言ってマリリンは止まった。もうどこから突っ込んでいいかわからなかった。
スライムの涙は1000万ゼニーに匹敵する超高級品。
挙句に、こんなにかわいいエルフを見ても、可愛いとは言わずに「幸薄そう」とのたまった。
マリリンは突き抜けた。
突き抜けた挙句、一周回って冷静になった。
――これが黒崎虎太郎なのだ。
エルフに200万ゼニーをポン。
金塊をポン。
1000万ゼニー級のアイテムまでポン。
なのに、デリカシーはゼロ。
「あ───う」
エルフィナの大きな目に涙が溜まった。
「え、あ、ど、どうしたの!? どこか痛い!?」
マリリンには、エルフィナの気持ちが痛いほどわかった。
エルフは力が弱く、魔力も少ない。その代わり、ずば抜けた美貌を持つ種族だ。
だからこそ、エルフィナはそこに縋っていたのだろう。
そこだけは認めてほしかったにちがいない。褒めて欲しかったに違いない。
マリリンは慈愛に満ちた優しい微笑みでエルフィナを抱きしめた。そして、
褒めることすらできなかった虎太郎には――。
「天誅!!!!」
吹っ飛ぶほどの勢いのビンタをかましたのだった。




