#勇者タカシの凱旋
またギルドの扉がバァン!と開かれる。だが入ってきたのは虎太郎ではなかった
「おい!勇者様の凱旋が始まるぞ!! 皆大通りに集まれ!」
「なんだぁ。虎太郎君が勇者様じゃなかったのね」
「そりゃそうかあ。まぁどんなご立派な方かお目にかかるとしますか」
ぞろぞろとギルドにいた全員が通りに出る。
「勇者様のお通りだぞ! 跪けえええ!!」
大通りを進んでくる豪華な馬車。その中央に座っているのは――
「……なんだあれ」
「勇者様だ」
「あれが?」
宝石で飾られた服。
山のように盛られた料理。
そして、その料理を馬車の上でむしゃむしゃ食べながら手を振っている肥えた男。
「おーい! 民衆どもー! 俺が勇者様だぞー!」
「…………」
フィオナは無言になった。
その隣では、ぷりんが宝石だらけのドレスを着て満足そうに笑っている。
フィオナは思わずステータスを確認する。
【神宮寺タカシ】
ランク:F
職業:勇者
「…………嘘でしょ、あれが本当に勇者様なの?」
呆然と呟く。想像と違う。あまりにも違いすぎる。
フィオナの脳裏に虎太郎が浮かぶ。
戦闘スキルもない。
ランクだってF。それなのに――。
『この街を守りたい───というか、守りたい人がいるから。ただそれだけです』
あの言葉だけは、妙に頭から離れなかった。
「あの子のほうが、よっぽど勇者みたいじゃない」
フィオナはぽつりと呟いた。
「なんだありゃ。ただの豚じゃねえか。ランクも最低のFだしよ」
酔っぱらったギルドの冒険者の一人、ガルカンがタカシを指さして笑った。頬に十字の傷のある、恰幅のいいひげ面の男だ。
「なんだとお…!!」
馬車を止めさせてタカシが下りてくる。
「お、やるかぁ?おれはBランクだぜ」
ひっく、としゃっくりをしながらもガルカンが剣を構える。
が、一瞬だった。
勇者タカシが持つ剣は剣ごとガルカンを切り裂いた。
肩から胸元までいともたやすく。
「き、きゃああああ!!」
「うわああああ!!」
血がほとばしりガルカンが倒れる。阿鼻叫喚の悲鳴が上がった。
「なんてことを…! 誰か、ポーションをガルガンさんに!」
「う…!」
フィオナがガルガンを支えて叫ぶがポーションは高価な品だ。誰もが一瞬躊躇った。だけど。
「どいてください!」
駆け込んできた少年が何の躊躇もなくポーションを使った。虎太郎だった。
「一本で効きますか!?」
「ダメみたい!傷が深いわ!」
虎太郎はためらわず二本同時に取り出しふたを開けて傷全体に振りかける。傷は徐々にふさがり、ガルガンは目を覚ました。からになった三本のポーションがコツンと音を立て地面に転がった。
「人に剣をふるうなんてどういうつもりだ! 神宮寺!!」
虎太郎が立ち上がり、初めてタカシに向かって立ち向かった。
「あ、ああん?お前も一緒に切り刻んでやろうかぁ?」
整いすぎるほど美しい顔立ちをしている虎太郎。普段は穏やかな表情を浮かべているせいか、ひとたび怒ると、その整った顔立ちがかえって凄みを増し、周囲を圧倒するほどの迫力を放つ。
「やれるもんなら、やってみるか」
剣を持ったままだったが、タカシが怖気づいて馬車の上で身を引いた。
ぶわりと虎太郎を中心として風が渦巻く。
「お前のすることは街の地下にあるダンジョンを攻略して魔素を減らすことだろう! こうしている間にも街にモンスターが沸いているのになぜ遊び歩いている! 勇者として召喚されたんなら戦え!!」
虎太郎の勢いにタカシとうとう「ぐ、」と圧倒される。
「ね、ねぇ、早く戻ってきてよぉ」
ぷりんに言われ、タカシも「お、おう」と馬車へ戻った。
「今日の所は勘弁してやるよ。無能力の能無し野郎」
食べかけの肉が虎太郎の横に投げつけられた。
「でもアンタがアタシに会いたくなったら言いなさいよ! アタシの従者としてならいつでも飼ってあげるから!」
ぷりんが扇子をビシっと虎太郎に突き付けた。
馬車が通り過ぎていく。
「虎太郎君、もういいの、剣から手を放して」
「あ、は、はい」
虎太郎は知らぬ間に剣に手をかけて鞘から引き抜こうとしていた。風が舞ったのは風切剣の力を最大限まで引き出したからだ。
ふ、と体から力を抜き、ガルガンの横に膝をつく。
「大丈夫ですか? 傷は痛みませんか?」
「あぁ、兄ちゃんが助けてくれたんだな。すまねえなポーションを三本も無駄にしちまって」
「それで助かったんなら安い物ですよ」
「ポーション三本だぞ。俺らBランクでも気軽に使える数じゃねえ」
「使えますよ。ガルガンさんの命の代わりなんだから。それじゃ、僕ダンジョンに行ってきますんで!」
とまた駆け抜けていく。
「あの子は一体何者なの? ───って顔が可愛い癖、意外とと頼りになるし太っ腹だしかっこいいじゃない!やだぁもっと早く私の物にしとけばよかったああ! 今からでも遅くないわよね! お姉さんの魅力で落としちゃいたい!」
「フィオナ、一応俺の命の恩人だからあんま虎太郎が嫌がることすると俺が止めるぞ」
「嫌がることなんてしないわよ! いいことだけしてあげるの!」
「いや、それがだダメなんだよ。……あの坊主、Fランクのくせに、とんでもねえ奴だな」
血と一緒に酔いも抜けたガルガンが、呆れたように呟いた。
その頃、虎太郎は
「よし! ダンジョンに到着だ!」
何も知らずに、ダンジョンの入り口へ向かって走っていた。




