第一話 異変
───エレンの塔。
それは遥か昔、古代魔法が栄えていた時代に作られたものだと云われている。
人類の最高傑作とも云われる難易度。
天空へ高く高く伸びるそれは、少し前に踏破された……
……と思われていた。
その事実は、わりと最近見つかった。
エレンの塔は実際は地下の方が長く伸びており。
こうして、エレンの塔の歪さが判明するのだ。
塔と呼ぶくせに、地下世界に築かれた独自の生態系。
「魔獣」の存在───
◇
「今日の採掘はここの坑道だ」
先輩の女鉱夫がこう言った。
その声ではっとする。
フリ、エレンの塔の話が大好きだった。
嘘かほんとか分からない冒険譚とか、ジンクスとかばかりだが。
噂でも、わくわくして好きだ。
その女鉱夫の態度に、偉そうで感じ悪いなあ、とフリは内心悪態を吐いた。
孤児のフリたちはこうやって食い扶持を繋いでいる。
まあまあ稼げるが、職況は最悪だった。
「レィ、今日こそ金銀財宝、だよ…!」
「もちろんじゃ!石油湧けー!!」
叶うはずはないと判っていても、贅沢を夢見る子供は多い。
孤児院に入らず石を掘り続ける子供も多かった。
至る所から硬い鶴嘴の音がした。
浅い坑道だからせいぜい石炭くらいしかとれないだろうが、生活の足しにはなる。
レィとフリは揃いも揃って、しばらく石を掘っていた。
レィはともかく、フリはすぐバテて近くの岩に座り込んだ。
「ふう…。このくらいでご飯食べようかな…」
フリ、煙にけほけほ咳き込みながらこう言う。
石煙が立って、確実に寿命が削られている予感がした。
「…少ないなぁ…」
ひもじい思いを噛み殺して食べ続ける。
おにぎり二個。これが1日分だからなァ。
「…ん?」
ふと、振り返る。
周りを見渡す。誰もいない。
「…なんか、気配…」
一人で呟いて首を傾げる。
みんなもう深いところに行ったのか辺りはしんとしている。
「あれ、レィ、もう行っちゃったのかな」
きょろきょろとしながら歩いていく。
さっきまで傍にいたのに。
そのうち暗くて辺りがよく見えなくなってくる。
石炭だけが不気味に黒光りしていた。
「レィーー!!ねえ、いるー?」
なるべく声を張って呼ぶ。
しかし静寂だけが返ってくる。
フリの声が坑道の中で響いて二重に聞こえた。
「……どっかの穴とかに落ちてないよね…」
なんだか段々不安になってきて、奥へ進み始める。
レィがもし危険な目に遭っていたら。
レィは、大切な幼馴染だ。
探しに行かないと。
「ん…?こんなに寒かったっけ…」
フリ、肌を撫ぜる冷たい空気に身震いする。
辺りはしんと静まり返って何も聞こえない。
歩みを進めると、やがて来たことのない場所に訪れた。
「あっ、ガーネット…」
赤いそれを見つけて手を伸ばす。
ほろっと岩が砕けて取れた。
「初めて見たっ!綺麗…!」
光に透かすように見る。
深い深い赤。
炎みたいな…。
そのとき視界に一筋、緑が走った。
補色だからよく判った。
「えっ?緑?」
ばっと振り返る。周りを見渡した。
「茎…?」
岩がボロボロだったのって…。
岩の隙間という隙間から、茎が出てくる。
しゅるしゅると留まることなく伸び続け、その先はフリを向いた。
丈夫で、長い。
至る所に花が咲いている。
「───魔獣……?!」




