#異世界へようこそ
「え、ここ、は?」
階段を落ちた、と思った虎太郎が目にしたのはRPGに出てくる王座の間そのものだった。
タカシとぷりんと虎太郎が赤い絨毯の上に描かれた魔王陣の上に座っている。
「なんだここ!もしかして異世界転生ってやつか!? やったぜ!おれ勇者に選ばれたんだな!!」
タカシが飛びあがった。デカい腹がたゆんと揺れる。
「うっそー!じゃあアタシは聖女じゃない!?超ヤバー」
「おい、どういうことだ。勇者候補が三人もいるではないか」
王座に深く腰を掛けた男がきらびやかな衣装をまとった老年の魔法使いに重たい声で問う。
「この中に勇者がいることは間違いありません。ステータスをご覧ください」
「すてーたす」
虎太郎はぽつりとつぶやいた。
虎太郎はステータスという言葉に首を傾げた。
アニメは見ないし、父親の好みが平成初期の漫画ばかりだったので虎太郎もその影響を受け、異世界ものの漫画はほとんど読んだことがない。
「何だこいつは!!!」
王が怒号を上げる。
「戦闘能力に何もない人間が混じっているぞ!」
自分を指さされ、虎太郎は何が何だかわからないまま瞬きした。
「ぎゃははははは、マジだ! こいっつ戦闘に何のステータスもねーじゃん!」
「まじ無いー。私でさえ戦闘スキルにナイフって出てるのに。って、え、マジで虎太郎になにもないの?」
全員の目の前に青白いステータス画面が浮き上がっている。
虎太郎も慌てて同じようにステータスと心の中で念じてみた。
黒崎虎太郎 レベルF Lv1
【戦闘スキル】
無し
【一般スキル】
収納1000
料理9
採取4
解体2
……その他多数。と一般スキルは無限に続くものの、戦闘スキルは無しの一言だけ。
タカシを確認すると
神宮寺タカシ レベルF
【戦闘スキル】
勇者
【一般スキル】
収納2
料理1
採取1
:
と同じように一般スキルではと続いていたが、ステータスにしっかりと勇者と書かれている。ぷりんは本人の申告通り戦闘スキルがナイフだった。
「え、じゃあ僕なんのために呼ばれたんですか? 元の世界に戻して欲しいんですけど」
虎太郎はこの世界に召還されたことは理解した。そして必要とされないのも理解した。だが。
「戻すには多大な魔力を必要とする。無能力者の為にそんな無駄遣いなどできるものか」
「勇者様、どうぞこの剣を鞘より抜いてくださいませ」
甲冑を着た兵士がタカシにうやうやしく膝をついて、意匠が精密な鞘に入った剣を渡した。
何の抵抗もなくすらりと剣が抜ける。
青色に輝く光をまとった勇壮な剣だった。
「おおおお! その剣が抜けるとは! まさしく勇者! 勇者タカシ、この国をモンスター、いや、魔素から解放せよ!」
「命令口調なのがむかつくけどまぁ、美味いものと女を寄こすなら考えてやる」
「美女も酒も馳走も準備させよう。さぁ、みな、今日は宴だ!」
「は!」
周りに立っていた甲冑姿の兵士たちが剣をかちゃりと鳴らす。
「じゃあ、僕は」
「お前は必要ない。無能力者などのたれ死ね」
虎太郎は何も持たされないまま、学生服のままで城から追い出されてしまったのだった。
「じょ、冗談じゃない! これからどうしろっていうんですか!」
閉ざされた門に取りすがろうとするが、門の両脇に立った衛兵が槍を虎太郎の前でクロスさせる。
「残念だがお前は不用品なんだ」
門番が申し訳なさそうに言う。
「でも一円も持ってないんですよ!これからどうやって生きて行けばいいんですか!?」
「おれたちも心苦しいが、これでも食って元気出してくれ」
渡されたのは一つのリンゴだった。
「すごいおいしそうなリンゴですね。ありがとうございます。だけどこれ一個でこれからどうすれば!?」
だが困った様子の門番たちをそれ以上困らせることもできなくて虎太郎は門に背を向けた。
しかし帰れる道は城にしかない。離れることもできずにステータス画面を表示させる。
「なんか役に立ちそうなスキル無いかなぁ…商売100、交渉100、隠密3、探索9、野営100、言語理解なんたらかんたら」
戦闘スキルは相変わらずの無だが、生活用のスキルはなかなか揃っているような気がする。といっても、何が平均かわからないので、気がするだけなのだが。
ざっとスクロールしていくと、一番下に見慣れてはいるが、リアルでは使わない項目があった。
「一般スキル:コピーペースト? どういう意味だろうこれ?」
コピーペーストはもちろん知っている。パソコンやスマホで使うアレだ。
考え込んでいると、いきなり腹に重い一撃を食らった。虎太郎は突き飛ばされ地面をすべるように転がった。
攻撃してきたのは丸い青い物体、スライムだった。腹に取り付いてぎゅうぎゅうに締め付けてくる。
「な、やめ!」
思わずスライムを引きはがそうとするが、リンゴを持ったままの手がスライムの中にぐにゃりと入り込み、皮膚を溶かすピリリとした感触に慌てて手をスライムから引き抜いた。
スライムの体内に残ったリンゴが解けて消えていく。
「またスライムが沸いたぞ!」
門番二人がすぐに駆けつけてくれてスライムを倒してくれた。
しゅうううと煙になって消えていく。
「大丈夫か? スライムは簡単に湧いて出るからな。剣を買って装備したほうがいいぞ」
「その剣を買うお金も無いんです!」
「じゃあギルドに行って採取でもして金を稼ぐんだな。無事を祈ってるぞ、少年」
「ギルドはまっすぐ行って右の建物な。どうしてもダメだったらまた戻ってこい。女房に相談してお前を養子にしてやるから」
「いえ、そこまでご迷惑をかけるわけには。ありがとうございますギルドにいってみます」
面倒見のよさそうなおじさん門番に頭を下げて虎太郎は歩き出した。
ぐるる、と腹が鳴る。
そういえば四時間が終わり昼ご飯を食べようという時間にこちらに召喚されたのを思い出す。
「リンゴ、食べたかったなぁ」
でもあのリンゴのおかげでスライムに食べられずに済んだと思えば安かったのかもしれない。




