第五話 リヴル村
──地下七階。
ここからは人間の手が及ばず、自分の命は自己責任となる──
「わ、魔法ってすごい…!!」
石段から出て、踏みとどまった。
五階分が吹き抜けになっているのか、足がすくむほどの高度だ。
壁だけは石レンガを貫いているが、その光景はあまりに現実離れしたものだった。
「島が、浮いてる…!」
「落ちても知らんからな」
態度の冷たいリネンを追いかけて走る。
フリの目がきらきらと輝いていた。
レィ程ではないが、フリも好奇心旺盛だ。
「なんでそんなに塔のこと知ってるの?」
「……そういえば、なんでだ?」
そう言ってリネン、首を傾げる。
銀髪がさらりと揺れた。
その様子にフリ、呆れ果てて。
「なに?おばあちゃんなの?」
「殺すぞ。
少し前から何だかさっぱり記憶がないんだ」
「何それ、記憶喪失ってこと?」
フリが追いつき、並んで歩いて。
「俗に言えばそうかもしれない」
なんだ、その顔。
こいつ、自分の記憶に無頓着だ。
…なんていうか、どうでもよさそう。
「そんなこともあるんだね」
「あるんだなー、それが」
そう言ってリネンが先導して島へ飛び移った。
「リヴル村へようこそ!」
快い声で迎えられた。
拍手やクラッカー、横断幕で冒険者を歓迎している。
「ここがリヴル村!アクセサリーが有名らしいよ!」
そう言ってフリが走っていった。
ひときわ大きな浮島に家が立ち村を成している。
地下だというのにすごい活気だった。
小さいけれど、屋台や魔道具店が並ぶカントリーな街だ。
「ほら、これは魔石の一種の──」
フリ、ウキウキで言いかけてリネンの白い目に気づく。
「先程から思っていたがアクセサリーが好きなのか?」
珍しくリネンが興味を持っているようだった。
「え、えへへ…。遠目で見るのはタダだし…」
「そうか」
じっとフリの持つペンダントを見つめている。
「な、何…?」
フリは困惑して固まる。
その直後ペンダントをひったくられた。
フリ、慌てて。
「何するの!」
「これ、いくらだ」
「4リヴぐらいですー」
◇
「……何で買ってくれたの」
「勘違いするな、ご機嫌取りだ」
フリ、ペンダントを握って。
相変わらずの皮肉。
「これは霧石と言って割ると霧が出るんですよー」
ショップの店員さんが屋台から顔を出して。
「へえ、割ることないけど綺麗だぁ……」
白濁した水晶みたいな感じだ。
透き通った宝石とはまた違う魅力がある。
「リヴルの特産品なんですよー」
「これが特産品だから地下でも暮らしていけるのね」
フリ、目の前に掲げてまじまじと見つめた。
「どうするか?一旦宿に泊まることもできるが…。
少し早いがな」
リネンがそう聞いてくる。
フリは首を振ってこう言った。
「ううん、もたもたしてたらレィに寿命が来ちゃう!
まだ大丈夫だよ!」
見上げる金色の目には妙な力強さがあった。
「…そうか。いつまでその根気、持つかな」
また皮肉を吐かれる。
フリはむっとしたがあえて黙った。
「こっちだよね?」
「ああ」
街の端っこから下を覗く。
断崖絶壁だ。
そこでふと、後ろから声をかけられる。
「あの、冒険者さんですよね…!」
「ん?」
くるっと振り返る。
少女?少年?……だった。
薄緑の髪に、特徴的なのは目元を覆う包帯。
「ぼく……じゃなくって…!リヴル村へようこそ…!
ぼ、ぼくはティロと申します…」
ティロはそう言って、仰々しく頭を下げた。
「ふうん。で、何の用だ?」
リネンが首を傾げる。
「えっと、その…!ぼく、冒険者さんに憧れてて…。」
ティロは遠慮がちに続ける。
「握手とかして欲しくて…」
彼は恥ずかしそうに毛先を弄って。
「えっ、あたしは冒険者じゃないからなぁ……」
フリ、困惑してリネンを見上げる。
そのままにやっと笑った。
「握手してやってよー、冒険者サマー」
「黙れ。凍らせるぞ」
罵りながらもリネン、素直に手を差し出した。
きゅっと握手。
フリは妙な気まずさを感じた。
「わあ…!ありがとうございます…!
一生洗いません!手が一番好きな部位になりました!」
「いや流石に洗え」
喜びようがすごい。
顔を輝かせて手袋をはめ始めている。
「あの、ぼく……。
冒険者になったら、絶対お姉さんたちに追いつきます……!
強くなります!」
そう言って彼女は逃げていってしまう。
シャイなのな。
「…夢のある子だ……」
「そうだね」
妙な間があったが構わず出発した。




