第四話 蠢く剣呑
──地下六階。
人の手が及ぶ最後の階層だ──
「わ、検問?」
「そうだ」
相変わらずの素っ気ない返事。
リネンはすっと何かを取り出した。
「なにそれ?」
「パスポート」
取り出したものは手帳だった。
なんだか難しい意匠が入れられている。
「かっこいいー…」
フリ、並んでいる間にじっとパスポートを見つめる。
思ったより人がごった返していた。
みんな冒険者なのだろう。
パーティと思われる人たちが受付を待っていた。
「危険だから受付をするんだよね?
確か五級冒険者以下は入れないとか」
「よく知っているな。
そうだ。この制度はダンジョン史上で初なんだ」
リネンが人差し指を立てて。
「あまりにイレギュラーだったんだね」
「ああ。行くぞ」
受付のお姉さんにパスポートを渡して通過した。
「……長くない?」
「何がだ?」
ふと石段を降りる途中でフリが切り出す。
なかなか疲れてきた。
息を切らしている。
「もっとさ、ささっと最深部行けるわけじゃないの?」
フリ、くるくると人差し指を回して。
「舐めているのか?」
リネンに睨み返されてぐっと言葉に詰まる。
確かに、生半可な覚悟だったことは認めざるを得ない。
「えっ…。そんなさくさく行けないの?」
「馬鹿が。
最深部に行けたやつは存在しないんだぞ?」
フリ、そう言われてすっと顔が青くなる感覚がする。
「まさか何十年もかかったり…」
「それ以上かもしれない」
「……それでも助けに行くのか?
今なら引き返せる」
彼女はそう言って目を細めた。
「やってやろうじゃないの!
絶対最深部まで行ってやる!」
フリ、びしっと人差し指を突きつける。
もう後戻りなどする気はない。
「その意気だ」
ぽん、と頭に手を乗せられた。
何かと思ってフリが顔を上げると、そこにはただリネンの背中があった。
「……何十年くらい。
レィのくれたものに、較べれば…!」
フリ、その背中を追って駆け出した。
◇
「……リネンじゃないの」
彼女はふとこう呟いた。
足を組んでその様子をじっと見守っている。
木漏れ日が彼女を照らし、どこからか茎の軋む音が聞こえた。
「思ったより早い到着ね。
心外だわ。記憶を抜いておいたのに」
彼女は目をすっと細めた。
「それにしても、珍しい。
そんな弱っちいかたちで何してるのかしら」
ぱちんと指を鳴らした。
彼女を囲うように茎が伸び、鋭く尖った。
「──せいぜい面白いものを見せてちょうだいね、リネン」




