第三話 地下の双子
「……なんで私が、こんなことを…!!」
悪態を呟く彼女。
嫌そうな癖に着いてくる足は止めない。
お人好しなのだろう。
「そんなこと言ってる場合じゃないよっ!
ほら、連れてって!」
フリ、彼女の背中をぽん、と押してこう言う。
「そういえば貴様…」
「その貴様って呼び方!」
彼女にびしっと人差し指を突きつける。
「あたしはフリル!
あだ名はフリ!覚えてよ!」
「……分かったから。私はリネンだ」
彼女──リネンは杖を掲げて。
「魔法使いだぁ…!初めて、見たっ!!」
「や、やかましい…!!」
目を輝かせるフリに、リネンは煩そうに唸った。
「きさ…フリルは何も塔のことを知らないんだな」
「そうよ!何か問題ある?」
「アリアリだ」
彼女が眉をひそめて。
何回目だ、この仕草。
「何か聞きたいことはあるか」
「うん!あるあるあるー!!」
フリが元気いっぱいに手を挙げた。
授業みたいな光景。
「ほう、人探しってわけか」
「うん、さらさら髪の…」
「食べられて、ないといいな…」
「た、食べられてーーッッ?!」
衝撃の発言にフリはくらっとくる。
リネンといえば、ものすごく申し訳なさそうな顔をしている。
「あの種は大樹種と言って、人間を殺して養分にするんだ」
「終わった…」
「諦めるのは早計すぎる」
リネンがすぱっと言い切る。
「じゃあ助けることはできないの?!」
「そうとは言っていない。
塔のどこかに本体──大樹があるはずだ」
リネンは人差し指を立てて。
「それを潰しに行くってこと?」
「ああ。
計算や情報から編み出した結果……
最深部にある可能性が一番高い」
「キターー!!」
フリが飛び跳ねてはしゃぐ。
「早速行こう!」
「駄目だ」
「なんで!!!」
一発で引き止められて叫ぶ。
「私から離れるな。危険だ。
それにまずは情報収集が必要だ」
「どこでよ?」
「……心当たりがある。そこへ向かうぞ」
──地下五階。とある坑道が繋がってしまった階層。
一階〜六階は人間の手が及んでおり、よく人が行き交っているようだ──
「すごーい、冒険者がいっぱい…」
「見るのは初めてか?ダンジョン市だ」
初心者からベテランまで様々な冒険者で賑わっている。
屋台がずらりと並び、武器屋からわたあめ屋までたくさんある。
「いらっしゃい!」
「いらっしゃい」
呑気な声が右側から、元気な声が左側から聞こえた。
「やあ、シュト、ルト」
「やっほー、リネ!そっちの子は?」
「……知り合いの小娘。」
その言い方にむっとくるがフリは無視した。
「こ、こんにちは…。
この子たちは…?」
「紹介する。ルトとシュトだ」
双子だろう。
お揃いの衣服に髪も目も同じ青色だ。
強いて言えば、ルトのほうがけっこう癖毛だ。
「こんにちは!おれはルト!」
「……ぼくはシュト」
市の端っこの方の屋台で二人は座っていた。
質素な出立ちだが、人懐っこい顔をしていた。
「二人は何をしているの?」
「ガラクタ商って知ってる?
ダンジョンのガラクタをパクって売ってるの」
シュトがこう答える。
そんな稼ぎ方もあるのか…。
「で、リネ。今日は何の用だー?」
「今日は……?」
リネンは一旦訝しげに首を傾げたが、続けた。
「……えっと、植物型の魔獣、見てないか?
人間を攫ったようなんだが」
二人も考え込んでいるようだ。
しばしの静寂。
「蔦くらいなら見たよ。あっちの階段に…」
シュトが指をさす。
下層への石段。
「助かった」
「待って」
フリ、歩き去ろうとするリネンを引き止める。
「あ、あのさ…。
ルトくんもシュトくんもこれで稼いでるわけだしぃ…」
妙に目が逸れている。
「…商品が見たいってわけだな」
「これは?」
「それは〜!空間の指輪!」
ルトがフリの持っていた指輪をもぎ取るように奪う。
「ほら、あっち側が別の世界になってる」
ルトが指輪を掲げた。
確かにあっち側の景色が実際と違う。
「なにこれ?沈んだ…宮殿…?」
「ここから先は有料ですー」
見ている途中にルト、シュトに指輪を引ったくられた。
「これは5秒先が見える水晶玉」
「すごいけど使えない」
「これはちょっと足が速くなる靴!」
「それ俊◯では?」
「構ってる暇はない、行くぞ」
フリ、リネンに引き摺られていった。
◇
「リネ、なんか今日おかしかったねー」
「そうかな」
シュトが、ひび割れたお茶碗に入った水をすすって。
ルトが心底不思議そうに首を傾げていた。
「……でも確かに、リネが人間とつるむなんて珍しいね」
「うんうん!
心変わりでもしたのかなあ」
ルトが一旦息を吐いて。
「リネくらい人を信じない人、他にいないくらいなのにィ」




