#240万ゼニーの剣を30万ゼニーで大量にたたき売り!!!
「止めても無駄みたいね。じゃあ教えてあげる」
フィオナは小さくため息をついた。
「まず、武器と防具は絶対に必要。君が着てるそのぺらっぺらの服じゃスライムの一撃で溶かされて終わりよ。それから回復手段ね。一人で潜るなら絶対に必要よ。HPを回復するポーションに、MPを回復するマジックポーション。それと、初心者なら転移ポーションも持っておいた方がいいわ」
「転移ポーション?」
「割るだけでダンジョンの入り口に戻れるの。ただし……一本、百万ゼニーはするけどね」
「百万!!!?」
フィオナは一呼吸置く。
「だからね、初心者がダンジョンに潜るには最低でも初期費用が300万ゼニーはかかるの。生きてダンジョンから帰ってくるためにはね。君にそれだけの準備がで・き・る・の?」
鼻をつんつんつつかれる。
「できるかじゃなくて、やりたいんです。この街から魔素を少しでも減らすために」
虎太郎は、フィオナの目をまっすぐに見つめていた。
冗談でも、虚勢でもない。
その眼差しに、フィオナは思わず指を止めた。
「教えてくれてありがとうございます! 頑張って準備します」
虎太郎は飛び込んできたときのように嵐のように走り去った。
「Fランクがどうやって300万も稼ぐっつーんだよ」
「まぁ2年もあれば潜れるようになるんじゃねーか?」
「そうだなぁ」
冒険者たちは、虎太郎が走り去った扉をしばらく見つめていた。虎太郎のあまりの真剣さに周りの大人たちも圧倒されていた。
「300万か。お金はいくらあっても足りないな」
虎太郎は走りながら呟いた。
独り立ちするというのはこんなに大変なんだな、と改めて家族のありがたさを感じる。
「父さん、母さん、心配してるだろうな」
ステータスにはHPだけでなくMPも表示されていた。
虎太郎のHPは100。通行人のステータスを見るとおおよそ80から120程度なので平均値だ。MPの平均は30程度。虎太郎のMP50なので一般人より上回っていたが、これで満足できるはずもない。
レベルを上げれば魔力も上がるはず。
強くなればこの世界を平和にするだけじゃなく、自分の力で元の世界に帰ることだってできるかもしれない! 虎太郎の胸に、新たな希望が湧き上がった。
「ん?あれ?」
自分のステータスには 黒崎虎太郎 ランクF Lv1 とランクの横に数字のレベルが書かれてるのにほかの人物にはない。本人にしか見えないスキルなだけかな?と首をかしげるが、そんな疑問はすぐに吹っ飛んだ。
「とにかく強さだ。その前にお金!! 採取で稼げるけど300万は遠すぎる……って、あれを売ればいいじゃないか!」
ごった煮のように屋台がひしめく大きな広間。その片隅に虎太郎も店を出した。店と言っても空き箱を並べただけだが。
そして並べる商品は、そう、先ほど手に入れたばかりの武器屋店主に突き付けられた剣だ。10本ほどペーストし、空き箱の上にずらりと並べた。
(普通の剣が60万ゼニーだったから、30万ゼニーぐらいなら早めに完売するよな。10本売れれば一気に300万ゼニーだ)
「安いですよ! この剣が今ならなんと30万ゼニー!! そこのお兄さん、見ていきませんか!」
虎太郎が剣を装備した男性に声をかける。どう見ても冒険者じゃなく一般人だったが。
でも初心者用の剣ならこういう人にこそ売れるに違いない。
「は!? この剣、武器屋の店主が持ってるのと同じ風切剣じゃねえか! 買おうと思ったら240万ゼニーはする品だぞ!」
「え!?!? そ、そんなにする剣だったんですか!?」
やばい! 叩き売りすぎた!
虎太郎は青ざめてしまう。いくらなんでも安すぎた。下手したら武器屋に目を付けられる。さっさと売ってしまおう。
「だだだだから今だけの大安売り! ここにある10本だけの大盤振る舞いですよ! おひとり様1本限り! どうです、買いませんか!?」
「買う! くれ!」
「こっちもだ! 50万ゼニー払うから!」「こっちは60万だ!」
「あわば、ちょ、ちょっと待ってください落ち着いて!」
虎太郎の声は、殺到する人たちの歓声にかき消された。
もみくちゃになりながらも10本全部が一瞬で売れてしまった。
「け、結局、ご、500万ゼニーになった……ご、500万……」
虎太郎は札束を見つめる。
「人生でこんな大金、見たことない…」
震える手でぎゅっと金を握りしめる。
「これだけあれば……今日の晩飯、ちょっと豪華にできる……!」
ずる、と隣の野菜売りの屋台の大将が滑った。
「500万も稼いでおいて晩飯の心配かよ見たまんまガキだな。それよかあんないい剣をたたき売ってよかったのか? もっと高値で売れただろうに、もったいねえ」
「あはは、いいんですよ」
市場の人々が、子供がもつ札束にちらちらと視線を向けている。
「金、持ち歩くなよ。インベントリに入れておけ」
「インベントリ?」
そういえば、収納が1000あったのを思い出してステータス画面を開く。すると、手元にあった金がインベントリに吸い取られ、562万ゼニーと金額が表示された。
「500万を62万も超えてた! 凄い! 62万あったら欲しかったスマホが何台買えるか…ってこの世界にスマホあっても意味ないけど! あ、いいことを教えてくれてありがとうございます!これ、お礼です!」
ポンと10万ゼニーを大将に渡す。
「お、おい、こんなにいいのか!?」
情報は、自分を助ける糧になる。
収納の使い方ひとつ知らなかった自分が、この世界の常識をどれだけ知らないのか考えるだけでぞっとした。金なら稼げる。だが、知らないまま命を落としたら、それまでだ。
この世界のことは、どんな些細なことでも知っておきたい。そうしなければ、一人では生きていけない。
情報を売れば金を出すFランクがいると知られれば話題になるだろう。これで、待ってても情報が寄ってくるはずだ!
「おい」
「あ!」
店じまいをしていると、武器屋の店主が威圧的に立っていた。
「お前、おれの店の物と同じ風切剣を売ってたそうだな。どこで手に入れた」
「そ、それは話せませんよ。大事な仕入れ先のことを同業者にいえませんから」
「今度同じことをしてみろ。どんな目に会うか覚悟しとけよ」
「おいおい武器屋のおやっさん。まだ子供じゃねえか。脅すようなこと言うのはやめてやれよ」
野菜屋の大将が虎太郎と店主の間に割って入ってくれた。
「てめーにゃ関係ねえが、まぁ今日のところはいい」
とだけ言い残して武器屋の主人は去っていった。
虎太郎は咄嗟に店主のステータスを覗いた。
【ランク:B】
「……B」
自分はFランク。
その差がどれほど大きいのかは分からない。
ただ――自分より圧倒的に強い。
それだけは、本能的に理解できた。
(まずったああ。市場価値を確認してから売るべきだった。完全に目をつけられちゃったよなぁ……)
頭を抱えたくなったが、もう後の祭りだ。
コピーペーストは強力な能力だ。剣だろうと食料だろうと、複製できるものなら手に入れられる。
だが、それだけだ。
虎太郎はFランク。剣の使い方すら知らない、ただの高校生だ。
もし、あの店主が本気で襲ってきたら。剣を持っていたところで、反撃する間もなく倒されるだろう。
武器を作れることと、戦えることは違う。
虎太郎は、自分の能力を過信していたことを痛感した。




