第七話 ようこそ異世界
「……手紙はどこに届けるんだ」
「何でむすっとしてんの?
ほら、ここなんだけど…」
フリ、そう言って手紙を差し出す。
「あたしダンジョンの地名分かんないんだよねえ」
「ふうむ」
そう言ってリネンは住所を睨む。
「15階に住んでるのか?
危険じゃないのか」
ちなみに現在は8階である。
吹き抜けになっているから現在の階が把握しづらい。
「とにかく通り道なんだし行こ!」
ぐっとリネンの手首を引っ張った。
「おい、あんまり急ぐと……」
「あっ」
フリの短い悲鳴。
ぐるんと視界が反転して体が浮遊感に包まれた。
「何やってるんだ!!」
リネンが手を伸ばしたがすかっと空振った。
「わ、わーー!!落ちちゃうよ…!」
どんどん天井が遠くなっていく。
躓つまずいたような感覚があるから、多分こけたんだ。
それも最悪のタイミングで。
「魔法…!なんかないか…!」
リネン、慌てて魔導書をめくる。
しかし書いてある紋章は全て氷魔法のものだ。
浮遊魔法はもちろん回復魔法すら登録していない。
「しまった…!氷魔法使いの性ッ…!」
「なんでもいいから早く助けてよー!」
フリは泣きそうになりながら叫ぶ。
「待ってろ!!誰か呼んでくる!」
「早くぅ…!」
言いかけて途切れる。
ふいにぐっと体が持ち上がって浮く。
襟首のあたりが絞まった。
「鳥についばまれてる…」
「そんなこと言ってる場合じゃないって!!
これ魔物だよ!!」
もはや遠すぎて声が届かないがフリは必死に叫ぶ。
フリを摘んだ大きな鳥?はゆっくりと旋回している。
甲高い鳴き声にフリは耳を塞いだ。
魔獣ではないから大して怖くはないが、それでも死にそうだ。
こわい。
「そうだな!しょうがない、攻撃してみるか…!」
片手に魔導書、もう片手に杖を構える。
「氷の閃光……」
リネン、魔導書を睨んで適当に呪文を唱える。
記憶喪失だから本人もよく判っていないまま魔法を使っている。
ものすごく棒読みだ……。
「ちょっと!魔法使えるのー?!」
フリが半ば呆れたように怒鳴る。
しかし展開は予想に反した。
杖から閃光が走った。
鋭い光が魔物を貫く。
閃光は瞬く間に固まり、氷の柱となった。
キェェ、と魔物が叫び声をあげて落ちていく。
「わっ!」
フリ、慌てて柱に掴まった。
氷だからつるつる滑る。
「お、おお…。使えた…」
リネンは訝しげに自分の杖を見つめている。
「わ、すごい…!ホンモノの魔法だ…!」
なんとか柱に登ったフリが言う。
柱は杖から伸び、向かいの壁に突き刺さっていた。
「す、滑る…」
「なんとか頑張ってくれー!」
ぷるぷるしながらフリが柱を伝って島まで戻った。
フリは恐る恐る島に降り立つ。
手がビチャビチャだった。
「……湿った」
「助けてやったのに何だその態度は」
「空を飛ぶ魔物が多いんだ…」
こいつらのせいで馬車も落ちる羽目になったのだろう。
「これは危ないな。
さっきみたいに調子乗っていると死ぬぞ」
その嫌味な言い方にまたもやフリはそっぽを向く。
「何よ、ちょっと魔法が使えるからって」
「こればっかりは才能の問題だな」
何だか自慢げなドヤ顔で。
そう言ってリネンは杖を引き剥がした。
亀裂が入って、杖から伸びた氷柱が砕け散った。
「すごーい…!
氷魔法なら何でも使えるんだね」
「試してはないがな」
リネンが顎に手を当てて。
思ったより素直に褒められて拍子抜けなのである。
──そんな彼女たちを監視するように無数の赤い目が瞬いた。
当率のとれた黒い影が、群れを成して横切った。




