#喪失
葬儀の記憶は、ほとんどなかった。
誰かに肩を叩かれ、何かを言われた覚えはある。けれど、その言葉は耳に入っても、意味を持たないまま通り過ぎていった。
二人の亡骸を埋葬し、祈る。
「絶対に僕が、モンスターを全滅させてやる」と。
───
「この街の地下のダンジョンに入らせてください」
「街の地下にあるのはAランクダンジョン。あなたが入ることはできないわ」
眠れていないのだろう。目の下に深いクマを作っている虎太郎に、フィオナはきっぱりと言い放った。
「でも、僕は一人でキラーマンティスを倒しました。キラーマンティスはAランクのモンスターだって聞きました。僕にはダンジョンに入る資格があるはずです」
「あんなの───」
戦いじゃない。ただ、自分の肉を、血を削ぎ落とし、最後に立っていたのが虎太郎だった。それだけにすぎない。
「とにかく、私はギルドの責任者として、あなたを上級ダンジョンに行かせるわけにはいかない。手順を踏みなさい。初級ダンジョンをクリアしてランクを上げる。───まずは、自分の命を大切にすることを考えて。死んだら、モンスターを倒せなくなるのよ」
「───はい」
素直な返事だった。
以前も素直な返事をしたことはあったが、あの時の声とはまるで違う。フィオナは不安になった。
彼は納得したのだろうか。
それとも、もう誰の言葉も届かなくなってしまったのだろうか。
フィオナはスライムダンジョンのカードを渡した。
「おい、俺もついていってやろうか?」
ガルガンがそう言うが、
「いいえ、ガルガンさんたちは強いから、上級ダンジョンをお任せします。初心者向けのダンジョンなら、僕一人で行けますから」
虎太郎は静かに告げるとギルドを出ていった。明るかった頃の虎太郎とは、まるで別人のようだった。
「あいつがあの調子だと、こっちまで調子が狂っちまうな」
「能天気に花を集めてた頃が懐かしいぜ」
ふぅ、と息をつき、ガルガンは残っていた酒を飲み干した。
「……死ぬんじゃねえぞ、虎太郎」
誰に聞かせるでもなく呟き、彼らもまた、街の魔素を減らすためにそれぞれのランクのダンジョンへと向かった。
「無機物はコピペできる。スキルもコピペできる。じゃあ、有機物はどうだ?」
虎太郎は、襲いかかるスライムを無意識に切り伏せながら呟いた。
「僕を増やせれば、ダンジョンを攻略する速度が上がる。僕なら死ぬまで戦える。いくらでもコピペで替えが利く」
虎太郎は自分の胸に腕を当てた。
「コピー」
右手を横に突き出す。
「ペースト」
「よぉ」
視界の端に、自分と同じ姿が立っていた。
「有機物もコピペできるのか」
虎太郎はもう一度、今度は正面に手を突き出した。
「ペースト」
何も起こらなかった。
「有機物は一体まで、か」
「もうちょっと感想はないのか? 俺っつーか、自分自身を複製できたことについて、何か感想はよ?」
「無い。うるさい性格なのは分かった。なぜ僕と性格が違うんだ?」
「知らねえよ。お前の深層心理なんじゃねえの? モンスターを倒したいって欲求の塊が俺なのかもな」
「目的が同じなら問題ない。先に進もう」
「はいはいっと」
ギィ、と扉が開いて見覚えのある顔が入ってきた。
武器屋の商人だ。
「おやおやおや? カモがまたダンジョンに入ったからと思ってきてみれば、双子だったのか。まぁいい。装備が二枚剥げる」
男たちがニヤニヤしながら近づいてくる。
「「出来ると思うか?」」
二人が同時に風切剣を振った。
―――ザンッ!!
二本の剣から放たれた風が重なり、巨大な刃となって男たちの服が一瞬で裂け、全員が裸になった。
「「これ以上むかつかせるな。次は無い(ねえ)」」
「キラーマンティスを倒したってのは本当だったのか! 冗談じゃない、俺は降りる!」
「ま、待て!」
素っ裸の男たちが、慌ててダンジョンから逃げ出していく。
「まったく、きたねえもん見せやがって」
「さっさと進もう。時間がもったいない」
二人は暗い第二層へと、ためらいなく踏み込んだ。
もう、失うものは何もない。




