#コピーとオリジナル
「コピー、ペースト」
「?」
「やっぱダメか。俺じゃコピペは使えねえわ。この石ころで試してみたけど、何も起きなかった」
クロは階段の下へ、掌に乗る程度の石を投げ落とした。
「コピペ能力はお前にしか使えねえってことだ。早くモンスターを倒したいなら、お前は死なないように頑張れ」
「有機物は一体が限界。そして、有機物に僕の能力は付与されない」
「自分のことを有機物って呼ぶの、やめたら?」
「他に何の呼び方がある。クローンか?」
「あ、それいいねぇ。黒崎だし、俺のことはクロでいいじゃん。別に名前なんてどうでもいいけど。名前を呼び合うことなんてねーだろうし」
「次の階は」
クロが先に階段を降りきる。
「おおおおおお」
低いうめき声が階層のあちらこちらから聞こえてくる。
「へぇ、赤色の人型のスライムだぜ。死ぬなよオリジナル」
「死んでもいいけど一体でも多く倒せよクローン」
二人は左右に分かれて動いた。
人型になるだけで、スライムは厄介になる。べとつく体にまとわりつかれれば、身動きが取れなくなるからだ。
「ふっ!」
ハサミで切るように二本の剣を交差させ、胴体と下半身を切り離して倒していく。
「ぐっ……!」
スライムに握られた手から、じゅうっ、と嫌な音がした。
皮膚が焼けるような痛み。手を振りほどくと、赤いスライムの体が触れていた部分から煙が上がっていた。
「強酸か……!」
手を切り落とし、本体も縦に切り裂く。倒せばモンスターの体は蒸発してアイテムになるか、消えてしまう。その点だけは楽だった。
この程度の怪我なら、ポーションで治すのも面倒くさい。
「やべー敵出てきた」
クロがのんきな声で、切羽詰まったことを言う。
目の前の敵を倒しながら視線を向けると、人型のスライムが集まって巨大な人型スライムになっていた。
敵を凝視するとステータスが現れる。
【スライムクイーン】HP3000 MP400
「そいつは任せた!」
「おー。でも俺じゃ勝てねえなあ。斬っても再生する。しかもこいつ、俺より速い」
勝てないという言葉に気を取られ、つい振り返ってしまった。
次の瞬間、顔に強酸が降りかかった。
「――っ!」
視界が白く染まる。焼けるような痛みが顔全体を襲った。
一層とは比べ物にならないほど敵が強くなっている。顔の傷にポーションを使い、傷を癒した。
───ピコ【レベルが2に上がりました】
レベル? ランクが上がったということか? 虎太郎は最後の一体を倒すと、ステータスを確認した。ランクFの隣にあったレベルの数字が上がっている。
「あ、俺もうダメかも。つか、逃げろオリジナル」
ランクを確認している場合じゃない。
クロに駆け寄ると、クロは下半身を溶かされていた。
「全然歯が立たねえわ。こいつ無理。逃げろ」
「役に立たないな──カット!」
───ピコピコピコ【レベルが5に上がりました】
「え?」
「ぐおああああ!!」
腕を振り下ろしてきたクイーンの攻撃を避ける。少し地面を蹴っただけなのに、さっきまでとは比べものにならないほど高く跳び上がった。
「ペースト!」
「おわ!? また呼ぶんじゃねえって。あれ、俺、怪我が治ってるわ」
「当たり前だ。オリジナルの僕が怪我をしていないんだ。複製体が怪我をするわけがない」
今度はクイーンがクロに攻撃を仕掛けたが、クロも異常な跳躍力を見せた。
「うええ!? どうなってんの!?」
そのまま落下しながらクイーンの腕を切り裂く。甲高い悲鳴が洞窟内に響いた。
「さっきは全然切れなかったのに、サクッといった! どうなってんだ、オリジナル!!」
「お前を切り取ったら、レベルが5まで上がった! それぞれの経験値が足されて、次のクロは僕と同じレベルで排出されている!」
「ガチャみたいな説明ありがとうよ! つまり俺は自動経験値タンクってわけだ」
「そして、クロはカットさえできれば、もう一度呼び出せる! それも無傷の状態で!」
「「てことはだ」」
「「クローンを限界まで使いつぶして切り取れば、それだけ経験値が上がる!」」
「オリジナルが安全地帯にいてもな!」
途中まではハモっていたのに、急にクロだけが台詞を続けた。あれ? とクロはオリジナルを見る。「僕が安全地帯にいるなんてことはあり得ない。一分でも、一秒でも早くモンスターを駆除する!!」
スライムクイーンの首をレベルアップしたオリジナルがあっさりと切り落とした。悲鳴もなくクイーンは崩れ落ち、アイテムをドロップして消えた。
「安全策取った方がよくなくなーい? 俺が生きて帰ればお前は無限に強くなれるんだぜ? んでもってまた強い俺を排出できる。やればやるほどレア度が上がっていくガチャなんてないわよー」
「僕の顔でその喋り方やめろ。気持ちが悪い」
「俺の顔ほぼ見てないくせそれ言う? あ、このドロップ品、スライムの涙だってよ。幸運値が上がるレアドロップ品。飲んどく?」
「僕に幸運値は必要ない。必要な人がいたら渡す。貸せ」
「ほいよ」
投げてよこされたアイテムをインベントリに入れ、虎太郎は壁を背もたれにして目を閉じた。
「おいおい、こんな場所で寝るつもりじゃねえだろうな」
「ここの方が眠れる気がする。モンスターが来るか、30分たったら起こせ」
「はいはい。おやすみなさいよー」
オリジナル──虎太郎が眠っている間、クロは時々現れるスライムを、もぐらたたきのように楽しんでいた。




