#無能力者? いいえ、何でもコピペできますの始まり
黒崎虎太郎は自分のことを一言でいえば、平々凡々な高校一年生だと思っていた。
成績はかろうじて上位に食い込んでいるが、容姿は平凡、性格も平凡、才能もなければ大きな夢も持っていない。ついでに彼女もできたことがない。
ただ、人と違うところが一つだけある。
クラスでも目立つ存在――いわゆる一軍の神宮寺タカシに、なぜか異様に嫌われていることだ。
入学してまだ1か月しかたっていないのに。
「あーあ、ああいう辛気臭い奴がいるだけでクラスが暗くなるわ。特に名前に黒とか付く奴」
別に何をしたわけでもない。喧嘩した覚えもない。
そもそも、まともに話したことさえない。
タカシは身長こそ虎太郎と変わらないが、体重は2倍近くありそうだった。大きな腹を揺らして笑う。
「ぷりんもあいつこわーい。ぷりんのこと、やらしい目で見てくるしー!」
甲高い声が続く。タカシの彼女である白銀ぷりんだ。
名前の通り金髪に染めた髪は、根元が黒くなっている。お世辞にも美人とは言い難い――いや、ぎりぎり言えないタイプの女だった。
虎太郎はそんな悪態を気にも留めていなかった。
もともと感情の起伏が少ない淡白な性格ということもあるが、クラスの他の一軍男子や一軍女子たちも、タカシとぷりんの言動には呆れていたからだ。
「やめろよ、なんで黒崎君に構うんだよ」
「いい加減しつこいんだよな、お前」
「というか、虎太郎君がぷりんをやらしい目で見るとかあり得ないでしょ」
「無いないないないの無いない無いって!」
そんな声があちこちから飛ぶ。
虎太郎自身にも友人がいる。休み時間になれば自然と誰かが席に集まってくる。今だってそうだ。
「ほんとタカシってうぜーよな。虎太郎もなんか言い返してやればいいのに」
「そうだぞ。なんで言われっぱなしになってんだよ」
友人に頭をこぶしで押される。
「いいんだよ、ああいうのはほっとけば。そのうち飽きるだろ」
虎太郎はあはは、と嫌味なく笑う。
「お前ってマジいいやつだよなー」
「私が虎太郎君の彼女になりたーい!! 彼氏でもいいー!」
「やめろってば」
男友達にふざけて抱き着かれ、笑いながら押し返す。
虎太郎にとってタカシは、たとえるならハエだった。
うるさいハエがいる。
だが、わざわざ反論という殺虫剤を振り回して、クラスの空気まで悪くする必要はない。その程度の認識だった。
タカシだけが絡んでくるという奇妙な関係が変わったのは、階段の踊り場で二人の目が合ったときだ。
「お」
「あ」
虎太郎は先生に頼まれた本を持って図書室へ向かおうと階段を上り、タカシはぷりんを腕にまとわりつかせて階段を下りていた。
ぷりんは階下にいる虎太郎を見下ろした。
長いまつげの下にある澄んだ黒い瞳。光を受けて艶めく黒髪。整った顔立ちには、一つひとつに色気がある。
入学してすぐに女子たちの間でひそかに話題になっている男子。先輩たちどころか、女教師さえ狙っているという噂まである黒崎虎太郎だ。
その目が「僕は君のことが好きなんだ」と訴えかけているのを、ぷりんは知っていた。──単なる思い込みだが。
「あー、こんな場所で陰キャに会うとかついてねえわー」
タカシが大口を開けて笑う。
ぷりんもこれ見よがしにタカシにきつく抱き着いた。
「ちょっとこっち見てるー。こわーい。虎太郎って絶対アタシのこと狙ってるしー」
虎太郎は薄く目を閉じた。狙っているはずがない。虎太郎にとって、何度も絡んでくるぷりんは、もはや「ただのクラスメイト」から「道端の石」まで評価が落ちていた。タカシにここで会ったことも、ただただ面倒だった。
反論するのもわずらわしく、虎太郎はその横を通り抜けようとした。
その瞬間だった。
「おい、どけよ」
ドンッ! とタカシがわざと虎太郎に肩をぶつける。
「──!!」
バランスを崩した虎太郎の手から、本が宙へと舞い上がった。
何冊もの本が開き、ページに記された文字が光り始める。やがて文字は空中へと浮かび上がり、魔法陣のような紋様へと変わっていった。
「なに、これ!?」
ぷりんが声を上げた。
タカシが振り返る。
虎太郎が顔を上げた瞬間――
三人の姿が、消えた。
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