【後日談】食べれる宝石
「先生!!先生ぇ!!」
酷く切実な声が聞こえる。
少年っぽい声だ。
──なんだ、そんなに騒ぐことか……?
鬱陶しく感じながらも目を開けた。
何だか熱いと思ったら、焼かれていた。
蜃気楼でぼやけて周りの状況がうまく認識できない。
「ここ、は」
リネン、燃え盛る炎の中で片膝をついていた。
うまく思考がまとまらない。
誰かと一緒にいたような……。
そしてここに覚えがないようなのに、妙に忌々しいのだ。
「残念だったじゃろうが、貴様の人生は此処で終わりじゃ」
そうばっさり言い切られる。
顔を上げれば、冷えきったナイフの視線で射抜かれていた。
誰だ、と思ったが声が出なかった。
熱い、熱い、熱い。
立ち上がらないと。
あれ……立ち上がるってどうやってやるんだったか。
「先生……」
先ほどから聞こえるこの声が、何処から聞こえているのかも分からない。
ここが何処なのかも曖昧だ。
全ての記憶がぐちゃぐちゃに混ざり合っているような感覚。
なのに、まったく怖く感じないのだ。
ただひたすらに機械的な脳に違和感を覚えた。
矛盾しているが、その感覚が一番怖いのだ。
神よ、本当にいるのなら、私の願いを聞いてくれよ。
私の、願いは───
◇
「うーん、見当たらない」
フリ、唸りながらぐるぐるとその場で回っていた。
その様子をリネンもまた首を捻って見つめていた。
「位置的にはここらのはずなんだが……」
「ないよー?」
そう言ってフリが辺りを見渡す。
あるのはただ、濃い霧と死者の気配。
人影はもちろん、家すら見当たらなそうだ。
「あ、あれ……」
フリが、あっと声をあげて指をさした。
そこには、色褪せた赤のポスト。
ところどころ装飾が剥げ落ちているが、レトロでおしゃれだ。
「もしかして、あのポスト?」
「……む、座標では合っている」
今の一瞬で計算してたのかよ、と思いつつ手紙をポストに入れる。
中は案外入っていないのか、コトンと乾いた音がした。
「それにしても、こんな所に回収に来るのか?」
「そりゃ、来るんじゃない?」
フリが気楽そうにこう言った。
フリも本でしか聞いたことはないが、一応配達業もあるらしい。
ペガサスを使ったり、小型ドラゴンを使ったりと様々だったが。
「よし、これでひと段落……」
フリはそう言って腰に手を当てるなり、眉を下げて。
「お腹すいた……」
「……阿保か」
リネンに呆れたように睨みつけられた。
「そういえばお爺さんから何か貰ってたよな、フリ」
「あっ、確かに」
フリがバッグから色々取り出す。
驚くほど汚かったが、リネンはもう何も言わないことにした。
「テッテレー!食べれる宝石っ」
満面の笑みでこう言う。
「何だそれは。そういえば、私もそれは見たことがないぞ」
「旅人用の保存食にもなってるんだよ!ほら」
フリに差し出された、煌めく破片を咥えた。
しばし咀嚼。
フリ、受け取らずに直接食べた……と思ったが天然なのだと思い直した。
「……悪くない」
「ねー?!ねー?!」
きゃっきゃっ、と子供のように喜んで飛び跳ねた。
◇
「……あらら」
彼女は壁からその様子を覗いていた。
残念そうなのに、妙に微笑ましい気持ちだった。
「……作戦は失敗ってところかな、墓守クン」
その皮肉な言い方にむっとする。
いいよなあ、ナイトメアばっかり得して。
「なかなか美味な悪夢だった。
特に片方、赤いほうは複雑なトラウマのようだ」
ナイトメアがうっとりと舌舐めずりして……って仮面の向こうは見えないけど。
気持ち悪いなあ……。
「手紙は届けておきましょう」
墓守さんが手紙をポストから取り出し、手に取る。
「む、そういえば何なんだ、それは」
不思議そうに彼が首を傾げていた。
人間ではないから、表情こそ分からないが。
「…ここね、有名なパワースポットなんです。
ここに手紙を出せば、死者に手紙が届くって」
「なるほど、実際は君が届けていると言うわけだ」
墓守さんが、それはそれは大事そうに手紙を抱えて。
ナイトメアが静かに口を開く。
「よかったのか、連中を進ませて」
「いいのです」
彼女は酷く穏やかにこう言った。
それから指を組んで、こう言うのだった。
「強い絆で結ばれた彼女たちならば、どんな逆境でも乗り越えられるでしょう。
彼女たちに、祈りの魔女の祝福がありますように」
「祈りの魔女とは何だ」
「あなたが一番知っている筈でしょう?」
墓守さんが困ったように言った。
しかし彼には、何のことだかさっぱり判っていなかった。




