#スライムに大苦戦
『やぁいらっしゃい。ここはスライム洞窟だよ。でもあまり人が来ないからスライムが多くなってるから気を付けてね』
「わぁあ扉がしゃべったあああ!?」
両開きの扉の両方に落書きのような顔が浮かび上がり、虎太郎に話しかけてきた。
『ダンジョンは初めてかい? ぼくら扉には魔法がかけられていてモンスターが出てこないようにふたの役目もしてるんだ』『それとダンジョンの案内もね』
「そ、そうなんですね」
『それじゃ、気を付けて行ってらっしゃい』
ぎいいいいと扉が開いた。中は光など入らないはずなのに明るい。壁がほんのりと発光していた。
そして、岩の隙間からぬぬぬぬぬとスライムが現れてくる。
その数ざっと見ただけで50以上。
「こ、こんなに多いのか!?」
一斉にスライムがとびかかってくる。
「う、うわああああ!!」
やみくもに剣を振ってスライムを処理していく。
防具の威力は高く制服の時には痛かった攻撃が全く痛くない。
痛くないが数が多い。
目をつぶって剣を振っているだけでも剣の攻撃力のおかげでスライムが倒せているが数が多すぎる。
「これって戦闘って言えるのか!?」
たとえるならキャベツの千切りの大きいバージョンだ。HPは減らないが疲労は貯まる。
そしてスライムは弱いのでさしてレベルが上がることはない。
ある程度駆除してようやく目を開いて戦えるようになった。
「こんなに多かったら剣一本じゃ足りないな。ペースト!」
右手だけじゃなく左手にまで剣をペーストする。これでほぼ360度からくるスライムを一気に駆除できるようになった。
「ドロップ品が凄いな」
スライムと戦いながらインベントリを確認すると、スライムボールやら鉄くずやら魔力水やら魔力のかけらやらが二桁単位でドロップされていく。数字の上がり方が速すぎて目で追えないドロップ数だ。
「まるで車の洗車みたいにスライムが降ってくるんだけど!これ何匹倒したらいいんだよ!」
文句を言いながらも剣を振い続ける。
今の虎太郎にとってスライムの攻撃は痛くもないが、ほぼ生身の状態だった制服姿の時のダメージを考えると、たたがスライムとはいえ一般人にとっては脅威だ。一匹でも多く倒しておくに越したことはない。
モンスターを倒し、魔素を散らせば市街地にモンスターが出ることはないのだから。
風切剣の威力は攻撃力+180だけあって、スライムが剣に体当たりするだけで消滅している。
虎太郎が強敵だと判断したのか、スライムが岩の中へと戻っていき始めた。
「あ、隠れるな! 魔素を散らせないだろ!」
と文句を言っても出てくるわけはない。ドロップしたアイテムを確認する。
【スライムボール】投げたら壁にくっつきます。溶かして固めるとべとついたブロックに加工できます。売値30ゼニー(380個所有)
【魔力水】魔力を含んだ水です。煮詰めて煮詰めて煮詰めて煮詰めればポーションの材料になれることもあります。熱中症予防の飲料水として適しています。売値60ゼニー(210個所有)
【鉄くず】鉄くずです。いろんなものの材料になります。売値130ゼニー(140個)
「しょうもな! まぁ期待はしてなかったけど予想以上にしょうもない物しかドロップしてないな!」
ずずずずずと洞窟の奥の方で音がした。
「なんだ?」
この洞窟は広さで言えば教室ぐらいの幅があるトンネルだ。
その奥から、みっちりと洞窟をふさいでいる巨大なスライムがにじり寄ってきていた。
咄嗟にステータスを確認する【スライムプリンス】HP1000 MP100
「え、あのサイズとどう戦えと!? 逃げた方がいいのか!?」
とてつもない。サイズ感で言えば巨大な餅相手に爪楊枝で戦うようなものだ。
逃げようと踵を返した瞬間、巨大スライムが巨大な口を開いた。そして、ものすごい勢いで吸い込み始めた。
「ぐぅう…!!?」
スライムに取り込まれるのはやばい。リンゴが一瞬で溶けたのを思い出す。高級な防具を付けているといってもどこまで耐えられるかわからない。踏ん張って耐えるが、次は長く伸びた四角いブロックのような触手で攻撃してきた。触手が剣だけでなく剣を握る手にまで触れる。
ほとんど反射だった
「コピー!───ペースト!!」
何も起こらなかった。
そう思った次の瞬間。
ズズズズズッ!!
虎太郎の背後から、巨大な四角い触手が飛び出した。
「うわあああ!? 何これ!?」
伸びた触手が攻撃と吸い込まれるスピードに乗って虎太郎の意思とは無関係に、スライムプリンスへ破壊的な攻撃をくらわせた
「ま、まさか……」
【触手ラッシュ】
「スキルまでコピーできたのか!?」
同じスキル同士の戦いは一瞬で幕を閉じた。
スライムプリンスは自分の技で穴だらけにされ、蒸発して消え去った。
「ふわ、やばかったぁ」ドスンとその場にしりもちをついて座り込む。
「コピーペースト、スキルまでコピペできるんだな。【触手ラッシュ】!」
虎太郎の背後から伸びてきた無数のブロックが何を攻撃すればいいの?と言わんばかりにくの字に曲がって虎太郎を向く。その触手に虎太郎はむにょんとこぶしをぶつけた。
「よろしくな。【触手ラッシュ】」
心得たとばかりに触手は背後に戻って消えていった。
確認すると使ったMPは7。まだまだ余力がある。
スライムプリンスからドロップしたアイテムはスライムブロック30個だった。
「なんだこれ」
一個出してみるとかなり大きい。一辺が一メートルほどもある。ステータスを確かめると、【売値20000ゼニー。ベットの材料にとても適しています。お手入れも簡単!】だった。
試しにぼふんとのっかると、ふにゃふにゃと体を受け止めてくれる。これで作ったベッドは絶対気持ちよさそうだ!
「これは当たりのアイテムだな。値段も高いし!」
インベントリに収納し、さらに奥へと進む。洞窟の突き当りに下に降りる階段を発見した。
「あ、降りる階段発見。でもどうしようかな、今日はこの階だけで止めておくか…」
階下は暗く、何があるかわからない。フィオナにも一階だけでやめてくようにと釘を刺されたばかりだ。
「ギルドで聞いた通りの場所にいたな。お前に尋問するにはちょうどいい場所だ、小僧」
「え」
振り返ると、そこにいたのは武器屋の親父だった。しかも屈強そうな男を五人も連れている。
「まぁギルドで聞かなくともFランクがくるダンジョンはここ程度だが。まぁそんな話はどうでもいい。説明してもらおうか。その風切剣をどこで手に入れたのかをな。仕入れルートを吐いてもらう。吐くまで痛め続けてやる。ここでなら死んでもただの戦死だ。早いところで吐いた方が楽だぞ」
やばい。逃げ場が完全に塞がれている。一か八か、下の階に逃げようとしたが、男に先回りされて階段をふさがれてしまった。
何度殴られたのか分からない。
顔の感覚がない。
腕も動かない。
肋骨が折れているのも分かった。
それでも虎太郎は、最後まで口を割らなかった。
コピーペーストだけは、絶対に知られるわけにはいかない。
虎太郎は意識を失った。ステータスを見ても戦闘スキルしか見てないので謎のまま、武器屋の男は仕入れ先を聞くのを諦め、虎太郎の防具や服、インベントリに入っていた金や道具をすべて持ち去っていった。
「虎太郎、大丈夫か!!」
それからどれぐらいしただろうか。帰ってこないのを心配したガルガン達によって助けられた。
「がるがん、、さん、、?」
「しっかりしろ、俺が助けてもらった借りをまだ返してねえからな! 次は俺がお前を助ける番だつっても、一本しかポーション持ってねえからそこは勘弁してくれ」
「すいま、、せ」
「謝るな!とにかく今は寝てろ!」
背中に背負われ、虎太郎の意識はそこで途切れた。




