#やっとこの世界の服に着替えます
(とにかく、強くならないと。少しでも魔素を消すために! できればこの街の下にいるダンジョンに入りたい。タカシの邪魔になるかもしれないけど、Cランクのモンスターを倒せたんだ。僕だって入れるかもしれない)
街でまず入ったのは服屋だった。自分に似合う似合わないはどうでもいい。とにかく防御力が高く露出の少ない服を選ぶ。
「よくお似合いですよ」
とにかく防御力の高い服を!と言ったら上着から靴まで合計数十万単位となった。しかもほぼ黒一色だ。店主がもみ手でほめてくるがそれには興味がない。靴は重くないか、腕は動かしやすいか、動きを吟味して決める。
「これで、どこからどう見てもこの国の人間に見えますよね?」
「ええ、ええ、ばっちりです。しかも6割増イケメンになりましたよ」
「それってほぼほめてませんよね」
服がイケメンだと言ってるようなものだ。
「そんなことはございません。普通のイケメンが100でしたらお客様は1000。そして服のせいで1600になりました」
その言葉は聞き流し自分で全身鏡で確認する。
確かに、元の世界の服よりはデザインがデザインがかっこよかった。
「全部で56万ゼニーになります」
「あぐ」
さくっと服屋で大金を溶かして気絶しそうになる。
「ふ、服で56万!?どこの世界の服!?いやここの世界の服だけどさ! 元の世界出来てる服なんて1980円とかだったのに!」
ぶつぶつ文句を言いながらも次に向かうは防具屋。
「一番防御力の高い防具をお願いします!」
「はいはいすぐにご用意いたします」
虎太郎の服を上から下まで見て金を持っていると踏んだのだろう。
用意されたのは全身を覆う甲冑だった。
しかし。
「う、動けない……重い……!!」
「お客様には重すぎましたか。でしたらこちらの防具はどうでしょうか。天使の守護があると言われる『天護の胸当て』です。装備するのは胸だけになりますが、全身を天使の守護が覆いますので安心安全」
服の上から左胸だけを覆う皮の素材だ。念のためステータスを確認すると防御力+50。甲冑が+70だから十分頼りになる防具だ。
「120万ゼニーになります」
「ぐふ」
ふらふらになりながら防具屋を出る。いちいち会計でダメージを食らっていたらきりがない。
コピーペーストで作れば同じものができるのだがさすがにそれは万引きのようで気が引ける。
「次はポーションだっけ」
ふらふらとさまよって各種ポーションをそろえる。
「HPポーションは30万ゼニー、MPポーションは40万ゼニーだよ」
HPポーションを4個、MPポーションを2個。そして100万ゼニーの転移ポーションを1個
これで300万ゼニーが飛んだ。
「ほ、ほぼ持ち金がゼロになった!!!」
愕然としてしまうが必要経費だと割り切る。
中古屋で買った1000ゼニーの鞘に風切剣を入れてまたギルドへと向かった。
バアンといつものように勢いよくドアを開いてギルドに飛び込んでいく。
「ダンジョンへ行く準備ができました! ダンジョンの場所を教えてください」
「えええええ!?どうやってその装備をそろえたのおおおお!? 天護の胸当てとか120万もするのに!! しかも服も聖銀の仕立屋の服じゃない! そのうえ風切剣!?!? あれから二時間しかたってないのにもう300万揃えて買ってきたの!?」」
「はい! ポーションもちゃんと準備してます」
「一体どうなってんだ坊主、どうしてそこまで急ぐ必要がある? お前はまだFだろ? 鉱山堀とかしてランクを上げてからダンジョンに行くもんだぜ。Fランクで突っ込むなんてほとんど無謀だぞ」
「しかも戦闘スキルが無の奴が行くなんてよ」
虎太郎は振り返って決意を乗せた笑顔で答えた。
「この街を守りたい───というか、守りたい人がいるから。ただそれだけです」
「…………そうかよ。そういうくさいセリフが言えるのもガキくせえんだよなあ」
「酒飲んでる俺たちが馬鹿見てえだろうが。まったく」
「できれば、この街の地下にあるダンジョンに潜らせてください!!」
「ダメ!!!」
フィオナにいきなり注意を受けてしまった。それもかなりの真剣に。
「でも、魔素が溜まりすぎていて、昨日だってオークが市場に現れたんです。この街の地下にある魔素を消さないと、街の人たちが危険で」
「私はね、ただの案内嬢じゃないの。私の判断一つで人が死ぬかもしれない。ギルドの案内人はそういう仕事よ。無謀な戦闘をさせることはできないわ」
「あ……、はい、すいません………」
人の死を目の当たりにしたばかりだった。自分の判断一つで人が死ぬかもしれない仕事。その言葉が虎太郎に重くのしかかり、フィオナの意見に素直に返事をする。
「わかったならよろしい。一番初心者向けのダンジョンは、街の中央広間にあるスライムダンジョンよ。1層にはスライムしかいないからFランクでもいけるはず。でも、絶対に無理はしないでね。最近は魔素が溜まりすぎてて、一階降りるだけでもいきなりランクが二つ上がる難易度になってたりするの。今日は一階だけで帰ってきなさい。危なくなったらすぐ転移ポーション! 忘れないで」
「はい、わかりました!」
地図が乗っているカードを手にし虎太郎はギルドをバアン!と出て行った。
その背中を目で追っていた冒険者が呟く。
「市場でFランク無能者がオーク倒したって話は聞いたか?」
「聞いた聞いた」
「ひょっとして、異世界から呼び寄せた勇者様ってのはあいつのことかぁ?」
「………ないともいえねえな」
「言えないわね」
フィオナまでも同意したのだった。




