【番外編】墓守さんとナイトメア
「ふー……。
今日も疲れました」
彼女──墓守さんが額の汗を拭って。
青紫の綺麗な瞳、真っ白な髪。
儚げな少女の顔立ち。
肌は死人かと思うほど白く、磁器みたいだった。
目の前の大きな麓に、骸骨の仮面が立てかけてあった。
ちょうど死者を埋葬したところだった。
ダンジョン内で命を落とした者のようだ。
最期まで戦士の威厳を放っていた人だったなあ……。
「ご冥福をお祈りいたします……」
墓の前で手を合わせた。
彼女にとって、死者は敬って当たり前のものだから。
相も変わらず墓場エリアはジメジメしており、霧が立ち込めていた。
無数のうめき声が聞こえる。
常人だったら発狂しそうな不気味さ。
しかしそんなのは、彼女にとっては慣れっこだった。
真っ黒なローブの裾を摘んで立ち上がる。
土埃を払い、息をひとつ吐く。
仮面を被り直して、歩き出した。
霧の中でも、迷いのない足取り。
ここらへんの地理は完全に把握している。
そこで背後に冷たい気配を感じた。
本能的に嫌な予感のする、悪寒。
「……ナイトメア。
見てるんですよね、わかっています……」
墓守さんは呆れたようにため息を吐いた。
そのとき、闇が切り裂かれて「それ」は姿を現した。
こちらもまた、死神のような容姿。
サイズの合わない、大きくて真っ黒なローブ。
山羊の頭蓋骨の仮面を被っている。
しかし人の輪郭は見えない。
影のような暗黒が仮面から漏れ出していた。
「すぐストーキングするの、やめたほうがいいですよ」
墓守さんが拗ねたように。
ストーキングという単語に、心外とでも言うように彼は首を振った。
「ストーキングではない。」
断固として否定する。
「それに私は人間と話の通じる魔獣だ」
「知ってますし……。
でも、そんなことをしていたら冒険者さんを怖がらせてしまいます」
墓守さんは縮こまるように。
何てったって、魔獣は怖い。
魔物より凶暴だし、危険性の高い人喰いの化け物だから。
たまたま墓守の血を継いだから、死者に懐かれるだけだ。
種族はバッチリ人間だし。
ぶっちゃけ墓守さんは、ビビりで人見知りのぺーぺーである。
「君にとっては怖がらせることが目的じゃないか」
彼──通称、ナイトメアは宙に浮いていた。
足を組んで宙に座るような体制。
「それは、そうですけど……」
気まずそうに顔を背けた。
多少なりとも罪悪感はある。
「私たちは共犯だな」
「お、同じにしないでください…!」
墓守さんがムキになって言い返すのを、目を細めて見つめていた。
もう長い仲だから、こう反応することも分かっていた。
「おっ、そんな話をしていたら冒険者だ。
しかも二人も」
上層から向かってくる魔力を感じ取ったようだ。
ナイトメアは嬉しそうにしていた。
魔物と違って人間のかたちをしているだけで、彼も所詮人喰いの化け物。
食べるのが人間ではなく、悪夢であるという違いしかない。
「いつも通りだろう?
この先に進ませないように、殺さない程度に悪夢を見せて食べる」
ナイトメアがご機嫌そうに。
その様子に罪悪感を感じながらも、墓守さんは頷いた。
「うん……。
この先は、ずっとずっと危険だから。
進ませたら、絶対に死んじゃう。
そんなことはさせたくないの」
死者も大切だが、それ以上に命は大切だった。
ここで死んでしまうなら、そこまでの器だったと言うことだ。
そして、もし進めるなら───
「勿論だ。
双方に利益があるからな。win-winだ」
彼は気楽そうに。
着実に二つの魔力は近づいてきていた。
実際に、追い返すのには成功している。
もう誰も、あんな悲劇には遭わせたくはない。
ナイトメアをちらっと横目で盗み見た。
「そういえば、墓守。
君はなんで私以外には筆談なんだ?」
彼が揶揄うように問いかけてきた。
墓守さんは、恥ずかしそうにこう言った。
「墓守さんは、恥ずかしがり屋なので」
なかなかスランプです…。
次話の作成に悩む今日このごろ。




